ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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無限の肯定。ただしプロポーズは否定。

 

「結婚して下さい」

「頭、大丈夫ですか?」

 

 二度の人生を通して初めてされるプロポーズが、まさかゲームの中でだとは思わなかった。

 初対面であるはずの彼は、派手な赤色のバンダナをした、無精髭を生やす年上の男性。

 決闘騒ぎの後、アルゴに情報を売ってもらおうと考えていたはずが、再びそのことを忘れてしまい、格好つけて立ち去った私の後をつけてきた彼女に気付いて漸く思い出した時は、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしかった。

 彼女が情報屋であることを忘れていたことにも羞恥を覚えたのに、一度戦えばもう忘れてしまう自分の脳筋っぷりには、自称表情が表に出にくい女である私でさえ、顔を赤くしてしまったほど。

 話を戻すと、情報を売ってもらった後、その情報を基に第一層に来ていたのだが、その際に街で偶然出会ったプレイヤーが彼だ。

 現実世界、この世界を通して一度も見かけた覚えはない。

 私を見た瞬間、急に手を取り跪き、そして先の一言を言い放ったので、思わず失礼なことを言ってしまった気がするが、これは決して私が悪いわけではない。

 会っていきなりプロポーズをしてくる男性には、あれくらい言葉に棘があるくらいで丁度いいのだ。寧ろ足りないくらいである。

 そんな私の気持ちを代弁するかのように、彼の周りに居たパーティメンバーは、突然その男性を蹴り始めた。

 流石にそれはやり過ぎだとも思ったが、やはり何故か、その光景は私の中の嗜虐心を擽る。

 

 ―――もしかして、私にはそちらの趣味が……。

 

 だんだん自分の趣味がわからなくなってきた私は、少々自分の将来に不安を感じてしまっているが、今はそんなことより目の前の彼にちゃんと返答しなければならない。

 会っていきなり、告白をすっ飛ばしてプロポーズをしてくるくらいだ、悪巫山戯ではないのだろう。

 何より、先程私を見つめていた目は冗談を言っているような目ではなかった。

 

 ―――それはそれでどうかと思いますが。

 

 一目惚れにしても度が過ぎるが、本気でプロポーズされた以上、こちらも誠意を持って答えを返すのが筋というもの。

 

「申し訳ございません、貴方の気持ちには応えることが出来ません」

 

 だから、彼のプロポーズは受け入れられないと正直に答え、頭を下げる。

 そもそもだが、私は彼の名前を知らないし、彼も私の名前を知らないはず。

 

「ですが」

 

 と言葉を続ける。

 

「友にならばなれます」

 

 これは彼に同情したわけでも、ましてや貢がせようとしているわけでもない、私の本心。

 いきなり、それも初めて会った男と結婚できる女では無い私は、しかし友となることなら出来る。

 もっとも、中には例外的な存在(ex.キバオウ、ヒースクリフ)もいるが、それでもこうして言葉を交わせるのなら、友情だって交わせるはずなのだ。

 勿論、人間みな兄弟等という綺麗事を言うつもりは毛頭ない。

 先程言った通り、中には友情を結ぶことなど出来無い者だって居る。寧ろそのような者の方が多いだろう。

 しかし、彼が私に対して嫌悪感を抱いていない以上、私が嫌悪感を抱かない以上、友にならなれるはずなのだ。

 

「是非お願いします!」

 

 そんな私の言葉に考えることなどせず、殆ど反射の域で答えを返す彼。

 ここまで想ってくれるのは、正直戸惑いを感じるものの、それでも光栄でもある。

 前世では、実の母でさえ私に対して嫌な顔を見せたことを今でもはっきりと覚えているため、こうして慕われることが素直に嬉しいのだ。

 

「ところで、まだ名乗っていませんでしたね」

 

 友人となる以上、相手の名前を預かり、そして自分の名前を相手に預けなければならない。

 例えその名前が仮想のものだろうと、今の私を表す大事な名前なのだ。

 

「アルトリアです。よろしくお願いします」

 

 これが、私と彼、クラインとの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘騒ぎの後、用事があると言って直ぐに立ち去ってしまった彼女、アルトリアを追いかけたところ、何故か顔を赤くして私の方へ近づいてきた。

 隠蔽スキルを使っての尾行だったはずだが、やはり彼女には通じないらしい。

 己の力量不足に嘆息しつつ、何か用でもあるのかと彼女へ問いかける。

 

「……すみません、アルゴ。情報を売っていただけないでしょうか?」

 

