カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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捌続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 俺は時臣を誤解していたみたいだ。

 

 今迄俺は時臣を完璧主義であり、当然の様に完璧に遣り遂げる超人だと思っていた。

 実際今迄遣る事成す事全てムカつくくらい余裕を持って完璧に熟していた。

 そして常に前より上の結果を求め、更にそれを以前と同じ様に乗り越えていた。

 はっきり言って葵さんの幸せを想って身を引くというか逃げ出したのは仕様がないと思えた。

 …………ついさっき迄は。

 

 

「バカですね~、この金ぴかさんのマスター」

 

 超望遠カメラに捉えられた映像を見、楽しそうとも呆れているとも取れる表情と声で感想を呟いた。

 ……俺に向かって言われているわけではないが、自分では届かないと想っていた相手をバカにされると俺もバカにされてるようで泣きたくなる。

 

「アサシンっぽそうな……と言うかほぼアサシンでしょうけど……兎に角アサシンが進入してから迎撃に移る迄が早過ぎです。

 しかもあんな偉そうなのが姿を見せてアサシンを倒すとかまずないです。

 と言うかこんなに宝具を持ってて金ぴか成金の王様っぽくて偉そうなら、十中八九ビルガメシュ……日本じゃギルガメッシュですか? まあ、兎に角ギルガメッシュで決まりですね」

 

 俺も全く同じ意見だ。

 だからこれ以上解ってることを言って、俺の精神も纏めて攻撃するのは止めてほしい。

 

「大方、宝具を大量に見せることで宝具を特定させずに真名も隠した儘脅威と思わせたかったんでしょうけど、神霊を除けばアレだけ節操無く色んなの持ってそうなのは王様だけだって絞れますし、王様だって絞れれば後は消去法で直ぐに解るって気付かなかったんですかね~?

 大体、あんな一方的だと同盟組まれてボコられて直ぐ終るって、性善説を本気で信じている人以外なら幼稚園児でも気付きそうですから、あのサーヴァントのマスターはただのバカか縛りプレイ好きのマゾの二択でしょうね。

 それにアサシンの侵入から迎撃迄の時間が不自然に短い以上、アサシンのマスターとギルガメッシュのマスターが繋がっていると自白してるのと一緒ですよね。

 なら自ずとやられたアサシンは偽者か分体か、若しくは魔術関係で幻惑関係を見せていたかの三つに絞れますし、どれであってもアサシンはまだ退場していないってことですから、油断してるところに暗殺や情報収集に走るってとこでしょう。

 

 ……よくもまぁ此処迄杜撰な計画で多くを望んだものです。

 身の程を知らないバカが無い知恵絞ったってバカを晒すだけだってどうして気付かないんでしょうかね?」

 

 ……もう何かごめんなさい。 

 

「結局真名をバラしただけでなくアサシンのマスターと繋がっていることもバラした上、アサシンの宝具が偽者作成か分体可能か非暗示系幻惑のどれかだろうって情報もバラし、トドメにこれからアサシンが暗躍するって言ってる様なもんですからね。

 しかもコレでアサシンのマスターが監督役の所に逃げ込んだりしたら、もう裏で全員繋がってますって言ってるのと同じですよね。

 

 ……一体全体このおバカさんは何をしたいんでしょうかね?

 頭にプリンでも詰まってるんですかね?」

 

 …………人類の皆さん、平均点下げてごめんなさい。

 

「全く、こんな人類の平均点を下げてる奴がマスターに選ばれるなんて、きっと御三家は魔術回路さえあればマスターになれるとかいう特権が在るんですよ。

 いやですねー、バカが特権を得てるとか。

 本来特権とはご主人様の様……な…………、ど、如何されたんですかご主人様?

 

 な、何だか人生ずっと敗北し続けた人の様ですよ?」

「…………体は普通の生まれである。

 血潮も普通で、心も普通。

 ただの一度も勝利は無く、ただの一度も引き分けすら出来ない。

 小市民は常に一人、場末の酒場で管を巻く。

 故に生涯に意味は無く、その身はただの凡人だった…………」

「ちょ!? ご、ご主人様!?

