「……一体どういうつもりかしら?」
「……」
現在時刻、17時。バー、”天使始めました”の前には現在6人の男女が立ちすくんでいた。その面々を見てプレシアは頬を引きつらせる。
彼女は今日はヴィータに誘われこの店にやってきていた。最近は一緒に飲むこともある二人なのだが、ヴィータの誘いが珍しい事も相まって来るつもりはなかった日にやってきていた。
しかし、蓋を開けてみれば他に4人来ている。しかも自分の娘を含め知り合いどころではない人物達。先日にこの店の少女にある事を吹き込んでしまった彼女にとっては顔を合わせるのが辛い相手だ。
「まさか!」
そこでやっと彼女は気づく、あの時吹き込んだのはプレシアだけでなくヴィータも一緒なのだ。つまり気まずいのはヴィータも同じである。恐らくはふとした事で気付かれてしまい、死なば諸共とプレシアに連絡したのだと。
「やってくれるわねっ!!」
「へっ!一緒に堕ちようぜ、プレシア!」
そんな二人の様子に4人は困惑する。ことの立案者であるはやてでさえヴィータとプレシアの問答には検討もつかない状態なのだ。
「なあ、一体どういうことやと思う?」
「私はよくわからないよ。こんな母さん見たこと無いし」
「私もわからないかな。でもヴィータちゃんとプレシアさんがここまで仲がいいなんて思ってなかったし」
「………」
そんな様子の6人を見つめるのは一人の少女。店の扉を少しだけ開きながら興味深そうに見ていた。
頭の上には丸いロボットの姿もある。
「取り敢えず、入ろうか」
はやての言葉に6人は店の方に近づく。それに反応した少女は6人に気づかれる前に店の中に隠れてしまった。
閉められた扉からカランコロンと音が鳴ったのに疑問に思いつつもはやては店の扉を開き入店した。
「いらっしゃいませ!!!」
『いらっしゃい!いらっしゃい!』
そして、目の前に現れた青いエプロンを着た金髪の少女の姿に思考を停止した。
◇
「えへへ!見て見て!ヴィータお姉ちゃん!これパパに貰ったの!」
「ん?腕輪か。似合ってるじゃねえか」
「かっちょいいでしょ!」
取り敢えずカウンター席に座ったはやて達はザフィーラを覗いた5人、全員が少女、ヴィヴィオの様子を観察していた。
店長はそんな彼女達には特に反応せずいつも通り彼女達が注文したと同時に品を提供している。
「ヴィータ、説明してくれる?」
右腕に着けた黒に蛍光色で黄緑のラインが入った腕輪と左腕に着けた白に赤のラインが入った腕輪を見せびらかすように振り回すヴィヴィオを膝に載せたヴィータにはやては問い詰める。
それに少し苦笑いを浮かべたヴィータに代わりヴィヴィオの事を知るプレシアはその口を開いた。
「店長の娘なのよ、誰かから預かってるみたいだけど」
「そうなんですか。でもさっきの言葉はどういう意味なんですか?」
そう、入店した彼女達を迎えたヴィヴィオはなのは、フェイト、はやての3人を見渡した後笑顔で言い放ったのだ。
「フェイトママ!はやてママ!なのはママ!はじめまして!」と。
暫く意識が帰ってこなかったのは仕方のない事かもしれない。
3人は少し顔を赤くしながら店長の方をちらちらと見ているが当の本人は何故見られているのかがわからずに首を傾げている。
彼女達の中では店長がヴィヴィオにそのような事を吹き込んだのではと思ってしまっている。恋愛をしたこともない彼女達にとって異性からの好意には慣れていなかった。
そんな事を考えてると感じ取ったプレシアと
ヴィータは目をそらし呟いた。
「「酒の勢いって怖いよな」(ね)」
「あんたらの仕業か!?」
プレシアに至っては少しばかり計画的な事ではあったが、概ねヴィヴィオが彼女達を母と呼ぶ原因は2人にある。
それを止めたり訂正しなかった店長も店長なのだが、咎められるのはヴィータ達なのだ。
「母さん、どういうことなの?」
「あのね、聞いてフェイト。悪気があったわけではないのよ」
「ねえ、ヴィータちゃん、どうしてこんな事したのかな?」
「だって、プレシアの奴が……」
追い詰められる二人を憐れむように見ながらザフィーラは店長に出された肉料理を頬張る。肉汁が滴る肉に満足気に頷きながらもどんどんと口に運んでいった。
「「「正座」」」
「「はい」」
等々正座させられた二人をヴィヴィオは不思議に思いながらも身体を揺らしながらカウンター席に座った。
「パパ!」
その言葉とともに現れるハンバーグとジュース。目を輝かせながらフォークで食べ始めたヴィヴィオの様子の様子を見て背後で騒いでいる女性陣を無視しザフィーラは店長へと話しかけた。
「この娘にはいつもこのような物を与えているのか?」
「まあ。食べたいって言ってますし」
「ふむ……私が言うことではないが、野菜も取らねばいけないのでは?」
「一応食べさせてますね」
『ヴィヴィオ!ピーマン!タベル!』
「ヴィヴィオ、ピーマン、嫌い……」
ヴィヴィオが除けたピーマンが消えたのを一瞥し、ザフィーラは店長へと視線を向けた。
「嫌いな物を無理矢理食べさせるのは良くないかと……」
「……少し甘やかし過ぎではないか?」
「そうですか?」
店長の様子はザフィーラから見ても只々疑問に思っている様な顔をしていた。
それに少し疑問を持ちながらもザフィーラは店長へヴィヴィオの教育について聞き出していく。
暫くしてはやて達もザフィーラと店長の問答に耳を傾ける。
今思えば彼女達は失念していたのだ。あまりそうは見えないがこの店長は紛れも無く15歳、自分達よりも年下であるのに少女を育てているというのは大丈夫なのだろうかと考える。
そして、店長はそんな彼女達にある爆弾を落としてしまった。
「親に触れた事もないので、子育ての仕方はあまりわかりませんね」
軽々しく呟いた言葉に彼女達は絶句する。そんな彼女達に気付くこともなく店長は笑顔を浮かべているヴィヴィオの頭を撫でる。
店長も少し笑みを浮かべている様子を見て彼女達は目の前の親子がどれほど危うい存在であるのかを認識する。
どちらもまだ幼い身でありながらも幸せに暮らしている。
簡単なのはヴィヴィオを誰かが代わりに……それこそプレシアやリンディと言った大人が育てるということなのだが、彼女達には目の前の二人を引き離す事は出来そうにない。
軽々しく自分の娘を、自分の主を親と言ってしまったプレシアとヴィータは頭を抑えつつ後悔した。
「いいよ、じゃあ私が教えてあげる」
そう言ったのは高町なのはだった。フェイトやはやてとは違い、完全にとばっちりのように親だと吹きこまれた彼女だが、目の前でハンバーグを頬張る少女の笑顔を守りたいと思い、言葉に出したのだ。
何故そこまで思うのかはわからない。ただ言えるのは彼女にとって、目の前の店長やヴィヴィオは既に他人とは言える存在ではないということだ。
「流石にいきなり結婚とか付き合うとかじゃないけど、ヴィヴィオがちゃんと育つように私も協力するよ」
ニコリと笑うなのはを見たフェイトとはやては苦笑し、やれやれと言いながらも店長に向き合い告げる。
「そういうことなら私も母親になるわ。なのはちゃんだけじゃあ不安やし」
「まあ、流石に放ってはおけないよね」
彼女達の言葉にプレシア達は驚く中、店長とヴィヴィオ本人達だけがいまいち理解していなかった。