ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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時間の流れって速いですね、気がつけばもう5月ですよ……。
今回からいよいよ主人公の闇堕ちが始まりまする。タグも追加しました。
よろしくおねげぇ申し上げます。


Sympathy For The Bloodthirsty Killer

 

 作業と化したレベリング、熟練度上げ、そして素材や食材集め。今もまた、モンスター3体を屠ってポリゴン片となり散って無くなりきるのを見届けている。

 基本的にギルド"LEON"のメンバーは一緒に行動することが多いのだが、私はよく一人抜けだしてはこうして狩りをしていた。

 シリカとの一件があって以来、より一層一人で狩りをすることが多くなったのだが、それは何も彼女のことが原因というわけではない。全く無いと言えば嘘になるが。

 

 私とアルゴがサチに誤解を与えてしまったその翌日のこと、いつもの様にケイタ達をいじめ、もとい鍛えた午前中、アルゴもまたいつもの様に情報収集や提供、売買の為に奔走していた。

 そんな彼女が、昼飯時になり慌てて姿を見せたかと思うと、

 

「刀スキルの手がかりを見つけタ」

 

 以前よりずっと待ちわびていた情報を見つけてきたと言ったのだ。

 現在私は主武器に曲刀を用いているが、本来の得物は刀だ。もっと言えば私の身長ほどもある異様な長刀。

 そんな刀が手に入るのかは分からないが、少なくとも所謂普通の、打刀と言われる刀を手に入れるだけでも、私としては大きく変わる。

 曲刀では出来無かった"アレ"も、もしかしたら出来る可能性があるのだから。いや、出来るようにしても良いのかもしれない。

 そうしてついに手に入れた刀の情報、一刻も早く習得するしかあるまいと、このスキルの前提となる曲刀スキルの習熟度をカンストを目指し、ケイタ達に合わせずに一人こうして作業をしていたのだ。

 

 この刀スキルに関する情報は、第一層で出会い友となった男性、クラインにも既に伝えてある。

 あれからちょくちょくではあるが、お互いメッセージにて情報交換をしたり他愛無い世間話をしたり、そしてたまに予定が合えば実際に顔を合わせる。

 そうして少しずつ友として中を深めていった彼が、私と同じく刀スキルを求めていることを知っていた。故に、アルゴと相談し、クライン達にはある条件の元、このことを教えた。

 だが、何も無償で情報提供したわけではない。それでは今まで必死にこの情報を探してくれていたアルゴに申し訳が立たない。

 そこでアルゴにとっても利のある様にするべく出した条件が、クラインを旗頭としたギルド「風林火山」と仲良くするということ。

 これの一体どこが彼女にとって利となるのか、それはつまり、風林火山が近々攻略組ギルドに仲間入りするだけの実力がある手駒を増やせるということだ。

 手駒を増やすと言うと言い方が悪いので、"LEON"と「風林火山」で同盟を結ぶと言う風に言い換えたほうが良いだろう。

 同盟の概要は、大凡以下の通りだ。

 

 

ギルド"LEON"を甲とし、ギルド「風林火山」を乙とする。

・甲は無償で情報提供する代わりに、乙はその情報収集に協力すること。

・両ギルドの戦闘員で、武器の強化や作成に必要な素材を集める際は、互いに協力を惜しまないこと。

・甲が犯罪者プレイヤーの捕縛に関して乙に対して協力を要請した場合、乙はこれに従うこと。

・乙が甲に対して食材を持ち込んだ時、甲は乙に料理を提供すること。

 

 

 大きくはこの4つが、両ギルド間で交わされた契約の内容となる。

 まずは一つ目、こちらは情報を提供し、そして向こうは情報収集に協力するということだが、これは基本的にアルゴが風林火山に話を持ちかけた場合に限る。

 私やケイタ達が別のクエストに挑戦、あるいは情報を集めている間に、風林火山もまた情報を集める。そしてアルゴもだ。3つのコマが同時に動くことで、より多くの情報を短時間で集めることが目的だ。

 

 続いて素材集めを互いに協力するというもの。

 例えば風林火山のメンバーの誰かが武器を強化したいと言った時は、私達LEONも素材集めに繰り出し、そして集まった素材を無償で提供する。逆もまた然り。

 そうすることで、攻略組の地力を少しでも底上げすると共に、私達の活動可能な範囲を少しでも広めるというものだ。

 

