アクセル・ワールド~加速探偵E・G~   作:立花タケシ

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探偵の日常(?)

 

 加速世界(あっち)にいると現実世界(こっち)のタイムロスはいかがなものか、と。そう橘彰祐(タチバナショウスケ)は思った。

 だが、この感慨も加速世界の住人だからこそ味わえるものだとおもうとまんざらでもなかった。

 

 彰祐は一人、待ち人を弁当を食べながら待つ。

 決して友人がいないわけではない。

 ただ会話を聞かれたくなかったからわざわざ人が来ない場所を選択し、陣取ったのだ。

 

 「わりぃわりい、待ったか?」

 「待ってるから先に食べ始めてるんだ」

 「うわっ、つれねぇな。ちょっとくらい待てよ」

 「師匠は言った。時間は有限だ、加速世界でも、現実でも」

 「はいはい、ソーデスカ」

 遅れてやってきた男、杉森勇魔は売店て購入したばかりのサンドイッチの封を切り、トマトとレタスとベーコンを挟んだいわゆるBLTサンドを頬張った。

 

 「んで、ふぉおふんだ(それで、どおすんだ)」

 まだパンがのこった口でそういった。

 どおするの4文字に含まれたのは、加速世界での昨日の依頼の話。

 依然、ダークが心にしこりを残す、レックスが依頼を渋る理由だ。

 

 「……飲み込んでから喋れよ。まぁ、あんまり乗り気じゃないのは確かだ。もしだ、もしかしての話だがこれが6大レギオンとかに接触するようなモンだったらどうする。一瞬で潰されるぞ。いままで続けた物が一瞬でゼロ、最悪全損だな」

 「……なんでそこまで考えるかな」

 勇魔は嘆息しながらいった。

 「だってあの報酬だぞ?そりゃ───」

 「そうじゃねぇ、そんなリスク計算ばっか考えてんじゃねえって話だ。お前は俺のことバカバカっていうけどお前も結構な馬鹿じゃね~か。昔はどうしようもなく困った人を助けるだけだったのにもう保身かよ。そうじゃねえだろ?」

 

 飄々とした口調で心に刺さるような言葉を言われた。

 しかし、それで彰祐は目が覚めた気分だった。

 「……なったらなったでやりゃいいか」

 「そうそう!」

 コツンと二人は拳をぶつけた。

 

 

 

 

 残った弁当を食べていると、彰祐が口を開いた。

 「今の今で今更だがよ」

 「……ん?」

 「お前名前おかしくね?」

 「───ぶふぉ……っ、ゲホゲホッ、どういうことだよ!?」

 思わず咀嚼していたトマトとベーコンを吹き出してしまった勇魔。それを「きったねぇ」といいながらハンカチで拭う彰祐。

 「だって勇と魔だぞ?勇者と魔王ってか、矛盾すぎるだろ~。現実での矛盾存在(アノマリー)とはお前のことか!」

 「あ、アノ?? そんなこと言うならお前だって中二病抜けてねぇだろうが!」

 「───なっ」

 彰祐の顔が茹ったように朱色に染まった。

 「どこがだよ!」

 「雰囲気とか、たまにつぶやいてる言葉とかまんままるっきり中二じゃないか!」

 その後もギャアギャアと敷地をにぎわす喧騒。

 それが終わるのは予鈴のチャイムが鳴ってからだった。

 

 

「てなわけで、その仕事は受ける事にした」

 「ありがとうございます」

 

 二日続けてCLOSEと掲げられたバーの扉の内側から、そんな会話が響いてくる。

 「さっそく始めちゃうけどいい~?」

 「あ、はい。 ……あの」

 「ん、どうした」

 パンサーがどこか申し訳なさそうに言葉を挙げた。

 

 どこか吹っ切れたレックスは別にこれ以上の要求をされても構わないと思っていた。ただ、少しだけどんな事を追加されるか身構えてしまう。

「たいしたことじゃないんですが……」

「いーからいーから。言ってみ?」

「あの、依頼が終わるまでここで待っていていいですか?」

「あ、あぁ」

 

変わった要求にお互い顔を見合わせてしまうレックスとダーク。

 

「……それだけ?」

「え、はい。それだけです」

 

少女はさも当然のように答えた。

 

「別にそれぐらい許可がいるようなことでもないんだが、時間がかかるかもしれないがいいのか?」

「大丈夫です」

「それならいくらでも居てくれてかまわない」

 

パンサーはただ頭をさげるだけだった。

 

「さて、それじゃ行くか」

「そうだね、いこっか」

 

わざわざ何処にと言わずとも通じる仲である。二人はゆっくりとソファーから立ち上がり、迷いなく扉へと向かう。

 

「ま、店番頼むよ」

「は、はい!」

 

ギィ、と年季の入った扉を軋ませ、金色と翠玉の背中は遠くなっていく。

 

 

 

「お前帰ってくるのはやくね?」

「いやいや~、レックスも十分早いよ。随分と身軽そうだね」

「あの、お二人とも~」

「ダークの野郎がやんのかこらぁ!」

「だまれトカゲ!」

 

ここはどこかのフィールド───、ではなくG・Eの店内。

颯爽と駆けだしたダークとレックスはなにやら足取り重くこの店に逆戻りしてきた。

これがついさっきまでのお話。

いまでは仲良くどつきあい、火花を散らしあっている。

 

「てめ、また成果なく帰ってきやがって……」

「そっちだってあんな恰好つけて手ぶらとか」

「いや、あの……そろそろ」

 

まさに五十歩百歩

 

目くそ鼻くそ戦争

 

同じ穴のムジナである。

 

「落ち着いてください!」

 

