ほんと、すみませんでした。
書いてはいたんです。ただ完成しなかっただけで……。
エタったわけじゃないんです……。
よろしくお願いします……。
3/20:誤字訂正
"アインクラッド最強の剣士"
その称号が誇張等ではなく事実であることが、試合開始の合図早々に私の身体に刻まれることとなった。
少々フライング気味で特攻を仕掛けた私は、アルトリアさんとの間にある距離を縮め、自分の間合いへと踏み込んでいく。
身体の小さい私は、人よりもずっと深くに潜り込まなければならないため、まずは相手の間合いに侵入する必要があった。
動こうとしないアルトリアさんを見て、これならば潜り込めるのでは、と淡い期待を浮かべた直後、私の身体は横に吹き飛ばされていた。
一瞬何があったのか理解できなかった私は、地面に横たわって呆けてしまったが、それはあまりにも大きすぎる隙に他ならない。
いつの間にか近づいてきたアルトリアさんの足が、私の頭を思いっきり踏みつけた。
そこで漸く理解した、達人の間合いは城壁のそれに匹敵し得るのだと。
それともう一つ気がついたのは、先程のアルトリアさんの攻撃に移る前の予備動作が全く見えなかったこと。
幾らスピードを出して走ったといえど、彼女のことはしっかりと見ていたはずだ。にも関わらず、攻撃に移る前の動作は勿論、移動する素振りすら見ることが出来なかった。
それだけ動きが速かったのか、それとも私の無意識をついたのか、どちらにせよ動きが見えないのだから避けることも、ましてや防御することも叶わない。
しかし、だからと言ってそう簡単に諦められるはずもない、アルトリアさんの足が頭から少し離れた直後、痛みとはまた違った苦痛を噛み殺しながら即座にその場を2歩3歩と離れた。
仕切りなおすために距離を取ることだけを意識していたのだが、首筋がピリピリとする感覚にその場でかがむと、背後でアルトリアさんの短剣が空を切る音が聞こえてきた。
少ししか移動していないとはいえ、私の背後を取って攻撃をしてきた彼女、もしもあと一歩でも後ろへと下がっていたら、そのまま彼女の攻撃が直撃していただろう。
背筋に冷たいものを感じながら、立ち上がるのと同時に後ろに立っているであろうアルトリアさんの方へと振り向いた。
「よく避けましたね」
緊張感のない声音とは裏腹に、彼女は先程と変わらぬ威圧感をもって、私に構えを向けている。
ほんの少しの動作で、私の息は既に乱れている。膝は笑い、釣られるように武器も笑う。
そんな私を見て、アルトリアさんは言った。「もう止めにするつもりはありませんか?」と。
完全に私のことを舐めきった言葉だが、彼女がそういうのも無理は無いだろう。それ程迄に、私と彼女との差は大きすぎた。
それとこの言葉は、彼女なりの最後通告なのだろう。止めるならば今。さもなければこれから先、地獄を見ることになる、と。
だからと言って、そう簡単に諦めきれるはずがない。私がこの世界で生き残るために、より強くなるためにも、彼女に一撃を当てなければならない。
「いいえ……絶対に止めません!」
相手に初動を認識させない動き、そして一瞬で敵の背後に回る速さ。たったこれだけで、彼女がこの世界最強のプレイヤーであると理解させられた。
だからこそ彼女の元で強さを学びたい、より強くなって、この世界で生き残りたいと思えた。ならばどれだけ無茶だとしても、彼女に一撃を当てるしか無いのだ。
「……わかりました」
最後の警告はしたと、先ほどと違い今度は彼女から動いた。
やはり動き始めはわからなかったが、それでも動いたということだけはわかる。なんせ既に距離を詰められているのだから。
わざとらしく溜めを作った強力な一撃が、私の首元へと迫る。今度は攻撃は見えている、見えているが身体が思うように動かない。
防御のために腕を動かすことも、ましてや回避することも叶わないその攻撃に、再び私は吹き飛ばされた。
地面に倒れればまた彼女のストンプを食らう。吹き飛ばされた勢いを使い、彼女に踏まれる前に起き上がるが、先ほどと同じ様にいつの間にか背後に回っていた彼女に、今度は側頭部を打ちぬかれた。
―――さっきより速い。
先程と同じく首筋がピリピリとした感じはあったが、それにしたがってかがむことすら出来ない程、彼女の攻撃は速かった。
この人に上限というか、限界というものはあるのだろうか、なんて考えが過るが、直ぐに思考を放棄して彼女と対峙する。
あまり考え過ぎると、それがまた隙に変わる。隙を見せるという事は、また攻撃を食らってしまう事に他ならない。
一度仕切りなおす為にも彼女から距離を取ろうとするが、やはり同じく背後に回ろうとするアルトリアさん。ならばと、振り向きざまに横に薙ぐ。