 そして三つ目、これはアルゴ、サチ、テツオ、そして私の4人で話をし、決定したものだ。

 本来であれば味方を増やすということは、その分LEONの裏の顔を知られる可能性があるということ。そんなものはデメリットに違いないのだが、それでもなお彼らに協力を要請する可能性を作るということへのメリットがあった。

 基本的に私が誰かを殺す場合は、私とアルゴで言葉を交わし、そして殺すことになっている。そしてもう一つ大事なことがある。それは一人を殺した場合、殺した者の仲間全てを殺すということだ。

 例えばレッドプレイヤー3人組を殺すとしよう。レッドプレイヤーを3回殺すという言い方も出来るが、問題はそいつらが複数で行動するということ。もしも2人を殺しても1人を逃してしまったら、そこから私がPKだと広まる可能性がある。

 そうなっては攻略に支障をきたすことは言うまでもない。いくら強くても人殺しと一緒にいられるか、と。

 少しでもそういった可能性をなくすため、私はなるべく多くの人を殺す。それこそ、ただ見てしまっただけの一般プレイヤーだって殺す可能性は存在する。

 さて、話を戻そう。

 わざわざそんな危険を犯してまで人手を増やすのは、殺すと決めていない犯罪者を殺さないためだ。

 徒党を組み中途半端に実力のあるプレイヤーを、殺さずに牢獄へと放り込む場合、いくら私でも誤って殺してしまう可能性がある。

 そうなっては残りの全員を殺さなければならない。万が一の為に、あえて人手を増やすことで、私の殺す人数を減らすというわけだ。

 殺す人を選ぶのと同様に、牢獄へ放り込む者達もまた私とアルゴで決めている。

 故に、犯罪者をより確実に生け捕りにする為の戦力が必要ということもあり、風林火山の面々に、場合によっては力を借りることにしたのだ。

 特に渋ることもなく、それどころか二つ返事で了承したクライン。だが、これに関してはクラインだけではなく他のメンバーもこれを快く承諾していた。

 

 そして四つ目だが、これは風林火山の方々にすごい勢いでお願いされた為に成立したもの。

 

『女の子の手料理が食べたい!!』

 

 凄まじき熱意と勢いを見せたクライン達。同盟とはいえど、契約内容的に言えば私達と彼らとは対等とは言えない。

 それ故にある程度の要求は受け入れるつもりで居たのだが、まさこのような内容になるとは思っても見なかった。

 うちのギルドの台所を預かっているサチは、彼らの必死さに少々戸惑いながらも、自分の料理で喜んでくれるならとこれを承認。

 そしてそれに伴いもう一つ追加された条件は、私も調理に参加すること。

 クラインがあそこまで必死に頼み込んで来たのだ。男に頭を下げられた以上は、それを聞き入れてやるのがいい女というものだと自分に言い聞かせ、これを承諾。

 この時のサチの表情はとても印象的だったことをここに記す。

 

 こうして同盟を結ぶ条件等が決まってからの行動は速かった。

 私がクラインに連絡を取り、そしてギルド同士集まり話をすりあわせて同盟を締結。四つ目の条件に関してはこの時にやり取りが行われた。

 それから刀スキルを取得する条件を彼らに教え、私は私で条件を満たすべく行動に出た。もっとも、彼らの場合は今すぐに刀スキルの取得に動いたのではなく、食材集めに必死になっていたようだが。

 

 これらが今から約一週間前の出来事だ。

 本日分の目標数を撃破した私は、特に寄り道をすることもなく自分の拠点に帰るべく歩き始めた。

 そして歩くこと数十分後、漸く圏内に辿り着いたところに一通のメッセージが届いた。送り主はアルゴ、一体なんだろうかと思いメッセージを確認する。

 

『美味しそうな"牛乳"を見つけたゾ』

 

 たった一言、"牛乳"を見つけただけというそのメッセージを見て、私はいよいよかと溜息をこぼした。

 この牛乳というワードは、私とアルゴとの間で予め決めていた合言葉のようなもの。

 ギルド名の由来となった映画の主人公の好物が牛乳なのだ。それ故に、この単語が登場した時は、私は誰かを殺す可能性が出てきたということだ。

 つまり、今日を含めて数日以内に、ついに私は誰かを殺すことになるかもしれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルゴ、美味しそうな"牛乳"はどこで見つけてきたのですか?」

 

