俺は娘と妹にどう接すれば良いんだ?出張版   作:赤谷 狼

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第15話 割と普段通りの破天荒人生 【3】

 

「簡単に言えば、黒センセには前回みたいに味見をしてもらいたいんですよ」

「……本当に簡単な説明な上に、結局理由が分からないんだが」

 

 他の生徒達が楽しそうにエプロンを付けて準備をしている中、一足早く準備を済ませていた沙奈原は俺の隣でそうのたまっていた。……相変わらず、こいつも分けわからん奴だな。

 

 すると、そんな俺と同じように疑問を感じていただろう白唯が現れる。

 すでに手慣れた手付きでエプロンを付けて準備を済ませていた白唯は沙奈原の隣に並ぶと、不思議そうな表情で沙奈原に質問を投げ掛けかけていた。

 

「え~と……料理対決ってことは前回やったような感じってことですか?」

「そう! 今回はそのリベンジです! 前回は野々瀬さんと見梨さんのチームに負けちゃったからね」

「別に勝ち負けにそこまでこだわらんでも……」

 

 『前回』というのは少し前に俺の家で行われた『料理対決』のことだ。

 少し前、なんでもそつなくこなしてしまう白唯に対抗心を燃やした藍菜が白唯に対して突然『料理対決』を申し込んだのだが……その時に助っ人として呼んだのが、沙奈原、柿村、見梨の三人だった。

 

 チームは『白唯・見梨チーム』と『藍菜・沙奈原・柿村チーム』の二つに分かれたのだが……結果は散々なものだったりする。もちろん、結果が悪かったのは今目の前で息巻いている沙奈原のチームだけだが。

 

「前回は難易度の高いものにチャレンジしてしまいましたからね……今日は同じような失敗はしませんよ!」

「……確か、普通のクッキーだったような」

「お、お菓子はなかなか難しいんですよ! だから、今回は普通の料理で勝負させてもらいます!」

「お、おう、そうなのか……」

 

 若干涙目で訴えかけてくる沙奈原に気圧され、思わず後ずさる俺。まあ、クッキーは作ったことないから難易度は知らんけど……。

 そんな俺を横目に、一応は教師である沙奈原に対して優等生然とした態度で聞き返していた。

 

「じゃあ、今回作る料理は決まってるんですか?」

「そうね~……カレーとか良いと思うんですけど……」

 

 そんなことを言いつつ、沙奈原がチラッと俺の様子を伺ってきたことに気付く。

 前回毒味役だったし、さっきの説明からすると、恐らく今回も同じように俺が審査員兼毒味役を頼まれるのは間違いないだろう。

 

 つまり、この沙奈原の視線は「カレーは食べられますよね?」と聞いているようなものだ。

 俺はそんな沙奈原の視線にため息を一つ吐くと、呆れた視線を投げ返してやる。

 

「……まあ、どうしてもやるって言うなら止めんが……ちなみに、俺は特に苦手な食い物は無い」

「それが聞ければ安心です! 色々な材料を使って、黒センセの胃袋を掴んでみせますよ!」

「ちょっと待って? 今から作るのはただのカレーなんだよね?」

 

 日頃、白唯と料理をしている藍菜も居るし、そこまで変なものは入らないと思いたいが……とはいえ、それに柿村が混ざって一緒に料理されると、それはそれで不安しか無いんだが……。

 

 俺の不安を察した白唯は父と同じく疲れた表情を浮かべつつも、教師である沙奈原に失礼の無いように次の質問をぶつけていた。

 

「リベンジってことは、チーム分けは前回と同じでやるってことですか?」

「うん、そのつもり。私と矢田部さん、それと柿村さんでやらせてもらおうかなって」

「……相変わらず、激しく不安になるチーム分けだな」

「いえいえ、私もあれから少し料理の腕を上げたんですよ!? 生徒に負けたままだなんて、教師としては悔しいですからね!」

 

 そう言って気合を沙奈原が気合いを入れていると準備が整ったのか、藍菜、柿村、見梨の三人がエプロンを付けて台所から姿を現した。

 そして、藍菜と柿村は沙奈原の隣に並ぶと、白唯に強い視線をぶつけ始める。さながら料理番組みたいな構図だな、おい。

 

「白唯さん、やるからにはあなたには絶対に負けないから」

「まあ、いきなりで色々と驚いたけど……私もやるからには負けるつもりはないよ」

「私はそこまで勝ちたいわけじゃないけどねw」

「……柿村、お前は少しくらい熱意を持て」

 

 俺が柿村の呟きに対して冷静にツッコミを入れると、柿村は「失礼な!」と声を上げ、俺へと勢いよく言葉を返してきた。

 

「本当は私だって黒先生みたいに食べる専門になりたいよ!」

「じゃあ、参加する意味無くない!?」

「だって、そっちの方が面白そうじゃん!」

「お前は料理をなんだと思ってるわけ!?」

「黒先生を使った人体実験?」

「沙奈原! せめてこいつは除外してくれ! 不安でカレーが食えなくなる!」

 

 前回作った黒焦げクッキーを思い出し、俺が主催者である沙奈原に抗議を唱えるも沙奈原は少し腕を組んで考えていたが、白唯に視線を一瞬向けた後、俺から視線を逸らしてどこか諦めたような声を返してきた。

 

「さ、さすがに野々瀬さんに勝つには戦力を減らすわけにはいきませんし……黒センセ、ここは覚悟を決めて下さい」

「ちょっと待って!? 覚悟決めろって何!? 料理対決の勝ち負けの基準って俺の生死で決まるの!?」

 

 どうやら、俺の人生はここが正念場らしい。手作り料理で覚悟決めるってどんなもの作る気だよこいつら……。

 それに対し、さすがは我が家の食卓を守る娘。

 白唯のチームは平穏なもので、優等生同士で互いを励まし合っていた。

 

「じゃあ、麻里。私達も頑張ろっか」

「うん、白ちゃんと一緒なら大丈夫だもんね」

「いや、別に私が居るから大丈夫ってわけじゃなくて……麻里だって料理できるじゃない」

「ぜ、全然! いつも先生の料理を作ってる白ちゃんに比べたら、私なんて趣味とかでやってるくらいだし……」

「もっと自信持ちなよ。麻里は料理部なんだしさ」

 

 何この温度差……試合開始前からすでに勝負決してない?

 まあ、そんなこと言ったらそもそも前回も白唯と見梨チームの圧勝だったわけだが。

 

 そして、そんな不安をさらに増幅させるように、いつの間にか台所に移動していた沙奈原チームの声が耳に入ってきた。

 

「やばっ! ルーじゃなくてこれチョコレートじゃんw」

「柿村さん……兄さんに変なものを食べさせたくないから気を付けてよね?」

「とりあえず、普通の戦略じゃ野々瀬さんには勝てないし……矢田部さん、柿村さん。今回はインパクト重視で行ってみましょう!」

「いえ~い! 私は沙奈原先生にさんせ~!」

 

 ……いや、本当に大丈夫なのかこの面子。


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