ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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大変長らくお待たせいたしました。
この様な拙作にも待っていただける人が居た事に、諸手を挙げて喜んでいる作者です。
感想への投稿ありがとうございます。
生存報告ということで、今回は番外編を投稿させて頂きます。
あとがきにて大事なことを記載しておきました。御一読ください。
それではどうぞ、よろしくお願いします。


こんな未来も、あるかもしれない

「起きてください、クライン」

 

 無精髭を生やした、キリトから落ち武者顔なんて言われていた様なそうでない様な彼の肩を揺する。

 幸せそうに眠りこける彼の顔を見ていると、何故かこちらまで幸せに感じてしまうから不思議なものだ。もっとも「ぐーすか寝やがって」なんて醜い嫉妬心も心の奥底に無いわけではないが。

 そう言えばと、まだこの世界に囚われる前、インターネットにて男という生き物は朝からエッチなことをされて起きるのが夢だ、なんて話を聞いたことを思い出す。

 しかし、そこでその夢を叶えてあげないのが私という捻くれ者の矜持である。別に矜持という程でもないか。

 朝から盛っては、せっかくクラインの為に作った朝食が台無しになってしまう。鼠に囓られる前に、彼に食べてもらいたいのだ。

 だから、耳元で名前を呼びながら肩を揺すって起こそうとする。何故かは分からないが、こうしていると人命救助をしている気分になる。何かが可笑しい。

 

「んっ……アリサ……?」

「えぇ、貴方の愛しのアリサですよ。さっさと起きて朝食を食べてください」

 

 まだまだ寝足りないのか、寝ぼけ眼を手の甲でゴシゴシとこすっている。正直に言うと、私も寝ていたい。朝食を食べたら、今日の攻略は休みにして二人でゴロゴロしよう。

 彼の予定を勝手に潰すと、未だ頭の回っていない彼の手を取ってダイニングへと連れて行く。こうして手を握ると、否が応でも男を感じてしまう。もしかして私は手フェチなのだろうか。

 朝食後は二人でゴロゴロしつつ、頭を撫でさせる事を予定に加える。自然と口角が上がり、だらしのない表情になってしまっているが……クラインにさえ見られなければ良い。

 

「アリサ……」

 

 寝ぼけているのか、突然背後から彼に抱きつかれてしまう。私が小柄なこともあり、こうして彼にすっぽりと覆われてしまう、所謂あすなろ抱きというのが好きだった。それはクラインも同様らしい。

 そこまでは良かった。何に興奮したのかわからないが、私の耳を甘噛、身体を弄り始めたのだ。手フェチ――もうこれでいいか――な私は、こうして彼の手で触れられるのが好きだ。だが、だからと言って朝食を台無しにされるのは許せない。

 

「もぎますよ?」

「ごめんなさい」

 

 こう言ってやれば、私の気分が乗らないときは彼の暴走を止められる。勿論、本当にもぐことは無い―――私も困る(意味深)のだから。

 彼に悟られない様に小さく深呼吸して落ち着くと、改めて彼の手を取ってダイニングへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サチを師と仰ぎ、そこそこにまで上げた料理スキルは、彼のために鍛錬したと言っても過言ではない。

 ここ最近はずっと私が料理をしているから、ますますスキルの熟練度が上がっていく。

 私は好きな人に料理を食べてもらえる上にどんどん腕が上がる。そして彼は、自分の妻の手料理が食べられ、日に日に美味しくなっていく。まさにWin-Winな関係だ。

 さて、今さっきさらっと流れる様に言ってしまったが、私とクラインは結婚した。出会って直ぐにプロポーズされたのは良い思い出だ。

 あのファーストコンタクトから彼との交流が生まれ、アプローチされ続けている内に、ついに私が落とされたのである。

 いきなり見ず知らずの女にプロポーズしてくる様な彼だが、情に厚く一途で、そして一緒に居て気持ちのよい男だ。初見では伝わりにくい部分が彼の魅力な為、今まで彼女が出来なかったのだろう。

 そんな彼が今、私の料理を口にしている。ここが現実ならば、料理に血を混ぜて食べさせてみるのもありかもしれない。還る事が出来たなら、ちょっと真面目に検討してみようか。

 どうにも思考が物騒な方へと行ってしまったが、誰にも迷惑をかけているわけではないので気にしないし、気にもさせない。

 私が美味しいかと訊ねると、彼は迷うこと無く美味しいと言い切った。それだけでとても心が満たされるのだから、私は結構お手軽な女なのかもしれない。

 お手軽で、甘えん坊で、でも嫉妬深くて……。あまり卑屈になるのはよそう。

 

