ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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脳筋だという自覚はあります。

 彼女の浮世離れした雰囲気は、見る者全てを呑み込む。

 金砂の髪に、シミひとつない奇麗な白い肌は、同性である私でさえ思わず息を呑んでしまうほど。勿論私にそっちの気は無い。

 

「人には働かせておいて自分は草原でお昼寝とは、暢気なもんだナ」

 

 少々、いやかなり棘のある言葉が目の前のプレイヤーに掛けられるが、肝心のそのプレイヤーは特に気にした様子もなく身体を起き上がらせ、その場に立ち上がる。

 それ以上何かを言ったところで暖簾に腕押しと判断したのか、私を連れてきたアルゴというプレイヤーはそれ以上の文句を言わずに本題を告げた。

 

「一応前線で戦えそうなプレイヤー38人を集めたガ……まぁ、後は自分で判断してくレ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 一文字一文字はっきり言葉を紡ぐ声は、彼女の美貌に見合った、やはり美しいもの。

 そして髪と同じ色の瞳が私の姿を捉えると同時に、私はまるで蛇にでも睨まれたかのように身体が硬直してしまった様な気がした。

 だがそれも一瞬のことでしかなく、本当に硬直していたのか気のせいだったのかは、後から思い返してもわからない。

 ただ分かることは、ここアインクラッドで最も有名な情報屋と言われている鼠のアルゴに、現時点で最強のプレイヤーだと称されていること。

 そして第一層のボスを、たった一人で撃破したということ。

 

「ところでアルゴ、隣のプレイヤーは誰でしょうか?」

「紹介するヨ」

 

 そんな彼女も私の存在が気になったのか、アルゴさんに紹介を求める。

 アルゴさんに名前を聞かれた時は間違えて本名を言いそうになってしまったが、もう間違えることはない。

 この世界で私の存在を示す名前を口にする。

 

「はじめまして、アスナです」

 

 小柄な体型が袖余りの所為で余計に小柄に見える彼女は自分より年下に見えるが、それでも初対面には変わりがないので敬語で挨拶を交わす。

 

「アルトリアです。よろしくお願いします、アスナ」

 

 それにしても、本当にこのプレイヤーが一人でボスを倒したのだろうか。

 レベルはどれくらいあるのか、武器は何を使うのか等、浮かび上がる疑問は尽きないが、今は質問より彼女を約束の場所に連れて行くのが先だ。

 先程アルゴさんが言っていたとおり、私を除く37名ものプレイヤーを待たせているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルゴともう一人のプレイヤーが迷宮区にて発見したという少女、アスナは、もしかしたらこの先攻略に大きく貢献する可能性がある。

 まだその実力を見たわけではないが、それでもそこらに転がるプレイヤーより余程強いのは確かだろう。

 だが、それでもまだこの世界の攻略へと導く指導者には成り得ないのも確かだ。

 私と同じくソロでしかフィールドに出たことがないという彼女、当然集団戦におけるいろはを知っているはずもない。

 集めて貰ったプレイヤーを待たせてある場所への道すがら、彼女自身とアルゴから聞いた情報を大まかにまとめる。

 

 ・6人パーティが6つあること

 ・ソロプレイヤーが2人だと言うこと

 ・リーダーにして大丈夫そうなプレイヤーが2人いるとのこと

 ・アスナともう一人のソロプレイヤーは、どちらも実力が高いとのこと

 

 この中に出てきた3人のキーパーソンの名前も聞いている。

 中性的な顔立ちながら――見た目は関係ないか――敏捷寄りのダメージディーラーであり、アルゴ曰く殺られる前に殺るタイプとのこと。ソロプレイヤーで名前はキリト。

 青い髪が特徴の好青年で、ここ第二層まで仲間を率いてきた剣士。若いながらもカリスマ性で仲間を引っ張っていける存在としてアルゴも注目の人物、名前はディアベル。

 戦士というより学者といった雰囲気を纏う痩身の男性で、パーティリーダーは務めていないものの、アルゴの診た限りリーダーとしての素質はかなり高いプレイヤー、名前はヒースクリフ。

 実際にこの目で見るまで判断することは出来ないが、リーダーは恐らくこの二人のどちらか、若しくは両方で決まりだろう。

 後は扱いの難しい3人、キリト、アスナ、そして私をどう扱うかが問題だが。

 

 ―――やはり私の強さは異常なのか。

 

 ざわめく人集りが見えてきた時に思ったのが、そんな他のプレイヤーに失礼極まりないことだった。

 装備の質は私より上でも、それを上手く扱えるようには見えないプレイヤーが多数を占める。

 勿論見た目での判断でしかないが、それでもあながち間違いではないだろう。

 まともな判断基準がわからないために、どうしても他のプレイヤーの実力が低いものとしてしか見ることが出来ないが、そもそも現代日本人で武器の扱いに慣れている方が異常なのだ、寧ろこんなものだろう。

