カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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伍続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 目が覚めた時、目の前に綺麗な女の人が綺麗な微笑を浮かべていて、驚きと照れと幸福感が胸に溢れた。

 

 妖艶さというよりも神秘さを湛えた微笑みの儘、ゆっくりと顔を近付けてきた。

 

 脳を蕩かす匂いに肌が溶ける様な優しい吐息が、焦らす様に迫って来る。

 

 胸を埋め尽くす戸惑いと期待に押される様に、静かに目を閉じて受け入れようとした。

 

 が、その直前、視界の端に小さな女の子が不思議そうに自分を見上げているのに気付いた瞬間――――――

 

「どわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!?!?!?」

 

――――――胸に抱いた暖かさを離さぬ様に抱いた儘、過去最速と思える速度で以ってあいつから離れた。

 

「ひ………人の寝起きに何しやがるっ!?」

 

 寝起きの寝惚けた状態に付け込んで人生の墓場に送られかけたことに怒りの声を上げた。

 が、あいつはそれに堪える素振りどころか、さっきの笑みとはかけ離れた墨汁の様に黒い笑みを浮かべながら俺の胸に抱かれた桜ちゃんを指し示す。

 

「うん?」

 

 嫌な予感しかしないものの、桜ちゃんを無視するわけにいかないので抱き抱えている桜ちゃんを見遣る。

 すると不思議そうな瞳で俺を見上げながら――――――

 

「おはようのキス…………………………しないの?」

「ぶっ!?!?!?」 

 

――――――トンで無い事を言ってきた。

 

「な…な……な………何を………言ってるんだい桜ちゃん?」

 

 今直ぐあいつに詰め寄って何を吹き込んだのか問い詰めたかったが、桜ちゃんの誤解を解くのが先だと思い、出来る限り優しく尋ねる。

 するとトンでもない答えが返ってきた。

 

「あの人が………雁夜おじさんがあの人に逢うため山の中に行って、………偉い人達に逆らってまで助けたっていってたから、……………好きじゃないの?」

「あ…、いや……、その………、桜ちゃんが受けた説明は確かに間違いじゃないけど、可也あいつの解釈が混じってるから実際とは違うと言うか………」

 

 俺がそう言うと、桜ちゃんは不安と諦観が混じった眼で俺を見上げて、消え入りそうな声で尋ねてきた。

 

「じゃあ…………………………あの人が雁夜おじさんと一緒に…………………………傍に居てくれるって言ったの………………………………………嘘?」

「……………」

 

 やられた………。

 何をどう吹き込んだのか解らないが、桜ちゃんの中じゃ、俺とあいつは夫婦若しくは恋仲で、一緒に桜ちゃんの面倒を見る関係と思われてる。

 しかも俺があいつを否定すれば、あいつが言ったであろう、桜ちゃんの面倒を見るという言葉も否定していると桜ちゃんは思ってしまう。

 

 やばい……………。

 外堀を埋めた挙句、退路を断ちにきやがった。

 

 ………まさか起きたら桜ちゃんを取り込んでるなんて甘く見過ぎてた。

 しかもうっかり眠ってしまった挙句、桜ちゃんより早く起きれなかったなんて………。

 その上、まさか死に掛けたとはいえ、ある程度回復したのに桜ちゃんよりは早く起きれない程衰弱してるなんて思いしなか……………った…………………………って………まさかっ!?

 

 急いであいつに視線をやると、俺が何に思い至ったのか気付いたらしく、捕食者の様な笑みで俺を見返していた。

 

 

 …………………………やられた。

 多分、疲れを取る代わりに深く眠ってしまう術でも掛けられたんだろう。

 全快に届いていないけど可也回復しているのを考えるに、桜ちゃんに吹き込み終わると同時に術を解除したんだろう。

 

 ………ってヤバイ!

 あんまり考え込みすぎると桜ちゃんをどんどん不安にさせてしまう!

