深夜と言うには少し早い時間帯、雁夜と玉藻はアリサとすずかと其の保護者達と机を挟んで向かい合って座っていた。
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雁夜はアリサとすずかが玉藻に強制召喚された後、両者に借りた携帯電話で保護者へと連絡を取っていた。
但し、何時もの様な腰の低い対応ではなく、[お宅の娘さんの今後について話し合いたいので、一時間後迄に月村邸へ居るように]、という、誘拐犯からの電話としか思えない内容を一方的に告げただけであった。
お蔭でアリサの父に其の執事、すずかの姉と其の婚約者の4名からは恐怖と焦燥と怒気が溢れていた。
尚、恐怖も混じっている理由は、アリサとすずかの両保護者は本来ならばSPや月村邸内の迎撃設備等で話し合いの前に奪い返すつもりだったのだが、月村邸の正面から来訪した雁夜と玉藻が、宛ら某ターミネーターの如く全ての攻撃を無防備に食らいつつも平然と反撃して蹴散らし、しかも自分達の力量を見せておかないと面倒だと玉藻に言われた雁夜が、月村邸の半分程を鱠切りにしたからであった。
SPが繰り出す単分子ナイフやマグナム弾、更に迎撃設備の対物ライフル弾やレーザーの全てを受けて無傷であり、しかも宇宙速度で月村邸の半分が鱠切りにされる様を見た彼彼女等は、タネや仕掛けや人間や非人間を問わずに勝ち目が微塵も無い相手だと悟って恐怖した。
だが、だからと言って彼彼女等はアリサとすずかを諦めたりはせず、刺し違えてでも救い出そうと恐怖を怒気で覆い隠して自らを鼓舞していた。
そして、抵抗が無くなると雁夜は彼彼女等が居る
彼彼女等の顔を見るにアリサとすずかを送り返しても面倒なことにはならないと判断した雁夜は玉藻に解放するように促し、玉藻は露骨に清清するといった顔で解放して保護者の元へと向かわせた。
暫し呆気に取られた彼彼女等だったが直ぐに気を取り戻して駆け寄り、抱擁を持ってアリサとすずかを迎え入れた。
暫く温もりを確かめる様に彼彼女等は抱擁を続けていたが、勝手に盛り上がっている再会は此の辺りで十分だろうと判断した雁夜は席に着くように促した。
当然歯向かえば容易く全滅すると理解していた彼彼女等は無言で横一列にソファーへ座った。
そして雁夜と玉藻は勧められもしない内にソファーへと座りこんだのだった。
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雁夜と玉藻が座り込み、暫し沈黙が場を支配するかと彼彼女等は思っていたが、ソレを無視する容で玉藻は口を開いた。
「最初に言っておきますが、今から行うのは交渉ではありません。
断ったり会話を中断させるのは勝手ですけど、其の場合即座に私達は帰ります。
当然後日事情を知って訪問に来ても塵すら遺さず消えてもらいますんで、貧相な脳味噌に今言った事を刻み込んだ上で此方の話を聞くように」
「「「「………………」」」」
玉藻としては馬鹿が激昂して襲い掛かってくれればアホと話す価値無しと断定して帰れると思っているので、礼儀を完全無視した発言を炸裂させた。
しかし此の場に居る者達は彼我の実力差を最低限は認識しており、更に物言いで激昂して護るべき者毎滅殺されかねない愚挙を犯す愚者は居なかった。
因って、沈黙の首肯で話を進めることを促すだけであった。
だが、そうなると玉藻の目論見は失敗したことになるのだが、玉藻としては気分を害されずにさっさと終わるなら別に其方でも構わない為、自分の目論見が外れたことに落胆したりせず、遠慮無くサクサク伝達事項を告げ始める。
「細かい経緯は後で当事者に聞いて補完するのに任せますんで、要点と要件を纏めて告げます。
1.其処の両名は生物という枠から逸脱した存在に成った。
2.ソレを地球外の組織に目を付けられている。
3.私の神子になれば其の辺の問題を力尽くで解決出来る。
4.そして今現在、入信なり改宗なりして仏閣や神社を建立して私を崇めるかどうかを訊きに来た。
以上です。
質問は1名1回。時間稼ぎの会話をしたら即終了。後、既に説明してるツイン小娘には質問権無し。
じゃあ、はい、そこの金髪中年、質問は?」
途中経過を大幅に省いている為、玉藻の話を黙って聞かされていた彼彼女等はツッコみたい箇所が山程在ったが、各名1回ずつと雖も質問が可能になったのでグッと堪えた。
そして一番最初に指名されたアリサの父親は何を質問するべきか悩んだが、余り悩むと当たりが出た自販機の如く権利が消滅しかねないので、他の者達に視線で全員が全員の益になる質問をするよう視線で告げ、それに全員が同じく視線で了承の意を返したので、急ぎ玉藻に質問を始めた。