 帰宅してサチが作る料理を少しつまみ、また出かける。午前2時頃、プレイヤーが寝静まった深夜に、アルゴに指定された場所へと向かう。

 指定されたのは第一層にある黒鉄宮、その中に設置されている鉄製の碑「生命の碑」の前だ。

 そこにアルゴだけが居るのを確認すると、メッセージの内容に則った質問を投げる。

 

「来た、カ……」

 

 いつもなら誰かが近づけば直ぐに気付いていたはずの彼女が、どうやら本気で気付いていなかったらしい。私が声をかけて漸く気付いたらしく、暗い顔を上げてこちらを見やる。

 その表情から読み取れるのは、今から行うことに関しての疑問。今から私達が行うのは殺しだ。実際に手を下すのは私だが、命を奪うことを決定するのはアルゴも同じ。だからこそ自分がすることに疑問があるのだろう。自分は間違っていないのか、と。

 けれど、こうして誰かを殺すと可能性を提示したのだ。殺すと決めた事に疑問を抱いても、それでも殺すべきと判断した理由があるのだろう。

 

「こいつだヨ」

 

 彼女の指差す先に掘られている1人の名前、感じからして女性のものだが、その名前の上には一本の線が引かれている。

 この線が何を意味するところは、つまり彼女が死んでいるということ。死因を見ると、他殺であることが見て取れた。

 女性で、しかも他殺。普通に殺された、とは思えない。アルゴが殺すべきだと判断した以上、つまりは……。

 

「同じ被害にあい、けれど殺されなかっタ奴が居てナ。そいつがオレっちに頼み込んで来たんだヨ。アイツらを殺して欲しい、ってナ」

 

 その場では断ったが、と続けるアルゴ。だが、どうやら私の考えが正しかったらしい。

 恐らく、パーティーメンバーの男性を目の前で殺され、そのまま脅され、○されたたのだろう。

 その復讐のために、犯罪者を捕らえると公言している私たちに依頼してきたのだろうが、怒りの感情が強かったらしい。捕まえるのではなく、殺して欲しいとのこと。

 もしもこのまま下手人を殺せば、彼女の気はほんの少しでも晴らすことが出来るだろう。だが、彼女に私達が人殺しをしたとばれる。そうなっては今後の活動に支障をきたす。

 だから、もしこの依頼を受け入れるのであれば、同時に依頼者も殺さなければならない。もし仮にあの時、サチ達にギルドの裏を伝えた時に彼女たちが否定していれば、

 どうやらアルゴの中で、このこともまた引っかかっていたらしい。

 

「アルゴ、私達は犯罪者を捕え、時には殺す。けれど、本当の意味での殺し屋ではありません」

 

 LEONという名前をギルド名に付けておきながら、けれど依頼を受けて誰かを殺すつもりは毛頭ない。

 矛盾しているかもしれないが、そこだけは譲れなかった。

 

「だから、その女性を殺した者達と、貴女に依頼してきた女性を殺します」

「お前は……」

 

 私の出した答えは、どこまでも悍しいものだった。

 誰かを殺して欲しいと依頼してきた者に対し、その対価に生命を要求する。

 LEONは犯罪者を裁く。罪なきプレイヤーの為に。だが、私が今言った言葉は、その罪なきプレイヤーをその手にかけると言ったのだ。

 依頼者から誰にも言わないという確約が取れれば殺さずに済むのだが、現時点で女性の言葉をそのまま信用することは出来ない。

 アルゴ曰く、確かにこの女性は自分の友人である女性を殺され、そしてパーティーメンバーである男性もまた殺されている。それは彼女が調べたことであり、確かな情報だろう。

 何より、今回の下手人による被害は、他にも起きているらしい。と、言うよりも、元々アルゴが追いかけていた犯罪者が、今回殺しを依頼してきた女性の標的だっただけだ。

 

「なぁ、アルトリア……どうにもなんねぇのカ?」

「その女性が誰にも話さないように監禁でもしますか?それならば殺さなくて済むでしょう。だがそれでは、犯罪者と変わらない」

 

 どうしてもどうにかしたいと考えるアルゴ、そして私が提示した解答は監禁という非人道的なものだ。

 だが、どうやらアルゴはこの監禁という言葉に何か思うところがあったらしく、急に黙って考え始める。

 数秒の後考えが纏まったのか、けれど彼女の口から飛び出してきたのはとんでもない内容だった。

 

「監禁、監禁ダ。監禁すればいい!」

「アルゴ、どうやら私は貴女を監獄に放り込まなければならないようです」

「ちょっと待テ、本当に監禁するわけじゃないヨ!」

 

