ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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言い訳

その1「リアルが多忙で……」
その2「ちょっとスランプで……」
その3「ちょっと鬱で……」


それはともかく、遅くなってしまいすみませんでした。
では、どうぞ今回もよろしくお願いします。


2月14日:誤字訂正


佐々木アリサという少女

 私と同じ学校、○○高校第二学年在学の彼女、佐々木アリサは、所謂高嶺の花と言われている存在だ。

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を地で行く彼女は、男子は勿論女子の憧れる存在でもある。

 運動神経抜群、勉強も出来てそして美しい。しかし、決してそのことを鼻にかけ無い。

 後輩の女生徒の中には、彼女のことを密かにお姉様と呼ぶ者までいるとか。いや、同学年や先輩にもいるらしい。

 そんな彼女だが、いつも周りに人が絶えないかと言うとそういうわけでもない。寧ろ、誰かと居るところを見たという者は居ない程、彼女は一人で居ることが多い。

 皆が皆、彼女を遠巻きに眺めることしかできないのだ。

 実際に見たわけではなくあくまで聞いた話でしかないのだが、3時間目が終わり業間に入ると、彼女は決まって黄昏れているという。その間はクラスの誰もが一言も発さない為、この時間のことを空白の10分間と言うらしい。

 その状態の彼女には話しかけることすら憚られる程、あまりに美しく、そして尊いものだとか。

 今となっては、彼女と同じギルドに所属する様になってからは、何故決まってその時間に黄昏れていたのかを理解してしまったが。

 

 彼女についての情報はまだある。

 あれは確か、私達が進級して直ぐのこと、その日は部活は活動日ではなかった私は、一人寄り道をしながら帰路に着いていたら、偶然後輩の女子生徒が不良達に絡まれているところを見てしまった。

 それを見かけたのは本当に偶然で、そして私は恐怖に竦んで彼女を助けることが出来無いでいたのだが、そこへ通りかかったのが佐々木さんだ。

 

「何をしているのですか?」

 

 その時初めて聞いた彼女の声は、まるで鈴の音の様に美しく、しかし同時にとても恐ろしいものだった。

 何がどう恐ろしいのかはわからない、ただ、本能的に恐ろしいということしかわからないその声音は、不良達にも効果はあったらしい。

 微妙にたじろぎながらも、残念ながら不必要なプライドが後退することを拒否したらしく、今度は標的を佐々木さんへと変えてしまった。

 後輩の女の子は助かったものの、このままでは佐々木さんが危ない。その時はそう思ったのだが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 何故かは今になってもわからないのだが、不良達は佐々木さんのことを見て怯えてしまい、そのまま一目散に逃げていったのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 腰を抜かしたのか、地面にへたり込んでいる少女の方へと手を差し出す佐々木さん、そしてその手に引かれて立ち上がる少女。

 佐々木さんは勿論のことながら、絡まれていた少女もまた佐々木さんとは違った方向性の美少女であったため、とても絵になる光景だった。

 また余談ではあるが、その少女は完全に恋する乙女の顔をしていたことをここに記しておく。

 それはともかくとして、こうしてまた一人佐々木さんのことをお姉様と呼ぶ娘が増えたのだが、今にして思えば、その子の目はどうにも信仰心の様なものがあったように思う。

 そんな少女のことなど露知らず、佐々木さんはこれ以上何を言うでもなく踵を返して立ち去ろうとしていたが、少女が佐々木さんを呼び止めて名前を問いかけた。

 

「佐々木アリサです」

 

 名前を告げると、今度こそ用はないと立ち去る佐々木さん。

 そんな佐々木さんの背中を、目をキラキラと輝かせて見つめる彼女は少々頬を赤らめ、小さな声で「お姉様……」と呟く。

 初めて生でお姉様と呼ぶところを見たのだが、正直に言うと今のは確かにお姉様と呼びたくなる気持ちも分からないでもない。

 威風堂々たるその背中は、男よりも女が惚れるものなのだろう。そのときの私も、少々だがドキッとしてしまっていた。

 こうしてアインクラッドで佐々木さんと話すようになってから聞いた話だが、あの時の去り方はあまりにも格好つけすぎたため、後々枕に顔を押し付けてジタバタするのに余念が無かったという。

 

 ―――良くも悪くもイメージが崩れたかな?

 

 私のような凡人とは、現実世界でも仮想世界でも住む世界が異なると思っていた彼女、けれど、そんなことは私の思い込みに他ならなかった。

 ほんの少し手を伸ばせば触れられる、同じ世界に住んでいるのだと漸く気付くことが出来た。

 ただ人より何倍も食いしん坊で、そして剣聖と呼ぶに相応しい実力を持っているだけに他ならない。

 この内容だけを見ればどう考えても異世界の住人に思えてならないが、目の前でお菓子を頬張り顔を綻ばせる彼女は確かに私のそばにいる。

 もきゅもきゅと言う擬音が似合いそうな彼女の食事風景を見て、私は思わず頭の方へと手を伸ばす。外で立ち止まっている野良猫を見かけると、思わず近寄って撫でてしまうようなものだと思ってもらいたい。撫でさせてもらえるかは猫次第だが。

 より現実に近づくように作られているこの世界、髪の質感も細かく再現されているため、こうして今撫でている感覚は、現実のものとさほど大差はない。

 

 ―――やっぱりすごく気持ち良い。

 

 少々白っぽい金髪だが、決して艶がないわけではない。私自身髪の手入れは怠っておらず、同年代の間では自信――私の数少ない自信――のある方だったが、この少女には勝てる自信がない。

 そんな風に考えている内に、いつの間にか食べ終わったらしいアルトが、じっと私の方を見つめていた。

 何事かと思い尋ねようとしたが、寧ろ私がどうかしたのか、と言う状態だ。なんせ同級生に対して、子供をあやす様に頭を撫でているのだから。

 案の定、彼女は私にどうかしたのかと問いかけてきた。

 

「ううん、何でもない」

 

 そうは言うものの、やはり私は頭を撫でる手を止めることはない。

 そんな私にされるがまま頭を撫でられるアルトは、けれど嫌そうな素振りは見せていない。寧ろ、気持ちよさそうに目を細めて居た。

 あまりの可愛らしさに思わず口元がゆるむのを自覚しながらも、やはり私は頭を撫でる手を止めるなんてことはない。

 しばらくそんな状態が続いたが、急に意識が戻ったらしいアルトに、とうとう手を退けられてしまう。払いのけるのではなく、両手で掴んでそっと離す感じだ。

 

「おk……サチ、またこのおやつを作って下さい」

 

 キラッキラとした笑顔でおやつを強請る様は、正しく子供そのもの。うん、とても可愛らしい。

 今までは格好いいという印象のほうが強かったが、今ではこうして可愛いと思うまでになっている。それはそれでどうかと思うが。

 何はともあれ、こうしてアインクラッドでの日々が過ぎていく。一日一日が現実と同じように過ぎていく中で、けれどずっと現実世界で普通に過ごしていたら、見ることの出来なかったものを見ることが出来た。知るはずのなかったことを知ることが出来た。

 その点だけで言えば、このソードアート・オンラインと言うゲームに、この世界に感謝しないでもない。

 勿論、デスゲームなんて馬鹿げた世界であることは、今でも恐怖を感じているし、許せないが。

 そんなことを考えつつ、アルトの頭を撫でつつ、つかの間の平穏にひたる。

 

 ―――こんな日も悪くはないかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと、先程アルトが私の事をお母さんと言いかけたのは聞かなかったことにしよう。

 

 


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