何だか宴会の後から桜ちゃんの雰囲気がが妙に優しい気がする。
表情が抜け落ちた様な貌なのは変わらないが、以前葵さんや凜ちゃんの後を微笑みながら付いて回って居た頃によく似ている気がする。
…………やはり原因と言うか理由は狐の大群だろうか?
たしか欧州にはアニマルセラピーとかの効果が認められたって話だし、人間と違って大型肉食獣でもなければ警戒したりする必要の無い動物に囲まれてるのは安らぐんだろう。
なら…………いっそのこと狐の園状態で暮らしてみるか?
でも過ぎたるは及ばざるが如しと言うから止めた方が良いだろうな。
最悪、[狐が友達です♪ あ、人間には興味は在りませんから近寄らないで下さい]、とかいう状態になりかねない。
て言うか、桜ちゃんに正面から興味無いとか言われたら首吊り自殺しそうだ。
そうでなくても将来彼氏を連れて来た時、[邪魔だから何処か行って下さい]、とか言われたら多分家出してしまう。
うーーーーーーーーーーむ、矢張り此処は威厳や頼り甲斐を見せるべきだろうか?
と言うと………無難にキャンプとかでテントを建てるとかか?
いや、今の桜ちゃんを不便な大自然の中に連れて行っても不快にしか感じないだろうから却下だ却下。
それなら……犬小屋って言うか狐小屋でも作るか?
いやいや、アニマルセラピーは人間への執着や興味を無くしそうだから、一匹でも飼うのは現状では止めとこう。
だとすると…………料理か?
でも料理で威厳や尊敬を得られるのって基本サバイバルだけど、桜ちゃんの好きなお菓子で威厳や尊敬は微塵も得られない気がするな。
………………………………………………………………………………やっぱり女の子と言えども女性であるんだから、同じ女性に意見を聞いてみよう。
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「ふぇ?
女の子が男の方を尊敬したり威厳を感じる時ですか?」
相変わらず作ってる奴の特権で油揚げを使い捲った料理(朝食)を用意しているところに尋ねてみた。
すると口惜しいが見惚れそうな笑顔で直ぐに答えを返してきた。
「そんなのはやっぱり、〔ピンチを救ってくれる方〕、ですよ!」
夢見る瞳で言ってきたが、何か違う気がするのでツッコミを入れることにする。
「いや、それって威厳や尊敬とかよりも憧憬とか恋慕じゃないのか?」
「う~~ん…………、威厳は感じないかもしれませんが尊敬はしますよ?」
「そうかもしれないが、俺が言ってるのは父親に感じる様な威厳や尊敬を感じる状況のことを言ってるんだよ」
「…………はは~ん、さてはご主人様、桜ちゃんにいい格好を見せようとしてますね?」
「うぐっ!?」
大量に笑いを含んだ笑みで図星を突いてきた。
「いや~、やっぱり男の方って何時の時代でも女の人に良い格好を見せたいものなんですね~」
「うっ…………わ……悪いかよ!?」
「いえいえ、全然悪くないですよ?
寧ろそういう男の方が居るってだけで女冥利に尽きますし、女に生まれたら自分の為に頑張ってくれる男の方に巡り合いたいって思うものですから、女からすればそんな男の方は敵味方関係無く好感度が跳ね上がりますよ?
当然私もご主人様への好感度がギュンギュン跳ね上がってますよー」
テンションの上昇に合わせているのか、凄まじい勢いで攪拌される溶き玉子。
…………砂糖どころか黄身も混じってるのに、メレンゲみたいに泡立つってどれだけの速度で攪拌してるんだろうか?
少なくても現代科学で再現するのは結構骨が折れそうな速度だろうとは当たりを付けつつ、俺は恥ずかしい発言から話を戻すことにした。
「ま、まあそれはさておくとして」
一旦両手で何かを脇に退けるジェスチャーをし、改めて話を進めることにした。
「何か桜ちゃんから頼り甲斐在るって思われそうな良い案は無いか?
