声優様アンチな文章になってしまっているかも知れませんが、決してそんなつもりはありません。
それだけはどうかご理解ください。
本当にお願いします。
いや、本当に。
1/3:誤字訂正
腹の底から湧き上がるこの感覚は、はっきりと言ってしまえば最悪なもの。
生理的嫌悪感とも言い換えられるそれは、彼の声を聞いた瞬間に現れたもの。
何故こうまで不愉快に感じてしまうのか、彼の声のどこに怒りを感じるのかは分からないが、それでもこの気持は決して嘘などではない。
―――うざい。
表情豊かではないと自称する私だが、今はこの不快感を隠すことが出来無い。
眉をしかめている私を見て、怯えるプレイヤーさえ居る始末。
きっと私の背後に般若か獅子でも幻視しているのだろう。
しかし、人間というの生き物は理性で怒りを制御することができる。
まだ齢16の小娘と言えど、私だって人間なのだから、さっさと怒りを抑制しなくては。
「まずは名前とパーティの平均レベル、それからパーティ内で一番高いレベルと低いレベルを教えてもらってもいいかな?」
流石というべきか、理由の分からない怒りを感じている私と異なり、ディアベルは大人な対応でサボテン頭に問いかける。
ステータスに関しての質問は、通常であればマナー違反ともとれる行為だが、このゲームは通常とは違う。
HPの全損がそのまま現実世界での死に直結するこの世界では、少しでも足を引っ張りそうなプレイヤーは、なるべくボス攻略に参加させたくないのだ。
人間に限らず、命あるものはいずれ死ぬ。
これは地球上に生物が誕生してからの不変の真理。
例えボスとの戦闘中に死んだとしても、所詮はそこまでの人間でしかないのだが、それでも目の前で誰かに死なれるのは気分が良いものではない。
いざという時には人を斬り殺すことも考えてはいるが、出来る限りそんなことは無くしたい。
転生特典の影響もあり生死観が古いものの、それでも現代人の部分と混じり合い、このような中途半端な価値観となってしまっているのだ。
「わいはキバオウってもんや。このパーティのリーダーやっとる」
特に渋る様子も見せず、ディアベルに聞かれたとおりに名前、そしてレベルに関して答えるが、残念ながら私達の求める基準には達していない。
今回のボス攻略戦のメンバー集めの際、アルゴと相談して決めたレベルの基準があったのだ。
しかし、堂々と答えている彼らのパーティは見事にその基準を下回っているため、「今回はご縁がなかったということで」、という通知を送る。
勿論私ではなくディアベルが彼らを断る為に、やんわりと、丁寧に対応する。
もしも私であれば「出直して下さい」ぐらい言いそうだ。
「なんでや!今はこんクソゲー攻略するために、一人でも多くプレイヤーが欲しいところやろ!」
だが、ディアベルが丁寧に理由付きでお断りしたところ、キバオウはそれに反発した。
確かに彼の言うとおり、今は一人でも多くのプレイヤーが欲しい。
言い方は悪くなってしまうが、最前線で戦うプレイヤーから犠牲が出た時の代わりとなるプレイヤーが欲しいからだ。
だが今は、ボスに挑める最大人数に達していないこともあり、即戦力となる人物が欲しいのだ。
そのことを理解しているキバオウは、だからこそ自分たちが基準に達するのを待って欲しいとも言う。
通常であればレベルが上がるのを待ったほうが良いのだが、残念ながらタイミングが悪い。
第一層を突破し、ここ第二層を開放してから既に2週間近くの日数が経っている。
これ以上遅くなってしまえば、第一層に居るプレイヤーが、再び「やはりこのゲームはクリア不可能なんだ」と腐り始めてしまう。
そうならないためにも、早急にボスを倒してしまわなければならないのだ。
もっともこれ程時間がかかってしまったのは、私にも原因があるといえるかもしれないが。
―――一人で挑むと、武器の耐久値が持たないのですよね。
そう、私一人でこの層を突破出来無い理由は、武器の耐久値にあった。
アルゴと初めて会ったあの日以降、三回程、また一人でボスへと挑んだのだが、やはり武器の耐久値が持たないのだ。
戦闘中にメニューを操作することも出来無くはないが、操作に不慣れなため万が一ということがある。
だから、毎回ボスへ挑む前に街で曲刀を購入し、そして装備して挑むのだ。
だが、それでも将軍の撃破直前、王はHPバー1本削る頃には耐久値が無くなってしまい、身を守る手段が無くなってしまう。
必要最小限の防具しか装備しない私では、ボスの攻撃を受けるとそれだけで死にかねない。
だから武器が折れるやいなや、すぐに戦線を離脱して街へと逃げ帰っているのだ。
もう少し強い武器があればいいと思うのだが、私にそんな情報があるはずがない。
―――情報?
