もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら 作:更新停止
クレマンティーヌ、敬語を使う!?
……はい、冗談です。石を投げないでください。
今回は、クレマンティーヌが敬語を使うという違和感がすさまじい描写が存在します。
さすがにクレマンティーヌも大人なので、敬語を使うことができないわけではないとは思いますが、私自身違和感のせいで書いていて鳥肌が止まりませんでした。
「…………っはぁ、はぁ、はぁ。何なのあのエルダーリッチ」
意識が戻る。
モモンガがいなくなってからしばらくしてから、クレマンティーヌは意識を取り戻した。
「……それにしても、私また暴走したみたいね」
彼女は自分の周りを軽く見回す。
彼女の周りには、彼女の左半身、そしておびただしい量の血が散らばり大地を濡らしている。
ふと、右手の指輪を見れば、四分の三程度が黒く染まっていた。
彼女としては、暴走はかつて漆黒聖典を抜ける原因となったものなので、あまりいい思い出がない。ただ、この力に命を救われることが多いことは確かなので、何とも言えない気分になっていた。
「なんであんな反則みたいなエルダーリッチがこんな所にいたのかはわからないけれど、とにかく今は早くカルネ村に行かないと」
陽光聖典といい反則的なエルダーリッチといい、いったい此処では何が起こっているのか。
―――少なくとも、何かとてつもないことが起こっていることは確かみたいね。
彼女は、聖詠を唱え武技を自身にかけなおすと、再び森の中を村へと向かい直進していった。
クレマンティーヌが森の中をかけてしばらくすると、森が途切れカルネ村が視界に映った。
村にはいくつか壊された建物の瓦礫が転がっており、村の中を何処か見覚えのある兵士が徘徊……ではなく巡回していた。
いや、クレマンティーヌにとって彼等は見覚えがあるどころか、ついこの間見たばかりだ。
そこにいたのは、王国戦士長であるガゼフが率いるリ・エスティーゼ王国の兵士達だった。
「あれ? ……どういうこと?」
帝国兵士と陽光聖典はどこに行ったのだろうか。
彼女は疑問に思いつつも、とりあえず直接聞いてみることにした。
「やっほー。ガゼフ何でこんな所にいるの?」
王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフが村を歩いていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
彼が振り返ると、案の定というべきか、友人であるクレマンティーヌがそこにはいた。
「お前は……いや、お前こそ何でこんな所にいる。王都にいるんじゃなかったのか」
「いやー、ちょっと野暮用があって。
ガゼフこそどうしてこんな所にいるのよ。もっと西の方の砦に行ってたんじゃなかったの?」
「いや、近隣の村が襲われているとの情報が入ってな。エ・ランテル近郊の村を回っていたんだ」
―――それにしても、野暮用……か。
ガゼフは、胸の中で小さく呟いた。
彼の友人であるクレマンティーヌは、
ただ、少々秘密主義で、野暮用と称して姿を消すことがたびたびあった。
……今日ここに姿を現したのも、その野暮用と同じなのだろうか。
「ふぅん。なるほどね」
何かに納得したような、何処か安心したような雰囲気でうなずく彼女を見つつ、ガゼフは話を続けようとした。
しかしその時、急にクレマンティーヌの表情が固まった。
よく見れば、彼女の目線は彼の背後を見ており、その目は何か見てはいけないものを見たかのような目をしていた。
彼女の目線を追うように、ガゼフは視線の先へと振り返る。
ガゼフの振り返った先には、彼女と同じように固まった姿の魔術師、アインズ・ウール・ゴウンがいた。
「おお、ゴウン殿。村長との話し合いはもうよろしいので」
「え……ええ、村を救ったことに対する報酬の件もまとまりました。
……ところで戦士長殿。その女性とはお知合いですか?」
その女性とは、クレマンティーヌのことだろう。ガゼフはアインズの口調からクレマンティーヌと何らかの面識があると感じた。
「ああ、彼女は私の友人のクレマンティーヌ。彼女は用事があってこのあたりにいたようで、つい先ほどあったのだ」
彼女をアインズに紹介したとき、ふとガゼフはクレマンティーヌが珍しく申し訳なさそうな顔をしていることに気が付いた。
「ん? どうかしたのか」
彼は、クレマンティーヌの様子をうかがう。
「申し訳ありませんが、少々お時間を頂けますか」
その言葉に、周囲にいた兵士達の間でざわめきが起こる。
周囲にてこの会話を聞いていた兵士達は、まるであり得ないものを見ているような驚愕の表情をしていた。