生憎俺じゃあキャンプか日曜大工か料理ぐらいしか考え付かないからなぁ」
「…………そこで魔法を見せるとか聖杯戦争で華麗に勝つとか言わない辺りがご主人様クオリティですね~」
呆れてるのか褒めているのか判別し難いが、とりあえずその辺のことを言ったことがなかったので、丁度いい機会と思って言っとくことにする。
「いや、俺にとって魔術とか魔法とかマジで如何でもいい。
寧ろ出来ることなら一生関り合いになりたくない類だ。
あ、それと那須の山の暴走は酔ってた時の例外だからな」
「れ、例外だなんて……………運命を感じちゃいますぅ♪」
「酒臭い運命だけど、良いのかそれで?」
矢鱈と運命を安売りする女性特有の思考に置いてけぼりにされた感がする。
が、所詮男と女は違う生き物だと割り切り、続きを話す。
「それに此の民主主義で個人主義のご時勢、好き好んで自己犠牲して迄見知らぬ他人の為に何かする気なんて微塵も無い。
大体完璧超人が居なくても社会が回る様、怪我人助けるのは医療機関で、容疑者捕まえるのは警察機関で、国を守るのは国防機関で、罪の有無を決めるのは司法機関で、法の目を抜ける奴に対処するのは政治家と決められてるんだから、魔術や魔法の出る幕なんて微塵も無い」
感心してるのか呆れてるのか解り難い顔をしているが、とりあえず言葉を続ける。
「時臣って言う魔術師辺りなら
まぁ、将来俺達から桜ちゃんが離れて暮らすなら自衛の為に憶えなきゃいけないだろうけど、俺としては桜ちゃんが俺をボディガードの様に使って魔術なんか憶えずに暮らしてほしいがな。
あ、但し、神霊とか精霊、ついでに言えば神代の魔術師の大半は嫌ってないぞ。
俺が魔術師を嫌ってる理由は、〔バレなきゃ何しても構わない〕、〔神秘秘匿の前に人命なんて塵未満〕、って考えがあるからだ。
と言うか、〔そう考えられなきゃ魔術師を名乗れない〕、って今の魔術師連中が誇らしげに語るのもあるけどな。
因みに神代の魔術師を頭から嫌ってない理由は、単に昔は神秘が溢れてるから、治安維持とか治水工事とか診療機関とかに携わってた人間味の在る魔術師も結構いたらしいからだ
全く…………今の魔術師に全身の垢を煎じて飲ませてやりたいな」
「いえ、流石にそれは気持ち悪いです、ご主人様」
…………乾布摩擦や冷水か温水摩擦で全身隈なく股間の垢も取り、それを布から刮ぎ落として集め、それからそれを特大の焙じ器に移して巨大な火鉢の上で煎じ、仕上げに薬缶の様な急須でバケツの様な湯飲みに立て、最後にそれを飲む。
…………………………おぅぇっ。
「あぁ……うん、すまん。
俺も今考えたら気分が悪くなってきた」
何故か鮮烈に瞼の裏に映った爽やかな遣り遂げた笑みを浮かべる爺さんを消し去る為、口直しにと言うか目直しに自称良妻狐を見る。
「あ、あの~ご主人様?
今はその……料理中ですので、その……ムラムラされたのなら今夜にでも…………」
…………普段は押しが強い癖に自分が押されると激弱とか……もしかして狙ってやってるのか?誘ってやってるのか?ヤれってことか?