 突然依頼主を監禁すると言い出したのだ、非常に残念ながらアルゴを捕えなければならないと考えが先走ってしまった私を、アルゴは必死に止めていた。

 監禁すると言えば聞こえは悪いが、要は、今回のように私達が殺すと判断した犯罪者を殺して欲しいという人が現れた場合、その依頼主をLEONの管理するギルドの施設で保護すればいいということだった。

 つまりは表に出ないように隠しながら、LEONの為に働かせるということ。

 身体を拘束するわけではないが、外とは関わらせないようにする。もしもその人物が私が人を殺すということを言いふらさないと信用に価する場合は、より自由になれるように、ある程度ではあるが制限を緩和するという。

 自分では気負っているつもりはなかった。実際に人に刃を向けた事はあるが、それでも流石に殺しは初めてだ。少しだけ緊張のようなものがあるらしい。

 元々は依頼を受けるということを想定していなかったこともあり、そしてこの緊張の様なものだ、どうにも、上手く頭が回っていないらしい。

 

「わかりました。暫くは今の拠点に軟禁するとし、余裕が出てきたらどこか施設を借りましょう。そしてそこに閉じ込めておき、その人となりを見て外に出れるようにするかどうかを決める」

 

 けれど、これはあくまで私達の考えにすぎない。だから、と釘を刺すように言葉を続ける。

 

「もし、依頼主が死を望むのであれば、その時はその依頼主を殺します」

 

 アルゴが息を呑むの音が聞こえてくる。私の言葉に嘘偽りが無い事を理解しているから、今言った言葉も本気なのだと理解しているのだろう。

 顔を俯かせ唇を噛み、拳を固く握ることで、彼女の中にある感情を抑えようとしている。

 そして漸く決意が固まったのか、顔を上げて私の方に視線をぶつけると、

 

「人殺し」

 

 憎しみや怒り等の感情がこもっていない罵声を浴びせられた。

 今はまだ人を殺していないが、それでも私が人を殺すのは変わらない。だから、彼女の言葉をそのまま受け入れる

 

「人殺し、人殺し、人殺し……」

「えぇ、私は人殺しです」

 

 なおも繰り返される、人殺しという言葉に私は同意を示すと、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 この世界の感情表現は現実よりオーバーにされる。だがこの涙は、恐らく現実世界であっても同じように流れていただろう。そう思わされる程、とても綺麗な涙だった。

 

「なんで、殺さないといけないんだよ……」

「現実世界に逃がした時、犯罪者達がもう二度と人を殺さないとは限りません。何より、私にとって大事な人達が害されるかもしれない。それが、私には恐ろしい」

「なんで、お前なんだよ……」

「現状、この世界で最も戦えるのが、そして決意が固まっているのが私だからです」

 

 絞りだすように紡がれる彼女の想い。自分が人殺しになりたくないという気持ちがあるのも確かだろう、けれど、誰も殺したくないという気持ちがあるのもまた事実に違いない。。

 私はアルゴのそんな甘さを、優しさを尊く想うが、だからと言って今更後に引くことなどしない。

 子供のような泣き顔を見せるアルゴを優しく抱きしめ、そして彼女の望まない言葉を投げかけた。

 

「私と一緒に、地獄に落ちてはくれませんか」

 

 まるで告白のような台詞、けれどそんな甘ったるいものではない。私のこの言葉は、共に罪を重ねてくれないかというなんとも非情な言の葉。

 私の胸の中で涙を流していた彼女だが、両の手を私の肩に起き少し距離を取ると、

 

「あぁ、なんなら悪魔に魂でも売って、地獄まででもどこでも、落ちてやろうじゃないカ」

 

 彼女の双眸にはもはや迷いなんて無い。

 今のアルゴであれば、躊躇なく人を殺す決定を下すことが出来るだろう。

 

 きっとこの瞬間こそ、LEONの裏の顔が完成した瞬間なのかもしれない。

 そして、人を殺す決心のついた彼女の晴れ晴れとした表情は、きっとこの先忘れることなど無いだろう。

 心から愛おしいと思える、そんな表情だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~だりぃ」

 

 月の届かない深く昏い森の中、言葉の通り気怠そうに、酒を呷りながら言葉を漏らす一人の男、そしてそんな男の傍にはもう一人の男と、何もかも諦めてしまってた目の、嬌声を上げる女が居た。