兵士達には、クレマンティーヌとの面識はそれなりにあった。たびたび行われる教導において、彼女が敵役として呼ばれることが何度もあったためだ。
彼等の中では、クレマンティーヌはかなり子供っぽい印象があったため、敬語を使う姿を今まで想像できなかった。一部では、貴族にすら敬語を使わなかったという噂が立っており、彼女が敬語を使うのは王族位だろうという話すらされていたことがあったほどだ。
兵士達だけではなく、ガゼフも心底驚いていた。
何故なら、ガゼフは、クレマンティーヌの敬語を今日この時まで聞いたことがなかったからだ。正直、ガゼフは口にこそださなかったものの、クレマンティーヌが敬語という物を知らない可能性すら考えていた。
そんなクレマンティーヌが敬語を口にしたのだ。これは、よっぽどのことだ。
「かまいませんよ。私も、貴女と話してみたいと思っていたので」
アインズは、彼女の言葉に了承の意を返す。
「ごめんガゼフ、また後で」
クレマンティーヌはガゼフにそう告げると、アインズ共に建物の陰に歩いて行った。
「すみませんでした」
クレマンティーヌは、真っ先に頭を下げた。
あのガゼフとの会話の様子からして、このアンデッドは村を救ったのだろう、と彼女は判断していた。本来生者を憎む筈のアンデッドが、あの時まさか人助けをしていたとは思ってもいなかったので、いきなり殴りかかったことを本当に申し訳なく感じていた。
「……いえいえ、私はこのような外見をしているのです。あの状況であれば、貴女が私に襲いかかったことは別におかしなことではないでしょう」
アインズとしては、彼女の行動に特に嫌悪などは感じていなかった。客観的に考えれば、あの時彼女がアインズに殴りかかったのは当たり前であり、被害者である彼が言うのもおかしな話かもしれないが、彼女のおかげでいくつか知りたいことを知ることができたのだ。ナザリックのNPC達が被害を受けたならともかく、彼自身が少しダメージを受けた程度なので、特に文句などは無かった。
それに、アインズはクレマンティーヌに恩を売っておきたかったのだ。
「そう言っていただけると助かります」
クレマンティーヌは、再び心の底から頭を下げた。
「はい、そこまで気に病む必要はありませんよ。
そのかわり、というのもなんですが、どうして貴女が生きているのか教えてもらえませんか」
そんな彼女に、優しげな言葉をかけつつ彼は疑問に思っていたことを問いかけた。
アインズは、これが気になっていた。
彼が彼女を最後に見たとき、彼女は縦に真っ二つになっていたはずだった。彼女がヴァンパイアならともかく、彼女は彼が見た限りでは人間だ。
もし、何らかの蘇生アイテムを持っていたのであれば、あの場ですぐに蘇生していたはずだ。しかし、実際はそうではなかった。また、彼女は一人でこの村に来たようなので、誰かが彼女を生き返らせたとは考えにくい。
つまり、彼女はアインズの知らない何らかの蘇生方法を握っているということだ。
アインズとしては、ユグドラシルのルール通りに蘇生できるとは限らない現状下において、確実に生き返ることができる手段は手に入れておきたかった。
「うーん」
クレマンティーヌは考え込んだ。
彼女としては、アインズに負い目があるために自らの
しかし、彼女が蘇生できた理由である魔法少女の力は、彼女の命に関わる弱点を内包したものだ。これを話すと言うことは、漆黒聖典にすら知られていない彼女の最大の弱点を話すと言うことになる。
さらに言えば、鹿目まどかの弓矢は浄化の力が付与されている。浄化がよく効いてしまうであろうアンデッドのアインズに対してこれを伝えることは、徒に警戒させることに繫がらないだろうか。
考え込むクレマンティーヌの様子を見かねて、アインズは彼女に言った。
「いえ、それ程言いたくないのであればかまいませんよ。無理して聞き出すのも悪いですし」
「え、いや、ですがそれは……」
無理してまで言わなくて良いと告げるアインズに、彼女は良心が痛んだ。
だがしかし、彼の言葉がクレマンティーヌにとって救いであることも確かだった。
「……本当にすみません」
「私こそ不躾でしたね。誰にだって知られたくないことぐらいあるでしょう。私の質問は、少々無神経だったかもしれません」
そう言いつつ、アインズは内心ては全くそう思っていなかった。
此処までの話の流れは、彼が概ね考えた通りに進んでいたからだ。
彼は、今この場で蘇生方法について話させる気は無かった。本当に話してくれれば幸運だとは思っていたが、あくまでこの質問は答えることができない質問として問いかけた物だったからだ。
今の話で、クレマンティーヌはアインズに対して大きな借りを作ったと考えるだろう。そして、質問に答えられなかったことで、さらにアインズに対して申し訳なさを感じたはずだ。