そこまで思考が辿り着いた時、私はあることに気がついてしまった。
アルゴに聞けば良かったのではないのか、と。
情報屋を営む彼女は、このアインクラッド内で最も情報通と言ってもいい。
そんな彼女であれば、良い武器の入手法を知っているはずなのだ。
後悔先に立たずとはよく言ったもので、己の過ちに気付いた後で、漸く悔いている自分がいる。
―――あぁ、恥ずかしい。
普段表情があまり表に出ないのが幸いし、顔を赤らめることも手で覆い隠すことも無かったが、内心では悶え苦しんでいた。
先程、あからさまに怪訝な表情を浮かべていたやつが何を言うか、等という野暮なツッコミはご遠慮いただきたい。
脳筋だという自覚はあったのだが、どうやら猪でもあったらしい。
彼女はあくまで私のお使い、もといプレイヤー集めに忙しかったのだと、自分の過ちに言い訳をしつつ、改めてキバオウの方へ……ではなく、ディアベルの方へ視線を向けた。
どうも、あのサボテンのような頭も、言動も気に入らない。
心理学的に言えばハロー効果というもので、私の場合声が気に入らないという評価が、彼の他の特徴の評価を歪めてしまっているのだ。
いい加減に話を戻すと、キバオウ率いるパーティは攻略に参加したい。
しかしディアベル率いるこのメンバーは、アルゴ選りすぐりの精鋭達なので、そこに雑……その他一般プレイヤーを加えたくない。
互いの主張はそれぞれが正しいと言い張っているが、それは事実であり間違いでもある。
意見を挟むことのできる答えと言うのは、絶対的に正しい答えではないからだ。
もっとも、数字の世界ではあるまいし、人間の口から出てくる答えに、絶対的に正しいものなんて無い。
人間は機械無くして空を飛ぶことは出来無いと言うが、はてしてそれは本当なのだろうか。
私というイレギュラーな存在が、空想上の産物の存在を肯定しうる。
並行世界という存在も、魔法も、超能力も、自分たちの生きている『今』では確認されていないが、自分たちの生きていない『今』であれば存在しうるかもしれない。
そんなかも知れないなんてことを考えていればキリがなく、更に話が大きくそれたので再び話を戻すことにしよう。
どれ程私はキバオ……モヤッとボールというプレイヤーが苦手なのだと思わなくもないが、私の本能が彼を否定したいのだから仕方があるまいて。
「ならこうしよう。キバオウさん、君が今から、オレの指名するプレイヤーと決闘してもらい、勝てたなら攻略に参加することを認めよう」
すると聞こえてきたのは、何故だか嫌な予感がひしひしと、いや嫌な予感しかしないディアベルの言葉。
一体何がどうなって決闘という単語が出てきたのかがわからない私は、隣で全く興味がなさそうにことの成り行きを見守る、もとい傍観しているアスナに問いかけた。何がどうなっているのだと。
返ってきた内容はとても頭痛が痛いもので、キバオ……モヤッとボールが、「実際に実力を見てみなければわからないだろう、だからフィールドに出るなり決闘なりで実力を見ろ」と言い始めたのだそうだ。
―――あぁ、モヤッとしてきた。
この先の展開が読めてしまった私は、もはや隠しもせずに、大きくため息を吐く。
ディアベルはキバオウ一派を今はまだ攻略には参加させたくない、となれば少しでも強いプレイヤーを指名するはず。
第一層のことは伝わっていないはずだが、それでもアルゴから私がどんなプレイヤーかは聞いているだろう。
そんな意外と腹黒いことをするディアベルと話していたキバオ……サボテン王は、耳聡くそのため息を聞いてしまったらしく、ディアベルとの会話中にも関わらずこちらにがんを飛ばし、いちゃもんをつけてきた。