 だが、その中でも抜きん出ている存在が数名存在する。

 その中に件のディアベルが入っていてくれたことに内心で安堵の溜息をつくと、私はプレイヤーたちに声をかけた。

 

「すみません、お待たせしました」

 

 その声でざわめきはピタリと止まり、私の方へと視線が集まる。

 純粋な好奇心からくるもの、邪な感情の混じったもの、そして私を見下したものまで、実に様々な視線が突き刺さるが、そのことは気にせずに話を進める。

 

「本日はお集まりいただき、大変感謝しております。私はアルトリア、アルゴに依頼して皆さんを集めた者です」

 

 この様に人の前に立つことが無かった私だが、かと言って今更引くわけにも行かない。

 一度深呼吸をして心を落ち着かせ、そして言葉を続ける。

 広場に私の声が響いていることに、少々感慨深い思いが込み上げてくるが、今は話に集中すべきだろう。

 

「皆さんを集めたのは他でもありません、この第二層を攻略するためです」

 

 ここで一度言葉を区切り、周りのプレイヤーを見回す。

 一瞬アルゴと目があったが、今そのことは置いておく。

 それより気になるのが、恐らくヒースクリフであろうプレイヤーが、私のことを観察していることだ。

 少々恨みのようなものが隠っている気がするが、そちらもまた置いておくことにしよう。寧ろ無視することにしよう。

 

「元ベータテスター協力の下ボスについて調査した結果、βテスト時との大きな違いを発見しました」

 

 再び言葉を区切る。

 緊張も確かにあるが、それよりも人々に今回の情報を印象づけること、そして少しでも元ベータテスターを炙り出すことが目的だ。

 

 ―――炙り出すでは言い方が悪い気もしますが。

 

 言い方はともかくとして、元ベータテスターを探しだすのは決して恨み辛みをぶつける為ではない。

 元ベータテスターだからこそ持っている情報や技術など、少しでも私の生存率を上げる為に必要なことなのだ。

 ここが現実世界と全く同じならばともかく、ゲーム初心者の私では、知識不足によりしばしば戸惑う状況に陥ることがある。

 もしそれを減らすことが出来たのならば、私の生存率は高まる可能性があるのだ。

 ならば、その情報を広めれば多くのプレイヤーの助けになることは必至、だからこそ元ベータテスターを少しでも探しだす必要があるのだ。

 先程の言葉で周りより大きな反応を見せたのはキリトのみ、恐らく元ベータテスターと見ていいだろう。

 

 

「ボス、及びボスの取り巻きはそれぞれバラン将軍、ナト大佐。これはβテストの時と同じようです。しかし、バラン将軍のHPバーが残り1段となった時、トーラス族の王"アステリオス・ザ・トーラスキング"が登場します」

 

 その言葉に再び広場はざわめき始める。

 何かの間違いでは、という声も聞こえてきたが、この情報は私自身が確認したことなのでまず間違いはない。

 

 ―――ディアベル、キリトは元ベータテスターの可能性あり、それと彼は一体……。

 

 ざわめき始めるのと同時に、今回の目的の一つでもある元ベータテスターを探すためにプレイヤーを見やると、ディアベル、キリトの2名は周りより反応が少しだが大きかった。

 これは恐らく元ベータテスターだからこそ、知識があったからこそ少し反応が大きかったのだろう。

 ディアベルはまだ確定ではないが、キリトは確定としておく。

 それより気になったのが、ヒースクリフと思しき人物の反応だ。

 私と同じくゲーム初心者のアスナでさえこの情報には驚きを隠せなかったというのに、彼だけ反応が薄かったのだ。

 

 ―――考えすぎか気のせいでしょう。

 

 今この事について考えても、所詮は私の妄想に過ぎない。

 そもそも、反応が薄かったからと言ってなんだというのだ。

 私のことを観察するような視線の所為で少々過敏になっていたのだろう、そう結論付けると、改めて全員を見渡す。

 次に言う言葉は既に決まっている。

 

「もしこの中に、命が惜しい者が居るのなら、ここから立ち去っていただきたい」

 

 情報を開示した上で、それでもなお戦う意志のある者のみが、ボスへと挑む資格がある。

 私はそう考えている。

 第一層では私がついうっかり一人でボスを倒してしまった所為で、他のプレイヤーはボス戦と言うものを経験したことがないのだ。

 これは元ベータテスターも含めて言っている。

 βテスト時には今と違い、蘇生というものが存在したという。

 ならば、死と隣りあわせのボス戦と言うのは実質的にこれが初めてのこととなる。

 アルトリアとか言うどこぞの馬鹿なプレイヤーが一人でボスを倒しさえしなければ、第一層を練習として使えたのだ。

 あぁ、自分のことだ、とセルフツッコミなるものをしつつ、過去の自分の軽はずみな行動を呪った。

 