 

「う、嘘じゃないよ。

 

 ただ、ね、俺とこいつはまだ夫婦じゃないし恋人でもないんだ。

 まだ逢ってそんなに経ってないから、今はまだお互いを知る為に付き合ってる最中なんだ」

 

 ……………桜ちゃんが泣かない為とはいえ、文字通り人生の墓にになるかもしれない墓穴を掘ってると思うと、桜ちゃんじゃなく俺が泣きそうになる。

 だけど、それでも言い方が拙かったのか、桜ちゃんの瞳に一層不安と諦観の色が増す。

 

「……………恋人や夫婦にならなかったら…………………………何処か行っちゃうの?」

 

 …………………………詰んだな。コレ。

 どうやったのか知らないが、俺が桜ちゃんにこいつとの仲を説明する前に桜ちゃんの信頼を得、しかも、〔俺と一緒に〕桜ちゃんの面倒を見ると桜ちゃんに信じさせた段階で俺の負けだったんだ………。

 

 ………………………………………あぁ………恋人ごっこしている間に押し流されて既成事実に至り、気付けばマジで桜ちゃんだけじゃなくてこいつとも家族になってる未来が幻視出来る………。

 ああ…………………………それでも最後の抵抗はしておこう。

 

「だ、大丈夫だよ。

 若し夫婦や恋人にならなくても三人で此の家か、栃木の那須って所の山で一緒に暮らすから。

 あ、勿論桜ちゃんが大きくなって家を出て行きたい日が来ても、確り応援して送り出してあげるから心配しなくても大丈夫だよ?」

「………………………………………………………………………………うん」

 

 納得して安心したのか、何時の間にか掴んでいた俺の服をゆっくりと離した。

 そして桜ちゃんが服を離すのに合わせて抱いていた桜ちゃんを解放した。

 

 

 桜ちゃんが俺の横に移動するのを見届けると、俺は僅か一日で人生の墓場に桜ちゃんという首輪で俺を繋いだ腹黒化け狐を睨みながら声を出す。

 

「それじゃあ話も纏まったしこれからの指針を決めるとするかー差し当たっては様子見だけど隙が在れば他のマスターから令呪を奪い捲って緊急時の魔力源にするとかかなー」

 

 言外に、[大量の令呪で縛ってやるから覚悟しとけ]、という言葉を載せて告げる。

 が、あいつは人を騙したり揶揄ったりするのが心底楽しいといわんばかりの笑みで言葉を返す。

 

「そうですね~。

 私は完全とは行かずとも一応聖杯戦争のシステムに組み込まれてますけど、聖杯のバックアップが全く無い代わりに令呪の効果対象外ですから、令呪はご主人様の緊急時に供えた外付けの魔力タンクになりますよね~」

 

 ……………令呪をどれだけ集めても、そもそも効果対象外という衝撃の事実が発覚した。

 

「まあ、ご主人様の魔力精製量は普段なら1分で大体3と可也の速さですし、眠れば3~4倍に跳ね上がるみたいですから、あんまり必要無さそうですけどね~。

 それに私は彼方側とはいえ常世の者ですから、一度具現化してしまえば後は自力と信仰補正で魔力の精製と補充が出来ますから、戦闘になった際ご主人様に負担は殆ど掛けませんけど、在って困る物じゃないですからね~」

 

 …………………………頭の螺子が初めから抜け落ちてる様な馬鹿を縛る鎖が一切無いという、驚愕を通り越して絶望してしまいそうな事実が発覚した。

 

「まあ、殆どの日本の使い魔………と言うか動物神は私の分身と言うか欠片なんで、その気になればあっという間にサーヴァントクラスの軍勢を集めて、この家をわくわく動物園に出来ますよ~。狐が多いですけど。

 後、私が尻尾を一振りすれば10万の軍勢程度は直ぐに生み出せますし、本気を出せば100万の軍勢も生み出せますから、普通に物量で押し切れますよ~」

 

 ………………………………………最終決戦で相打ちの可能性も無いな。

 

「因みに私の宝具を使えば魔力消費をほぼゼロにしたり死者蘇生も出来ますから、全力特攻する上に目減りしない100万の軍勢が出来上がりますよ~。

 キャー♪ コレなら国どころか世界を取れますよー♪

 名前は〔玉藻の前〕の玉と、〔桜〕ちゃんの桜と、ご主人様の〔雁夜〕の夜で、玉桜夜(ぎょくろうや)にしましょう♪」

 

 ……………………………………………………俺が聖杯戦争に参加したせいで世界がヤバイ。

 

「国法は何をおいても一夫一妻!

 一夫多妻なんて女の敵なことを吐かす輩は去勢です!

 異論は認めません!断じて認めません!!私が法です!!!黙って従えやーーー!!!」

 

 …………………………………………………………………イスラムの人達ごめんなさい。

 

「国技は一夫多妻去勢拳に決まりです!