 なんか私地雷踏みました!?

 それともキャスターからの電波攻撃ですか!?」

「答えは得た。

 大丈夫だよ玉藻。

 俺もこれから頑張っていくから」

「こんな状況で名前で呼ばれるとか最悪です!?

 私の思い描いていた甘酸っぱい夢を返して下さい!」

「さらばだ。

 理想を抱いて溺死しろ」

「ちょっ!?!?ちょっとご主人様!?!?!?」

「ではな玉藻。

 …………いや、中中に愉しかったぞ」

 

 何だか騒いでいる玉藻を無視し、俺は大きく首を逸らして壁に頭を叩き付けた。

 

 

 

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「え~、何と言うかごめんなさい?」

「いや、謝られると又壁に頭を打ち付け捲りたくなるから謝るな」

 

 何故だか玉藻の言葉が心にグサグサザクザクドスドス突き刺さり捲り、気が付けば若干錯乱してワケ解らないことを言いまくった挙句、壁に何度も頭をぶつけ続け、最後は壁に頭をめり込ませた儘気絶したらしい。

 

「……しっかし、直接俺に言ったわけでもないのに心を切り裂き捲るんだから、相当な腹黒毒舌キャラだよな」

 

 壁の穴に砕け散った欠片を液状化させて(常温で液化してるっぽい)流し込んで綺麗に塞いでいる最中の玉藻に声を掛ける。

 

「いえ、毒舌は百歩譲って認めますけど、腹黒は心外です。

 少なくてもご主人様に対して腹に一物抱えてるとかは一切無いです。

 あ、た・だ・し♪胸に秘めきれない想いは在りますよ?」

「腹から競りあがってるだけだろ?」

「失礼ですねー。

 私のお腹から競り上がるのは、ご主人様とグチョニチョな夜を過ごした後の悪阻だけですっ」

 

 無駄に可愛げの有る表情と仕草が腹立たしかったが、とりあえず無視して忠告というか警告することにした。

 

「末期の時迄夢で終わりそうな妄想は兎も角、お前の毒舌は周りの心も抉り捲るから、なるべく控えてくれ。

 少なくても桜ちゃんの前では控えろ。

 特に中学上がる迄は悪影響が強過ぎるから、マジで控えろ。

 まあ……俺的には中学どころか高校入っても言ってほしくないが、あんまり過保護にするのも問題あるから、その辺で譲歩してやる」

「……ご主人様って何気に破壊力の有る言葉を気付かずにポンポン言いますよね」

「うん?

 別にお前と違って心を抉り貫く様な発言も、周りに飛び火する様な破壊力の有る発言なんてしてないだろ?」

「いえ、気付かないなら気付かないで別に構いませんから。

 気付かれてしまえば、雑な言葉を浴びせる中、然り気無く炸裂させる破壊力の有る言葉が無くなってしまいますからね。

 

 ご主人様の破壊力の有る言葉や仕草や行動は、私の傷付いた心を限界突破させて回復させるご褒美ですから、止めてもらうわけにいきません」

「いや、破壊力の有る言葉や行動がご褒美とか、お前どんだけ変態なんだよ?

 流石に俺は嗜虐や言葉責めの趣味嗜好は持ち合わせていないから、お前の倒錯した趣味嗜好には付き合うつもりは無いぞ?