けれどこれも通じない。いつの間にか逆手に持ち替えていた短剣の切っ先で、私の手を止められてしまった。
手に走る違和感に武器を落としそうになるが、それをなんとかこらえて一歩踏み出す。
この一歩踏込んだ先が漸く私の間合いであり、恐らくアルトリアさんの攻撃に威力が乗りにくい距離でもある。
何より、彼女の体側、背後に回ることになるのだから、そのまま背中に抱きついてしまえば私の攻撃が当たる可能性が格段に上がる。
―――それでもまだ、当たるという明確なイメージが持てない……。
後ろから抱きつき、首をとってしまえば後は簡単に攻撃できるはず、頭ではわかるのに、何故かそれがイメージできなかった。
きっとアルトリアさんならなんとかしてしまう。そう思ってしまっているからこそ、イメージが出来ないのだろう。
考えをまとめながらいよいよ首を取ろうとした時、脇腹に違和感を感じた。そう、彼女の短剣があたっていたのだ。
ほんの一瞬の停止、けれどその一瞬は彼女には十分すぎた。
体をひねることで、私の方を見ずに攻撃を当てたのだ。それだけだったらまだ良い。このまま体勢を立て直すまでだ。
けれどこの体をひねって攻撃を当てるのに加え、そのままの勢いで後ろ回し蹴りが私の顎を打ち抜いたのだ。
これにはたまらず、先程と同じように吹き飛ばされてしまった。
先程からずっと同じ様な攻撃が続いているが、これは恐らく彼女が私との実力差を見せつけるためにしているのだろう。
―――流石にイラつくかな?
確かに私が弱いのが悪いが、それでもプライドというものがある。こうも舐められていては気分がいいとはいえない。
先程のループを真正面から破りたいという思いと同時に、熱くなった思考を冷やすかのように、それは無理だという自分がいる。
ならばどうするべきか、真正面からではなく絡め手で破るしか無い。
普段は逆手に持つ短剣を順手に持ち替え、そして試合開始前のアルトリアさんの構えを真似する。
本来なら戦いの中でいきなり構えを変えるなんて、下の下な下策にも程がある。しかし、流れを変えるにはこれくらいのことをしなければならないと思い、試してみることにした。
イメージするのはスポーツではなく格闘技。ステップなんて踏まずに、ベタ足でどっしりと構える。
これもやはり普段とは全く違う動作だが、多少流れを変えることならば出来るだろう。
構え方に関しては試合開始前のアルトリアさんというお手本があるのだから。
「……ハァ」
構えを作ったところで、これみよがしに溜息をつくアルトリアさんの姿が映り込んで来た。
彼女のことだ、急に構えを、戦い方を変えるのは良くないことは知っている。それを行ったからこそ、私に対して落胆の溜息をこぼしたのだろう。
落胆してくれるということは、その分だけ私に期待をしていたともとれる。
さて、ここからが本番だ。
逆手から順手に持ち替え、更に腰を落とした状態に構え直したシリカを見て、私は溜息をこぼした。先程までの自分は一体何をしていたのだ、と。
彼女に諦めさせる為と気負い過ぎ、動きが固くなってしまって思ったよりも攻撃の手が緩くなっているではないか。
これでは彼女を傷めつけるなんてとてもではないが出来ないだろう。
一先ずそれはおいておくとしても、しかしまあ大したものだ。恐らく初めて取った構え方のはずなのに、意外と形になっている。
―――いや、私の真似か。
試合開始前に取っていた私の構え方を真似ているのだろうが、ただ真似ているだけではなく、しっかりと要点を抑えて構えを取っている。
一度見ただけでここまで完成度の高い構えを取れるのなら、それだけ才能があるということだろう。
これならば鍛えれば鍛えるほど、前線で活躍できるプレイヤーとして成長してくれるだろう。惜しむらくは彼女の年齢か。
頭をポリポリと掻くと、普段の構えでない構えに戻す。
やはりいつもどおりに動くほうが余程彼女を傷めつけることが出来るだろう。
構えを解いた私に戸惑いを見せたシリカは身体が硬直したのが見て取れるが、そんなものはお構いなしと、無造作に歩いて近づいていく。
そうだ、深く考える必要はない。
目の前の敵をただ倒すだけでいい。
いつもどおり、首元を斬りつける。
圏内戦闘特有の衝撃音が響き、ノックバックの発生したシリカは吹き飛んでいく。
先程のように先回りして頭を踏みつける、なんてことはしない。面倒くさい。
真正面から斬られたにも関わらず、理解の追いついていないシリカの元へ、先程と同じように無造作に歩いて近づいていく。
しかし流石にある程度近づいたら、直ぐに起き上がって再び構えを取るシリカ。もっとも、それぐらいはしてもらわなければ困る。
再び間合いに入った私は、彼女の首元を斬りつける。
―――おっ?