 

 まずは金的!次も金的!懺悔しやがれ、コレがとどめの金的だーー!

 さあ桜ちゃんも将来の旦那様が浮気しない様に今から練習です!」

 

 ………………………………………………………………………………おいコラ。何で俺そっくりの人型を作り出す?

 と言うか桜ちゃんに変なことを教えようとするんじゃない!

 

 流石に見過ごせないから――――――

 

「わかった」

 

――――――………って桜ちゃん!?!?!?

 

「良い返事です!

 それならば早速基礎にして極意の心構えを伝授します!

 

 いいですか?攻撃する時は……………余所見をするな!浮気をするな!私だけを見ろ!!! ………って思いながらするんです。

 だけど愛がなければやっちゃ駄目です。

 苛立ちだけじゃなくて愛を籠めて相手に叩き込むことで相手を矯正するんです。

 そして愛を叩き込むだけじゃ矯正出来ない時は……………男の人のアソコを壊して二度とおいたが出来ない様に去勢するんです。

 

 解りましたか、桜ちゃん?」

「……………解った。

 …………………………好きな人以外はしちゃ駄目」

「そうです!好きな人以外はしちゃ駄目なんです!

 一夫多妻去勢拳は愛を伝える為の業なんです!

 愛が無ければそれは女敵撲滅去勢拳でしか無いんです!

 

 つまり一夫多妻去勢拳は好きな人にだけ使う特別な業なんです!!!」

 

 …………………………女が浮気したら子宮でも破壊するんだろうか?

 

 

 

 那須の山に行った当時の自分を力の限りぶん殴りたいと思いつつ、俺は既にあいつの影響を受けて黒くなり始めた桜ちゃんをどうすればいいのかも解らず、暫く呆然としながら途方に暮れた。

 

 

 

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 あれから暫く一夫多妻去勢拳とかを続けていた桜ちゃんだったが、疲れた上にお腹も空いたのもあり、いい加減元蟲倉から出ることになった。

 そして今からご飯の準備をすると時間が掛かるので店屋物を取ろうとしたが、あいつが勝利の前祝いをする為に腕を揮うと言い出した。

 が、そんな食材など在りもせず、冷蔵庫には昨日のケーキやクレープやジュース以外は謎の肉と謎の液体しかなく、他に食べられる物は恐らく桜ちゃんが長らく食べていたであろう栄養食品とドリンクだけであった。

 

 一応午後過ぎには注文していた衣服や娯楽品と一緒に食材と言うか食べ物が大量に届くと言ったが、どうしても腕を揮いたいらしく外出したいと言い出した。

 が、今から買い物をしたら食べれるのは昼過ぎになるので、兎に角朝飯は昨日の残りのお菓子と栄養食品で済ませた(何だかんだ言いつつも美味そうにあいつは食べていた)。

 そして食べ終わったた後は桜ちゃんを膝に乗せて教育テレビをまったりと一緒に見ていると、あいつは食休みも済んだとばかりに買出しに行こうと提案した。

 

 だが、あいつに少なからず懐いていたから人混みも大丈夫じゃないかと楽観していた俺だったが、桜ちゃんが人の居る所に行くのを尋常じゃない程嫌がるのを見、俺だけじゃなくあいつも意気消沈し、結局買出しは金に物を言わせて近くの店から配達してもらうことで落ち着いた。

 幸い小切手が在るので銀行へ引き落としに行く必要も無く、外に出る必要は無かった。

 

 が、聖杯戦争が始まればずっと桜ちゃんに付きっ切りでいられるかも解らず、どうするかを話し合おうとしていたのだが――――――

 

「面倒なら彼処の山に在るっぽい聖杯を破壊して聖杯戦争をお釈迦にしますか?

 それとも此処から別の所に移って聖杯戦争が終わるまでゆっくり過ごしますか?」

 

――――――アホな発言と微妙な発言をあいつがほざいた。

 

「破壊したら此処以外の御三家……………聖杯戦争システム製作に携わった魔術師の家だけじゃなく、最悪魔術協会から只管刺客を差し向けられるから却下だ。

 アホかお前は。

 

 そして此処から離れるのは微妙だな………」

 

 理由をどう説明するか悩んだが、兎に角なるべく桜ちゃんの事を暈しながら説明することにした。

 

