ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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お久しぶりでございます。

今回の話は、前話のアルトリアが初めて人を殺した時からそれなりに経って、その間にも人を殺し続けていた……という体でお願いします。
その部分を書けそうに無いので……。


黒と嗤い

 

 背後の脅威から逃れる様に、深夜の森の中を形振り構わずただ只管に走る。

 もう少しステータスをAGIに割り振っておけばよかったと後悔する暇も無いほど、対象との距離が詰められていくその恐怖に、最早頭がおかしくなりそうだ。

 だからと言って足を止めるわけにはいかない。此処で足を止めてしまえば、私は背後のプレイヤーに殺されてしまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 

 けれど、元から距離が離れていたおかげもあり、このまま気を緩めなければきっと逃げられる筈。そう思っていた矢先に、森からの出口が見えたのだ。緩みそうになる気を引き締めて、後もう少しを走り抜ける。

 そもそも一体私が何をしたというのだろうか。誰かに恨みを買うようなことをしたつもりもないし、至って普通に生きてきた。

 ただ、背後の脅威にとって見られたくないものを見てしまっただけだ。それがいけなかったのだろうが、私にとってはそれだけで殺されるなど、理不尽にも程がある。

 

 けれど、そんな理不尽とももう直ぐでおさらばできる。この森を抜けて少し走れば、直ぐにアンチクリミナルコード有効圏内、単に圏内と言われる場所へと入れる。そうすれば、殺されることはない。

 そんな私の目論見通り、森を抜けてしまえば直ぐに圏内に入ることが出来た。とは言っても、体感的には凄く長い距離を走ったような気がしたが。

 これでもう私は圏外に出なければ殺される心配はない。鍛冶屋として歩き始めたばかりなのに、もう躓いてしまったことは残念だが、命あっての物種だ。

 

「何なのよ……ひっ!」

 

 私を狙ってきた人物が誰だったのか一目見ようと、背後を振り返る。するとそこから見えたのは、黒い布で口元を隠した、金の瞳と髪を持つ女性プレイヤーだった。

 そしてその瞳には、遠目からでも分かるほどの明確な殺意が籠もっており、それを見た私は、殺人鬼が森の奥へと姿を消すのと同時に腰を抜かしてへたり込んでしまう。

 

「もう、いや……」

 

 もしも此処が現実の世界ならば、私は確実に失禁してしまっていただろう。此処が仮想現実であることに感謝をしつつ、震える身体を両の手で抱く様に蹲る。

 誰かに助けを呼びたい、先程の出来事を話して楽になりたい。けれど、それこそ死という意味で楽になってしまう可能性があった。

 

 何故私はこのゲームにログインしてしまったのか、何故私は鍛冶屋となってしまったのか、何故私は限定素材を求めてしまったのか。

 

 何故私は殺人――一方的な虐殺――の現場を見てしまったのか。

 

 深夜の誰もいない町並みが、今にも牙を剥くのではないかと錯覚を覚える。

 誰も居ないはずの背後に、先程の殺人鬼が居るのではないかと考えてしまうと、もう動くことが出来なくなった。

 こんなことならば第一層に引きこもっていた方が良かったのではなかろうか。

 

「助けて、アスナ……」

 

 この世界では珍しい、最近できたばかりの同性の友人の名前を呼んでみるが、当然それに応える声は無い。

 時刻は凡そ午前3時。人気のない町を這いずりながら、私――リズベットは宿へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――しくじった。

 

 嘗て無い程の失態、そして焦りに対し、自分の不甲斐なさを嘆く。

 その嘆きは怒りへと変わるが、だからと言って嘆いたままでも怒っていても、この失敗は取り返しがつかない。

 殺人の現場を見たものは須らく殺すと宣っておきながら、その実いざ見られてしまった今、その相手を殺すことが出来なかった。

 殺さなければならないという想いと、それに反する様に殺したくないという想いが湧き上がってしまったようだと分析する。

 今回のことを反省するならば、誰も居ない場所をしっかりと選べなかったという事、殺人に慣れてきたからと気を抜いてしまっていたこと、そして見られた相手が何の罪もない女性プレイヤーだからと、身体も剣も鈍ってしまったことだろう。

 兎に角、今は急いでアルゴの元へと駆けつけ、直ぐに今回のことを報告・相談しなくてはなるまい。最後に圏内に入った少女の顔は、遠目だがある程度は判別もついたし、覚えている。

 ならば件の少女を探し出し、LEONで匿ってしまうか若しくは闇討ちとなるのだろうが……、

 

「本当に、反吐がでますね」

 

 元からあった発想とは言え、やはり気分の良いものではない。何より、最後に見た少女のあの恐怖に染まった表情に、罪悪感で胸が締め付けられる想いだ。

 そんなことを独り言ちながら、森の中の安全圏へとひた走る。

 そして、

 

「逃してしまったという訳か……このアホッ!」

 

 合流したアルゴに事の顛末を伝えると、第一声は罵声だった。

 

「見られた相手は誰であれ……と言ったのは、お前の方だろ!それを……ッ!すまん、場所とタイミングを見誤ったオレっちも悪かったヨ……今は見られた相手を探すほうが先決だナ。で、顔は見たのカ?」

「えぇ、年の頃は中高生といったところでしょうか、髪の色は暗い茶色、そばかすのある童顔が特徴の少女です。武器はメイスを所持していました」

 

 ここで、悪いのは私だと言い出せば話は長引く。お互い反省点があったということで話を進めるのが良いだろう。

 それはアルゴもわかっていることらしい。何時もの少々巫山戯た口調に戻す、そしてそのアルゴは、私からの情報を元に誰か覚えはないかを思い出す。

 

「リズベット、かもしれないナ……」

「リズベットですか……と言うと、最近アスナの話に出てきた」

「あぁ、腕の良い鍛冶師の友人だろうナ」

 