……いや落ち着け…………落ち着け…………落ち着け…………落ち着け俺…………。
ふうぅ、……危なかった。
ガキじゃあるまいし、大人が一過性の性欲を恋愛感情と一緒にしそうになるとは…………自制心が足りないな。
今度滝にでも打たれてレベルアップしよう。
……っと、何時までも見詰めた儘益体の思考をしていると誤解させてしまうな。
ブッ飛び具合に文句を言うなら俺も誤解を招く発言や行動は控えるべきだからな。
よし、それじゃあとっとと理由を話すとするか。
「あぁ、すまんすまん。
ちょっと全身の垢をを煎じて茶を立てる裸の爺さんを想像して気分が悪くなったから、口直しと言うか目直しに見てただけだ。
特に変な意味で見てたわけじゃないから気にするな」
「………………」
うん?
押し黙ってどうしたんだ?
今回はー…………誤解を招く発言はしてないな。うん。
……あれ?
そしたら一体なんで俯いて震えてるんだ?
サッパリ解らないぞ?
訳が解らず首を捻っていると――――――
「ご主人様は一度痛い目に遭えばいいんです。
間欠泉に吹き飛ばされるとかは、ちょっと可哀想なのでパス。
じゃあ朝起きたらゴキブリになってる……もキモ過ぎるからパス。
うん、ご飯を食べる時に毎回口の中に虫が飛び込んできてお腹を下して悶え苦しむ、ぐらいの天罰。
なんかそういうのをご主人様が乙女心を少しでも理解する迄落とし続けたい気分です」
――――――少しも洒落にならない雰囲気で恐ろしいことを言われた。
「ここは一つ桜ちゃんからも言ってもらわないといけませんね」
そう言うと、何時の間にか完成した料理を鍋やフライパンごと尻尾に乗せていき、最期に食器類を両手に掴むと頬を膨らませながら居間に向かい出した。
…………正直、何を怒っているのかさっぱりだった。
だが、今はそれより――――――
「鍋とかフライパンとか尻尾に乗せるなよ。
折角綺麗なのに汚れるだろが」
――――――桜ちゃんだけじゃなく、俺もちょくちょく世話になってる尻尾に乗ってる鍋三つにフライパン一つを、何とか両手と両腕と胸を使って持つ。
……持ち運びは出来るが扉の開け閉めは足を使っても厳しいな。
「ったく、分けて運ぶなり頼むなりすればいいだろうに、あんまり横着するなよな?
それに分けるのも頼むのも面倒なら、探せばキャスター付きの台ぐらい出てくるから、それ使えよな?」
昔の豪勢な生活の影響か知らんが、変な所がいい加減だったり抜けてたりするんだよな。
全く……良妻狐とか言ってる割に家事スキルがピーキー過ぎるな。
「良妻狐とか吹聴するなら一度花嫁修業でもして出直しこい。
呪術だか神霊魔術だか知らんが、基本も知らんで如何こう出来る程家事は甘くないんだよ。
……っと、悪い、開けてくれ」
「…………文句というか悪態吐いた直ぐ後に頼めるって、……何気にご主人様って大物ですよね」
「何で日常的な遣り取りで相手の機嫌を伺わなければならないんだよ?