「経緯は省くが、俺が此の家の当主を焼き殺したから、今は当主不在なんだよ。

 だけど俺は魔術が嫌で関わりたくなくて家から逃げ出したから、家を継ぐ権利はもう最低と言って構わない程に低い。

 逆に桜ちゃんは此の家唯一の跡取りの俺が逃げ出したのを解消する為………………まあそんな人物で、現在最も此の家を継ぐ権利を有している人物だ。

 だけど、現在桜ちゃんが周囲に対して家を継がないかどうかを言える様な状態じゃないから、面倒事を避ける為にも此処の当主が死んだことは隠してる。

 

 ………家から逃げ出した俺が聖杯戦争に参加するのは捨て駒だとかでまだ通じるが、家から逃げ出した俺が召喚した挙句逃げ出したりしたら、此処に確認の電話の一本くらいは確実に掛かる。

 そしたら此処の当主が死んでるのがバレて、桜ちゃんの血縁者が桜ちゃんを別の魔術師の家に送ろうとするだろう。若しくは単に自分達が引き取るだけかもしれない。

 でも……………俺はそれを何としても阻止したい」

 

 あいつは馬鹿だけど疎くはないから、俺が暈した言葉から大まかな事情を察した様だった。

 そしてあいつなりに此れから自分が行うことに対して若干思う所が在るのか、視線を合わせるべくしゃがみこんだ後、にこやかながらも真剣な眼で桜ちゃんを見つめた。

 

 威圧する様な視線ではなかったが、真剣な雰囲気を感じ取って俺の後ろに隠れる桜ちゃんだった。

 だが、少しすると顔だけを覗かせてあいつの視線を受け止めていた。

 そして話し合いに応じてくれた桜ちゃんに笑顔を返してからあいつは告げた。

 

「えーと、桜ちゃん。

 私は詳しい事情は知りませんけど、桜ちゃんが血縁者……………ご両親やご祖父母や伯叔父母さんのとこじゃなくて、此処でご主人様………雁夜おじさんと一緒に居たいんですか?」

「………ん」

 

 か細い声だがハッキリと頷く桜ちゃん。

 

 …………………………嬉しさで胸の奥が熱くなる。

 ………………………………………改めて桜ちゃんが望むなら世界すら越えて平穏な場所を求めて彷徨う気概が沸いてくる。

 

「もう、ご両親やご祖父母や伯叔父母さんに会えなくなるかもしれませんけど、いいんですか?

 

 私は特殊な生まれですから両親や兄弟姉妹がいませんから、血縁者関係の事に余り強く言えませんけど、血の繋がった人と会えないのは不思議と寂しいと思いますよ?

 それに下手すれば、血の繋がった人を一生他人として接しなきゃいけなくなるかもしれないのは、桜ちゃんだけじゃなくて相手も辛いかもしれませんよ?

 何より……………辛くて苦しい時、そんな人達に助けも呼べないのは寂しくて悲しくて怖いと思いますよ?

 

 それでも…………………………本当にいいんですか?」

 

 ……………その言葉を聞き、俺は自分が感情的で浅い考えをしていると思い知らされてしまった。

 …………………………いくら桜ちゃんが葵さん達に会いたがらなかったからって、下手したら二度と戻れなくなるという選択を安易に選ばせて良い筈がないのに………。

 しかも桜ちゃんだけじゃなく葵さん達も安易な俺の選択に巻き込まれる以上、せめて桜ちゃんの意思をハッキリとさせた上で俺がそのことを確りと自覚し、その上で腐心しなければいけなかったのに……………目先の事ばかりに注意がいってあいつみたいに深く考えられなかったな………。

 

 

 桜ちゃんもあいつの言い分に思う所が在ったのか、さっきより幾分考え込んだ。

 そして俺の服の裾を掴んだ儘不安そうな顔で見上げてきた。

 

 そんな桜ちゃんに向き合う為、俺は桜ちゃんが握っている手を優しく開かせ、あいつと同じように視線を合わせる為にしゃがみこんだ。

 そして桜ちゃんが安心出来る様にと、精一杯優しい笑顔を浮かべるよう努めながら話し掛ける。

 

「桜ちゃん、俺は自分が間桐から逃げたせいで桜ちゃんに辛い思いをさせたことに対して責任を感じてる。

 ………だけどね、そうでなくても俺は桜ちゃんの力に成りたいと思ってる。

 だって、こんな小さな子が一人ぼっちで困ってるんだ、大人なら当然助けたいと思う。

 