この二つは、彼女はアインズを善良な存在と判断するに値する判断材料になる。
アインズの目的は、彼女に自らが善良な存在と判断させることだった。
この世界に自分以外のプレイヤーがいるかどうかはわからないが、もしいるとすれば彼を敵視するだろう。アインズ・ウール・ゴウンの名は、ユグドラシル有数のDQNギルドとして有名だったからだ。
彼は、ユグドラシルプレイヤーの中でもそれ程強い方ではない。故に、他のユグドラシルプレイヤーと敵対した際、そのプレイヤーが彼よりも強い存在であることは十分に考えられる。
そのため、彼としては『アインズ・ウール・ゴウンは善良な存在である』と知らしめることで、他のプレイヤーとの無用な敵対を避けることができるのでは無いか、と考えたのだ。
そのために、アインズはクレマンティーヌに対して支配や魅了系スキルを使わずに、恩で付き合うことにしたのだ。
……勿論、即死魔法を何らかの手段によって無効化した彼女が、それらの魔法を無効化してくると考えたことも、この方法にした理由ではあるが。
「いえ、そんなことはありません。私が迷惑をかけたにもかかわらず、そのようなことを言わせてしまいすみません。
でしたら、今度王都に訪れることがあれば、是非案内をさせてください。この程度で償いになるとは思いませんが、せめてこのぐらいはさせてください」
「わかりました、その機会を楽しみにしていますね」
丁度そのとき、広場の方から騒ぎ声がし始めた。
それを聞いたアインズは、彼女に話しかける。
「何か、あったようですね。行ってみましょうか」
「各員傾聴」
男の声に、彼らは身を正し男の方を向いた。
「獲物は檻に入った」
男のの言葉に、彼らの内の何人かがわずかに興奮を滲ませる。
無理もなかった。なぜなら、彼らの獲物はかの王国最強の男なのだから。
「汝らの信仰を神に捧げよ」
男の言葉に、彼らは黙祷を捧げる。それは、短いながらも彼らの信ずる神への敬意にあふれていた。
彼らは、陽光聖典。スレイン法国に六つある特殊工作部隊の一つで、その中でも殲滅能力に優れた部隊だ。
非公式部隊の中でもさらに非公式とされている漆黒聖典を除けば、特殊工作部隊中最も戦闘力の高い部隊と言っていい。
陽光聖典に所属する人員は、およそ百人。その全てが信仰系の第三位階魔法を習得しており、
まさしく、エリート集団という名に恥じない実力を持った部隊と言えるだろう。
「開始」
一言男が告げるだけで、彼らは散開し村を包囲し始める。その動きには一切の澱みがなく、彼らがその動きに慣れていることを示していた。
男、陽光聖典の隊長であるニグンは、彼らの動きをしばらく見つめると小さく愚痴をこぼした。
「次は……別の部隊の協力を仰ぎたいな。できれば風花からの協力がほしい」
「全くですね。もう少し情報収集に優れた部隊が付き添いにいれば、もっと早くことが進んだでしょうに」
ニグンの傍に護衛役としていた彼の部下が、その愚痴に答えた。
彼の部下が言うように、実際風花聖典が協力にいれば、もっと早くことが済んだだろう。
しかし、風花からの協力がない理由をニグンは知っていたために、今回ばかりは仕方がないと考えていた。
―――裏切者め
今度は部下に聞かれるわけにはいかないため、心の中でそっと悪態をついた。
三年前、法国から数多の財宝を盗み出し、特殊工作部隊群『六色聖典』に多大なる被害を与え脱走した女、クレマンティーヌ。風花聖典は彼女のことを追っているために、こちらに人員を割けないのだ。
ニグンはため息をつく。もう起きてしまったことは仕方がない。そんなものを後悔していれば、部下にいらぬ心配をかけることになる。
彼は自身にそう言い聞かせると、思考からクレマンティーヌのことを追い出した。
腕に巻かれた鋼鉄のバンドを見る。そこには、現在の時間が描かれており、その数字は既定の時間が経過しようとしていることを示していた。
「そろそろ時間だな」
ニグンは小さく息を吸い、そして息を吐いた。
部下の手前余裕そうな様子を崩してはいないが、王国最強の男を相手にすることに全く不安がないわけではないのだ。
内心にあるガゼフに対する恐れの感情を、自らが信ずる神への信仰心で押し込める。
「では、作戦を開始しよう」
ニグンは、自らのもてる最高位階の天使召喚魔法を発動させた。
それにより呼び出されるのは『監視の権天使』。ニグンはその姿を眼に納めると、ガゼフのいる村の方へと目を向けた。
やめて! ガゼフの武技で、天使たちを薙ぎ払われたら、すぐそばにいるニグンまで斬りはらわれちゃう!
お願い、死なないでニグン!あんたが今ここで倒れたら、陽光聖典はどうなっちゃうの? MPも部下もまだ残ってる。ここを耐えれば、ガゼフに勝てるんだから!
次回「ニグン死す」。