俺は娘と妹にどう接すれば良いんだ?出張版   作:赤谷 狼

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エピローグ

「―こんなことってあるか? 普通……」

 

 俺は藍菜の提案したじゃんけんによって決められた状況―白唯と藍菜の間に挟まれながら、思わずそうこぼしていた。

 俺の手には先程買い出しで購入したカレーの材料がある。

 

「……先生、奇遇ですね」

「いや……まあ、そうだな、野々瀬……」

 

 俺は外では白唯とはただの教師と生徒の関係の為、いかにも「買い出しに出た時にたまたま会いました」という雰囲気を作らされていた。……いや、さすがに不自然だろ、これ。

 

 そんな俺と白唯に、藍菜は少し不満をもらすように呟いてきた。

 

「仕方ないじゃない、じゃんけんがずっと決まらなかったんだし……あんなにあいこが続くなんて思わなかったのよ」

「百回やって全部あいことか……お前ら実は似た者同士なんじゃね?」

 

「どう見ても似てないじゃないですか……。たまたまですよ、たまたま」

「いや、これそういう次元の話じゃなくない?」

 

 普通、あいこがそんなに続くことはまず無いと思うぞ……。

 

「あ……」

 

 俺がじゃんけんの理屈を解明しようと頭を回転させていると、珍しく白唯が可愛い声を上げた。間違えた、白唯はいつも可愛い声だった。

 

「もはや小鳥のさえずりとさえ言って良い……」

「……先生、なんの話をしてるんですか?」

 

 そう言ってジト目で俺を見てくる白唯。残念だったな、娘を溺愛する親父なんざ大体こんな感じだよ。参照はうちの親父。

 

「まあ、気にするな」

「いや、気にするなって言われても……普通気になると思いますけど……」

 

「それで白唯さん、いきなり声を上げてどうしたの?」

「あ……いや、別にそこまで大したことじゃないっていうか……。ただ、昔はよくここをお母さんと歩いてたな、って思って」

 

 そう言って、街並みを眺める歩く白唯。

 確かに、ここら辺は俺も揃って三人で歩いていたことがある。

 

 まだ白唯が小学生くらいの頃、俺と白唯、そして恋人だった桃佳の三人で。

 白唯は一瞬だけ俺の方を見ていたが、今は教師と生徒。例え藍菜の前とはいえ、外である以上、俺のことをおいそれと話すことは出来ない。

 

 だから、「お母さんと来たことがある」と言ったんだ。

 事実を言えず悶々としている娘の心境を察した俺は、あくまで教師として平等な言葉を返してやる。

 

「お母さんとは仲が良かったんだな。こんな優秀な娘を持って、親御さんはさぞ幸せだろうよ」

 

 そんな風に俺がとぼけた様子で言うと、白唯は「知ってる癖に」と少しだけ目を細めて笑っていた。

 

 そして、いつもの模範的な優等生の顔を作りながら白唯も教師である俺に返してくる。

 

「……そう言ってもらえると、親も喜ぶと思います」

 

 俺が母親との仲を褒めたのと同時に、遠回しに俺の自慢の娘だと褒めたのを見透かされたようだ。その表情をより明るくさせる白唯はとても可愛らしく、俺は思わず小さく笑みを浮かべてしまう。

 

「……む~」

「え~と……藍菜様、どうなされたのでしょうか?」

 

 俺が娘との意思疎通を図っていると、突然妹から物凄い目で睨まれていた。……いや、怖い感じというよりは子供っぽい拗ねた感じだけども。

 

「兄さん、帰ったら今日こそ私の本気を見せてあげるから!」

「……兄さん、料理するならあまり本気とかになって欲しく無いかなぁ」

 

 なんか、それはそれで空回りしてとんでもないことになりそうだし。

 

 どうやら、俺が白唯と無言で見合っていたのが気に入らんらしい。……やれやれ、思春期の女子の扱いというのは難しいな。

 

「ふふ、先生も色々大変みたいですね」

「大変みたいって……お前なぁ……」

 

「もう兄さん、帰ったら私達のチームのカレーを先に食べてよね?」

「おいおい、そういうのは帰ってから言おうぜ……」

 

 藍菜に睨まれる俺を少しいたずらっ子のように笑いながら見る白唯。

 まるで子供のように頬を膨らませて俺に迫る藍菜。

 

 傍から見たらまるで似てない親と子、兄と妹である俺達は少し仲の良い教師と生徒として休日の道を歩いていた。

 

 そんな二人に囲まれながら俺は家が見えてきた為、周囲からの視線を気にして一旦先に白唯を家に向かわせようとしたのだが―

 

「黒センセ……私も行きたかったです……」

「……沙奈原、頼むから俺が家に向かう前に出て来るな。近所に噂されるから」

 

「黒先生~、お腹空いた~!早くチョコレート!チョコレートを!」

「違うよね!? 買いに行ったのはカレーのルーだよね!?」

 

「あ、あはは……綾ちゃん、カレー……作れると良いですね……」

「見梨……このままだと俺は甘口なんて生易しい激甘チョコレートをご飯と一緒に食わされそうだよ」

 

 さらに、相変わらず騒がしい連中が家から顔を出す。

 こんな個性的な奴らに囲まれて育っていく娘や妹の将来が心配でありつつも、どこか楽しく思う自分も居る。

 

 将来、こいつらの影響を受けて娘や妹が大人になったら一体どうなってしまうのだろう。

 

 騒がしくも楽しい、でも不安要素満載のこいつらの影響を受けて大人になった時―

 俺は娘と妹にどう接すれば良いんだ?




この話で番外編である「出張版」は一旦完結とさせて頂きます!

Amazonにて本編である書籍版が7月8日に5巻、10月7日に6巻が発売する予定なので、しばらくはそちらの執筆に注力する予定です!

また、GWキャンペーンで5月4日までAmazonのKindleで書籍版1~2巻が無料配信中ですので、興味のある方はぜひ手に取って頂けると幸いです!

「出張版」については、書籍版が落ち着いた頃に続きをやると思います!
ここまで応援して頂きありがとうございました!

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