 勿論俺は誰も彼もを全員助けたりは出来ないしする気も無い。

 だけどね、自分が知ってる人くらいは助けたいんだ。

 なにより、俺は桜ちゃんだけじゃなく葵さんや凜ちゃんや………俺は嫌いだけど時臣も含め。四人で仲良く幸せに暮らして欲しいと思ってる。

 

 桜ちゃんはもう会いたくないかもしれないけど、俺はいつか桜ちゃんが葵さん達と一緒にまた笑って暮らせるのを夢見てる。

 だから俺は桜ちゃんの力になっているんだ。

 

 

 だけどね、それでも俺は桜ちゃんが葵さん達と二度と会わないと言っても桜ちゃんの力になる。

 四人で仲良く暮らさないのは悲しいけど、それでも俺は葵さんや凜ちゃんだけじゃなく、桜ちゃんにも笑顔でいてほしいから。

 なにより……………葵さんや凜ちゃんは二人一緒の上時臣も居るから、……………さっきも言ったけど、せめて俺くらいは桜ちゃんの味方になってあげたいんだ」

 

 あいつを腹黒と言えないくらいの腹黒さを桜ちゃんにぶちまける。

 それが精一杯の誠意だと自分勝手な思い込みで、桜ちゃんを不安と不快にするだろうと知ってて内心を晒す自分に激烈な嫌悪感を憶えたが、それでも言葉を吐き出し続ける。

 

「前は俺が馬鹿だったから、……………桜ちゃんが選ぶ選択がどういうものなのか教えれなかったけど、あいつがそれを教えてくれた今、もう一度だけ聞かせてほしい。

 

 逃げると言うなら世界すら飛び越えて逃げ切ってみせる。

 戦うと言うなら葵さん達が悲しむとしても時臣すら倒してみせる。

 普通に生きたいと言うなら時臣にそれを伝えられる時迄守り抜いてみせる。

 魔術師になりたいと言うなら時計塔の一級講師にだって渡りをつけてみせる。

 此の地から離れたいと言うなら此の前買った那須の地で新しく家を興してみせる。

 何時か帰る時迄此処で落ち着きたいと言うならどんな物だって用意してみせる。

 直ぐに帰りたいと言うなら間桐の惨状を話してでも帰れるようにする。

 答えが出る迄此処で落ち着きたいと言うなら幾らだって待つ。

 一緒に暮らしたいと言ってくれるなら心から歓迎する。

 一人が良いと言うならお金や伝を残して直ぐに去る。

 俺を殺したいと言うならなら黙って殺される」

 

 俺が考えられる限りの選択を示し、改めて桜ちゃんの答えを待つ。

 

 

 自分の決断の重大さを前以上に感じ、そして俺の汚い本音と真剣さに怯えていた桜ちゃんだったが、俺とあいつを何度か見た後、俯きながら――――――

 

「………………………………………………………………………………一緒に居たい」

 

――――――長い沈黙の末、ぽつりと言った。

 

 

 …………………………何時までとか将来どうするとかは一切言っていないが、少なくてもそれを考えた上で一緒に居たいと言ってくれたと解る以上、辛い追求は当面は置いておくことにした。

 代わりに精一杯の優しさを込めて桜ちゃんの頭をあいつと撫でながら答えを返す。

 

「何時か…………………………桜ちゃんが今よりもっと考えられるようになって、此処を出るか継ぐその時迄……………一緒に居よう」

 

 俯いて表情は解らなかったが、無言で桜ちゃんは頷いた。

 そしてそんな桜ちゃんに微笑みながらあいつも言葉を掛ける。

 

「今日か明日か来月か。それとも1年後か10年後か死ぬ迄かは解りませんが、桜ちゃんが此処を出ようとするその時迄、ご主人様と私と一緒に仲良く暮らしましょう。

 

 後、たとえ桜ちゃんがお家に帰っても、何時でも訪ねてくれて良いんですよ?