 そういうのがしたかったから、北海道のすすきののクラブにでも行ってくれ。マジで。

 

 駆け出しの頃に取材に行ったっきり二度と関わってないからまだやってるか判らんが、コアなファンが大量にいたっぽいからまだやってるはずだぞ。

 だからどうか俺や桜ちゃんにその類の性癖を感染させるなよ?」

 

 幾ら多くの文化に触れてるからといっても、SやMの倒錯した趣味嗜好に巻き込まれるのは許容範囲外だ。

 と言うか、悪態吐いてるからといって言葉責めもOKで、チョップを嗜虐嗜好とか思われてるとしたら、心外にも程があるぞ。

 

「ご主人様ー、すっごく失礼ですよー。

 イライラしてムカムカするくらい」

 

 寒気を感じる紫紺のオーラを全身から発され、言外に、[はよ謝らんかい、ワレ?]、と言われてしまい、急いで謝ることにする。

 

「す、すまん。

 そうだよな、少数派(マイノリティ)だからって頭から否定するのは良くないよな。

 うん、本当にすまなかった。

 

 マイノリティが周囲の視線から逃れたり合わせようとしてる様に、俺達はマイノリティを理解しなきゃいけないよな。

 たとえ相容れないとしても相互理解を深めれば互いに納得出来る妥協点を見つけ出せて、暴走や迫害の可能性を消して幸せに暮らせるもんな。

 

 ……うん。

 玉藻、俺はお前の趣味嗜好が一般から大きく逸脱していて後ろ指を指された挙句陰口どころかあからさまな誹謗中傷を受けて社会のゴミ扱いされて誰も眼すら合わせてくれなくなっても、俺は頭からお前を否定するなんてしないからな?」

「(本気で言ってるからムカつきますけど、冗談で言ってたら真昼間に裸で女子高の屋上にでも転移させてますね。今の台詞は)……ご主人様、私の性癖は至って普通です。恋する可愛い女の子なら誰でも持ってる程度のモノです。

 いいですかご主人様?女の子は好きな人にはちょっとくらい強引や乱暴にされたいものなんです。リードされたいものなんです」

「お前は美女だが、可愛い女の子とは断じて認めん。

 全国の美少女代表の桜ちゃんに謝れ。土下座して謝れ。〔調子乗っててすみませんでした。年齢や外見や服装や雰囲気とか鯖読み捲りました〕、って謝れ。

 

 後、一度普通という言葉の意味を広辞苑で調べてみろ。

 どれだけ普通という言葉を冒涜しているか思い知れ」

 

 桜ちゃんを冒涜する様なこと言った上、普通をこよなく愛する凡人の俺の前で普通って言葉を冒涜するとか、どれだけ地雷を突く真似をすれば気が済むんだか。

 ったく、呆れと疲れの混じった溜息が零れてしまったな。

 

 駄目だ駄目だ。こんなんじゃただでさえ遠い幸せが余計遠退いてしまう。

 と、思った次の瞬間、凄まじい勢いで玉藻が顔を近付けてきて捲くし立て始めた。

 

「ご、ご主人様!

 ワンモア!ワンモアプリーズ!

 

 後で幾らでも桜ちゃんに謝りますし広辞苑を読破ぐらいしますから、もう一度、[お前は美女]、って言って下さい!眼を見て言って下さい!」

「っっっぅぅぅ!?!?!?」

 

 やってしまったよっ!

 つい考え無しに言ってしまったっ!!

 

「き、聞き間違えだ!」

「いえ、私のフォックスイヤーは確り聞き取りました!

 断じて聞き間違いではありません!」

「なら俺の言い間違いだ!!」

「それもありません!

 ご主人様は言い間違えたなら直ぐに気付きますし、溜息を吐く迄の間についさっきのことを回想していた筈ですから、気付くならその段階で間違い無く気付いてます!

 つまりさっきの発言はご主人様が何気なく漏らす程私がご主人様の心の深い所に居るってことですよね?ですよね?そうですよね?

 

 や、やりました!

 今度は文句無しの正攻法でご主人様に美女って言わせました!

 これは最早玉藻ルートに入ったと見て間違いありません!!」

「間違いあるわボケ!

 お前のルートなんて俺が桜ちゃんの力になろうと聖杯戦争に参加した時点で消えてるんだよ!」

「なら何時ルート分移点が復活するんですか!?」

「い、言う必要なんて無いだろ!!?」

「つまり無いと断言しないってことは、ルート分岐点は復活するってことなんですよね!?」

「うあああああああああああああ!?