 アルゴに依頼を持ちかけた女性プレイヤーが殺して欲しいと言ったのが、この二人の男性プレイヤーだった。聞いていた特徴、そして犯罪者であることを示すオレンジ色のカーソルから間違いない。

 

「つかさぁ、いつまでヤッてんの?壊れた女○してもつまんなくね?」

「あ?壊れてるからいいんじゃねぇかよ」

 

 何より、今この現場が証拠だ。

 自分たちの明かりを確保する為に付けられた蝋燭が照らすのは二人の男だけでなく、今まさに被害にあっている女性プレイヤーもだった。

 頬には涙の跡、そして全身を白濁した液で汚された姿は無残で、もう心が壊れてしまったのか、未だに腰を振り続ける男のモノに喘いでいる。

 この光景も、そして男共の会話もどれも私を不快にさせるには十分すぎた。こいつらを殺すことに対し、これ以上何の感情も持たずに済みそうだ。

 

 足音を消し、気配を殺し、手に持った短剣を、酒を呑むプレイヤーの首に突き立てるべく近づいていく。

 右手には短剣を、腰にはもう一本の短剣を挿し、いつでも三人を殺せるようにする。

 本来ならば男二人が標的だが、私は彼女も一緒に殺すことに決めた。

 年の頃、左手の薬指に嵌められた指輪から、彼女が既婚者であることが見て取れる。つまり夫が殺され、その上で○されているのだろう。今の壊れてしまっている心を見て、このまま生き続けるのは辛い筈、そう考えたのだ。

 

 ―――さて、どの様に殺そうか。

 

 行為に夢中になっている男は、一先ず無視することにしよう。

 一応周囲を警戒してか、戦闘になれば直ぐにでも抜刀出来るように手元に武器を用意している男をまずは殺すことにする。

 仮面や外套で顔や姿を隠しているが、だからと言ってそう簡単に姿を見せることはしない。故に、姿を見せずに殺す。

 まずは標的がもたれかかる木を挟んで裏側へと周り、そのまま左手で口を塞ぎつつ右手に握った短剣を首に突き刺す。短剣はこの際に、相手の首に突き刺したままにしておき、アバターが消えてから回収する。

 後はそのまま力任せに草むらへと引っ張り出して、もう一本の短剣でHPが全損するまで斬りつける。

 麻痺毒を入手していれば短剣の刃に塗り込めたのだが、今はないものを欲しがっても仕方があるまい。一人目はこの手順で殺すとしよう。

 

 二人目も特にこれといって問題ではない。

 一人目の異変に気付き装備を整えようとしたとしても、メニューウィンドウを操作をしている間に殺すことは出来るだろう。

 仮に装備を整えられたとしても、正面戦闘となればそれこそ私の本来の土俵だ。

 女の方は、男二人を殺してからで大丈夫だろう。

 

「異常者めwwww」

「ブーメラン乙(笑)」

 

 一つ大きく息を吸い、吐き出す。

 二人目との会話を区切り、再び酒を口に含む男。なるべく音は殺していたはずだが、それでも深呼吸をしていたことがバレていないかとほんの少しだけ不安があったが、どうやらそんな気配はない。

 いや、そもそもバレたところで私の殺しの手順が狂うだけで、特に問題はないから不安に思う必要などないのだが。

 

 再び大きく息を吸い、そして今度は吐き出さずに肺に押しとどめたまま息を止める。

 

 ―――今。

 

 計画していた通り、木の裏から身を乗り出し、そして男に覆い被さるようにして口を塞ぐと、そのまま短剣を首元に突き立てた。

 大声を出そうとするも、口をふさいでいるためにくぐもった呻き声にしかならない。そして二人目の男はどうやらこちらに気付いた様子はなく、未だに腰を振り続けている。

 さて、次の手順だ。

 突き刺した短剣から手を離し、その手で相手のズボンを掴んで抱え込むようにして草むらへと引っ張り出す。

 左手は口を塞いだまま、右手でもう一本の短剣を抜き、そして男を斬り刻む。

 重点的に狙うのは喉元。この世界はどこまでもリアルに作られている為か、腕を斬りつけるよりも喉を斬りつけたり、心臓に突き刺す方がダメージを与えられる。

 元々ステータスの差はかなりあったのだろう。数秒後には男はポリゴン片へと姿を変え、この世界から、現実世界からログアウトしていった。

 

 ―――なんと暢気なことか。

 