生憎俺はそんな面倒な日常を過ごす気なんて無いんだよ…………って、おはよう桜ちゃん」
「おはようございます桜ちゃん」
扉の向こうには半分寝てる様だが既に顔と手を洗った桜ちゃんが炬燵に入って待っており、俺達が挨拶をすると――――――
「……おはよう」
――――――小さな声ながらも何と無く安心した声で挨拶を返してくれた。
……爺が死んで始めて寝起きに誰も居ない状況だったけど、恐慌や錯乱状態になってなくて良かった。
自分の軽率さを呪いながらも安堵の溜息を吐き、それから直ぐに自分が鍋やフライパンを抱え持っていたことを思い出し、急いで炬燵の上に置こうとした。
が、鍋敷きの上でなく直接炬燵の上に置くと熱でテーブルが痛んでしまうので、一旦床に置いてある新聞の上に置こうとしたが――――――
「広告紙で……良い?」
――――――その前に桜ちゃんが幾つもの四つ折りされた広告紙を此方に見せる。
…………強制したわけでもなく自発的な行動をしてくれたことに、不覚ながら涙が零れそうになる。
が、鍋やフライパンを持ちっぱなしで泣いてれば桜ちゃんの折角の気遣いを無駄にするので、急いで返事をする。
「あ、うん。
四枚敷いてくれるかな?」
「……解った」
速くはないが淀み無く広告紙を敷いてくれたので、直ぐに抱え持っていた鍋やフライパンを置くことが出来た。
「ありがとう桜ちゃん」
「………………ん」
何と無く恥ずかしそうな雰囲気と声を出して返事をする桜ちゃん。
余りの可愛さに抱き締めたくなったが、変態に成り下がる気は無いので自重した。
が、同姓だと自重する気が無いのか――――――
「きゃーー☆照れてる桜ちゃんってば可っ愛いーーーーー♪
もう此の儘抱き締めて頬擦りして転げ回りたいくらいに可愛いです!」
――――――愛情と欲情の中間の感情に支配された瞳で暴走しだした。
……腕だけじゃなくて尻尾でも抱き締められるのって気持ち良さそうだな。夏場は御免だが。
っと、アホなこと考える前に桜ちゃんを助けなければ。
「離れろ痴女狐」(脇腹(肋の隙間)を指で突く)
「ひゃうんっ!?」
……無駄に色っぽい声を上げながら桜ちゃんを放し、更に無駄に色っぽい仕草で自分を抱きながら俺を警戒する様に見るのが腹立たしいが、それを無視するように圧力鍋の蓋を開けて中のご飯をテーブルに並べられた茶碗を取り、順に装いながら言う。
「飯の代わりに幼女を貪ろうとするな。女性ストリップ者愛好狐が」
「ちょ!?桜ちゃんの前でなんてこと言うんですか!?」
「本当のコトだろうが。
女がストリップしてる宴が楽しそうで引き篭もりを止めただろが」
「悪意的に解釈しないでください!
私はご主人様が性転換でもしない限りは普通に男性が好きです!」
「なら男性ストリップ者愛好狐、何時までも突っ立ってないでおかずを装うなり茶を立てるなりしろ」
装い終わった茶碗を配り、次に矢鱈と油揚げの入った味噌汁をお椀に装いながら言うと、心外だと言わんばかりの顔を赤くしながら捲くし立ててきた。
「私が興味を持っている男性の体はご主人様だけです!
例外はご主人様との赤ちゃんの健康状況くらいです!
なのに私が誰から構わず男性の裸を見たいと思っているとか心外です!
乙女心を解ってないどころか傷付け過ぎです!
あ、でも解ってないから言ってくれる恥ずかしくも嬉しい台詞も好きです♪大好きでえす☆」
「……本音が伝わらないって幸せなことだよな」
哀れみの視線を送りつつ、甘い厚焼き玉子の田楽焼を取り分けながら言う。
「生憎とご主人様と激しくぶつかり合い、真実の愛に目覚めた私にそんな強がりは通用しません!