「巫女になることに因る具体的なメリットとデメリットは?」
「メリットは私の意志に沿った行動をする程に強化されます。
デメリットは私の意思に逆らった行動をする程に弱化されます。
強弱化の変動幅は私の意思にどれだけ同調若しくは乖離するかで、現在の最大強化度合いは恐らくさっきご主人様がした程度のことで、現在の最大弱化度合いは恐らく死亡ですね。
因みに
はい、回答終了。
それじゃあ次、そこの
玉藻は一応アリサとすずかから保護者として出席するだろう者達の特徴と名前は伝えられているのだが、憶えてはいても思い出す手間を掛ける気が皆無の為、見た目の印象のみで呼んでいた。
そして其の程度のことで激昂したりしないバニングス家の執事は、立ち上がっての一礼も時間稼ぎと判断されかねないと判断したので、座った儘軽く頭を下げると直ぐに質問を口にした。
「地球外組織とやらの具体的な脅威と傾向は如何程でしょうか?」
「亜米利加と北朝鮮を足して、就職年齢制限を取り払った感じの組織で、予測される干渉目的は単体戦闘能力が高く且つ特殊技能を持っているだろうサンプルの確保。
行動傾向は羹に懲りて膾を吹くを地で行く、視野狭窄の極端思考。
洗脳に近い教育が施され且つ自身達以外を下に見る為、圧倒的戦力差を示して尚同盟及び不干渉は極めて困難。
はい回答終了。
それじゃあ次、そこのソロ&シスコン、質問は?」
指摘された黒尽くめの青年は声を大にして、[
そして即座に怒りを呑み込んで質問しようとした黒尽くめだったが、其の直前にソロコンの意味が分かっていないアリサ以外から微妙に白い眼で見られて精神に大ダメージを負うが、言い淀んだりする事無く質問を口にした。
「二人が神子に成る事を認めたら、メリットとデメリットは何処まで拡大する?」
「デメリットは、ツイン小娘が
メリットは通常を超える利益に与れ、更に正真正銘の神の家から溢れ出る神気を浴びる事で存在の回復・強化・活性化にも与れます。
神子の賢愚さを考慮しなければプラマイゼロですね。
回答終了。
ラスト、
「すずかとアリサちゃんが元に戻る方法は?」
「魂を以前と同等域迄降格し、以前と同等域の器を用意し、現在の魂と器の繋がりを完全に断ち切った後に降格させた魂を新たな器に移植し、其の後魂と器の齟齬を調整するってとこですね。
難易度は、死んだ人間が焼かれて炭になって圧力が掛かってダイヤモンドに成ったのを、元の生きた人間に戻すよりも遙かに難しいですね。
少なくても魂と時間と無への理解は必須ですね。
回答タイム終了。
はい、それで返答は?」
回答された内容に虚言が混じっている可能性も在るが、補足を任された利発なアリサとすずかが特に否定していないことから、回答された内容は恐らく事実若しくは自分達では判断出来ない類なのだろうと彼彼女等は判断した。
しかも提案している相手は提案を呑ませる意思が全く見受けられず、それどころか関わるのも面倒なのが丸分かりであり、譲歩どころか交渉することすら出来ないだろうことは容易く察する事が出来た。
そして彼彼女等は得られた情報と推測される情報を吟味し、提案を呑むべきか蹴るべきかを思考した。
だが、如何考えても情報が不足しており、迂闊に神子に成ることを認めて支援した後日、何処かの神や仏と全面戦争が起こって矢面に立たされたり、実は相手が邪神の類で世界中から排斥される破目に陥ったり、何年か後に生贄となる運命が待ち受けていたりする可能性もある為、状況が悪化しかねない可能性を考慮するならばとても現状では提案を呑むという決断を下せなかった。
なにしろ、話の規模や信憑性は先程見せ付けられた無双で一概に否定出来ない類だと判断しているが、だからといって相手がそういう世界でどの程度の存在なのかは全く判らない為、死への直行便かもしれない提案を易易と呑むわけにもいかなかった。
とはいえ、此方に極めて好都合な可能性も否定しきれぬ以上、矢張り易易と断るわけにもいかなかった。
彼彼女等が10秒程思案し、自販機ならとっくに時間切れで権利消滅しているので、玉藻はもう話を打ち切って帰っても構わないだろうと思い雁夜と一緒に適当なところに転移しようとした(直接家に転移しないのは、玄関から一緒に新居へ帰りたい為)。
が、その前に雁夜が軽く手を上げて玉藻を制止し、此の場に来て初めて口を開いた。
「下手に出ないのも尊大な態度なのも文句は無いけど、相手が碌に事情を理解してもいないのに決断を迫るのは遣り過ぎだ」
「でも、いきなり襲い掛かってきたり礫や光線放ってきた輩には破格の対応ですよ?