 もう一人の男は、ずっと女に夢中になっているらしい。片割れが死んでも気付いていないでは無いか。

 だが、こちらとしては正直ありがたい。

 最初に使った短剣を拾い上げて、そのまま背後から特攻を仕掛ける。

 一人目と同様にまずは首に片方の短剣を突き刺す。そこで漸く私の存在に気付いた男は、けれどももう手遅れだ。

 

 ―――下半身を晒したまま、無様に死ぬと良い。

 

 慌てて武器を取り出そうとする腕を切断し、メニューウィンドウの操作をさせない。

 そして先程と同じく、首を重点的に斬りつけてHPを削っていく。

 それから数秒、やはり実に呆気なく男は消えた。

 アバターが消え去るのと同時、地面に落ちそうになった短剣を空中にてキャッチし、それをそのままアイテムストレージへとしまう。

 もう一本の短剣はそのまま女の方へと向ける、すると、何も映していないかのような昏い瞳と目があった。

 私を救いの神とでも勘違いしたのか、その目からは涙がこぼれ落ちる。

 そんな女に対し、私は裏切るように、短剣で首を斬りつけた。

 

「あり、が、と」

 

 HPがゼロとなり、そのまま消えていく直前、女はあろうことか私に礼の言葉を残した。

 殺された相手に感謝される。そんなことがあって良いはずがないのだが、今こうして現実にあったのだ。

 一体何故自分を殺した人間に感謝することが出来る。一体何故。何故……。

 今までに感じたことのない言いようのない恐怖、そして先程まで自分が殺した三人がこの場に居たという事実が私にはとても不快だった。

 もうこの場には居たくない。そう思った私は、逃げ去るように走り、アルゴと依頼主が待つ黒鉄宮へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼は確かに完遂しました」

 

 アルゴの隣に立つ女性に向けて、言葉を発する。

 足音もなく突然現れて声をかけられたことに驚いたのか、それとも私のこの姿を見たからか、その場から一歩後ずさる。

 姿形を悟らせないような出で立ちをした奴が現れてはそれも仕方があるまい。

 

「さて、それでは行きましょうか」

 

 抑揚のない声を心がけ、今回の依頼主に圏外へ付いて来る様に言葉をかけた。

 依頼主の名前を、私は知らない。

 ただわかっていることは、私が先程殺した二人の被害者であること、そして彼女が死を望んでいること。

 

 私はこれ以上何かを言うでもなく、ただ黙って歩き始めた。

 そんな私に追従する二人分の足音。どうやらアルゴも、私が依頼主を殺すところを見届けるようだ。

 人目につかない道を選び、そしてついに圏外の、誰にも見られないであろう迷宮区へと辿り着いた。

 何故彼女にこの城から飛び降りさせないのか、それはやはり、確実に死んだことを確認するためと、彼女が飛び降りるところを他の誰かに見られないためである。

 直接死ぬところを見届け、その上で生命の碑で死んだことを確認する。それが何よりも確実だし、私とアルゴも、彼女が死ぬところを見届けるつもりだ、彼女に飛び降りをさせるならばその場に居なければならない。

 もしもその現場を誰かに見られてしまっては、後は語るまでもないだろう。

 

 暗い洞窟の開けた場所、そこで依頼主に向けて細剣を向ける。

 念には念を入れて兎に角私と言う情報を隠す。その為の細剣。

 踏み出してしまった一歩は、もう元に戻すことは出来無い。

 そのまま細剣を彼女の喉元に突き刺し、横に薙いでダメージを与える。

 なるべく斬る回数が少なくて済むように、全ての攻撃を喉に集中させた。

 やはり彼女もまた、ほんの数秒で呆気なく消え去ってしまった。

 

 今日だけで四人を殺した。

 標的と、被害者と。

 

「アルゴ……」

 

 仮面を外し、隣に立つ少女の名前を呼ぶ。

 その呼びかけに応じてこちらへと振り向くと同時、彼女が返事をする前に、私は彼女の唇を自身の唇で塞いだ。

 火照った身体は一向に熱を下げる気配はなく、それどころか彼女の腔内を○していると、ますます熱を帯びる。

 そうして何度も何度も、彼女の唇を、彼女自身を貪り求める。

 

 その日の夜から、私の頭の中で鳴り響く、決して止むことの無い酷く不快な歌が始まった。

 

 




主人公はこれからどんどん人を殺していくことになります。きっと。



P.S.
サブタイトルはかの名曲からお借り致しました。
あの歌良いですよね、でも私は天国への階段の方がもっと好きです。

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