天使の飲食店   作:茶ゴス

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第15話

 あの八神はやてさんが部下達を連れて来てから2週間が経過した。自分は滞り無く店の運営を続ける毎日。来る日も来る日もお客さんにご飯を提供する。

 まあ、実を言えば2週間前からこの店は少し変わった。八神はやてさんの部下、ヴィータさんとヴァイスさん、常連でもあるプレシアさんに度々来店してくれているリンディさん達の強い要望により夜の間の店の内容が変更になった。

 

 結果的に言えば居酒屋とバーを日替わりですることになったんだけど……その御蔭か客足が少し増えている。中でもよく来るのは強く要望した人達の4人だ。

 家族との付き合いもあるから毎日とは行かないけど結構な頻度で確認のメールをハコが送っている。

 

 バーはプレシアさんとヴィータさん。居酒屋はリンディさんとヴァイスさんが確認しているけど、中でもヴィータさんは他でお酒を飲もうとしたり買おうとすると度々局員の人に捕まるらしく、飲みに来るといつも愚痴っている。

 確かに他の人達に比べたら見た目が若くみえるみたいだけど、実際自分達天使がそうであるように外見と中身の老若が結びついていないことは多いため、特に気になっていない。寧ろ年齢というものにあまり拘っていないのは確かなのだろう。

 

 その事を告げたら何故かすごい笑顔で笑っていた。

 

 

 ハコに写真を撮られ追い掛け回していたけど……

 

 

 

 そう言えば他にも変わったことといえばハコの事が解った。自分で作っておきながら色々と変な事になっているのにはちゃんとした理由があって、この前ミカエルさんが電話で教えてくれた。

 

 何でも神様が自分の生活を覗き見しているみたいで、巫山戯てハコを改造したらしい。

 その結果、ハコ自身が自己改造すらも出来るようになり、色々と変になっているようだ。しかもたちの悪い事にハコの自己改造には神様の書き上げた設定資料集(アカシック・レコード(仮))にアクセスして行っているらしく、それを通して神様の私物と繋がったりも出来るようだ。

 

 その事がミカエルさんにバレて5年間お菓子抜きと全天使と上位の神様達が集まる会議で黒歴史ノートの朗読会をされたみたい……でも神様の力なら下級の神とは違って世界に介入するのに問題はないらしい。かと言ってあまり良くもないのだけど。

 

 

 

 

 自分の上司の醜態や恐ろしさを身にしみつつも今日の昼の部、ラーメン屋の経営を続ける。

 

 今来ているお客さんは13人、中々多いと思うかもしれないけど、スカリエッティさんが大勢連れて来ているだけであり、2週間に1回はこの店でも見ることの出来る光景だ。

 

 

 

「やはり美味しいな」

 

 

 

 ただ一人だけカウンターに座るスカリエッティさんはラーメンのスープを味わいながら呟いた。

 自分はその声に傾けつつもスカリエッティさんの娘さん達の追加注文を時を止めつつこなしていく。

 

 

 

「それで店長、今日は一つ頼みがあって来たのだが……」

 

「ツケは3回しかダメですよ」

 

「……いや、そうではないよ」

 

 

 

 ふむ、頼みか。それはあそこにいる金髪の小さな女の子の事かな。

 あの子一人だけ浮いてるし、スカリエッティさんの娘でもなさそうだし……

 

 

 

 

「実を言うとあそこにいる小さな女の子を暫くの間預かって欲しい」

 

「いいですけど」

 

「無論、断られるのは解っている。だが出来ればりゆう……を?」

 

「………」

 

「聞き間違いかもしれないが今いいと言ったかね?」

 

「はい」

 

 

 

 

 何故かスカリエッティさんは蓮華を握ったまま固まってしまった。

 一体どうしたのだろうか……仕方ない。ここは少しズルをしようか。ハコの特殊技能でもある【お客さんの注文・要望聞き逃さないYO!】(命名神様)によって思考を読んでもらいそのまま自分に届けてもらう。

 

 

 

(この反応は予想はしていたが実際に起こるとは思わなかった。この店長であればあの子は安全な場所にいられるがこうも簡単に解決しまうとは……)

 

 

 

 いまいち解らないな。人間は思考を読んでもわからなかったりするから少し困る。まあ、それが人間の優れた場所なのかも知れないけど……

 

 

 

「と、とにかく!助かるよ。あの子はまだ幼いがいい子だ。しかし少しばかり立場が特殊で狙われている。あの子を守ってれないか?」

 

