俺は娘と妹にどう接すれば良いんだ?出張版   作:赤谷 狼

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第3話 娘と妹との怒涛の日常生活? 【3】

「あ、黒センセ―って、いひゃいでふよ!?(痛いですよ!?)」

「学校行事でも無いのに教師と生徒を私用で呼ぶとは何事だ? ん~?」

 

 俺は家の前で待機していた『沙奈原 由依(さなはら ゆい)』という元家庭教師の教え子で、現在は俺の学校で教育実習生をやっている愚か者を捕まえると、その口を左右に伸ばしてやった。

 

「や、やめて下さいってば~!」

「貴様……俺と娘の団欒を邪魔するとは……良い度胸だな」

「あ、あの目が本気っぽいんですけど!?」

「沙奈原……貴様のような良い生徒を持って俺は幸せだよ。……本当に」

「す、すごい嬉しい言葉のはずなのに、言い方でここまで変わるんですね……あ、でも、もうちょっとこのまま―」

「さて、お前達が俺を呼んだ理由を聞かせてもらおうか」

 

 俺は少し頬を赤らめてとろんとした目を向けてくる危険な女教師の頬から手を離すと、きりっとした教師の目で睨み付けてやる。

 

「あ、黒センセ……その目付き、ちょっと格好いいです……」

 

 むしろ逆効果だった。

 こんな面倒な奴と休日を過ごさんとならんとは……就職先を間違えたかなあ。

 そんな悟りを開いていた俺の耳に、今度はやたらと騒ぐ声が聞こえてきた。俺はその声の主をよく知っている為、その声が近付いて来ると同時にその頬を思い切り引っ張ってやる。

 

「ちゃお~、黒先生―いはははは!?(痛たたたたた!?)」

「はっはっは……お前達は本当に鍛え甲斐があるな? んん? なあ、柿村?」

「ひいいいいい!? ふろへんへほわい!?(黒先生怖い!?)」

 

 こいつは『柿村 綾(かきむら あや)』。

 白唯、藍菜と同じく、俺の今期のクラスの女子生徒の一人で、白唯と柿村、そしてもう一人の女子でよく一緒に登下校するくらいに仲が良い。

 

「またお前か? お前だな? お前だよな? 柿村ぁ?」

「ほぼ断定じゃん!? 酷いよ黒先生! 全部私が計画したことだからって―あいはははは!?(あ痛たたたたた!?)」

「お前のそういう性格は嫌いじゃあないが……時と場合によっては絶望を見るということを覚えた方が良いぞ? あと黒先生はやめろ」

「え~、良いじゃん。黒先生って名前。可愛いし」

「男の尊厳を砕くような言い方はやめろ、可愛いなんて言われても喜ぶわけ無いだろ」

「男って面倒だよね~」

「大した経験をしてない小娘が男を簡単に語るなよ?」

「む、じゃあ、黒先生はそんなに女性と付き合ったことあるの~?」

「おっと、見梨じゃないか。お前も来てたのか~」

「え? あ、は、はい……おはようございます、先生……?」

 

 『見梨 麻里(みなし まり)』。

 白唯と柿村のもう一人の友人であり、通称『優等生B』。名付け親は俺。

 我が娘が模範的な優等生の為、白唯を『優等生A』とするなら、クラスで二番目に優等生である見梨は『優等生B』なのだ。……別に身内びいきとかしてないよ?

 相変わらず小動物のようにオドオドしている見梨に挨拶をしていると、後ろで柿村が「逃げた~!」とか言ってるが気にしない。

 しかし、それに乗って何故か元教え子が悔しそうな声を上げていた。

 

「柿村さん……あんなに黒センセと仲良さそうに……うぅ、私もあと数年、あと数年若ければ!」

「お前も十分若いだろ、現役大学生。というか、こんな面倒な生徒は柿村だけで十分だっての……」

 

 本来であれば、教育実習生とはいえ、沙奈原も教師である以上は生徒とは一定の線引きをするべきだ。

 とはいえ、俺もそういうのに厳しい方じゃないし、むしろ教師と生徒の交流が増えるのは大歓迎だ。しかし―

 

「面倒ごとを増やすのは反対だ」

「え? なんか言った?」

 

 事の発端であることを堂々と言い放った柿村は、すでに人様(俺や白唯、藍菜の家)の玄関で靴を脱ぎながら首を傾げてきやがった。……良い度胸だ。

 

「貴様のような無礼を働く生徒を持ったのは初めてだよ……」

「初めてだなんて……そんな口説かれ方したの、黒先生が初めてだよ……」

「そうだなあ? 良かったなぁ、俺が初めてで。んで? この頭を盛大に振ってその寝言が二度と言えないようにしてやろうか? んん?」

「嫌あああああ! あ、頭が! 頭がああああああ! 本当に少しだけ勉強に使ってる部分が抜け落ちて次のテストの点数が取れなくなっちゃううううううう!?」

「どんな言い訳だあああああああ! お前、またなのか!? またテストがヤバいのかよ!?」

「だって、勉強嫌いだしw」

「覚悟しろよ、小娘……今日はお前の頭に俺の人生を総動員した教育法で二度とそんな言葉を言えない頭にしてやるよ……」

「いやんw 黒先生ってば強引なんだからw」

「ちょっと、兄さん!? 私もテストに問題がありそうな気がしなくも無いから、その教育法を叩きこんでよ!」

「お前は成績良いだろうが!? 柿村あ……やっぱ貴様には今日こそお灸を据えてやるよ……」

「じゃあ、責任……取ってくれる……?」

 

 そして、潤んだ瞳を向けてきた柿村に俺は―

 

「すいません、他あたって下さい」

「そんなあっさり!?」

「柿村さん、あんなに黒センセと……う、羨ましい……」

「はあ……」

 

 そんな馬鹿なやり取りをする俺達を後ろから見ていた白唯が大きく溜息を吐いているのが聞こえてきた。やめて! 父さんはこいつらとは違うから!

 というか、沙奈原も沙奈原で……なんと言うか、変わっちまったなぁ。

 あれだけ真面目だった頃のあいつはもう居ないんだな、としみじみと思う俺だった―。


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