機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト 作:幻龍
ザフトがスエズ基地を陥落させたことで、連合軍は一時動揺したがスエズ周辺からザフトを駆逐するという言葉をかけて、士気を上げることに何とか成功し、予定通りザフトとの一大決戦を行うことになった。
その軍勢の中にはムルタ・アズラエルの姿もあり、彼は連合軍の将兵に発破をかけていた。
「ここで勝利しなければ我々はザフトに敗北して和平をするしかありません。何としてでも勝利してください」
「わかっている。御自慢の新型の活躍に期待してもよろしいのですかな?」
「ええ。彼等を存分に使う予定ですので、御安心ください」
アズラエルは連合軍の旗艦に乗っていた。理由は無論新型を扱うパイロットを制御する為だ。
新型機のパイロットは色々と問題があるので部外者に探られない為に、誰も逆らうことができない自分が艦に居座る必要があった。
「今大戦の趨勢を決する戦いになります。連合将兵の奮闘を期待しますよ」
連合軍ジブラルタル及び北アフリカ方面に接近の報がザフトにも入り、いよいよ決戦が始まった。
「いよいよだね。準備は万全?」
「ああ。今回の作戦がお前とジークの連携が鍵の一つでもある。精々派手に暴れてくれよ」
「わかりました。そして、時がくれば率いている部隊と共に後退ですね」
「ああ。敵もエースクラスをぶつけてくるだろうから、それはキラ、お前と遊撃役になるアスランで早めに潰してくれ」
「わかりました。全軍の指揮は頼みます。バルトフェルドさん」
キラとジークはそう言って出撃していった。
キラ達が飛び立って数分後。遂に連合軍とザフトの戦端が北アフリカで開かれた。
序盤は数で勝る連合が優勢であった。
破壊しても破壊しても現れるMSや戦闘機にザフト将兵は辟易するほどだった。
「本当に数だけは多いね。まるで蝗の大軍だ」
「そうですね」
キラとジークはフリーダムとジャスティス専用装備タスラムを使い、次々と連合のMS部隊や戦闘機部隊を破壊していく。連合はこの2機相手にすでに100機近い損害を出しており、中央の連合軍の被害は左右の倍以上出ていた。
『キラ、ジーク。そろそろ中央は後退を開始する。殿は頼むぞ』
「了解」
バルトフェルドの指示が一斉に中央ザフト部隊に伝わり、ザフト中央部隊は後退を開始していく。
中央(被害が大きくなりそうだったので押し付けられた)の連合軍を指揮していた東アジア共和国出身の司令官は、これを好機と判断して追撃を命じた。
「これはチャンスだ! 戦後の取り分を増やす為に追撃せよ! ザフトに大損害を与えるのだ!」
東アジア共和国はこの大戦でいいとこなしだったので、ここで戦果を上げないと連合内での発言力が低下しかねないと危惧していた。その為シナ出身の司令官はここが好機とばかりに攻勢に出て敵を粉砕することにしたのだ。そして、その命令を受けて一番先行している東アジア共和国の一部の将兵達は、我先にと手柄を求めて進軍を開始した。無論罠を疑った大西洋連邦とユーラシア連邦司令官は制止を促したが、目の前の軍功に目が眩んだ中央軍には届かなかった。
「攻撃が激しくなってきたな。しかし、予定通りだ。このまま敵軍を誘い込んでやれ」
ザフト中央が後退する程連合軍の中央は突撃して深入りしていく。その間ザフト中央部隊は激しい攻撃に晒され被害が徐々に出てきたが、中央部隊は命令に従いよく耐える。
そして、敵中央軍が左右ザフト部隊に完全に挟まれる陣形になった瞬間、反撃の狼煙が上がる。
「よし! 左右の部隊の一部は深入りしたバカな奴らの横と後ろから喰らいつけ! 中央も逃げるのはここまでだ! 遠慮なく暴れろ! それと降下部隊は降下開始だ! 連中の背後に周りこめ!」
バルトフェルドの合図と共にザフトは一斉に攻勢に転じる。
中央の連合軍は前後左右をザフト部隊に挟まれてしまい一気に窮地に陥った。更にザフトの降下部隊が連合軍の司令官がいる陣地に降下して、敵司令部を討ち取ることに成功し、連合軍は指揮官を失い一時指揮系統が麻痺してしまうのであった。
ザフト部隊が反攻に転じる少し前。ザフト左翼を任されたイザーク率いるジュール隊は、連合に一歩も引かず戦線を維持していた。
「ディアッカ! 散弾を敵MS部隊にばら撒いて牽制しろ! 二コルはディアッカの護衛だ!」
ジュール隊はイザークの指揮と彼自身の腕により獅子奮迅の活躍をしていた。
「敵さんまるでゴキブリの様に湧いてくるな。撃っても撃ってもきりがないね」
「ディアッカ! 無駄口叩いている暇があったらどんどん撃て! 敵は待ってくれんぞ!」
「わかってるって!」
ディアッカは連合の戦闘機部隊にバスターからミサイルを放ち、敵機を撃墜する。
「ディアッカ! 次はあそこにいる敵MS部隊に砲撃を叩き込め!」
「了解! まったく人使いが荒いね」
イザークの指示に従い、敵MSを砲撃で破壊したディアッカは愚痴を少し垂れながら、砲撃で穴の開いた場所に斬り込んでいくデュエルの後を追うのであった。
反攻に転じたザフトは誘い込まれた敵中央部隊に猛烈な攻撃を行い、徐々に連合軍を押し始める。