「いいですよ」

 

「……随分と軽いな……まあいい、おーいヴィヴィオ君!」

 

「どうしたのぉ?」

 

 

 

 スカリエッティさんに呼ばれた子は娘さん達の輪から外れ、此方へと歩いてくる。随分と小さい、ヴィータさんよりも小さいかな。

 

 

 

「ヴィヴィオ君、この人が暫く君を預かってくれる人だよ」

 

「ヴィヴィオの家はスカさん達の家じゃないの?」

 

「すまないね。あの家では娘達でいっぱいなのだよ。それに私達の家じゃないと言っても寂しくないぞ?ここなら私達は遊びにこれるからね!」

 

 

 

 女の子はうーんと唸りながら首をひねる。まだよく解ってないのだろう。ハコから送られてくる思考もお菓子のことでいっぱいだ。

 

 

 

「ここがヴィヴィオの家?」

 

「そうだよ」

 

「この家はこの人の?」

 

「そうだね」

 

 

 

 また思考がぐるぐるとしだした。取り敢えずまだお菓子のことも考えているので買い出しの時にハコが勝手に買い物かごに入れたお菓子を渡しておく。

 

 

 

「わぁ!お菓子が出てきた!」

 

「……どうだい?ヴィヴィオ君。今のは彼が君にした贈り物さ!」

 

「もしかして魔法使い!?」

 

 

 

 なんだかすごく目を輝かせて此方を見ている。

 視線をスカリエッティさんに向けると、何かを目配せ中。ハコから送られてくる思考によれば、何か上げればいいみたいだけど……

 この子が考えているものの中……お菓子の家が出てきた。うーん、流石に改装もなしに実物大のお菓子の家作るのはダメだから小さなのでいいかな。

 

 

 

 

 時間を止めて調理する。幸いにもイメージは解っているし材料も厨房のものとハコのお菓子がある。

 土台はスポンジケーキ、止まった時間の中でつまみ食いをするハコに食べ物を与えつつケーキを焼き上げる。

 その間にトッピング用のクリーム3種類を作り上げておく。生クリームにチョコクリーム2色だ。

 まだ時間も余っているのでクッキーも焼いておく。普段よりも小さく形成するのも忘れない。

 

 

 焼き上がった箱型のスポンジケーキの中身をくり抜きハコに食べさせておく。今更だけど何故ハコは物を食べるのだろうか。機械だから必要も無いだろうし、食べた後の物がどうなっているかはわからない。

 とまあ、ぶれた思考を修正してすすめる。内装はくり抜きの段階で仕上げておいた。チョコクリームを塗り薄い2色のクッキーで壁や暖炉を作る。椅子などの家具はチョコクリームと生クリームを混ぜて調整した色で彩色。

 外装は女の子のイメージ通りに彩っていく。その時にポッキーを使ったのだけど、ハコに体当たりされたため、日本で買った551というところの肉まんをハコの口に加えさせておいた。

 

 

 最後にチョコをカッティングしてドアにして繰り抜いた場所にはめ込んで完成。

 皿に載せて女の子の目の前のテーブルに置いて時間を動かそうとしたらハコが騒いでいたので以前作ったハコの形のチョコボールを上げておいた。

 気を取り直して時間を動かす。

 

 

 

 

「うぉ!!」

 

「きゃーーーーーーー!!!」

 

 

 女の子が悲鳴を上げてしまった。どうしてだろう。

 

 

「凄い!凄い!!ヴィヴィオこんなの初めて見た!!!」

 

「い、いつも思うが君は何者なのだ」

 

「ねえ!これ食べていい?!」

 

 

 どうやら喜びの悲鳴だったようだ。キラキラとした目で此方を見ている。

 まあ、折角作って食べてもらえないのは悲しいし、食べてもらうために作ったので頷いておく。

 

 あ、ちなみにハコはチョコボールを丸呑みしようとして噛み付いてるけど、中々厳しそうだ。

 

 

 

「とにかく喜んでもらえたようだね」

 

「凄いね!えっと……ヴィヴィオはこの家に住むから……パパ?」

 

「そうだね、彼が君のパパだよ」

 

 

 

 

 いつの間にか自分は父親になっていたらしい。

 取り敢えず女の子、ヴィヴィオちゃんの思考に飲み物が出てきたからココアを置いておく。

 

 

 

「えへへ!ヴィヴィオのパパは魔法使い!」


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