機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第12話

 オーブからの避難民を乗せた避難船の中で、1人落ち込んでいる少年がいた。

 彼の名はシン・アスカ。オーブから避難してきたコーディネイターである。

 

(父さん……。母さん……。マユ……)

 

 シンは妹であるマユ・アスカの落とした携帯を拾った為に家族の乗った避難船に乗ることができず、仕方なく違う避難船に乗り込んで避難した。しかし、先に出航した避難船が何者かに撃沈されてしまったという話を耳にして、彼は絶望の淵に落とされることになった。詳しく話を聞いたものの、乗っていた人達の安否は不明らしい。

 

 シンは座って顔を俯かせながら、理不尽な世の中に抗うことができない自分の無力さを呪うのであった。 

 

 

 

 

 オーブは国を守るという信念の元、自国将兵に多大な犠牲を出しながらも、連合軍を何とか押し返すことに成功した。しかし、被害は甚大であり立て直しを行う前に連合軍の再攻撃が行われれば、一気に戦線は崩壊して蹂躙されることは誰の目を見ても明らかだった。

 

 オーブ行政府ではカガリが父ウズミとオーブの現状を見て、ある件について意見を対立させていた。

 

「お父様! 義勇軍を受け入れましょう! そうすればオーブを守ることができます!」

「何を言うか! ザフトの手を借りてしまえば我々はプラントの言うことを拒否できない立場になるのだぞ!」

「しかし、国は守れます! このままではオーブが焼かれるのを私は黙って見てられません!」

 

 カガリはストライクルージュで戦場に出撃した。だが、連合のMS部隊の数相手に苦戦してしまい、味方が次々とやられ蹂躙させるを間近で見せつけられた。その結果、オーブ軍だけでは避難が完全に完了するまで連合軍を押しとどめることさえできないと悟った。

 

 そして、カガリはオーブ行政府に戻ってくるなり、父ウズミに義勇軍受け入れるように要請したが、その意見に頷くことはなかった。

 

「国がなくなれば国是も何もありません!」

「カガリ! 受け入れた後はどうなるかわかっているのか! プラントはそれを理由にオーブに軍事支援を要請してくる可能性が高いのだぞ! そうなれば連合に屈したのと変わらん状況になるのだ!」

 

 カガリとウズミの話し合いは平行線を辿り、カガリはストライクルージュの整備の為という口実で一旦、行政府を出て行った。

 しかし数分後、カガリはストライクルージュに乗って行政府に戻り、無理やり父であるウズミを行政府から叩き出し、行政府を掌握してオーブ国民を1人でも救うべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 カーペンタリアに帰投したキラは、衰弱していたマユを医療班に預けると、撮影した映像等を整理して報告書を出す為、自室のデスクに向かっていた。

  

 そして、報告書を書き終えて休憩を行っていたら、アウグストから緊急事態に使われる秘匿通信で通信が入ってきた。

 

「義勇軍出撃ですか!? オーブ行政府は拒否していたのでは?」

「いや。急遽受け入れの要請が来た。どうやら、オーブ行政府は断固反対していたウズミ・ナラ・アスハを排除したらしい」

「今更派遣してもオーブの敗北は確実です。正直焼け石に水になりますが……なるほど。時間稼ぎですか」

「そうだ。オーブ行政府は宇宙にあるヘリオポリスへ脱出して亡命政権を樹立すると内申打診してきた。プラントにはそれを認めてほしいとのカナーバ議長に要請してきた」

「亡命政府を認めるかどうかは会合で審議する必要がありますが、義勇軍の派遣許可は出したのでしょう?」

「ああ。評議会で審議されるがすぐに了承されるだろう。宇宙にいる義勇軍は降下する準備を始めている。すぐに地上にいる部隊にも出撃準備命令が下される」

「わかりました。当初の計画通り連合軍へ目に物見せてやります」

「頼んだぞ。引くタイミングは現場の判断に任せる」

 

