てな感じで切羽詰ってきた作者です。今回も開いて下さり有難うございます。
今回は新キャラが出てきます。1話で使い捨てのキャラではない奴がです。
実は前回の話で使った書き溜めファイルが古く、新しく直しましたので多少内容が変わっております。暇があれば見直してください。
ではどうぞ。
年季が入り、重心をずらしただけで軋むカウンターの椅子に座り小一時間程が経っていた。
現実世界で茄子とピーマンと豚バラ肉の炒め物と白米、そしてトマトサラダを胃袋に詰め込んだレックスは心地いい満腹感を感じながらどこか上の空で自分で作ったカクテルを飲んでいた。
ダーティーマザー。ブランデーにコーヒーリキュールを加えたカクテルのほろ苦さは食後の胃と気分を落ち着けるのに向いていた。
CLOSEにしてあるため、店にレックス以外の人影はなく閑静としている。いつもの酒の匂いは薄れ、どこか安心する木の匂いがするばかりだ。
レックスは視線を手元に移す。グラスに注がれた琥珀色の液体が波紋を描き、翠玉色の自分の姿が揺らめいて写っていた。
スウィングドアが開いた音がした。音の方向に目をやるとそこには夜明けと同じ色をした猫の耳を持ったアバターが立っている。
ドーン・パンサーは軽く辺りを見回したあと口を開いた。
「あいつまだ来てないの?」
「俺たちが早く来すぎたって発想はないのか?」
「お生憎様、9時ジャストにこの世界に入ったから」
「なるほど、あいつが遅れてるのは間違いないようだ」
そう言うやいなや件のダークからメッセージが届く。そのメッセージにはあと10分でつくとの旨が書かれてあった。
メッセージウィンドを開いていると横からパンサーが体を寄せて覗いてきた。目だけで文字を追い、数秒の後に興味が無くなったかのように離れていく。
「それじゃ私もゆっくり待つとしますか」
ストンとカウンターテーブルの右から3番目の椅子──レックスの左横に座ると、慣れた風に脚を組んだ。
「とりあえずなんか甘いの」
「は?」
「だから、飲みやすくて甘いお酒作ってってあんたに頼んでんの」
「それが人に物を頼む態度か!?」
脚を組み、テーブルに肘をつくその姿は薄暗いシックなバーにこそ映えるだろうが、生憎今はただの集合場所と化した木造の家。バーということ以外はほとんどの条件が合わない大衆酒場だ。
あくまでその時と場所によっては観れる体勢を崩さないパンサーに、レックスは飲みきっていないグラスをその場に起き、嘆息しながら席を立ってカウンターの向こう側へと歩き出す。
カウンターテーブルを挟む形で向かい合うようになった二人。レックスは飲みやすいのをご所望なら定番のカルアミルクでも作ろうとコーヒーリキュールに手を伸ばすと、背後から声がかかる。
「あ、どうせだから私が知ってなさそうなの作ってよ」
「大丈夫、わかってるって」
「カルアミルク作ろうとしてるのに?」
なぜわかったのかとパンサーに背中を見せながら硬直していると、どうやら右手はコーヒーリキュール、左手は牛乳に手を伸ばそうとしていたのを見られていたらしい。流石にパンサーもカルアミルクのことは知っていたようだ。
「そもそもパンサーは酒なんか飲んだことあるのか?」
「無いわよ」
「だろうな」
「なに納得してるのよ!」
背後から聞こえる噛み付くような声を聞きながらピーチリキュールを手に取る。氷を入れたグラスに半分より少し少なめに注ぎ、後からオレンジジュースを同じ量だけ注ぎバースプーンで軽く混ぜる。
「はいよ、ファジーネーブル。まぁほとんどジュースみたいだから安心して飲みな、お嬢様」
「お嬢様ってなによ」
パンサーは少しムッとしながら冷えたカクテルを口に含んだ。
「へー、確かにジュースみたいね。ただ少し喉がスーッとする感じが新鮮ね」
「お気に召したようで何よりですお嬢様」
「だってパンサーってか忠石早苗はお嬢様まではいかなくても金持ちだろ?」
「なっ、なんで!?」
なんでそうなるの、という意味ではなくなんで分かったのかという意味を含んだパンサーの言葉にレックスは得意げに答えた。
「今日TV電話したじゃねえか。その時に後ろに見えたオーディオ機器が庶民が趣味で手を出すには少し恐ろしい金額をしたシロモノだったからね。で、お嬢様とか言ったのは意識して無作法な事をしてるのか知らないが無意識での端々の所作が結構キッチリとしてたから。ただそれだけだ」
言葉を完結させたレックスを見るパンサーの目には言葉では表せない呆れにも似た衝撃が走っていた。少しの間思考が停止してしまった頭にガソリンを入れ直し、無理にでも動がし会話にもどる。
「一体そんな観察眼どこで手に入れたのよ」
「知りたいのか?」
「ええ、もちろん」
「なら一つ条件がある」
レックスは間を置き、パンサーの前に人差し指を立てた。
「出来る範囲ならやってあげる」
「簡単なことだ、ちゃんと俺を名前で呼べ」
「……は?」
