アクセル・ワールド~加速探偵E・G~   作:立花タケシ

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遅筆なのでできれば根気よく付き合ってください。


Detective in the Bar
加速世界の探偵


 

 夜の闇と街灯の明かりが摩天楼に立ち並ぶビル群を彩る。

 しかし、街にあるはずの喧騒は無かった。

 

 静寂であり、

 

 閑散であり。

 

また人もいない。

 

 なぜならば、ここが現実ではなく仮想世界────ブレイン・バーストと呼ばれるフルダイブ型ゲームのフィールドだからだ。

 

 フィールド属性《混沌》

 

 その、静かに林立するビルとビルの間を息せき切った体に鞭を打ち、縫うように走る人影があった。

 「はぁっはぁ……。どこまで追ってきやがるんだ!」

 その黄土色をしたアバター、────ロエス・テンプルは、悪態をつきながらも足を止めない。

 「なんだよ!なんで追われるんだよ。……まさかアイツの事か? アイツの代わりなのか……?ふざけるな!」

 「はいは~い。ストップ」

 止まる予定のなかったはずの足は、突然目の前に現れたアバターに阻止された。

 黄金色に輝くそのアバターは、ロエス・テンプルに比べるとシャープで、忍者のようなフォルムをしていた。

 「お前だれだよ!いい加減にしてくれよ!」

 逃げることをあきらめたのか、ロエス・テンプルは怒りにまかせて怒鳴り散らす。

 「誰に頼まれた? どうせアイツだろーがな!」

 「依頼主に関することはNGなんでなんとも……。でも個人的な自己紹介をするとしたら────ど~も探偵のゴールデン・ダークです」

 

 

 

 

 「返り討ちにしてやる!」

 

 同時刻

 

 しかし異なる場所で、二つのアバターがシノギを削っていた。

 一方は灰色をしたアバター。

 ヒュンッ、ブゥンッと手にした棒状の武器を振り回している。

 

 もう一方は翠玉色をしたアバター。

 

 「うぉっと、危ねぇな」

 

 後ろに跳んで攻撃を避け続けるアバターは、装甲を身に着け頭と腰に生えた尻尾が爬虫類のようなフォルムをした、RPGにでてくるリザードマンとよく似た風貌だった。

 

 「おらおら!避けてばっかじゃつまらないぞ!」

 「師匠が言った。相手を観察し、スキを見つけろ……そして」

 

 翠玉色のアバターは避け続けていた体を停止させ、一気に踏み込み相手の懐へと間合いを詰めた。

 

 「もしスキがないなら作り出せ」

 

 常に相手を倒さんと回転していた棒の猛威が襲い掛かる瞬間、翠玉色のアバターは鉤爪状になった左腕を掲げ、それを弾いた。

 

 「な───ッ、なに!?」

 

 武器は弾かれ、がら空きとなってしまった灰色のアバターの腹部。

 そこに狙ってましたとばかりに左方と同じく鉤爪となっている右腕を突き出す。

 

 ブスリッ

 

 と鈍い音と感触が、血飛沫を思わせる火花とともに伝わった。

 

 「ガァ───ッ。てめぇ一体……?」

 

 「探偵屋G・Eの片割れ、エメラルド・レックス。しばらく寝てな」

 

 エメラルド・レックスと名乗った男のアバターの右腕が輝き、灰色のアバターの胴体を引き裂いた。

 

 

 

 

 アバターで賑わう現実では東京と呼ばれる地域からはずれて数キロ。海沿いに一つ孤立した建物があった。

 本来、ホームと呼ばれプライベートな事でしか使われないはずのそれは、看板がつけられ、外装を変えられ、内装を改造し、最初の頃とは似ても似つかぬ建物と化していた。

 暗がりに光る所々の電球が切れかけた看板。

 それには[BAR G・E]と筆記体で書かれていた。

 この世界の加速能力者達でいにぎわうはずのない場所で営業するこの店には、主に二種類の客が入ってくる。

 

 1つは単に酒を飲みながら愚痴を肴にする客

 

 そして2つ目は2人しかいない店員にもう一つの仕事を依頼する客

 

 もう一つの仕事───探偵として。

前者の仕事は立地条件もあり繁盛しているとは言い難いが、常連客が数人いるくらいには働いている。

 しかし後者の仕事は殆ど客はいない。 困ったことがあったといっても所詮は仮想の中の世界。それにこの店が探偵業をしている事を知っているのは表の仕事の常連客の中にも数えるくらいだ。

 つまり、彼らに仕事を依頼するのはよっぽどの人しかいない。

 

 それほど困難で、

 

 それほど重要である。

 

 今現在、店の扉には「CLOSE」の立札がかけられていた。

 なぜなら先ほどまで店員総出で仕事をしていたからだ。

 もちろん探偵の。

 その閉じられた扉を力強く開け放つ者がいた。

 「たっだいま。あ~疲れた」

 「そりゃ疲れるだろうな、あれほど暴れたら」

 扉を開け、ズカズカと無遠慮に立ち入るアバターに声をかけたのは、先にこの店に帰っていた店主だった。

 

 エメラルド・レックス

 

 この店の持ち主であり、探偵の一人である。

 

 「いやさ、奴さんが予想以上に粘るもんだから熱くなっちゃったんだよね」

 