 通信が切れた後キラは迅速に準備を行って命令を待った。そして、義勇軍の出撃命令が国防委員会から下され、カーペンタリア基地からオーブに向かって再び出撃した。

 

 

 

 オーブは地球連合政府と交渉を行おうとしたが、連合政府はそれを黙殺して何も回答を寄こさなかった。アズラエルの「今更オーブが何を言ってきても、ここまでやった後ならば最早意味はありませんよ」という言葉通り、今更連合軍はオーブ侵攻を取りやめる気はさらさらなかったのだ。

 

 連合軍は再び侵攻を開始した。敵戦線はすでに半ば瓦解したも同然であり、今回の攻撃でオーブ全域を占領できるだろうと考えていた。ちなみに調子に乗って後先考えずに敵・味方を攻撃した新型Gのパイロットは、エネルギー切れと薬切れを起こして撤退し、最初の攻撃を中断させる一因になった結果きついお仕置きを受けたので、今度こそやってやると気合いを出して出撃していった。

 

「これで終わりですね」

「ええ。マスドライバーを制圧する為の道を切り開きます」

「頼みますよ。これでやっと反攻作戦が実行でき「た、大変です」……何事ですか?」

 

 アズラエルは大声を上げた管制官を見る。

 

「我が軍の後方にザフト部隊が接近してきます! また、ザフト降下部隊をオーブ上空に確認! オーブ軍を援護しているようです!」

「何ですって!?」

 

 アズラエルは管制官の報告に驚愕した。まさか、オーブが国是である中立を捨て、ザフトに救援を頼む等予定外の出来事が起こったのだ。アズラエルでなくてもウズミを知る人物なら誰でも驚くだろう。

 

「国際波通信を傍受しました。『我らは義勇軍なり。ザフト正規部隊に非ず』だそうです」

「義勇軍の派遣ですか……建前上の理由としては悪くない手を使ってきましたね」

 

 オーブを援護する為の方便だろうが、これは厄介なことになった。

 連合軍はオーブ軍とザフト部隊両方を相手にせねばならず、おまけにこのままだと背後を取られてしまい、挟み撃ちにされる恐れが出てきた。

 

「全軍一時後退してください。敵に挟撃されない位置に移動して、救援に来たザフト部隊諸共オーブ軍を粉砕します」

「わかっている! 撤退信号を出せ! 艦隊は挟撃されない位置に後退する!」

 

 連合軍は挟撃を避ける為に撤退を行うべく信号弾を打ち上げた。それを見た連合軍は次々と撤退を開始するが、ザフト部隊は容赦のない追撃を行い、敵に損害を出すことに成功するのであった。

 

 

 

 

 

 連合軍が後退していくのをボズゴロフ級潜水母艦で確認し、一時的に連合を追い払えたことにキラは安堵していた。

 

「オーブ到着後、オーブ側と意見交換を行うことになるかもしれない。最もこの様子だとオーブは長く持たないから、全将兵はいつでも撤退できる様、準備をしておくようにと通達しておけ」

「了解です」

 

 艦長はキラの言葉に肯いた。義勇軍は精鋭を集めたが数は少なく、連合が本腰を入れてきたら数に押し切られるしかないのだ。

 

「さっそくオーブに向かって……「緊急事態です」どうした?」

 

 キラは急に声をかけてきた、ジークに何があったかのか尋ねる。

 

「連合軍が再び侵攻を開始しました」

「もう、態勢を立て直したのか? いくら何でも早すぎるぞ」

「どうやら、挟撃できない位置に移動した後、すぐに予備兵力のMS部隊を出撃させたようです」

「そうか……オーブ軍の態勢を立て直す隙を与えない方が得策と判断したか……」

 

 連合が予備兵力をこんなに早く投入してきたことに、キラは内心驚いたがこれでオーブ軍の態勢を立て直す時間がないことを悟った。

 

「仕方がない。僕は出撃する。指揮は艦長に任せるよ」

「了解しました」

 