「敵は罠に嵌まったな」
「策は成功ですね」
「ああ。後はこのしつこいMS2機を追い払わないといけないな」
キラとジークが乗るフリーダムとジャスティスは、現在フォビドゥンとレイダー相手に激戦を繰り広げていた。最初はカラミティと共に3機で襲いかかってきたが、連携が取れておらず仲間も構わず撃つ性質を利用して、早々にカラミティをタスラムのビームサーベルで、真っ二つに切り裂いて撃墜することに成功した。
「じゃあ、止めを刺すとしようか」
キラの中で何かが弾ける。
タスラムをパージしたその直後フリーダムの動きがいつも以上に鋭さが増し、フォビドゥンの偏向ビーム砲を擦れ擦れで躱して、コクピットにビームサーベルを突き刺す。
「うわあぁぁぁ!」
フォビドゥンのパイロット、シャニは断末魔を上げながら機体と共に爆散した。
「シャニ!?」
クロトは同僚のシャニが撃墜されたことに驚くが、彼もすぐに後を追うことになった。タスラムをパージしたジャスティスが、近距離まで肉薄してきたのだ。レイダーはこれをプラズマ砲で迎え撃ったが、シールドに阻まれてしまい、ゼロ距離まで接近された瞬間コクピットに向かってジャスティスの、ビームサーベル二本を連結させたアンビデクストラス・ハルバードで串刺しにされる。敵機のコクピットを串刺しにしたジャスティスは、ビームサーベルを抜くと素早く後ろに下がり、レイダーが爆散するところを見届ける。
「敵エース機3機撃墜。ジーク。戦線に戻ろう」
「わかりました」
キラとジークはガンダムタイプ3機を撃墜した後、中央戦線に戻り敵軍に容赦ない追撃を開始するのであった。
「これで敵中央軍は壊滅だ。この決戦、僕達の勝ちはほぼ決まりだろう」
「そうですね。左右のザフト部隊も連合軍相手に奮戦していますし、敵陣形が崩れた今絶好の好機です」
キラはフリーダムのフルバーストモードを敵MS部隊に容赦なく撃ちこみ、ストライクダガーやロングダガー等を次々とスクラップに変えていく。ジークもジャスティスのビームライフルや、ファトゥム-00に備えられている火砲を一斉に掃射して、敵MS部隊を蹴散らしていった。
そのフリーダムとジャスティスの猛攻に、中央軍は遂に戦線を放棄して逃走を開始したが、完全に包囲されているので脱出は容易ではなく、前後左右から容赦なく攻撃が降り注いだ。その為被害が続出して包囲網を脱出できたのは2割程度だった。
中央軍が壊滅してしまい、中央のザフト部隊が左右の連合軍を包囲する構えを見せたので、連合軍は敗北を悟り、撤退を決意した。
連合軍敗走の報は総司令官が鎮座する旗艦に即座に入った。
「敗北したですって!?」
「はい。アフリカ決戦は我が軍の敗北に終わりました。現在連合軍は退却を始めていますが、追撃によって次々とやられているらしく、どこまで生還できるかは不透明です」
アズラエルは敗北の報を聞き一瞬呆然とした。そして、すぐに我に返ると将兵に何故敗北したのか、怒りの表情を浮かべながら尋ねた。
「中央軍が後退するザフト部隊に追撃を敢行しました。しかし、それが罠だったようで中央軍は前後左右から包囲されてしまい、包囲網を破って脱出したときはほぼ全滅しており、中央軍は退却を開始しました。その後、中央軍を追撃していたザフト部隊は左右の我が軍を半包囲するように動いたため、退路が断たれる前に退却を行うことにしたようです」
「中央軍の司令官は何をやっていたんだ!? ザフトの罠に簡単に引っ掛かるなんて!?」
アズラエルは中央軍を指揮していた司令官を罵る。ある程度罵った後気持ちが落ち着いたのか、表情はいつもの調子に戻り、これからどうするかを検討し始める。
(ここで敗れた以上は和平しかもうないだろう。この戦いで連合軍は大打撃を受けた。政府は戦後の為にもこれ以上軍が被害を受けることは避けにくるだろうし……手詰まりか!?)
アズラエルはコーディネイターを叩き潰す野望が、夢に終わったことに腹を立てて歯軋りする。
「司令官。退却をお願いします。こうなればどれだけ被害を少なくして退却できるかに立て直しに大きく影響しますので」
「道理ですな。全軍退却準備。敗走する自軍を収容しだいアメリカ大陸の基地に帰還する!」
連合軍は退却を開始した。しかし、旗艦は無事に基地に帰ることは叶わなかった。
「敵機前方から接近! MSです!」
「何!?」
アズラエルは思わず椅子を乗り出して前方を見る。メインカメラの映像に、天使を思わせる青い羽を持ったガンダムタイプのMSが映し出される。
「僕にも守りたいものがあるんだ! だから、君達を撃たせてもらう!」
キラはコクピットでそう叫び、敵の対空防御を掻い潜って、バラエーナプラズマ収束ビーム砲を敵旗艦に撃ちこんだ。
フリーダムのビームキャノンの直撃を受けた連合軍旗艦は受けた部分に穴が開き、そこから火が噴き出して内部から爆散し轟沈する。
キラは敵旗艦を撃沈した後、すぐにこの場を離脱して味方の元に帰還するのであった。
後にアフリカ決戦と名付けられるこの戦いは、ザフトの巧みな戦術と連合軍の采配ミスにより、ザフト側が勝利を収めるのであった。