 もう一人はゴールデン・ダーク

 

 唯一の店員であり、探偵も兼ねている。

 「だからってあそこまでやる必要はなかっただろ。今回の仕事はリアルを知られた相手をどんな手を使ってもいいから連れてきてくれ……だ。標的が全損しかけて、かつ怯えながら連れてこられたらそりゃ依頼主も驚くさ」

 「依頼主も標的も探偵(おれたち)が気にすることじゃない。そうだろ?」

 「師匠が言った。何事もスピードとスマートを大切に。お前はスマートさに欠けるんだよ」

 「でも早いだろ?」

 「……及第点だ」

 

 たった二人の反省会。

 ソファに深々と座りながら、半分愚痴のように言葉をこぼす。

 流石は加速世界。

 時間を気にすることなく、悠々と語らう事ができる。そんなこの世界がレックスは好きだった。

 時間を忘れることができる。

 

 思春期の学生にはこれ以上の報酬はないかもしれない。

 加速世界様々だ。

 

 ……と、途端に。

 バタンッ

 本当に突然に店の扉が開かれた。

 二人はするはずのない音に驚き、体を強張らせる。

 「あの……」

 淡いピンク色。

 流れ込むように侵入してきた夜明けのようなアバターは、開口一番言った。

 「依頼しても良いですか?」

 

 

客用のイスに座らせた女性型アバターの名前はドーン・パンサー。

 ドーンは夜明け、パンサーは豹からきているのだろうとレックスは考えていた。

 なにより頭に付いた猫耳でだいたいの予想はつく。

 

 「あの……依頼を聞いていただけますか?」

 

 客を観察していたレックスは組んでいた足をなおし、相手の話を聞く態勢になった。

 「どうぞ~。なにすればいいの?」

 「お前はまた……。一応商売だからその態度を直せ」

 「───いえいえ!おかまいなく」

 両手をブンブンと振って申し訳なさそうにするパンサー。これではどちらが客かわからなくなってしまう。

 

 「それで依頼とは?」

 「はい。実は人を探して欲しくてですね」

 「人探し?」

 

 レックスは疑問に思った。

 なぜなら彼ら探偵にとってはあまりにも意外な内容だったからだ。

 現実世界の探偵なら普通にあるような内容だろう。

 しかしここは加速世界。現実とは常識が異なってくる。

 時間は余りあまるほど存在し、人数を使いたいならそれこそレギオンに入ってしまえばいい。

 

 「あんたレギオンは?」

 「入っていません」

 「レギオンに入ったら即解決じゃないのか?人数だって上だしなにより融通が利くだろう?」

 「事情があります」

 

 なるほどね。とレックスは思った。

 これはただの人探しではなく、それなりの問題が関わってきそうだ。

 となると

 「報酬はどんなものを用意してあるんだ?」

 「……これです」

 「───はぁ!?人探しで激レアな強化外装もらえんの?まじで!?」

 ダークが驚くのも無理はないだろう。今回報酬として用意された強化外装は先ほどの仕事の報酬より価値としては高いものだった。

 

 「理由をきいても?」

 「すいません」

 「……だろうな」

 「え、どゆこと?」

 一人話についてこれないダークを無視し、レックスは今一度話を慎重に聞く気になった。

 「どんな奴をさがすんだ?」

 「えっと、画像を送りますね」

 送られてきた画像には粗いながらも大まかな特徴はわかるアバターが写っている。

 少し茶色っぽい黄色をした牛のようなアバター。

 

 「名前はウィート・ブル。この人を探して欲しいんです」

 「こりゃ受けるしかないでしょ。だろ、レックス!」

 「…………」

 ドッカリとソファに深く座り、考え込むレックス。そして答えを出したのか立ち上がった。

 「明日の同じ時間にまた来てくれ。その時に答えをだす」

 

 その言葉に一番最初に驚いたのはパンサーではなくダークだった。

 「お前ふざけてんのか?こんないい仕事ないって」

 「馬鹿は黙ってろ。それで、待ってくれるか?」

 「それでは先ほど渡した情報が───」

「ほとんどの事を話してもらえない状況に、高額の報酬。何かあると思って当然だろう」

 「……わかりました」

 渋々といった風にパンサーは了承する。

 

 「明日また伺います」

 そう言ってパンサーは立ち上がり、チリンチリンと店のドアを鐘を鳴らしながら開き帰っていく。

 足音が遠ざかっていき、やがて完全に消え去った後。ダークは待ち構えてたようにレックスに噛み付いた。

 

 「なんで受けなかったんだよ!あんな好条件即決以外の選択肢なんてねぇだろ!」

 「さっきも言ったが事情もわからないしあんな高額な報酬。なによりココにくる程の人探しがまともなわけがないだろ」

 「それでも所詮は人探しだぞ?」

 「あ~今日はもういい!明日学校で話す」

 そう言ったレックスは強引に立ち上がり足取り強く店をあとにする。

 「……え。解散なの?」

 一人取り残されたダークは寂しさとともに板張りの上に突っ立っていた。

 

 

 




レックス「はじまったな」
ダーク「はじまったね」
レックス「続くと思うか?」
ダーク「続かないに500円」
レックス「あ、ズル! ……続くに500だ」

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