ご主人様があれから私をどう呼ぶかで悩んでて、お前ともこいつとも言ってないのは既に気付いています!」
「あ、それなら男性ストリップ者愛好狐に決まったから。
長いから略して
「ふふん。
生憎と私はご主人様が本気でそんなこと言ってないと解ってるので慌てはしません。
いつか必ず、[…………愛してる……………………玉藻]、とか何とか言っちゃってくれると確信してますからねー♪」
「起きながら寝言言う特技を修得するならもう少し家事スキルでも研いて、自称良妻狐から自称って枕言葉を取れるようにでも努力してろ。
後、いい加減冷めるから食べるぞ」
がめ煮も装い終え、席に着きながらそう言った。
すると唐突に桜ちゃんが俺を見て告げる。
「…………誑し」
「……………………………………………………」
その後、呆然としている俺の傍で何か会話がなされていたが、内容は殆ど耳に入らなかった。
ただ、[雁夜おじさんは……乙女心を弄ぶ人]、や、[雁夜おじさんは意地っ張り]、等、桜ちゃんの辛辣なツッコミだけが耳に残った。
そしてそれらから暫くの後、傷だらけの心ながらも復活した俺は落ち込んだ儘食事を取っていたが、急に電話が鳴った(子機)。
誰からかのどんな用件かは何となく予想を付けながら電話に出る。
すると予想通り、教会からの電話であり、内容も予想通り聖杯戦争が開幕したとのことだった。
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―――――― Interlude In ――――――
Side:遠坂時臣
遂に聖杯戦争が始まった。
先程璃正神父より聖杯戦争の開幕の宣告を行った旨を告げられた。
最後に召喚されたキャスターのマスターだけは早朝になっても届出が無い為、登録の意志無しと判断して開幕を宣言されたようだ。
教会に届出もしないとは外部どころか急造の魔術師どころか、ソレ未満と見て間違いないだろう。
しかも召喚したのが最弱とされるキャスターであり、支援されるべきマスターが急造の魔術師では私達の陣営の脅威と見る必要もあるまい。
が、如何に最弱と評されるキャスターと雖も、サーヴァントとして召喚されるならば現代の魔術師よりは上と見て間違いはあるまい。
私は時計塔で研鑽して一角の魔術師となり、更に祖には大師シュバインオーグを頂く遠坂の五代目でもあり、名実共に優れた魔術師だと自負している。
だが、キャスターのサーヴァントはそんな私を軽く越える存在であり、下手すれば現在確認されていない魔法を修得している者が召喚される可能性すら在ると思っている。
ならば如何に相手が最弱と評されようとも、魔道の遥か先に立つ者には最低限の敬意を払うべきだろう。
故に私はキャスターを格下と断じて侮るという様な真似はしない。
寧ろ私より高位の魔術師ならば、私が及びもしない戦略眼と魔術を以ってマスターから切り崩しに掛かるかもしれない。
工房の支配権を丸ごと奪われるどころか、不用意に接敵すればサーヴァントとのラインを断ち切られる可能性すら在るだろうし、最悪、聖杯戦争の仕組みを完全に理解して大聖杯に干渉する可能性も在るだろう。
因ってキャスターの動向には細心の注意を払う必要があるだろう。
特に円蔵山付近への警戒は重点を置いておこう。
……さて、キャスターへの対応は一先ず此れで終えるとして、矢張り現状一番の不確定要素は唯一完全に情報が無い雁夜のサーヴァントか。
璃正神父が言うには霊器盤に辛うじて何者かが召喚されたという反応は在るものの、反応が恐ろしく薄いらしい。
何でも、[英霊どころか一般人程度の霊格の者が召喚されたか、聖杯戦争のシステムに殆ど組み込まれていないかのどちらかでしょうな。この反応を見る限りは]、とのことだった。
クラス名すら解らなければマスター登録が出来ないと雁夜に言われたらしいが、[霊器盤を見ればクラス名が無いのも解るだろが]、と、一蹴されたらしい。
ただ、それでも後日もう一度訊かれた際、〔アウトキャスト〕、と呼べと言われたらしい。
……字面からすると除け者という意味なのか?
もし除け者という意味ならば矢張り最弱という部類にすら入らない落ち零れと言う意味か?