 私とご主人様は何時でも暖かく迎えますから」

 

 再び俯きながらも無言で頷く桜ちゃん。

 

 ……………必要とはいえ、辛い決断を迫ってしまい、酷く傷付けたと思い、優しく抱き締めようとした時、あいつが先に桜ちゃんを優しく抱き締めた。

 そして桜ちゃんを抱き締めた後、あいつは桜ちゃんだけじゃなく俺も尻尾で包み、そっと自分と桜ちゃんへと引き寄せた。

 

 …………………………こいつに近付くのは良い気分がしないが、桜ちゃんが安心するなら俺の気分なんてどうでもいいので、特に抗いもせず黙ってされるが儘にすることにした。

 

 

 

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 結局、昨日と同じく桜ちゃんはあいつの尻尾に包まれた儘眠ってしまった。

 が、今度は立った儘だったので流石にその儘という訳にはいかず、ベッドで寝かせる為俺がベッドを片付けてあいつに桜ちゃんを運ばせようとした。

 だが、あいつは配役が逆だと言い、俺に桜ちゃんを抱き抱えさせると急いでベッドメイクを始めた。

 

 あっという間にベッドを綺麗にしたあいつは、その後神霊魔術なのか呪術なのかは知らないが、ベッドを新品同様の柔らかさにして出迎えた。

 ただ、

[さあ一緒に寝ましょうご主人様。た・だ・し♪ 今日はこの子が居るから駄目ですよ?]

、と抜かしやがったので、あいつの頭を撫でる振りをしながら狐耳の毛を10本以上纏めて引き抜いた。

 

 辛うじて桜ちゃんを起こさない様に声を噛み殺したのは見事だが、ザマアミロとしか思えなかった。

 が、少しして完全に外堀を埋められた挙句退路も完全に絶たれたと気付き、桜ちゃんをそっとベッドに寝かせた後、あいつの頭を労わる様に撫でて慰めていると思わせている隙に、抱き締めようとしてると思わせた右手を一気に尻尾に移動させ、手一杯に毛を握りこんだ直後、驚愕と絶望に染まるあいつの顔を見つつ、一気に引き抜いた。

 

 

 

 尚、結局有耶無耶になった対サーヴァントの基本対策は、〔人気の無い所に居るなら此処から薙ぎ払う〕、という、巨神兵の如き戦法を採るという、何とも手抜きな戦略になった。

 但し、手抜きにも拘らず威力と射程と速度は巨神兵以上らしく、改めて目の前のコイツのブッ飛び具合を知った。

 

 因みに、尻尾の毛を纏めて引き抜いたのも我慢ならなかったらしいが、それ以上に乙女(とはとても思えないが)心を弄んだと嘆きながらマジ泣き寸前迄に落ち込んだ為、流石にやりすぎたかと思って侘び代わりに一つだけ常識的な範囲内なら言う事を聞くと言うと、直ぐに笑顔で、[名前で呼んで下さい!勿論マイスイートハニーとかでも全然OKですけど!]、と言いやがった。

 ……………力一杯ぶん殴りたかったが、言ってることは常識の範囲内の為怒りを我慢し、代わりに、[玉藻の前って長くて言い難いから略すけどいいか?]、と訊き、了承の返事を貰った俺は、[タマ]、と呼ぶことにした。

 

 

 







若しも雁夜がバーサーカー(ランスロット)を召喚していたら


【パラメーター(狂化前)】

・筋力:A+++ ・魔力:EX
・耐久:A+++ ・幸運:EX
・敏捷:A+++ ・宝具:A++


【クラス・クラススキル・スキル・宝具】

・原作準拠


【詳細】

 魔術師の規格を越えた魔力補給を受け鬼チート化したランスロット。
 狂化することで魔力と幸運以外が1ランクアップする上、魔力と幸運は既にカンスト(EX)という冗談の様な状態であり、更にアロンダイトを使用すると更にステータスが1ランクアップするという、近接戦闘者にとっての悪夢が待ち受けている。
 しかもアロンダイト解放状態でも活動時間はほぼ無限の為、王の軍勢を蹴散らしたり巨大海魔に突撃して中のキャスターを仕留められ、更に真名解放エクスカリバーを避けたりも可能な為(撃つ前に仕留められる上、防御態勢が整えば辛うじて耐え凌げる)、文字通り相性を無視した無双が可能。
 トドメに此のSSの雁夜は金を持っているので、クラスター爆弾や燃料気化爆弾やICBM等を宝具化して阿鼻叫喚地獄を生み出せる。

 多分、第一宇宙速度のICBMを全ての拠点に打ち込めば、聖杯戦争開始初日で優勝すると思われる。
 ………見た目は科学兵器なので神秘秘匿を気にしないでいいので非常に楽に戦え、実行犯のバーサーカーは聖杯戦争後消える(消せる)のもポイント。



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