腹部に感じた鈍い痛み。目の前の光景が痛みの原因を理解させてくれる。
ハコが私を庇ったのだ……闇の欠片は唖然とした様子で私のいた場所を刀で斬り下ろした格好で止まっている。
確実に仕留めたと思ったのだろう……自分にダメージを与えた私という危険要素を排するために念入りに仕留めに来たのだろう……それもハコが何かをして私を庇い己が破壊されることで私を助けた。
「っ!!ハコ!!」
真っ二つに斬られてしまっているハコはバチバチと音を立てながら落下していく。
バインドで拘束することで落下を防ぎ、直ぐ様その場から離れる。
ハコがやられた以上、時を止める力に対抗する手段を持っていない。
魔力弾で牽制しながら距離を取る。あの貫通型の魔力弾を形成して放ち続ければダメージを与えられる。
だが、相手の動きがよめない以上不意打ちで当てるしか無い。
「下賤な者共がぁぁ!!!」
闇の欠片が激情を浮かべて叫んだ。あの店長だと考えられない表情ね。
あれが全く違う存在だと改めて実感できる。
「消え去れ!!」
こちらに近付き、斬りかかってくる。障壁を貼り防ごうとしたが刀が障壁を切り裂こうとしているのを感じ身体を翻して回避する。
「クッ!!」
更に追撃が来るのを電気の膜で相手を覆うことで動きを鈍らせ回避する。
相手は何故か時を止めてこなかった……もしかすれば今は使えない理由があるのかもしれない。それならば今こそがチャンス。
「はぁ!!!」
刀で切り上げてくるのが見えた。
このタイミングでは回避も魔法も間に合わない。せめて致命傷ははずさないと!
「ガッ!!」
闇の欠片の背後から魔力弾が突き刺さった。あれは私がさっき作り上げた貫通弾と同じ……この魔力光……なのはちゃんね!
さっき私の攻撃が通ったのを見たから出来たようね。これならまだ勝機はある!
「サンダーレイジ!!」
魔法を放ち距離を取る
。
相手を幾つもの障壁で囲むことで動きを少しでも阻害する。更にバインドも追加よ!
これなら少しは時間も稼げて貫通弾を形成することが出来る。
また時が止まった。
意識ははっきりとし、闇の欠片が此方に迫っているのが解る。だけど身体を動かすことが出来ない。
「これで終わりだ!!」
でも、一箇所だけ。ある箇所だけに力が入る。
形成した魔力弾を溜め、右手を動かして放つ。
ハコの耳を握った右腕だけが動き、相手の顔面に向けて魔力弾を放った。
「無駄だ」
景色が流れる速度が一気に遅くなった。意識がはっきりと目の前の刀を振り抜こうとしている闇の欠片を認識する。
ああ、もう防ぐ手段など無い。時間は止まっているからさっきのように他の人からの不意打ちを期待もできず、躱すために身体を動かすことは叶わない。
唯、自分の命がここで終わることだけがはっきりと理解できる。
ごめんね、フェイト。お母さんこんな所で死ぬわ。でも、私がいなくても大丈夫よね。
貴方は強い人だから……
でも、最後にもう一度だけ……貴方に会いたかった……
『……テ…カィ……』
目の前に、薄い黄緑色の透明な障壁が現れた。
◇
「クッ何故だ!確かに潰したはず!!」
闇の欠片の攻撃を防いだ障壁、先程魔力弾を防いだものと同じと言う事はそれを発生させたものは自ずと決まってくる。
プレシア・テスタロッサはその存在へと視線を向けた。
己がバインドで落ちないように固定した存在。真っ二つになり、既にボロボロな状態だった筈のそれからはバチバチと火花が散っているのが解る。
ああ、時間が止まっている中で助けてくれた存在はまだいた。
もう動くことも出来ないだろうになんとか私の命を繋いでくれた。
「だが、一時しのぎにすぎん!!」
障壁が消え去ったと同時に闇の欠片は刀で斬りかかる。
右腕以外が動かないプレシア・テスタロッサに避けられるはずもない。既に矢澤ハコは残りの力を使い果たしてしまっている。
今度こそ、プレシア・テスタロッサを攻撃から護るものは存在しない。
その凶刃は、誰の妨害もなく―――
「その一時しのぎで一人の命が助かった」
―――闇の欠片ごと吹き飛ばされた。
現れたのは一人の男。黒い燕尾服に身を包んだその人物は、己と瓜二つな容姿をしている闇の欠片と対峙する。
戦いの終わりは、近い。
短いですがここまでです。もしかしたらもう少し中の文章を濃くするかもしれないので、修正した場合次話のまえがきで修正の有無を記述しておきます。