突然の近くからの怒号に、今まで取っ組み合いをしていた二人はビクッと体を震わせ静止する。

 

「何やってるんですか! こっちは仕事を待っているのに喧嘩しだすなんて探偵とは到底思えませんよ!」

 

その言葉に二人ともが「あ……いや」「そのだな……」と目を泳がせつつしどろもどろうろたえだす。

 

「わかった、怒るなって、それじゃあ一応経過報告するから。 なっレックス」

「ああそうだな。それじゃお前から言え」

「おっしゃ! 俺はだな……」

 

 

○  ○  ○

 

 

 SIDE ゴールデン・ダーク

 

 BAR G・Eの建っているような辺境とは別の趣がある、つまりはバーストリンカーと呼ばれる異形の者たちで賑わう場所にダークは来ていた。

 

 「人、人、人っと。視界に必ずアバターがいるってのも久々の感覚だなぁ~。さてと、だ・れ・に・し・よ・う・か・な~っと」

 

 ダークは街の中心に立ち、品定めするように色とりどりのアバターを指を次々に指していく。その品定めは終了し、指先の指す方向にはピッタリと薄茶色のアバターが存在し隣にいる水色のアバターと談笑している。

 ひたひたとダークは極限まで足音を薄めそのアバターに背後から近づいた。

 

 「ちょっとすいません。少しイイっすか?」

 「俺? はいはい何かな?」

 

 友達と思われる人との会話を中断し、こちらに振り向いた薄茶色のアバターに先ほどもらったばかりの画像を見せる。

 

 「この画像に載ってるアバター知らない?ウィート・ブルっていう名前なんだけどさ」

 「いや知らないな。お前は何か知ってるか?」

 「しらねぇな」

 

 薄茶色のアバターは隣のアバターにも聞いたがどちらも首を横に振るばかりだった。

 「ふ~ん、それじゃあさ……」

 

 ダークの声のトーンが少し冷たくなったような気がした。 まるで獲物をねらう獣のような鋭さをもった冷たさだ。

 気づけばダークの右手には黒く鈍い光を発するクナイが握られていた。このことに誰が反応できただろうか。

 その右手は目の前に突き出され、鉄の切っ先は薄茶色のアバターの腹部に埋もれていた。

 

 「本当に知らない?」

 「───っ!? が…ぁ、なん、でだよ。」

 「お前なにしてるんだ!」

 「あ、ホントにしらないのね。ゴメンゴメン」

 

 ダークは軽い調子で謝るとクナイを引き抜いた。

 

 「……てめぇ、ただじゃおかねぇぞ」

 「どこのどいつかわからねぇが突然コイツの脇腹ぶっ刺した落とし前キッチリつけてやる」

 「これはバトルしろってこと? そうなのかな?」

 「うっせぇぞ! 叩き潰す!!」

 

 薄茶色のアバターのハンマーの形をした右腕が風を切りながらダークの頭上へと振り下ろされる。

 しかし、地を響かせるほどの威力を纏ったそれは、結局はダークの頭部を叩き割ることはなかった。

 ダークは咄嗟に二人と距離を取っていた。

 

 「これは……2対1のバトルって解釈しちゃってもいいのかな?」

 「この野郎! すぐにその余裕なくしてやる!」

 

 この騒動に徐々に周りにいたアバターが集い、野次馬と化しグルッと円を描き即席のリングを作り出す。

 

 「観客もいることだし、ちゃっちゃとやっちゃいますか!」

 こうしてダークは目の前の相手を刀を交えた。

 

 

○  ○  ○

 

 「え、終わり?」

 

 店内にレックスの呆気にとられた声が出された。

 

 「いやいやこれは一部だからね! あと4人に声はかけた」

 「4人でも少ないですよね……」

 

 パンサー本人はただの呟きだったのだろう。しかしそれはダークの耳にしっかりと届き彼の心に多大なダメージを与えるのに図らずも成功していた。

 

 「てかさ、お前今日何回バトルした?」

 「4回……だけど」

 「全部だろーがこの野郎!」

 

 レックスは机をドンッと叩き怒った。

 

 「なんでお前はいちいちバトルするんだよ! 大体さっきのだってなんで刃物で刺したの? なんでもう一度聞いたの? 意味わかんないんだけど!」

 「人は痛みの前には正直なのさ……」

 「ドヤ顔しなーい! お前そんなサイコなキャラだっけ? 怖いよもう!」

 「レックスさん落ち着いて」

 「落ち着いてられるか!」

 

 レックスは言うだけ言うと肩で息を吸うほど疲れ果てた。

 

 「はぁ…っはぁ。 それで成果ゼロと……」

 「ポイントは稼いだけどね」

 

 とうとうレックスはうなだれることしかできなかった。コイツはただ自分のためにバトルをしに行っただけじゃないだろうか、そういわずにいられなかったがそんな体力は残っていない。

 その様子を見て、パンサーは慌てて話題を変える。

 

 「れ、レックスさんはどうだったんですか?」

 「俺~? そうだね、───ん?」

 

 何かを言おうとしたレックスの視線が少しズレた。

 まるでメッセージか何かを見てるように。

 

 「なら聞かせてやろう、俺の成果を」

 

 途端、レックスの口は饒舌に滑り出す。

 

 「ダーク、いまからアキハバラBGに行くぞ」

 

 




レックス「続いたな、遅かったけど」
ダーク「続いたね、遅かったけど」
ダーク「遅すぎじゃない?」
レックス「作者が忘れてた上にインフルになったらしい」
ダーク「……お大事に」
レックス「それより、続いたからな。いただくモンはキッチリ───」
ダーク「にんにん!」
レックス「あ、コラ!……って、もういねぇ」

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