ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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番外編
3人の少女


『Welcome to the Cruel World』

 

 その報せが街に届いたのは、デスゲームが開始してから16日が経過した日だ。

 

 HPが全て無くなるということは、即ち現実世界での死亡を指すこのゲームは、多くのプレイヤーが攻略不可能だと口にしていた。

 通常、この手のゲームは死ぬことを前提に攻略を進めるという。

 しかし、デスゲームと化したこのソードアート・オンラインでは、それをすることが出来ない。

 だからこそ、多くのプレイヤーが口を揃えて攻略不可と言っていたのだ。

 第一層すら突破は絶望的と言われていたこのゲームだが、ついに昨日、ゲーム開始後15日が経過したその日、第一層が突破されたのだという。

 これには始まりの街で引き籠っていた多くのプレイヤーが歓喜し、一部では宴が開かれている程だ。

 だが、もう既に1300近くのプレイヤーが命を落としたというのもまた事実だ。

 

 ゲーム開始後、本当はあの言葉は、茅場晶彦の言葉は嘘ではないのかと、この城から飛び降りるものが後を絶たなかった。

 モンスターに殺されるくらいなら、自分から死んだ方がマシだと言うプレイヤーも居た。

 自分なら、自分たちなら無事に生き残ることが出来ると考え、無残に命を散らしたプレイヤーも居た。

 この街に居る皆は、そのことを知らないはずがない。

 それでもこれだけ歓喜するのは、そうせずにはいられないからだ。

 千人を超える死者が出ているという事実は、現在生き残っているプレイヤーの肩に重くのしかかっている。

 それを少しでも誤魔化すために、この世界で小さな希望を見出すために人々は喜び、そして死者を弔う。

 勿論中には、何故もっと速く攻略しなかったのか、と言うプレイヤーも存在する。

 無責任ともとれるその発言は、しかし多くのプレイヤーが内心思っていることだった。

 というのも、第一層のボスを倒したのは、たった一人のプレイヤーだという噂が流れているのだ。

 それだけの実力があるのなら、何故もっと速くボスを倒さなかったのか、そう言いたいのだ。

 だが、所詮は噂でしかないと人々は口にする。

 もし本当に、そんな御伽話に出てくる様な英雄が存在するのだとしたら、今頃もっと上の層に辿り着いているはずだと。

 それでも私は、そんな英雄が存在すると信じたい。

 このデスゲームを終わらせてくれる、英雄の存在を。

 

 例えどれだけ足掻こうが、努力しようが、私では英雄に近づくことも出来ないだろう。そもそも英雄願望が無い。

 いくらまだ小学生と言えど、ヒーローに憧れる時期はとうに過ぎ去っていた。

 それでも、今私が見ている光は希望なのだと信じたい。

 このゲームは攻略できるのだと。

 だからこそ私は、自分の殻から一歩足を踏み出すことにした。

 この残酷な世界に足を踏み入れると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『職人という戦い方』

 

 街で噂となっている一人のプレイヤーは、実在するのかどうかもわからないあやふやな存在だ。

 それでも火のないところに煙は立たないという様に、もしかしたら存在するのかもしれないのだ。

 考えたところでその存在性を証明することなど出来ないが、それは正直どちらでもいい。

 一人で攻略しようが複数人で攻略しようが、第一層が突破されたという事実があれば、そんなプレイヤーが存在するという事実があることが、私にとっては重要なのだ。

 このデスゲームが始まって直ぐの頃は、私も他のプレイヤー同様宿に引き籠もる様にその日その日を過ごしていた。

 けれど、この過ごし方は私の性分ではない、私は私なりの道があるのではないか、次第にそう考えるようになった。

 しかし、フィールドに出てモンスターと戦うというのも、それはそれで何かが違う、それは私の役目ではない、そんな気がした私は、別の道を模索することにした。

 そして見つけたのが鍛冶師という道。

 

 モンスターと戦い道を切り開く様な華々しさは無い。

 地味な職業かもしれない。

 臆病者と誹りを受けるかもしれない。

 それでも私は、剣士として戦うプレイヤーを支える、そんな鍛冶職人になりたいと考えた。

 いずれ私の作る武器が、プレイヤーを救うと夢見て。

 それが私なりの戦い方だと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『極寒の夜に』

 

 科学の類に造詣が深い訳でも、ましてや深くのめり込むほど興味を持っているわけでもない私は、ブラックホールというものは、ただ漠然と「色んな物を吸い込むもの」程度にしか認識していない。

 

 過去に一度だけ見たその光景は、正しくブラックホールと呼ぶに相応しいことは知っていたはずだった。

 私では直ぐに限界に達する量をあっという間に平らげてしまい、それでもなお足りないという彼女の胃袋の程は、目の前で見た私が一番良く知っているはずだった。

 にも関わらず、私は一つ大きなミスをしてしまい、彼女が満腹になるまでご飯をごちそうすることになってしまったのだ。

 一杯、また一杯と追加されていくテーブルの上は、見る者全てを驚愕させるほど。

 今こうして食べている間も、周りの客は彼女の食事風景を見て絶句してしまっている。

 新たに入ってきた客など、それを見て無言のまま引き返してしまったほどだ。

 

 既にどれほどの時間が経過したのかなんてわからない。

 情報屋としてそれなりに稼いでいるつもりではあったが、それでも彼女の胃袋を満たすことは叶わなかった。

 所持するコルがそろそろ尽きそうになった頃、私は彼女に嘆願し、漸くその食事を終えたのだが、その頃には既に今日の宿代ギリギリになっていた。

 

 ―――現実世界に戻れたら、ブラックホールについて調べてみようかな。

 

 思わずそんな現実逃避をしてしまう。

 もう二度と、このようなミスはしないと心に誓った。

 

 その日のベッドの中は、何故だかとても寒かった。

 




本編の続きが思いつかなかったので、一度脇道にそれてみることにしました。

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