 さて話を戻すと、この中から戦えるプレイヤーを選別するのには深くもなく浅くもない理由がある。

 命のやり取りは、まず自分の死を受け入れることから始まる。

 手に持った刃物が敵のHPを削るように、敵の爪や牙、凶器がプレイヤーのHPを削る。

 非現実的なはずの暴力という行為が、この世界では当たり前のものとして存在するのだ。

 その暴力に恐怖を抱くのは、決して臆病などではない。当然のことなのだ。

 暴力など怖くないと声高に自慢するのは、それは蛮勇であって勇気ではない。

 今必要なのは勇気であって蛮勇に非ず、死ぬかも知れない恐怖を受け入れ、なお前に進むことのできる(つわもの)だけが必要なのだ。

 この選別は絶対に必要なことだからこそ、深くもなく浅くもない理由と称したのだ。

 

 しばし間を置いてみたが、誰も立ち去る気配は無い。

 つまりここにいる全員、既に戦う覚悟はできているのだろう。

 

 ―――良かった。

 

 本当に小さく安堵の溜息と共にこぼれてしまった言葉。

 最前列に居たプレイヤーにはもしかしたら聞こえていたかもしれないが、今はそのことを恥じるより、話を進めることが先だ。

 

「ありがとうございます。一先ず今日の集会はこれで終了です。明日以降再びこの場に集っていただきますが、その時には別の方に指揮を務めていただくことになります」

「質問してもいいかな?」

 

 私の最後の言葉が気になったのか、ディアベルが声をかけてきた。

 

「俺はディアベル、最後の言葉は一体……君が指揮を執るのでは無いのかい?」

 

 ―――良かった、ディアベルで合っていた。

 

 別のことに安堵しつつ、どう答えたものかと思案する。

 今この場で決めてしまってもいいのだろうか、私が第一層を一人で攻略したと隠すにはどう答えれば良いのか。

 ここで答えられなければまずいと、失敗してしまうことを想像してしまったが、それをすぐに掻き消す。

 

「えぇ、私は今までパーティを組んだことがありません。なので指揮を執ることが出来ませんので、別の方に頼もうと考えているのです」

 

 もう成るように成れ、という勢い任せの解答だが、寧ろこれで良いのかもしれない。

 無駄に言葉を重ねるよりも、こういう時こそ適当に、頭を空っぽにしてしまうのがいい。

 私は思考する者ではなく、あくまで戦う者なのだから。

 

「ディアベル、私は貴方にリーダーを任せたいと考えています」

 

 これには本人も驚きを隠せず、想像通り驚愕の表情を浮かべた。

 確かに、会ったばかりの人間からいきなりリーダーに推薦されれば、誰でも驚くだろう。

 

「私は貴方であれば、ここにいる皆を導いていけると信じています」

「……何故かな?」

 

 何故、とは何故信じられるのか、という意味合いだろう。

 会ったばかりの人間にいきなり信じる、と言われても困惑するのが普通だ。

 

「私の勘です」

 

 だから正直に告げる。

 あくまで私の勘でしかないと。

 そんな私の解答がツボにはまったのか、ディアベルは突然笑い始めた。

 これには周囲だけでなく私も驚いてしまったが、一先ず彼が落ち着くのを待つことにする。

 それから数秒後、一頻り笑った彼は、先程の姿とは打って変わり、とても真面目な表情を浮かべた。

 

「女神様のご指名とあれば、受けない訳にはいかないな」

「なっ!」

 

 誰が女神様かと言いたかったが、ここで口を挟むわけにも行かず、ぐっと堪える。

 だが、彼は会ったばかりの私の願いを聞き入れてくれた。

 ここに集まったプレイヤーも特に異論は無かったようで、彼が周囲に賛同を求めると、広場に大きな拍手の音が響いた。

 

 ―――これで当面は楽ができるかな。

 

 決して声には出さず、心のなかで呟くのはなんとも怠け者そのもののような台詞。

 だがあくまで私が指すのは、表側に関すること。

 今はまだ聞かないが、今後出てくるであろう問題に関しては、なるべく私が関与するつもりだ。

 けれど、今は指導者となるプレイヤーを、英雄として祭り上げるプレイヤーを見つけることが出来ただけで良しとしようと、会議とともに自分の中の結論も締めくくる。

 はてさて、この結果が吉と出るか凶と出るか。

 出来る限りのお膳立てはしたつもり……だが、これ以上どうなるかはわからない。

 答えは神のみぞ知る、というやつだ。

 




おかげさまで日間ランキング入りを果たして、内心ビビリまくりの作者です。
今後も面白い作品にしていけるようが頑張りたいと思いますので、是非よろしくお願いします。

また、感想欄にて「前世では耳が聞こえなかった設定いるのか」という声もありましたが、正直、必要ありません。
今後この設定を使うつもりではいますが、はじめになんとなく思いついただけの設定でしかありません。
この作品はその時の気分と思いつきと勢いだけで書いているため、今後も無駄なことが多々出てくると思いますが、どうか大目に見てやってください。

どうか最後までお付き合いください。
m(_ _)m

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