 返ってきた言葉は、大して可笑しくもない普通なもの。

 一体、何故情報を求めるのに顔を赤らめるのか疑問に思いつつも、これは商売だと割りきり、再び彼女へ問いかける。

 

「現在手に入る曲刀で、スペックの高い物の入手法を知りたいのです」

 

 何の変哲も無いその質問は、しかし何かが引っかかるような違和感を覚えるもの。

 自身を強化するには、レベリングによる抜本的な強化と、より強力な武器を装備することの、大きく2つにわけられる。

 レベルは敵を倒したり、クエストを達成することで得られる経験値により上がるもの。

 装備は、モンスターからドロップするものやクエストの報酬、そしてプレイヤー、若しくはNPCから購入することで手に入ることが出来るもの。

 高レベルのプレイヤーであっても惰弱な武器を装備していては、その分実力を存分に発揮できない場合がある。

 逆に、レベルの低いプレイヤーが装備をしっかり整えていれば、場合によってはレベル以上の実力を発揮できることもある。

 現在この世界で最強と思われる彼女であれば、高ステータス、高水準の武器を装備していてもおかしくはない。

 寧ろ一人でボスを倒すような彼女だ、その実力に見合った武器を装備している、と考える方が自然だろう。

 それでもなお強い武器を求めるというのであれば、理解も納得もできる。

 しかし、何故違和感を覚えるのか。

 考えられるのは、はじめ彼女が私に声をかけてきた際に、顔を赤く染めていたこと。

 だがこれも、決闘騒ぎの直後に、「用事がある」と言って格好つけて立ち去ってしまったものの、私に用事があるのを思い出し、そして顔を赤く染めたということで説明がつくし、彼女自身それを認めた。

 ならば何故違和感を覚えるのか、それを知るためにも、そして彼女に情報を売るためにも、今どんな曲刀を使っているのかを尋ねた。

 

「これです」

 

 アイテムストレージから取り出したのは、一見なんの変哲もない普通の曲刀。

 勿論の事ながら、説明欄やスペックも至って普通の曲刀だった。

 誰でも簡単に手に入れることの出来るそれは、ここ第二層のこの街にて、NPCの武器屋から買うことが出来るもの。

 値は少々張るが、その分NPCから購入できる武器の中では、現状最も優秀なこの武器。

 だが、第一層で手に入れることのできる、モンスタードロップの――現状では――超レア武器にはスペックで劣る。

 そんな武器を彼女が使っていると言う。

 

「……もしかして、第一層のボス戦でも、NPCから買ったやつ使ってたのカ?」

 

 自分で言っておいてなんだが、それはあまりにも現実味がなさすぎる。

 よくゲームやアニメなどで、相手を何度も切り刻む様な描写があるが、実際にはそんなに何度も斬ることは出来無い。

 人の骨なんかを斬れば、簡単に刃毀れをしてしまうからだ。

 この世界では、現実世界程簡単に斬れなくなることはないが、それでも耐久値というものが存在し、これが低くなればなるほど、敵に与えられるダメージ量が減るとされている。

 実際に検証したわけではないが、多くのプレイヤーが体感的にこう答えているので、あながち間違いでもないだろう。

 レア度の高い武器になればなるほど耐久値が高くなり、逆に低いものほど脆い武器となる。

 勿論例外こそ存在するが、大抵の場合はそれに当てはまる。

 NPCから購入できる武器など、レア度が高いはずがない。

 つまりその分、耐久値が低い武器のはず。

 そんな武器でボスを撃破するなど、不可能だと言っても良い。

 しかし、そんな私の考えをへし折るかのごとく、あっさりとそれを認めてしまった。

 

「えぇ、そうですが」

 

 なんでも、取り巻きが居ない状態で、なおかつボスの動きが止まったところを狙って武器を交換したのだとか。

 モンスターの攻撃よりそちらに意識を割いていた為に出来たと言うが、何もかもが出鱈目としか思えない。

 単独で取り巻きを処理しつつ、ボスの動きが止めることが既に異常だ。

 その上敵の攻撃より武器を交換するタイミングに集中するなど、普通なら自殺行為だと言っても良い。

 しかし彼女曰く、戦闘中にメニューの操作は出来なくはないが、とても苦手とのこと。

 だから、確実に操作できる状況を自ら作り出すのだとか。

 そういえば、普段の操作もどこかぎこちなかったのを思い出す。

 

 ―――これが天才、というやつか。

 