先の一撃と異なり、今の一撃は確実に反応していた。
対応こそ出来ていなかったが、たった一撃で反応するに至ったのは大したものだ。ケイタ達でも反応するのにしばらくかかったというのに。
こうしてみてみると、彼女が未だ幼いのが本気で悔やまれる。
一先ず考えるのをやめて、三度彼女の元へと歩いて行き、そして立ち上がった彼女の首元を斬りつける。
反応速度が上がっているのかそれとも勘か、今度は武器を使って弾こうとしてきた。
残念ながらそれよりも私の剣速が勝り、三度彼女の首元を斬りつけるに至った。
これならば手数を増やしてもいいかもしれないと思い、また立ち上がった彼女の元へと近づいていく。
先の2回は右から斬りつける様にしたが、今度は左からの一撃に加え、突きも加えてみる。
するとついに私の攻撃に追いついたシリカは、私の一撃目を確かに防ぐに至った。残念ながら突きまでは躱すことが出来なかったが。
何故かはわからないが、このままではまずいと思った私は、先程の様な余裕を見せることを止めることにした。
やはり一撃目は防がれるが、二撃目以降はまだ対応できないらしいので、ノックバックなどお構いなしに攻撃を続ける。
次第に二撃目、三撃目と防がれる様になっていくが、攻撃のパターンを変えると、途端に二撃目以降を防がれることはなくなった。
そんなことが何回続いたか、息も途絶え途絶えで立っているのがやっとという状態のシリカがついに出来上がった。
これを望んでいたとはいえ、実際になってしまうとやはりくるものがある。何よりも、早く倒れて欲しいという思いが強くなっていく。
もう何度目になるのかもわからない程攻撃を続けた私は、止めの一撃とばかりに最後の一撃を叩き込んだ。
ついに立っていられなくなったシリカは、その場に倒れ伏した。ついにこの試合が終わったことを意味する。
まだ安心しきっていないとはいえ、もう終わりと、倒れている彼女に背を向けその場から立ち去ろうとしたところに、サチの声が聞こえてきた。
「アルト!」
サチが言いたいことはわかっている。
私は背後へと振り向きざまに短剣で薙ぐと、確かな手応えを感じた。
そう、立ち去ろうとした私の隙を突こうとして、シリカが最後の力を振り絞って攻撃に打って出たのだ。
シリカが動こうとしたのが聞こえていたが為に対処することが出来た。
それにしても、いつもどおりに構えを取っているつもりが、その実普段よりも武器を握る手に力が入ってしまっていたらしい。構えを解いた手が少し震えている。
これを見て漸く、先程感じた不安のような何かの正体を理解することが出来た。
先程私の感じていたものは、シリカが急成長していくことに対する恐怖だ。
才能の塊と思っていたアスナでさえも無かった、戦いの中での急成長。この戦いの中で追いつかれるのではないかという恐怖。
ある意味怖いのはアスナだけだと思っていたがどうやらシリカもアスナと同じ側の人間、つまり天才らしい。
このゲームが純粋に楽しむためのものならばどれほど良かったことか、しかし現実はHP全損が即ち死の世界だ。
なんとも勿体無いと思いながらも、こうして潰すしか無い。それが今の私に出来る精一杯なのだから。
―――なんかイライラしてきた……。
今の私に出来るのがこんな暴力しか無いのだと考えると、どうも嫌な気持ちが湧き上がってくる。
それでは、後のことはサチに任せて、私は体の火照りを、暴力しか出来ない私に相応しい方法で沈めに行くとしよう。
皆様の感想をみてニヤニヤし、活力を得ている低音狂です。
これからも感想・評価お待ちしております。
P.S.
アルトリアさんをちょろインにしたい。