 アスナとの会話を思い出す。

 確か彼女は、最近、年齢の近い友人が出来た。そしてその女性は、鍛冶師としてなかなかの腕前を持っている、と彼女は言っていた。

 たったこれだけの情報で人物を特定してしまうアルゴもおかしいのだろうが、この世界の個人情報は、場合によっては現実世界よりも多いのかもしれない。

 しかしだ、お陰で簡単に特定できそうなのだから文句は言えまい。アルゴ相手に、個人情報の保護など通用しないと思っておくべきなのだろう。

 

「ほとんどこれからの予定は決まったものですね……」

「そうだナ」

「……やはり、殺したくはありませんね」

「……よく言うヨ」

 

 殺したくはない。しかし、殺したい。

 私の中にある矛盾した感情は、主語を入れることで矛盾は解消される。

 「罪なき者」を殺したくはない、しかし、「人の命を弄ぶ外道」は殺したい。

 それを知っているアルゴは、私の言葉に反応するが、言葉に対して口調は何処か落ち込んだものだった。

 例え私自身がその外道だとしても、私が人を殺すことを辞めるつもりはない。

 

「理性も倫理も無ければ、もっと気楽に人を殺せたのでしょうか……」

「アルトリアの犠牲者が増えるだけだろうナ」

「そう、ですね……」

 

 有りもしない仮定を思い描くも、やはりその私は誰かを殺している。

 結局、人殺しは一生人殺しだということだろう。

 

「……そぉいっ」

 

 そんな事を考えていると、少々気の抜けた掛け声が聞こえてくると共に、頬に衝撃を受けた。

 どうやらアルゴが私の頬をひっぱたいたようだ。

 

「ありがとうございます、お陰で落ち着きました」

 

 思考がバラバラになり、収束していなかった為に、アルゴの荒療治はありがたいものだった。

 

「じゃ、リズベット誘拐大作戦といきますカ」

「この人でなし」

 

 アルゴの傍から見れば鬼畜外道な発言にそう言うと、アルゴはにやりと笑みを浮かべる。

 

「残念、アルトリア。その言葉は遣う場面が違うんだよナ」

「……はて?」

 

 突然の、それもニヤニヤしながらの発言に対して、私は本気でわからないという風に小首をかしげる。

 元ネタを知っている相手に解説するというのはなかなか恥ずかしいものがあると考え、わざとわからないふりをしているだけだ。

 最も、解説される前にネタバレするつもりではあるが。恐らくこれで空気は弛緩するだろうし。

 

「さすがのお前さんも、そのネタは知らないカ……」

「そうですね。ですが言葉を間違えて使っているという状況はどうにもおさまりが悪いので、ケニーかランサーを殺してもいいでしょうか?」

 

 私の想像通りと言うべきか、はたまた期待通りと言うべきか、アルゴは私の発言にキョトンとした表情を浮かべると同時に、軽く言葉を失う。

 次第に動き始めた頭が、私は知らないふりをしようとしていた事に気がつくと、自分がそのまま元ネタの解説をすればどうなっていたのかを察すると、アルゴが間違った使い方で叫ぶ。

 

「こ、この――」

 

 ―――人でなし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな叫び声が深夜の森に響いていた頃、奇しくも時を同じくして一人の男がその生涯に幕を下ろそうとしていた。――蛇足だが、プレイヤー名はケニーでもなければ、槍使いでもない。

 泣きわめいて命乞いをする男に対して、無情にも鋭い刃が振り下ろされる。

 安っぽいポリゴン片を撒き散らしながら男はゲームから、そして現実からも永久退場となったのだが、それを見つめる影が存在した。

 

 黒いポンチョを深くかぶった男の顔はしっかりとは見えないが、薄っすらと覗く口元が歪に歪んでいた。

 現在のアインクラッドに於いて、殺人を許容するプレイヤーというのは少なからずいる。それがアルトリアや人々を殺して回るはた迷惑な宗教団体、そしてオレンジプレイヤーだ。

 このポンチョの男もまた、プレイヤーであることを表すカーソルをオレンジ色に染めた犯罪者プレイヤー――通称レッドプレイヤー――であるのだが、その実態や名前は未だ表に出てきていない。

 いつの間にか仲間が殺されている、そんな状況を作り出しているのがこの男だ。その他にも殺人教唆なども行っているが、当然ながら、こちらも詳しい情報は出回っていない。

 

「アルトリア、か……おぉ怖い怖い。俺たちなんかよりもずっと狂ってやがる」

 

 いつか見た少女の動きをトレースするように己の武器を振る男、しかしその剣筋は、お世辞にも少女のものに近いとは言えないものだった。

 これは男の動きが悪いのではない、寧ろ、この世界でもトップクラスと言えよう。それだけ、少女の動きが異常なのだと言える。

 そう、アルトリアが殺しを行っている所を見たのは、何もリズベットが初めてというわけではない。男の隠密スキルが、アルトリアの索敵スキルを上回っていたのだ。

 

「お前さんのことだ、いずれ俺たちにたどり着くだろう、そのときは目一杯素敵なPartyを楽しもうじゃねえか」

 

 ―――It's show time!

 

 黒鉄宮の生命の牌に、新たに4本の線が引かれたその日。夜の帳に消えていく男の声と共に、男の手の甲に描かれた棺が嗤っていた。

 




半年ぶりの更新です。
作者自身全然覚えてない上にプロットも作っていないので、もう内容なんて滅茶苦茶です。
勢いって怖い。

前書きにある通り、今回の話は初めての殺人から暫く経った頃を書いています。つまり一部を割愛しています。

ところで、Pohってテンションが上がると独り言を言うタイプだと思うのって、私だけでしょうか?

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