「なんや小娘、文句でもあるんかいな?」
「えぇ、あります」
まさか向こうも、私がはっきりと返答するとは思わなかったのか、それとも不機嫌な私の雰囲気に圧されたのか、一瞬息を飲み込み、ますますこちらへ向ける眼光を強める。
周囲のプレイヤーに至っては、「大丈夫なのか」と心配する者まで現れる始末。
「今回のこのメンバーを集めた一人は私です。勿論、平均レベル等の条件も決めました。ここに集まってもらっているメンバーは、皆が選りすぐりの精鋭達なのです。貴方のような雑……条件を満たしていないプレイヤーの参加を無条件で認めてしまっては、ここにいる皆に示しがつきません」
思わず雑魚と言ってしまいそうになったところを、寸でのところで言い換える。
私は日々進歩しているのだ。言いたいことを我慢することだってできる。
―――頭痛が痛い。
ペインアブソーバーで現実世界のような痛みのないはずのこの世界にも関わらず、何故か頭痛がする。
きっとサボテン王に引きずられて、思考のレベルが下がってしまっているのが原因だろう。
何もかも彼のせいにしたところで現実に目を……向けようとして逸らす。
―――私もまだまだ修行不足なようです。
内心で己の不甲斐なさに本気で悔いていると、やはりサボテン王、もはや流石と言いたくなってしまう程、トンデモ発言をしでかし、私の頭痛を更に加速させる。
「ちゅうことはお前、ビギナー見捨てて自分達だけぽんぽん強なりおった、元ベータテスターか!」
私はビギナーだと声を大にして言いたい気持ちもあるにはあるが、正直否定するのも面倒くさい。
きっと彼のことだ、私が否定したところで、それを否定する可能性だってある。
「だとしたら、どうだと言うのですか?」
この言葉に反応したのは、サボテンだけでなく集まったプレイヤーもだった。
これは早計だったかと一瞬考えたが、これはこれでやりようはあると考えなおし、サボテンが声を発する前に言葉を続ける。
「元ベータテスター、大いに結構ではありませんか。彼らがビギナーを見捨てて自分たちだけ強くなった?それの何がいけないというのですか。このデスゲームにおいて、生き残る強い意志を持つことの何がいけないのですか」
臭いものに蓋をするというわけではないが、確かにサボテ……キバオウさんの言うとおり、元ベータテスターが率いていれば今頃第二層を突破することだって出来たかもしれない。
そんなあくまで可能性でしかないことは、綺麗な言葉で覆い隠してしまう。
―――この手に限る。
「元ベータテスターが強くなる、ならビギナーはそれを利用すればいいのです。ボス戦において、彼らの存在は大きな戦力となる。なら元ベータテスターに頼ればいい。今ここにいるメンバーの中にも、元ベータテスターは存在します。彼らは自分が死ぬかもしれないとわかっていて、それでもなおこのゲームに囚われたプレイヤーたちを開放しようと集まったのです」
こんな言葉は欺瞞に満ちた言葉だと言うことは百も承知。
ここにいるメンバーで、何としてもこの世界を攻略してやる、という気概を持ったプレイヤーは少ないはずだ。
ネットゲーマーとしての意地、置いて行かれたくないという思いが、この場に足を運ばせた者も居るだろう。
だが、そもそもそれは元ベータテスターもビギナーも同じではなかろうか。
「キバオウさん、それでも貴方は、元ベータテスターを否定しますか?侮蔑しますか?」
あくまで一側面でしかない意見を押し通す。
私がこの世界では珍しい女性プレイヤーだということ、この整いすぎた容姿があるからこそ出来るこの手は、正直あまり使いたいものではない。