いや……馬鹿正直に名で体を表しているとは思わない方がいいな。
仮にも御三家の一角からの出場だ。
雁夜自身は血の責任から逃げ出し、剰え再び魔道に舞い戻った恥曝しだが、あそこの老人が張り巡らした謀略のバックアップを受けている可能性が高い以上、決して油断は出来ない。
下手すればマスターという楔さえ在れば自力で魔力を生成し、マスターからの魔力供給という枷から解き放たれているかもしれない。
……考え過ぎな気がしないでもないが、あそこの老人に対してはこれくらい警戒するのが丁度いいだろう。
まあ、どれだけ不確定要素が在ろうと、一対一ならば確実に私が召喚したギルガメッシュが勝つと断じれる。
何しろ、余りに巨大な霊格を召喚する為、霊脈で繋がっている大聖杯から直接魔法陣に魔力が流れ込んで召喚される異常事態が起こる程の存在だ。
はっきり言って余程特殊な…………それこそ特攻型に類する特殊な無形宝具持ちでもない限り、セイバーすら白兵戦で下せると確信している。
本人も、[喜べ、今の我は天地に我が朋友以外並ぶ者無しと謳われた時とほぼ変わらぬ]、と言っていたのを考えるに、神が溢れていた時代に置いて尚至高と謳われた王と変わらぬ戦闘力を有しているのだろう。
まあ、ギルガメッシュ叙事詩に幾度も神に祈りを捧げているのを考えれば流石に神霊を相手にするのは厳しいのだろうが、此の地の聖杯は神霊どころか完全な英霊すら召喚出来ぬ以上、神霊と比較する必要はあるまい。
ただ…………単独行動スキル持ちのアーチャーで現界したのは痛い。痛過ぎる。
はっきり言ってマスターの必要性が無い程に高い単独行動スキルは邪魔としか言えない。
私自身が使い魔という立場に立つ様に振舞うことで辛うじてラインを切られずにすんでいるが、何時突然切られるか解ったものではない。
しかも対魔力を考えるに、1画ならば令呪にすら抗って行動する可能性が在る。
つまり2画は残しておく必要が在り、実際に使用可能な令呪は1画のみということになる。
令呪を温存する為にも、キャスターが市内に監視の目を行き渡らせるのに必要で在ろう時間が経った後に偽りの戦闘を行った後は、中盤……それも当初の予定とは違い終盤間近迄静観するのが得策だろう。
さて、聖杯戦争のことは情報が出揃っていない以上はあまり仮定を積み重ねても仕様があるまいし、仮定を積み重ね過ぎれば足元を掬われかねない以上、これ以上考えるのは止めるとするか。
…………ふむ、時間が空いてしまったが、万が一が起こる聖杯戦争中に魔術の研鑽を行うのは余りにリスクが高いな。
ならば……ここは新たに現れたという第一の魔法使いのことを思索するとしよう。
……バルトメロイと交流があるだけでなく、我が大師シュバインオーグの教えを受けるという浅からぬ交流が在るそうだが……せめて名前だけでも知りたいところだな。
一応蒼崎と同じ日本人との情報は解っているが、不可解なことに魔法使いを輩出したと言う家から名乗りが無いが、防備に奔走している最中なのだろうか?
もしそうならば無事聖杯戦争を勝ち抜いた後、私個人だけでなく遠坂家当主として助力を申し出よう。
魔道の極地に至った者が思い違いした名誉に眼が眩んだ詰まらぬ集団に討たれるなど、断じて許せるものではないからな。
本来は至った後を考えて挑むべきなのだろうが、至れる可能性が僅かでも眼前に在れば何を差し置いてでも挑むのが魔術師の性であり業である以上、至った後に四苦八苦することもあるだろう。
……ああ、だから大師は教えを施したのか。
その儘ならば在りもしない名声を夢想して酔っている恥知らずに討たれてしまうのを憂い、ある程度そういう恥知らずを撃退出来るだけの力を授けたのだろう。
……うむ。素晴らしき大師を祖に頂けるとは、私は実に恵まれているな。
―――――― Interlude Out ――――――
Side:遠坂時臣