 キラはそう言って艦長に指揮を頼んだ後、自らは出撃する為に、フリーダムの元へ向かうのであった。

 

 

 

 

 オーブ側は一時後退した連合軍が再び攻め寄せてきたことを確認した後、国防軍を再び展開し、ザフト部隊に援護を要請した。ザフト部隊はその要請に頷き各地でオーブ軍と共に連合軍と戦いを行う。

 

『オーブ行政府は宇宙への脱出を行うようです』

「要するに亡命するまでの時間稼ぎを行ってほしいんだな」

『はい。幸い民衆の避難は終わっているそうなので、あとはオーブ行政府の人間だけらしいです』

「わかった。精々派手な陽動を行ってやるさ」

 

 キラは眼前の連合軍MS部隊をフリーダムの砲撃で次々と破壊していく。

 

「キラ参謀長。突出しすぎないでください。援護が難しくなります」

「ごめんね、付き合ってもらって」

 

 そこには裏の目的の対象であるアズラエルがいる。奴さえ始末すれば交渉が捗ることは間違いないのだ。

 

「気にしないでください。無茶はしないという条件だから、付き合ったのです」

「わかっているって。無理そうなら素直に諦めるつもりさ。でも、やれるだけやるよ」

「わかっています。ここまで来た以上は一隻でも多く沈めておいた方が後々楽ですし」

 

 キラのフリーダムとジークリンデのジャスティスは、連携して敵MS、敵戦闘機、敵艦船を持ち前の火力で沈めていく。

 

 何とか敵の総大将を討ち取るべく、自分達を迎撃してくる敵機を蹴散らしながら敵旗艦への道を開こうと奮闘するが、その機会が来る前に味方から通信が入った。

 

『キラ参謀長。オーブがオノゴロ放棄を決定したそうです。それと義勇軍はいつでも撤退してもいいとオーブ側から通達がありました』

「(時間切れか)そうか……全部隊に撤退命令。例のポイントに集合せよ」

『了解です』

 

 キラは旗艦からの通信を終え、フリーダムを撤退場所の方向に向ける。

 

「ジーク撤収だ。アズラエルを討ち取るのは次の機会にしよう」

「了解です」

 

 フリーダムとジャスティスは追撃してくる敵機の攻撃を躱しながら戦闘宙域から離脱するのであった。

 

 

 ザフト義勇軍が撤収した直後。オーブ行政府の面々は一部を除き、マスドライバーで宇宙へと脱出した。残った面々は最後の抵抗とばかりに、マスドライバーとモルゲンレーテを自爆させることで、連合軍の目論見を頓挫させるのであった。

 

 

 

 

 そして、同時並行で行われていたビクトリア攻略戦もこの頃になると終結に向かっていた。

 バルトフェルド率いるザフトMS部隊は、彼の指揮により見事な動きを見せ徐々に後退しながらも、連合軍に無視できない大打撃を与えることに成功した。

 バルトフェルドはビクトリアからの撤収が完了したことを確認した後、最後に今までの後退が嘘の様な猛攻を加え、連合軍を混乱させてジブラルタル方面に撤退した。

 

 連合軍はバルトフェルドの部隊がビクトリアに撤退しないのを見て、嫌な予感がしたのか進軍を急がせたが、そこにあったのは容赦なく破壊されたマスドライバーの姿だった。

 連合軍はオーブに続いて、ビクトリアでの作戦に失敗してしまい、連合の反攻作戦は最初から躓いてしまうのであった。




連合はマスドライバー両方の奪取に失敗しました。

マスドライバーといえば疑問に思ったことがあるのですが、何故ザフトはビクトリアのマスドライバーをさっさと破壊しなかったのかな? マスドライバーがザフトにとっても貴重な物らしいですが、アラスカとパナマで戦力を消耗した時点で守りきるのは不可能とわかっていたはずなのに? やっぱり貴重な物をなるべく壊したくないという、目先の利益に囚われていたせいなのか……。

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