ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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今回のボス戦の前後にあった話や補足を、閑話という形で次回以降に入れたいと思っています。


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王へと挑む兵達~前編~

 指示を飛ばす声と、それに応える声が部屋に響く中、私と、アスナ、キリトの2パーティは、バラン将軍の取り巻きであるナト大佐の相手をしているところだった。

 教わったばかりのスイッチを駆使し、自分だけでなく2人が攻撃しやすいように考えながら戦う。

 今までソロで戦ってきたのと全く違う戦い方をしている為、普段であれば更に踏み込む場面であっても踏み込まず、キリトやアスナに攻撃させるように場を作るこの戦い方は、どうも違和感が付きまとってしかたがない。

 守る剣ではなく攻める剣である自分の術に引っ張られてしまい、何度かついつい手が出てしまう事もあったが、いずれはこの戦い方にも慣れるだろうと、今は兎に角、頭を使って戦闘を組み立てることに集中する。

 

 ―――ペースが速いですね。

 

 流石というべきか、現在ナト大佐の相手をしている私達3人は、全員がダメージディーラーであるため、私が一人で戦うより余程速くHPを削ることができていた。

 ここまで調子が良いと逆に不安を感じてしまうが、ペースが遅いよりかは速いほうが、皆の精神的にも良いだろう。

 ディアベル率いる残りのメンバーは、一体どれほど自分たちのペースで戦えているかが気にかかるところではあるが、それよりも、結局発見することのできなかった王の弱点をどうするかが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全体演習、及び集団戦初心者の為――私とアスナの為とも言う――の基礎講座の翌日、この世界でトップクラスとされるプレイヤー達が一つの部屋の前に集まっていた。

 勿論昨日演習に参加していたもので、今日ここに居ない者など居ない。

 初めてこのメンバーが集合したあの日、あそこに居たプレイヤーは全員が、今日こうしてボスを倒すために集まっている。

 ここで命を落としてしまうかもしれない。大切な仲間を喪ってしまうかもしれない。

 そんな不安と恐怖が己の内にあれど、この世界を生きて脱出したいという想いを同じくしたプレイヤー達が、自分のために、あるいは大切な人のために戦うのだ。

 

「みんな、いきなりだけど――ありがとう!」

 

 思考を遮るように聞こえてきた声は、現在このレイド――呼び方はアルゴから教わった――のリーダーを務めるディアベルのもの。

 ここに集まったプレイヤー全員を率いていく者として、まさかいきなり無言のままボスに挑むわけにもいくまい。

 皆の士気を高めるため、そして少しでも死に対する恐怖を誤魔化すために声を張り上げる。

 

「ここに居るのは女神の元に集い、そして認められた38人の(つわもの)達ばかり!」

 

 本来であれば彼を、ディアベルを英雄として祭り上げるつもりであったのだが、どうやら黙ってこの攻略組の象徴になるつもりはないらしい。

 初めてここにいるメンバーが集ったあの日、私を女神と称したのを持ちだして、今もこうして利用する。

 英雄として祭り上げられるのを嫌った私が、結局は女神として祭り上げられることになるらしい。

 

 ―――それで少しでも勝率が高まるのであれば安いもの、か。

 

 古来より男性とは馬鹿な生き物らしく、曰く、異性に少しでも良く見られようと頑張るとか。

 今回の場合、私を女神とすることで、そんな私に良く見られようと少しでも頑張るはずなのだ。

 そういう意味でも、あのキバオウさんを弾いておいて良かったといえるだろう。

 現に、ここに集まったプレイヤーで私に対して不満を抱く者は見られない。

 もっとも、全員がとは言い切れないが。

 

「最大人数には足りていないけれど、個々人の強さは一騎当千のものだと、オレは信じている!」

 

 誰も一言も発さず、ディアベルの言葉を噛みしめては己を奮い立たせる。

 自分たちは本当に強いプレイヤーなのだと、敵と戦える力を持っていると。

 彼の真っ直ぐな眼差しが、そして、このゲームを何としてもクリアしてやるという強い意志が、ここにいるプレイヤー達を魅せる。

 正しく、指導者としてのカリスマを持っている彼だからこそ、皆が彼の言葉を、「信じている」という言葉を信用し、信頼する。

 勿論中には、私の様な例外も存在する。

 誤解の無いように言っておくが、決して彼のことを信用していないわけではない。

 どうも私は、当事者にも関わらず、どこか他人事の様に、一歩下がったところから見ている節があるのだ。

 一度「死」というものを体験しているからか、それともそういう性格なのかはわからないが、どうも自分から輪の中に入っていこうとしない様に思えてならないのだ。

 自称感情が表に出にくいというのも、あながち間違いではないのかもしれない。

 