 なんたるうっかりいいいいいいいいいいいいいい!!」

「うっかりってことは肯定ですね!?肯定ですね!?!?確かに聞きましたよ!?!?!?」

「馬ぁ鹿かっ俺はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 

 

 その後、日が昇り始めた頃に一定音量を遮断する結界で健やかに寝ていた桜ちゃんが起き、無理矢理話を終わらせた。

 が、桜ちゃんが、[……今夜は確り寝る]、と言ったのを聞き、確り会話を聞かれていたと知り、俺は恥ずかしさの余り燃え尽きた。

 

 

 

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―――――― Interlude In ――――――

  Side:ウェイバー・ベルベット

 

 

 

 征服王イスカンダル。又の名をアレキサンダー大王、若しくはアレクサンドロス3世。

 紀元前334年に東方遠征を開始し、破竹の勢いで各地を席捲するものの、33歳という若さで死去する(一説にはマラリアで死んだとされてるらしいが果てし無く疑わしい)。

 

 当時のマケドニア人達にとって世界とされていた全てを支配したアレキサンダー大王は、死後アラビアやペルシアでイスカンダルの名で知れ渡り、イスラムでは英雄伝説として語られる程になった。

 更にイスラム教によって東アジアに広がっただけでは収まらず、ギリシア文化を受け継いだイスラムやヨーロッパだけでなく、断片的にだがエチオピアや中国にも広がっている。

 しかも情報化社会と言われる今日では、識字率と就学率の高い日本では世界史の授業で一度くらいは聞かされるだろう程の偉人であり、知名度的にも世界屈指と言え、大王を冠するに相応しいと言える。

 

 実際召喚されたイスカンダル(何でアラビア読みでの名前の方を使うのかは解らないが)は、ライダーのクラスなのにセイバーと言った方が良いパラメーターであり、クラスという枷を嵌められ…………癪だが魔術師の基本性能自体は一流とは程遠い僕が召喚して弱体化しているだろうにも拘らず、コレだけのパラメーターなのを考えれば、こいつが大王と呼ばれた英雄なのも納得がいく。

 詳しくは解らないが、多分コイツのパラメーター的に並のサーヴァント2~3騎分の霊格は有るだろう。

 ただ、伝承と大幅に食い違う人となりが激しく気になる。

 

 ざっと憶えただけだからあまり詳しくは知らないが、軍人らしかったり統率に優れてたり勇敢だったり気前が良かったり品が良かったり運が良かったりしただけで憎んで、逆に特に目立つモノが無い将軍を寵愛していたとか、滅茶苦茶器が小さそうな伝承が残っているんだけど、多分こいつはでっかい器の底が全部抜けてる馬鹿だ。

 下手したら針金でいい加減に象った器かもしれない。

 いや、器どころかただのフラフープに違いない。

 底が抜けてたり作り忘れたんじゃなくて、初めから底とかそんなモノが無い別物なんだ。

 だから馬鹿が極まっているんだ。

 そうでなければサーヴァント2騎に正面から喧嘩吹っ掛ける筈が無い。

 

 しかも相手はライダーとパラメーターがどっこいどっこいで最優と言われると首を傾げるが、最優と言われるセイバーと、最速と言われるランサーなんだ。

 おまけにこいつは出会い頭に真名をバラしてくれやがったから、隠せた筈の真名も相手に確りバレてしまってる。

 ……ちくしょう。今思い返せば家の中でパンツも穿かずに隠さない馬鹿が、なんで真名を律儀に隠すなんて思ってたんだ僕は。

 

 大体コイツの当てにならない伝承に、夜襲とかして勝利を盗まないとかいうのがあるのに、何で僕は忘れてたんだ?