ぶっちゃけますけど、ご主人様が何かあった時に反撃するって言ってなかったら、汚物は消毒のノリで辛気臭い此の辺一帯を蒸発させるつもりでしたから」
「言いたい事は良く解る。
交渉も無しにいきなり実力行使されたんだから、俺も消そうとは思わないけど話を無かったことにしたくなったぐらいだからな」
雁夜と玉藻の会話を聞き、改めて彼彼女等は自分達が最初の一歩を間違えていたのに今更ながらに気付いた。
相手が常識の埒外の存在ということを示し、にも拘らず凄まじく尊大な態度且つ一方的過ぎながらも話を付けに来たので彼彼女等は忘れていたが、雁夜の連絡方法に著しく問題が在ろうと純粋に話し合いに来たでだろう圧倒的強者へ先に手を出したのは自分達であるのだと遅まきながら理解した。
だが、雁夜は寸劇の様な謝罪を受けるのはルポライター時代に頭を下げ捲くった経験上嫌いな為、彼彼女等に寸劇の謝罪をさせる間を与えぬ為にも、会話を途切らせずに続ける。
「とは言え吐いた唾を飲む真似はしたくないし、怒りに任せて提案を恐喝や恫喝にして終わらせる気も無い。
だから少し俺が捕捉する。
という訳で、暇なら見晴らしが良過ぎる此処を直した後、家でゴロゴロしててもいいぞ?」
「ご主人様に直させるっていう超級のサービスをくれてやるつもりはありませんから、取り合えずとっとと直しますね」
玉藻がそう言うと、宛ら画面が差し替えられたかの如く月村邸に刻まれた破壊の爪痕は消え去った。
尤も、彼彼女等は大きな風穴が開いた壁や扉が、突如装飾品毎綺麗に復元したとしか知覚出来なかった。が、雁夜は当然としてアリサとすずかも敷地内の破壊の痕跡が一瞬で消え去ったのを知覚出来ていた(アリサとすずかは辛うじてだが)。
そして
「序に外の奴らの脳も弄くっておきましたから、秘匿も問題ありません。
それと終わる迄は帰りませんから。
ご主人様は何だかんだで甘い上に律儀ですから、どれだけ勝手に譲歩するか不安で仕方ありませんし」
「大丈夫だって。情報はくれてやっても提案は変更しない。
いくら俺でも、効かないといっても攻撃のつもりで干渉してきた相手に甘くしたりする気は無いぞ」
「あは★ それなら私は安心してクレバーなご主人様の姿を眺めてますね♪」
「いや、お前と一緒に決める事態になれば連絡するから、家でゴロゴロしててもいいぞ?」
桃色異界を展開されては締まらない話し合いになると思い、遅まきながらも雁夜は玉藻に帰宅を進めた。
だが、玉藻は少しだけ真面目な表情になって言葉を返す。
「ご主人様。私は辛辣な対応で事に当たってはいますけど、自分の責任をご主人様に押し付ける程に腐ってもいなければ無責任でもありません。
ですから、此処の輩が提案に対する答えを出すか其の権利を放棄する迄は此処に居ます」
真摯な瞳で見詰められ、自身の発言が思慮の浅い発言だったと気付いた雁夜は、軽く目を伏せて玉藻に謝罪する。
「…………すまなかった。
知らずに軽く見ていた」
「いえ、明日のデートで目一杯甘えますから、全~然気にしなくていいですよ♥」
極上の笑顔でそう言う玉藻。
そして其の一瞬で周囲は桃色異界へと変化したが、ソレに気付かず雁夜は微苦笑を浮かべながら――――――
「ああ。ドンと来い」
――――――と答えを返した。
そして其れに対し玉藻は――――――
「はい♪ドンといきますから、覚悟してて下さいね♥」
――――――と答えを返した。
お蔭で桃色異界の濃度が更に濃くなり、彼彼女等は非常に気不味い状態にあった。
とはいえ、迂闊に咳払いでもしようものなら、少なくても玉藻から不興を買うことは必至であり、仮に雁夜が宥めるとしても余計な事はするべきでないと判断した彼彼女等は、失礼にならない程度に黙って見続けることにした。
が、気付けば何時の間にか桜に色色と説明困難な場面を見られている状況に陥り続けた雁夜は、余程のめり込んだりテンパらない限りは周囲の視線に敏感になった為(普段は如何でも構わない存在の視線は先ず気にしないが)、即座に桃色異界を消し去る様に一度軽く咳払いをし、更に短時間とはいえ深く精神統一を行って場を引き締め直した。