 凡人たちには出来ないことを、さも当然のようにやってのける。

 自分の実力を正しく理解し、信じ、肯定し、確信している。

 まだ私が幼かった頃、近所のお兄さんが「天才とは無限の肯定だ」と言っていたが、今になって漸くその意味を正しく理解することが出来たと思う。

 彼女のような天才は、常人であればラッキーだと思うようなことでも、それを当然のこととして肯定し、肯定に肯定を重ね、神業を己の物としているのだ。

 やはり彼女は特別な存在なんだと思うと同時に、笑いが込み上げてくる。

 どんなに天才であったとしても、彼女もやはり普通の女の子。

 恥ずかしいと思うときは顔を赤くし、嫌なことがあれば不快に顔を歪める。ついでに自分の食欲にはとても忠実。

 そう思うと、いくら彼女が天才と言えど、やはり普通の女の子としか思えないのだ。それも少々子供っぽい。

 喉で笑いを殺そうとするが、クツクツと漏れだしてしまうのまでは抑えきれいない。

 当然彼女にもその笑いが聞こえるわけだが、何時ぞやのようにご飯を奢らされることはないだろう。

 あれは確かに私に非があったが、今回ばかりはそうはいかない。

 それは彼女自身もわきまえているのか、唇を噛み、より顔を赤く染めて、ぐっとこらえている。

 

 ―――見届けたい。

 

 彼女を見て、少しでも理解して湧き上がった感情は、そんな円から一歩下がったもの。

 表舞台に上がるのは私の仕事ではなく、あくまで彼女のような者達。

 私では表舞台に上がることは、役者になることは出来ない。

 しかし、観客にならばなることが出来る。

 観客として、観測者として、時には助言者として、彼女の歩みを見る位ならば出来るはずだ。

 

 ―――ま、なるようになるか。

 

 とやかく考えているだけでは、観客にすらなることは出来無い。自分で足を運び、近寄って、そして見なければならないからだ。

 だから私は、その努力を怠らなければ良い。

 この世界と闘いながら、それでいて彼女を追いかけ続けるのは至難の業かもしれない。

 それでも、私はそれをするだけの価値を、彼女に見たのだ。

 

 ―――それに、今回はいい絵が撮れたことだし、良しとしますか。

 

 そんな決意を新たにしたところで、今回手に入れることの出来た、最高の戦利品について思い出す。

 普段からアイテムポーチに入れておいた記録結晶だが、彼女の真っ赤な表情を見た瞬間、ほぼ無意識のうちに撮影してしまったのだ。

 戦闘中ではないからか、それとも恥ずかしさのあまり注意力が低下していたのか、今回ばかりは彼女も気付いた様子は無い。

 普段はクールな美少女が、恥じらいに顔を赤く染める。

 好事家でなくとも、健全な男子諸君であれば言い値でこれを買い取るだろう。

 

 今はこのことよりも、彼女に情報を売る方が先決だと考えたが、今回はサービスしておこうと考えを変える。

 この写真を売ることは無いだろうが、それでも、彼女が見せた数少ない弱さなのだ。

 それに、この写真を売ってしまうことは、彼女に対する裏切りのようなきがするから。

 売れる情報であれば何でも売るのがモットーではあるが、こればかりは信念を曲げるしかない。

 そう思いながら、彼女に伝える情報を、頭の中の引き出しから探り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、あの写真を彼女に見せたところ、この間とは役を入れ替え、壮絶な鬼ごっこが始まったのはここだけの話だ。

 





「作者の好きな作品やキャラ」

※たくさんのお気に入り登録数や投票数で思いっきり調子に乗った作者が、自分の好きな作品やキャラを晒すこちらのコーナー。
今後、そんなキャラたちがパロキャラ?としてちらっとだけでも登場するかもしれませんし、展開などや台詞等で作品の影響を受ける(参考にするとも言う)かもしれません。
どうでも良いという方は飛ばして下さい。
気になるキャラや作品などがあれば、是非見てみてください!


阿紫花英良『からくりサーカス』
アルレッキーノ『からくりサーカス』
鏢『うしおととら』
陸奥雷『修羅の刻』
東雲半月『惑星のさみだれ』
ザン=アマル『惑星のさみだれ』


今回ご紹介した5人+α(4作品)。
こののうち、今後誰かが登場するかもしれません。
ちなみに今回の話は、上記のとある作品から台詞や考え方をお借りしております。第三者として登場しました。
原作者様には大変感謝です。
こんな感じになるかガッツリになるかはわかりませんが、今後他作品のキャラを、パロキャラ?として登場させる……かもしれません。


P.S.
こういうのはしない方が良いというのであれば言って下さい。修正させていただきます。
また、あとがきのこのコーナーも無くさせていただきます。

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