「話を戻しましょう。ディアベル、確か貴方の指名するプレイヤーと、キバオウさんが決闘するのですよね?」
「あぁ、その通りだ。オレは君に任せたいと思っている」
予想していた通り、キバオウさん達を攻略に参加させたくないディアベルは、決闘の相手に私を指名する。
確かに、アルゴから私の評価を聞いているのであれば、彼らを確実に参加させない方法として、私を指名するほかない。
―――聞いている、はずですが。
アルゴから聞いている前提で考えてしまっていたが、もし聞いていないとしたらこれ以上恥ずかしいことはあるが、とにかく恥ずかしいことには間違いない。
「そうなるとは思っていたので構いませんが……ところでディアベル」
キバオウさんと決闘する事自体は正直嫌だが、私のわがままでわざわざリスクを取る程、馬鹿のつもりは……ない。
だがしかし、戦いたくないというのもまた事実、これは第二層を突破した暁にはその対価を要求しなくてはなるまい。
「第二層を突破した後、お食事デートをしましょう」
この言葉に嫉妬する者、合掌する者と大きく分かれ、前者は私の食べる量を知らない者、後者は私が食欲魔神であることを知っている者。
なんともわかりやすいこの反応だが、前者の方は殆ど居ないと言っていい。
流石に連日あの量を食べるわけではないが、それでもここにいる多くの者が私の食事風景を見ているはず、となればディアベルの財布がとても軽くなることを理解しているのだ。
「い、いや、流石に女神様のお誘いでも……オレじゃあ釣り合いが取れないから、遠慮させて」
「いいですね?」
どうやらディアベルも知っていたようで、私のお誘いを断ろうとしたが、それを遮って宣言する。
お前の財布を食い尽くしてやる、と。
今日の夕食に指定しなかったのは、ディアベルはあくまでこのメンバーの指導者であり、ボス戦に参加する者として装備を整えなくてはならないからだ。
終わってからのことは私は知らない。
自分の財布が軽くなることを悟り、シュンとうなだれるディアベルを見て罪悪感が湧くどころか、寧ろ嗜虐心が湧いていることに自分で驚きつつも、キバオウさんの方へと視線を向けた。
「さて、私はこの後少々用事があるので、手短に済ませるとしましょう」
挑発的な発言内容は、しかし敵を過小評価しているわけでも、ましてや見下しているわけでもない。
意味がほとんど同じような気がするが、この際置いておくとしよう。
片手剣を装備するキバオウさんは、小柄ながらもガッチリした体格をしている。
だが、アスナ程強いプレイヤーではない。
アスナの強さは、才能によるところも大きく、今はまだ原石でしかないが、磨けば必ず光る。
それに対し、キバオウさんからはそのような魅力は感じ無いのだ。
「なんやとこのアマッ!」
キバオウさんの声を気にせず、アスナとの決闘で使用した短剣を装備し、決闘を申し込むようメニューを操作する。
昨日と違い、油断も慢心もしていない。
今から行うのはただの作業にすぎない。
決闘開始の合図と共に、最高速で迫って首を掻き切る。
たったそれだけ。
そしてその通りに実行し、キバオウさん率いるパーティは、今回の攻略は見合わせることが決定した。
作者がセイバー・オルタで最も好きな台詞は、
「可愛い可愛いゴスロリメイドウェイトレスだッ!お客様アッ!! 」
です。
その後の台詞も好きですが。
どうでもいいですね。
それと、作者は別にギルガメッシュは嫌いではありません。
どちらかと言えば好きなサーヴァントだったりします。