 朝食を終えた私とクラインは、その後予定していたレベリングを急遽変更して家でゴロゴロすることにした。変更させたとは言わない。ついでに鬼嫁とも言わせない。

 彼には床に胡坐で座ってもらい、そして私が彼の股座に座ってすっぽりと覆われるのだ。こうして覆われるのは好きだが、髭でジョリジョリとされるのは苦手だ。いつか絶対に剃ってやる。

 

「……クライン、聞きたいことがあります」

 

 彼が好きだからこそ、こうして触れ合ってるだけで多くの幸せを感じるからこそ、不安になることだってある。

 

「私の様な人殺しと結婚して、本当に良かったのですか?本当に幸せですか?」

 

 私の手は汚れてしまっている。ここが仮想空間だとしても、人の命を奪ったという事実に変わりはない。私は、人殺しだ。

 人を殺した人間が直ぐ近くに居ると言うのは、それだけで神経がすり減るに違いない。例え私にその気がなくとも、相手からしたら、私に殺されると感じるかもしれないのだから。

 いっそこのまま、彼に犯されれば気が楽になるのだろうか。いや、彼じゃなくても良い、この世界の大半は男だ、彼らに輪○されてしまえば幾らか気が楽になるのだろうか。

 きっと、また違う後悔や後ろ暗さを抱えることになるだろう。結局、人を殺した人間に赦しはないのだ。

 

 心臓が潰れそうな程胸が締め付けられる中、突如として頬に衝撃を感じた。

 いつの間にか互いに向き合っている彼に、頬を叩かれたらしい。数秒か、数十秒か、あるいはそれ以上かは分からないが、兎に角直ぐに現実を受け入れることが出来なかった。

 クラインが私に手を上げたことなんて、今まで一度たりとも無い。やっぱり、私の様な人殺しでは彼の傍に居る資格は無いということなのだろう。

 呼吸が浅くなり、乱れる。汗なんてかかないこの世界で、まるで冷や汗が背中を伝うような錯覚を覚える。自然と握っていた拳にも力が入った。

 

 このまま意識がなくなってしまえばどれだけ楽だろうか。きっと、今の私の顔は醜く歪んでいる。本当ならこんな表情を彼に見られたくはないのだが、俯くことでしか隠すことが出来ない。

 にも関わらず、彼は私の頬を両の手のひらで挟むと、目線が合うように持ち上げてきた。怖い。怖くてたまらない。

 そんな私の不安など知ったことかと、クラインは突然唇を重ねてきた。重ねられた唇は、彼の見た目に反して柔らかい。何より、彼の性格が現れているかの様に温かかった。

 例えこの温かみがデータの集合体、つまり偽りのものだったとしても、私にはそれがたまらなく嬉しかった。

 ただ触れるだけのキス。ずっとそうしていたいと思える程の心地よさだが、当然ながら終わりと言うものが来る。

 どちらからともなく唇を離すと、私は彼の言葉を待つ。

 

 ―――先程のキスは、私を受け入れてくれるということですよね……?

 

 気落ちしていた心が、彼とのキスで持ち直される。少し前向きになった私の心は、彼の次の言葉に期待する。

 けれど、彼はこちらに微笑みかけるだけで言葉を発しない。一体どうしたのか不安になるが、急かすのは野暮と言うもの。再び気持ちが沈み始めるが、きっと彼なら私の欲しい言葉をくれるはず。

 そう思っていると、彼は私に顔を近付けてきた。しかし、キスを交わすというわけではないらしく、私の顔の横に近付けてきた。

 囁やきかけるように、私にだけ言葉を届けてくれるかの様に言ってくれるのだろうか。

 そして漸く彼が口を開く。ただし、発せられた言葉は私の望む言葉でも、ましてやクラインの声でもなかった。

 

『人殺しの化物め』

 

 クライン姿をした※※の言葉と共に、私の世界が崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉアルトリア、よく眠れたカ?」

 

 声のした方へ視線を向けると、そこには乱れた衣服を整えるアルゴの姿があった。

 続いて、肌寒さを覚える自分の姿を見てみると、どうやら一糸まとわぬ姿で眠っていた事がわかった。

 

 ―――そうだ、ついに私は人を殺して、そしてアルゴと寝たんだ。

 