あまりにも突拍子もなければ脈絡もない内容にパンサーはコメディーのようにずりコケてしまう。
「一体私がいつあんたを名前で呼んでないって?」
「なら店の時は?」
「え?」
「だから店をやってるときはなんて呼んでる」
「あんたが言ったから店長って呼んでる」
「なら店が終わったら?」
「そりゃ……あんた」
「学校では?」
「あ、あんた……」
二人の間に気まずい空気が流れ出した。正確には気まずくなっているのはパンサーだけなのだが。
「え~っと、あん──」
「レックス」
「わかった、今度からレックスって呼ぶわよ」
「あと彰介な」
「それは馴れ馴れしくない?」
「ダークってか勇魔にも最初から下の名前で呼ばせてたからな。それに橘ってよばれるのはむず痒い」
「ふ~ん、わかったわ」
そこでパンサーはファジーネーブルを飲んで一息いれ、レックスに向き直る。
「それじゃあ教えてもらいましょうか。って言ってもあらかた想像はできるけどね」
「へぇ、なら言ってみな」
「どうせ師匠でしょ?」
レックスは軽く首を縦に振って正解と無言のままに表した。
「やっぱりその師匠に会うことはできないの?」
夕方の話題を持ち出され、またも困惑すると思われたレックスだが、今回はあっさりと言葉が出てきた。
「無理だな。残念ながら俺もどこにいるか知らないんだ」
「そうなの。それならそうと言ってくれればいいのに」
パンサーは特に問い詰める様子w見せず、あっさりと引き下がった。
ちょうどその時だった。もう一度スウィングドアの開かれる気が軋むような独特の音が店内に響いたのは。
入口に立つ来訪者に顔を向けずレックスは挨拶をする。
「思ったよりも早かったなダーク」
「ゴメンゴメン。ちょっと迎えに行ってたからよ」
「迎えって……」
そこまで言ってレックスも、そしてきっとパンサーもある違和感に気付いた。
ダークの背後、具体的に言えば肩甲骨のあたりからなにやら平べったく長いものが2本左右に出ている。言ってしまえばうさぎの耳である。
この後ろの奇妙珍妙なものに対して問いただしたのはパンサーだった。
「ダーク、その後ろのはなに?強化外装?」
「よくぞ聞いてくれた」
途端、ダークは待ってましたと言わんばかりにオーバーリアクションを取ると、両腕を上に広げた。
「さぁさぁお立会い、本邦初公開! ──ババン!」
「はじめまして、セルリアンポリッシュです!」
ダークの後ろから跳ねて出てきたのは兎。見た目どうり言葉さえも弾ませる兎。長い耳を後ろに垂れ流し小動物を思わせるつぶらな瞳。首にはこれまた風になびくだろうと推測されるダークと同じようなマフラーが巻かれている。ダークの3分の2程度しかない身長に不釣り合いなのは踵から生えた大振りなカットラスのようなナイフ。
「どうだ可愛いだろ?」
そういってダークはポリッシュを後ろから抱きかかえると、ポリッシュはくすぐったそうに身をよじり出す。
「やんっセンパイくすぐったいです」
「……110であってたっけ」
「レックス、ここはGMに行ったほうがいいんじゃない?」
「糞ッ!レベル10になるしか通報はできないのか!」
端々に出てくる不穏なワードにダークは慌てて制止の声をかける。
「待て待て待て、一体なにをする気なんだ?」
「ロリコンを直してあげようと思ったの」
「おめぇ、幼女はまずいって」
「なんでそうなるの!?」
「あ、あの!」
このダークに対する蔑みの雰囲気を変えたのはポリッシュだった。ただしより悪いものに変わってしまったが。
「センパイはワタシの父親なんです!」
「……あ」
「……うん」
「ポリッシュ……やってくれたな」
「えっありがとうございます!」
レックスとパンサーは諸悪の根源を刈り取ろうと自分の武器を取り出し、切先と銃口を目の前のへと向ける。ダークはというと何かを諦めたように天を仰いでいた。
その光景を見て、ポリッシュは自分の間違いに気づいた。
「あっ、違います!センパイはワタシの親なんです!!それにセンパイとは歳は一つしか違いませんから!」
「そうなんだ、早く言ってくれれば良かったのに」
「危ない危ない、店員が一人減るところだった」
「「……。──って親ぁ!?」」
???「皆さんこんにちは!いつも心にセンパイを、戦わない兎はただの兎だ。セルリアン・ポリッシュです!!」
ダーク「本日は親子で送りま~す」
ポリッシュ「センパイ、やっと???から名前に変わりました。ワタシ嬉しいです!」
ダーク「そうかそうか~、ポリッシュは可愛いな~」ナデナデ
ポリッシュ「やんっ、もっと撫でてください!」
ダーク「わしゃわしゃ~」
ポリッシュ「センパイ大好きです!」
ダーク「俺も好きだぞ~」
ポリッシゅ「ホントですか!?」
ダーク「ああ、親だから当然だ」
ポリッシュ「……」ダンッ
ダーク「あ、ポリッシュ痛い。つま先踏むのはいいけど踵のナイフが刺さってるから、ちょっ血が出てるから!」