 おかげでもう少しで決着が付いたのに、何をとち狂ったのか乱入した挙句真名を晒して勧誘しやがった。

 しかも総スカンされたのに、更に何をとち狂ったのか、[ふむ、セイバーが傷付いたところに入ったから勝利を盗み取る匹夫と思われたか? いいだろう。ならば二人して余に掛かってくるがいい。そして余の偉大さを知るがいい]、って言いやがりやがった!

 先生に脅された時に庇ってくれたり勇者って言ってくれて、……少しだけだけど良い奴だって思ったけど、こいつは良い奴以上に馬鹿なんだって気付いた。

 

 当然矢鱈と気位の高そうなセイバーは激怒し、ランサーも侮辱されたと顔を顰めながら参戦しやがった。

 騎士道的に2対1はどうなんだと叫びたかったが、喧嘩売った挙句挑発したのはあの馬鹿である以上、こっちが文句を言うのは筋違いだって解るのが余計腹が立つ。

 唯一の救いは、巻き添え食ったと思われてるっぽい僕目掛けて襲い掛ってこなかったことだけだった。

 

 

 だけど、殆ど自分の未来を諦めかけていた僕の眼に映ったのは、驚くことにライダーがセイバーとランサーと言う接近戦のスペシャリストを同時に相手にして互角……いや、寧ろ僅かに押している光景だった。

 

 …………押しているのは大いに良いことだけど、幾らセイバーが手負いとはいえ、ランサーと同時に相手取った上で優勢なんて変だと思い、もう一度あの馬鹿のステータスを見てみた。

 

 

 

・・・・・・―――――― ステータス・始 ――――――・・・・・・

 

 

【クラス名】

 

・ライダー

 

 

【真名】

 

・イスカンダル(アレキサンダー、又はアレクサンドロス3世)

 

 

【パラメーター】

 

・筋力:A ・魔力:B

・耐久:A ・幸運:A+

・俊敏:B ・宝具:EX

 

 

【クラススキル】

 

・対魔力:C

・騎乗:A+

 

 

【スキル】

 

・神性:C

・軍略:B

・心眼(偽):A

・カリスマ:A

 

 

【宝具】

 

・遥かなる蹂躙制覇:A+

 

・秘密だ!:EXだ!凄かろう!?

 

 

 

【詳細】

 

 詳しく知りたかったら訊くがいい!

 

 

 

・・・・・・―――――― ステータス・終 ――――――・・・・・・

 

 

 

 何時の間にか心眼(偽)ってのが追加されてる!?

 しかもランクAって!?

 

「おいライダー!

 何だこのスキル!?

 最初見た時は無かったぞ!?」

「がははははははは!

 どうだ驚いたか!?」

 

 そう笑いながらあの馬鹿は僕の居る荷台へと大きく後ろに飛び退って着地しやがった。

 

「いやなに、折角騎乗兵として召喚されたのだから騎乗兵として戦う為にも封印しておこうと思ったのだ!

 所謂縛りプレイと言うヤツだ!」

「知るか馬鹿!

 僕の心配を返せ!」

「心配してくれたのは嬉しいが、坊主、お前はもう少し自分が召喚した余を信頼しろ」

「う、うっさい馬鹿!

 信頼してほしけりゃマスターに隠し事なんてすんなよな!」

 

 こんな馬鹿を心配してしまって恥ずかしくて顔を逸らしたかったが、そうしてしまって隠し事されたことを許したと思われるのは御免だから、精一杯睨みつけた。

 けど、こいつはそんな僕の視線を無視してセイバー達に向き直り、何でこんな所で浮かべるのか解らない子供っぽい笑みを浮かべて言った。

 

「さて、コレで余が勝利を盗み取るような真似をしたという疑いは晴れたであろう。

 

 で、もう一度訊くが、ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲らんか?

 さすれば余は貴様等を朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる」

 

 さっきより凄い自信を漲らせて問い掛ける馬鹿。

 だけど当然結果は――――――

 

「征服王イスカンダル、お前の武練は確かに見事だ。賞賛に値する。

 これ程の武練と気概をを見せ付けられたならば、勝利を盗み取るような輩とは思わぬし、先の発言がただの侮辱ではないと認めよう。

 

 だが、侮辱でないからといって私の答えは変わらない。

 先程も言ったが私はブリテン国を預かる身だ。

 如何な大王と謂えど臣下に下るわけにはいかぬ」

「俺もだライダー。

 

 俺とセイバーの二人掛りで尚互角に渡り合ったお前の武練に俺は惜しみない賞賛を送ろう。

 自らの疑いを晴らす為に不利な状況に身を投じた気概にも好感を覚える。

 

 だがな、生憎と俺が今生にて新たに主と誓って仰いだのはお前ではない。

 俺は新たな主の名誉の為にも、この聖杯戦争で全てのサーヴァントを葬り、主に聖杯を捧げると誓ったのだ。

 悪いが何れその首を取らせてもらうぞ、ライダー」

 

――――――前よりちょっと雰囲気が和らいだだけで、結局駄目だった。

 

「どーすんだよ!?結局駄目だったじゃないか!?

 物は試しで真名をバラした挙句、お前の戦闘力も晒しただけで大損じゃないか!?」

「まぁ、余が匹夫という疑いは晴れたからいいではないか?」

「いいわけあるか馬鹿ッ!

 お前自分のパラメーターだけじゃなくて騎乗してない時の強さも知られたんだぞ!?

 知られてなきゃ油断してる隙に倒せたかもしれないだろが!?」

「この戯けがッ!」

「ふべらッ!?」

 

 ひ、額がッ!額が割れるッ!

 

 でこピンされて焼ける様に痛む額を押さえて悶えていると声を浴びせられた。

 

「油断している奴を倒して何が面白いのだ!

 大体な、これ程胸の熱くなる者がいると解ったならば、尋常に1対1で勝負を決めるのが礼儀というものであろうが?」

「な、何言ってるんですかこの馬鹿はッ!?

 倒せる時に倒さなくてどうするんだよ!?

 

 大体騙まし討ちが得意なサーヴァント――――――」

「おお。そうであったそうであった!」

「――――――だって…………って、解ってくれたかライダー!?」

 

 やった!

 初めてこの馬鹿の手綱を握れたぞ!!

 

 少しはマスターらしく成れたと思って喜んだけど――――――

 

「おいこら!闇に紛れて覗き見してる連中よ!」

「は?

 な、何言ってんだライダー?」

「坊主、余達がセイバーとランサーの清澄な剣戟に惹かれて出てきたが、まさか見ていたのが余達だけということはあるまい?」

「なっ!」

 

――――――手綱を握れたわけでもなければ、覗き見されていたことにすら気付いてなかったと思い知らされた。

 

 そして落ち込む僕を無視してこいつはどんどん話しを進めだす。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。

 なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」

 

 両腕を広げて力一杯夜空へ向けて宣言しやがった馬鹿に言いたい文句は山程あるけど、それ以上にサーヴァントが現れて場がこれ以上混沌化しないことを心から祈った。

 全力で祈った。

 何に祈ってるのかは自分でも解らないけど、とにかく全力で祈った。

 

 

 …………だけど祈りは届かなかった。

 

「我を差し置いて王を称する不埒者が、一世に二匹も涌くとはな」

 

 多分神様や世界は僕が嫌いなんだ。

 そうなんだ。

 

 頭を掻きながら困った様な顔をする馬鹿を全力で睨んだ。

 視線に力一杯、[困りたいのは僕の方だッ!]、て籠めながら。

 だけど当然この馬鹿を気にせずに独り言の様に言い返した。

 

「難癖を付けられた所でなあ……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」

「たわけ。真の王たる英雄とは天上天下に我ただ独り。

 あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 ライダーも大概だけど、今言ってるアーチャーも大概横暴だな。

 

 相手のステータスとかを見忘れてたから声がした方に視線をやって、……色んなコトをを全力で後悔した。

 

「逃げるぞライダー!全力で!!」

「こらこら、どうしたと言うのだ?」

 

 何で平然としてられるんだよ!?