イレギュラーで強化されたサーヴァントンのステータス
セイバー
・筋力:A ・魔力:A
・耐久:A ・幸運:C
・敏捷:A ・宝具:A++
ライダー
・筋力:A ・魔力:B
・耐久:A ・幸運:A+
・敏捷:B ・宝具:EX
・対魔力:C
・心眼(偽):A
・王の軍勢:EX
原作と違い縁が強化(広義に解釈)されている為、宝具持ちで召喚される(当然宝具を保有していない者は宝具を持たない)。
そして真打のギルガメッシュ
【クラス】
・アーチャー
【真名】
・ギルガメッシュ
【パラメーター】
・筋力:A++・魔力:A+
・耐久:A+ ・幸運:EX
・俊敏:A+ ・宝具:EX
【クラススキル】
・対魔力:A
四次セイバー準拠
・単独行動:EX
聖杯戦争終了後も単独行動可能。聖杯戦争中はマスター不在でも生前と同等の活動が可能(保有していないスキルの復活等は不可能)。
【スキル】
・黄金率:A
原作準拠
・カリスマ:A+
原作準拠
・神性:B(A+)
原作準拠
・コレクター:EX
Fate/CCC準拠
・騎乗:A
四次セイバー準拠
・戦闘続行:A
五次バーサーカー準拠
・心眼(偽):A
五次偽アサシン準拠
・勇猛:A+
五次バーサーカー準拠
・軍略:A+
多人数戦闘における戦術及び戦略的直感能力
自他の対国級干渉や、逆に相手の対国級干渉への対処に有利な補正が付く。
・芸術審美:A+
芸術作品への執着心と看破力。殆どの宝具を見るだけで真名を看破可能。
Bランク未満の隠蔽も看破出来、Bランクの隠蔽も判定次第では看破可能であり、A+迄の隠蔽及び対象がA+以下ならば少なくない確率で直感的に看破可能。
・千里眼:A++(A+++)
単純な遠距離視認能力だけでなく、並行世界すらも観測することが可能という、殆ど魔法の域に在るスキル。
人間が観測したいと思う殆どの事象を観測することが出来るが、本人の気質的に殆ど行使することが無い上、更に観測した事象が気分を害す場合は観測した事自体を認めない為、ランクが低下している。
【宝具】
・王の財宝:E~A++
原作準拠
・天地乖離す開闢の星:EX
原作準拠
【詳細】
雁夜が玉藻の前を聖杯の魔力補助無しで召喚して(降臨させて)しまった為、余った分の魔力が次の召喚に使用されてしまい、英霊に近い状態で召喚されるというイレギュラーが起きる。
その結果、玉藻の前を除けば全てのサーヴァントをマスター無しで殲滅可能という無双状態となっている。
しかも基礎パラメーター以外に戦闘スキルもギルガメッシュ叙事詩の伝承に恥じない充実振りの為、普通に接近戦でセイバーに勝利可能となっている。
更に幸運値がEXの為、Aランクに届かない運命干渉を無条件で遮断し、その上ライダーのゴルディアス・ホイールの雷撃の様な自然型(ランダム型)の攻撃はランクがEXに届かない限りST判定の失敗確率が0.5倍される(失敗確率が100%ならば適応されない)。
はっきり言ってサーヴァントではなくほぼ英霊状態。
但し、神霊玉藻の前相手だと圧倒的に分が悪く(勝率が在る段階で破格だが)、天の鎖の性能限界が玉藻の前の限界と同等以上かどうかが全てとも言える。雁夜が参戦していなければだが。
尚、セイバーの方は冬木から離れており且つ聖杯システムの穴を突く容で召喚されているので余剰分の魔力が殆ど反映されておらず、若干の能力上昇に留まっている。
対してライダーは冬木市内だった為セイバーよりも過剰魔力の反映があり、可也能力が上昇している。
そしてアーチャーは冬木市内ということだけでなく、遠坂邸は大聖杯の在る円蔵山に次ぐ霊地の為、召喚の際に殆どの余剰魔力が太い霊脈を通って遠坂邸の魔法陣に流れ込み(霊脈の一部の魔力も流れ込んでいる)、他の二名とは一線を画す能力強化が成されて召喚される(時臣は若干此の辺りを勘違いしている)。