 まさか自分の初めての相手が同性で、しかも野外でとは人生何があるかわかったものではない。もっとも、自分からおっ始めたのだが……。

 腹筋と勢いを使って起き上がると、直ぐ傍に脱ぎ散らかしていた衣服を手繰り寄せ、着替え始める。すると、アルゴが再び口を開いた。

 

「……何か夢でも見てたのカ?」

「そうですね、夢を見ていました」

 

 きっと、寝ている間に呻き声でも上げていたのだろう。心配そうな声音のアルゴを安心させるべく、少し固くはあるが笑顔を見せる。

 ここはあくまで仮想の世界だ。寝ているというのも、現実の世界で睡眠をとるのとは異なってくる。だからか、夢を見た、なんて話は今まで聞いたこともなかった。

 ただ、あれはきっと夢だろう。なんせ、私はまだ未婚だし、クラインに落とされても居ない――今後は分からないが。それに、私が人を殺してからまだ一日も経っていないし、何より私は現実の名前を教えていない。だからこそ私は本名で呼ばれ、彼のことをクラインと呼んでいたのだろうが。

 だから先程見ていた光景は、全て夢幻に過ぎない。

 

「なんせ、私がクラインの嫁になっていましたから」

「なるほど……確かに、それは夢だナ」

 

 アルゴが私の言葉に納得すると、どちらからともなく笑い始める。何が可笑しいのかはわからない。クラインでは私を落とせない、なんて思っているからだろうか。

 実に失礼なことだと思いつつも、二人して暫く笑いが止まらなかった。

 

「別に、彼のことが嫌いというわけでは無いのですがね。寧ろ好意的といいますか、現状一番異性として意識しているのは彼ですしね」

「ほうほう、さっき自分が抱いた女の前で別の男の話とハ……」

 

 またもや二人して笑う。

 何が可笑しいのだろうか。

 私も彼女も人殺しだ。彼女は殺す人間を選んだ。そして私は実行した。

 なのに、今こうして笑っている。

 

「いっその事、オレっちとアルトリアの二人で彼奴に迫って見るカ?」

「良いですね。それもまた面白そうです。二人して彼のハーレムを作りましょう」

 

 冗談なのか本気なのか。自分でもわからなかったが、私とアルゴ、二人して彼に愛されると言うのは存外悪くないのかもしれない。

 なんならそこにサチを加えたいのだが……いっそ話してみようか。

 

「アルゴ……」

「どうしたんダ?」

 

 浮ついた思考を一度切り替え、改めて自分達が何をしたのかを突きつける。

 

「私達は人を殺しました」

「ああ」

「とても赦される事ではありません」

「……ああ」

「でもアルゴ、まだその手で人を殺していない貴女な」

 

 貴女なら、今なら手を引ける。

 そう言おうとしたところで、彼女の唇で私の口を塞がれた。

 

「……すみません。忘れてください」

「何のことダ?」

「貴女は本当、とても良い女ですよ」

 

 一度目を瞑り、頭の中に響く酷く不愉快な歌に、自分の心が生み出した幻の――死神の歌に耳を傾ける。

 怨嗟と、狂気と、そして憐憫の情を孕んだ歌声は、夢の中のクラインが最後に発した声と同一のもの。

 前世の様に耳が聞こえないのならば、この死神の声も聞こえずに済んだのだろうか。

 私は不意に、彼女の方へと手を伸ばした。

 

「本当の地獄は、まだまだこれからでしたね」

 

 一瞬キョトンとした後、破顔させたアルゴが私の手をしっかりと握った。

 さて、これからどんどん殺していきますか。

 

 

 

 




改めまして、低音狂です。
最後の方、全然まとまってないですね。無理矢理終わらせた感が……。
あ、でも夢オチは最初から決めてました。

さて、前回の投稿から約5ヵ月が経過しました。時の流れとは実に速いものです。ドラッグスターも真っ青です。
実はですね、この作品は今回を持ちまして…………再び更新が止まります。

現状、

「続き書かなきゃ…」

となっておりまして、モチベーションがかなり下がってます。どん底です。鬱(割りと本気)です。
なので、

「続きが書きたい!」

となったら、きっと唐突に最新話か今回の様に番外編を投稿していると思います。

待っていてくださる皆様には大変申し訳ございませんが、どうかまた待っていてはいただけないでしょうか?
このまま突っ走って完結させるか。それともリメイクという形で投稿し直すかはわかりませんが、それでも「ソードアート・オンラインってなんですか?」は完結させますので。

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