 いや、サーヴァントは相手のパラメーターを見れないから仕方ないかもしれないけど、だったらなんであそこのセイバーのマスターは平然としてるんだよ!?

 

 胸に涌き上がる疑問を問い質したかったが、それよりも一刻も早くライダーを納得させてこの場から離れるためにパッと読み取れた内容を言った。

 

「あのサーヴァント!パラメーターが最低でもA+だ!」

「ほう!?」「「「なっ!?」」」

 

 ほぼ同時に四人全員驚きやがった。

 って言うか何でセイバーのマスターまで驚いてんだ?

 あいつを見てたならパラメーターなんて解ってただろうに。

 いや、今はそんな疑問より、とっとと此処から逃げないと!

 

「驚いてる暇があったらさっさと逃げるぞ!

 このままじゃ的にされちまうぞ!?」

「まあ落ち着け。

 いくらあいつが偉そうだからとて、王を名乗るならば不意打ちなどせん。

 

 そうであろう?」

 

 僕の頭に手を置いてそう言い、それからアーチャーに声を掛けた。

 

「無論だ。

 王たる我が何故貴様ら雑種の不意を突かねばならん?」

 

 ゴミを見る様な……いや、実際ゴミとして見てるんだろうな、あの眼は。

 ライダーのそばに居るから恐ろしい視線に僕も晒されるけど、癪なことにさっき頭に手を置かれてから冷静になった僕は何とか耐えられた。

 尤も、耐えるばかりで会話なんてとても出来ないが、こいつは僕と違って臆せずに会話をしだした。

 

「お前さん、そこまで余達を下に見るならまずは名乗りを上げたらどうだ?

 貴様も王たる者ならば、まさか己の異名を憚りはすまい?」

「問いを投げるか。雑種風情が。王たるこの俺に向けて!!」

 

 爆発的に膨れ上がる怒気。

 アーチャー自身の強大さもあって、怒気が物理的に僕を押した様にすら感じた。

 

 そして怒気だけに留まらず、アーチャーの背後がアサシンを倒した時の様に揺らいだ瞬間――――――

 

「ょっと待てぇっ!?!?!?」

 

――――――サーヴァントっぽくない……どう見ても現代人が、変な体勢と凄く焦燥した顔で転移して現れた。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:ウェイバー・ベルベット

 

 

 







 ライダーの心眼(偽):Aは秘密にしていたのではなく、純粋に書き忘れていただけです。
 ただ、次話でバレることだからと、意表を突こうと思い、修正を放置していただけです。

 一応本編内で表記したパラメーターは見直していますが、後書のパラメーターの見直しは甘く、結構書き忘れがあったりし、ちょくちょく手直ししていたりします。
 ですので、本編に表記されたパラメーターは兎も角、後書に表記されたパラメーターは可也いい加減なものと思って下さい。

 ただ、感想にて、〔玉藻のパラメーターは全てEX表記で構わないのでは?〕、と言う旨の物が在りましたので、そういう感想が多数寄せられればEXと表記を改めます(そもそもA++++を見かけないのは単純にそこからはEXな気がしないでもないですし、信仰補正がされることを考えれば妥当かもしれませんし)。
 が、それ以外に関しては基本的に本文で表記されたパラメーターは絶対です(マスターが代わったり泥に呑まれたりしなければ)。
 後で追加する場合は初めから文字化けで表示したりしますので、後付感は極力排除します(スキルなら、???:?、という感じです(コレも後付臭いですが))。
 まあ、パラメーターなんて所詮遊びの要素ですので、そんな所に張り巡らせる伏線なんて遊びの要素程度ですので御安心下さい。


 それでは最後に、此処迄御読み下さった読者様に、深く感謝を申し上げます。



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