「オレ達には女神が付いている!オレ達なら勝てる!勝って、このゲームはクリアできるのだと、改めてこの世界の皆に示そう!」

 

 応、という返事を、皆が一斉に返す。

 どれ程ディアベルの言葉で士気が高められたのかがよく分かる返事に、私は安堵を覚える。

 これ程士気が高ければ、早々に意志の砕ける者は現れないだろう、と。

 勿論、戦いに絶対という言葉はない。

 開戦直後に心が折れる者が出てくるかもしれない、王の出現とともに、恐怖に屈する者が現れるかもしれない。

 だがそれでも、今この場に戦う意志のない者、戦うことの出来ない者は居なかった。

 

「それじゃあ女神様からも、一言いただけないかな?」

 

 私が一人で安心していると、急にディアベルに話を振られる。

 先程、女神のもとに、つまりは私のもとに集ったと言った以上、その女神である私からの言葉も必要になるのは言うまでもない。

 予想していたことなので特に慌てもせず、しかし思ったままのことを口にした。

 

「水を差す様で申し訳ありませんが、あえて言わせていただきます。戦いに絶対などありません」

 

 私が言うのもおかしな話かもしれないが、口にした通り、戦いに絶対などという夢物語を信じるのは、愚者のすること。

 絶体絶命の窮地の際、草食動物が肉食動物に牙をむく様に、弱者が戦況をひっくり返すなど、よくあることだ。

 まだまだ実力では劣るはずのアスナから、かすっただけとは言え攻撃を当てられた様に、戦いなど不確定なものの集まりでしかないのだ。

 

「この戦いで命を落とす者が居るかもしれません。最悪の場合、全滅だって在り得ます」

 

 ざわめきこそ無いが、息を呑む者や唇を噛む者、自分の死を想像してしまったのか、拳を固く握る者もいる。

 何故わざわざこの様な、心を折るような言い方をするのか。先程までの士気を下げるような言い方をするのか。

 それは、私がずるい人間だからだ。

 いや、勿論それだけでは無いのだが。

 

「だから、私から皆に命じます。私の目の前で死なないで下さい。この世界に終止符を打つまで、戦い続けて下さい。そして、勝って下さい」

 

 自分で「戦いに絶対はない」と言っておきながら、ここに集まった皆には「勝て」と命じる。

 無茶なことを言っているのはわかるが、それでもこの無茶を撤回するつもりはない。

 

「スポーツなんかではない、敢闘賞なんて勿論無い。あるのは死ぬか、生きるかのみ」

 

 ディアベルとは違い、より死というものを印象づけるように言葉を続ける。

 ここで死ぬかもしれないという現実は確実に存在しており、こうして私が喋っている間も、大きな鎌を皆の首に突きつけて、不気味に笑っている。

 勿論そんな死神のような存在は、実際に目に写っているわけではない。

 それでも、今この場にいることには間違いない。

 

「ならば生きて、そして戦い続けなさい!勝って、勝って、これから先負けることは許しません!今日のこの戦いにも、勝ちなさい!」

 

 繰り返し言うことで、言葉をより深く刻みこむ。

 一度皆の士気を下げたのは、このためでもあった。

 人間の筋肉は、繊維をずたずたに傷めつけることで、勢い余って以前よりも強いものへと回復する。

 この現象を超回復というのだが、心でも同じ様なことを実現することが出来ると思い、そして実行した。

 結果は私の期待通り、先程より士気は高まり、気合も十分に入り、返事もとても大きなものとなっていた。

 勿論、死ぬかもしれないという恐怖も胸に刻みこまれたはずだが、これでより慎重に戦うことが出来るはず。

 

「今日のこの戦いが終われば、宴でも開きましょう。ディアベルのおごりで」

 

 最後の仕上げは、皆をリラックスさせること。

 気合が入るのは良いが、気負いすぎて肩に力が入り、普段の実力を出せないのは困るからだ。

 先程まで張り詰めていた空気は適度な緊張感へと変わり、ディアベルは決闘騒ぎ直前のお食事デート、もとい財布を食い尽くす宣言の時の様にうなだれる。

 勿論、この後の宴会費はディアベルだけに出させるつもりはない。

 それを知ってか知らずかは判断できないが、ディアベルは直ぐに気を取り直し、私から言葉を引き継ぎ、いよいよ戦地へ赴くことを告げた。

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナト大佐の攻撃をキリトや私が弾き、その隙にアスナの鋭い斬撃が敵を切り刻む。

 相手のHPは既に底を尽きかけ、もうすぐその命を散らし、無に帰すところだった。

 

「アスナ、キリト、一気に畳み掛けます!」

 

 もう力が残っていないのか、立っていることもやっとの様子の相手。

 当然この隙を見逃す手はないと、ダメージディーラー3人による一斉攻撃を仕掛ける。

 過去にこのナト大佐を撃破した際にも、撃破直前は今の様に攻撃が飛んでこなくなったことから、多少の警戒はしつつもより攻撃の手を強めることに集中する。

 だが、もう残りHPも数ドットというところで、私だけは攻撃の手を止めた。

 第一層のボス、イルファング・ザ・コボルトロードを撃破した際、ラストアタックボーナス――以下、LAボーナスと呼称する――なるものを入手したことから、このナト大佐からもLAボーナスを手に入れることが出来るのではないのかと判断したからだ。

 その時は気にも留めていなかったが、後からアルゴに聞いてスペックを確認してみると、大凡NPCから購入できる装備とは比べ物にならない程の性能を有していた。

 これならばもっと早くに確かめておけばよかったと、あの時は本当に後悔した程。

 ならば、もしもLAボーナスを獲得できるのであれば、これを二人のどちらかに譲ることでより戦力の強化に繋がるのではないかと考えたのだ。

 だから撃破直前に攻撃から離れ、二人のどちらかが最後の一撃を決めれるように調整した。

 

「アスナ、キリト、バラン将軍の方へと加勢に行きましょう」

 

 最後の一撃をアスナが決めたことを確認すると同時に、ナト大佐がポリゴン片となって砕け散るのも確認した。

 そしてナト大佐を降した二人は、特に気を抜いた様子も見せず、私の言葉に従って、もとい予め決められていた通りにバラン将軍の元へと駆けて行く。

 ナト大佐は短期決戦を、バラン将軍は長期戦を。

 現在最もダメージを稼ぐことの出来るパーティがさっさとナト大佐を倒してしまい、その間バラン将軍はゆっくり時間をかけながらHPを削ることで、ここにいるメンバー全員で王に闘いを挑むことが出来るからと、昨日の演習後の作戦会議にて決めたのだ。

 その作戦は功をなした様で、未だ王はその姿を見せていない。

 ナト大佐撃破前に、一度将軍の残りHPを確認したときは、まだ丁度半分程度削ったところ。

 改めてバラン将軍の方へ視線を向けてみると、もうすぐ5段あるうちの3段が削り終わるところだった。

 このまま私達3人が加勢すれば、直に王は出現するだろう。

 あの気持ち悪いのを見ても、今回ばかりは「気持ち悪い!」と叫ぶ訳にはいかない。

 私が一人で挑みに来ているのであれば話は別だが、今は他に38人ものプレイヤーがいる。

 一応私には、女神として――不本意ではあるが――の体裁がある――不承不承ではあるが――。

 いや、女神云々は関係なしに、そもそも戦いの最中、いきなり気持ち悪いと叫ぶのは、人としての体裁上あまりよろしくはない。

 だから私は、誰にも気付かれぬ様に一度深呼吸することで気分を落ち着かせ、王の出現と同時に叫ばないように意識を集中させる。

 先程の、ナト大佐と戦っている時以上に集中している様な気がしないでもないが、そんな細かいことを気にしている場合ではない。

 

 ―――いきますか。

 

 深呼吸とともに気持ちを切り替えると、今度は如何にしてバラン将軍と王を倒すかに思考を寄せる。

 この戦いまでに見つけることの出来なかった、王の弱点。

 幾つか検討している箇所はあるが、実際にその場所に刃を届かせることが出来るのかはわからない。

 だが、王の前にバラン将軍のHPを残り1段まで削りきってしまわなければならない。

 右手に握った曲刀を握り直し、アスナ、キリトの2人に続く形で私も駆け出す。

 今回の攻略戦の本番は、今始まったばかりだ。




「作者の好きな作品やキャラ」

※たくさんのお気に入り登録数や投票数で思いっきり調子に乗った作者が、自分の好きな作品やキャラを晒すこちらのコーナー。
今後、そんなキャラたちがパロキャラ?としてちらっとだけでも登場するかもしれませんし、展開や台詞等で作品の影響を受ける(参考にするとも言う)かもしれません。
どうでも良いという方は飛ばして下さい。
気になるキャラや作品などがあれば、是非見てみてください!



船堀『ディーふらぐ!』
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル『魔法先生ネギま!』
コロンビーヌ『からくりサーカス』
ルーシー『エルフェンリート』
宮沢有紀寧『CLANNAD』


作者は『藤田和日郎』先生の作品が大好きです。

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