尤も、精神統一している雁夜の横顔を見た玉藻の内心は桃色の儘だったが、雁夜は其れには触れず何事も無かったかのように話し始める。
「最低限判断に必要だろう情報は渡すが、それだけだ。
別に俺達は信じてもらおうとは思ってないから、証拠を提示するつもりは一切無い。
俺達がしたいのはあんた等に提案を持ちかけ、そして判断出来る機会をくれてやることだ。
だから別に提案を呑んでほしいとか思っちゃいないし、断られても俺達は痛くも痒くも無い。
と言うか、財閥や巨大企業のトップと関わるのはもう辟易してるから、俺としても理由は違うけど蹴ってくれた方が楽だとは思ってる。
まあ、だからと言って、あんた等が提案を呑んでも当り散らしたりせず、きちんと有言実行するけどな」
「「「「…………」」」」
「改めて言う必要も無いと思うが、一応言っておくぞ。
効かないとはいえ攻撃のつもりで干渉してきた奴等に礼儀正しく疑問に答えてやる程、俺は慈悲深くも甘くないぞ。
そして次に舐めた真似をしたら身長を10cm程引き伸ばして外に叩き出すからな」
「「「「………………」」」」
迂闊に相槌を打ったり謝罪や弁明を行うのは相手を不快にするだけだとは容易に推測出来た彼彼女等は、黙って礼儀正しく雁夜の言葉を聞くことにした。
「それじゃあ捕捉だが、別にあんた等が提案を蹴っても、アリサちゃんとすずかちゃんが俺達に付いて来てでも神子をやるつもりなら大局的には問題無い。
当然あんた等と離れて過ごすことになるし、学友とかとも離れることになるけど、代わりに安全面は飛躍的に向上するから、当初の目的は問題無く果たされる筈だ。
後、こいつが如何いう神なのかさっぱり分からないだろうから一応紹介してやる」
そう言って視線を玉藻へ向けながら雁夜は言葉を続ける。
尚、玉藻は立ち上がるつもりは微塵も無いが、雁夜に紹介されるのにだらしない様だと雁夜の顔に泥を塗ることになるので、一応姿勢を正して表情を引き締め直した。
「こいつの名前は【玉藻の前】。
詳しい説明は省くが、正確には、【玉藻の前 天照 大日 ダキニ天】、だ。
要するに、こいつは真言密教の最高神であり、凄まじく噛み砕いて言うと、生きている者の為の神だ。
因みに万物を総該した無限宇宙の全一と謳われるだけあって、出来ない事を探す方が難しい。
何しろ、千年先の並行世界の天体を転移させたり、とっくの昔に塵すら残さず死んだ奴を蘇生出来たり、天体規模の攻撃をバカスカ繰り出せたり、完全に無防備な状態で原爆を秒間数万発食らい続けてもノーダメージだし、8次元迄の干渉を遮断出来たり、他諸諸etcetcと、文字通り人知の及ばない存在だ。
それと勘違いしない様に釘を刺しておくが、神が人間の味方だとか頭に蛆の湧いた考え方なんてするなよ。
人間が下手に出て神の庇護に与るのが神と人間の接し方で、断じて人間と対等じゃないからな。
だから、人間の法を以って束縛しようとか、手を取り合って仲良く暮らしていこうとか考えるなよ」
余りに著名な神の名が飛び出した為彼彼女等は驚愕した。
一瞬虚言かと思いはしたが、信じ込ませる気は皆無そうな上、提案を蹴ってもらいたい相手が態態虚言でそんな名を出すとは思えない以上、俄かには信じられないが事実なのだろうと彼彼女等は判断した。
しかもやる気の無い軽い注訳にも拘らず極めて具体的な例の為、言う事言ってさっさと終わらせたいという考えが露骨に透けて見え、信憑性は益益上昇した。
だが、雁夜はそんな彼彼女等が神である玉藻に変な親近感や勘違いを抱かぬよう、先んじて釘を刺した。
人間の絶対的な味方と勘違いし、リンディやなのはの様な舐めきった態度で接されるのは傍に居る雁夜としても非常に不快な為釘を刺したのだが、彼彼女等は安易な思い込みで絶対的強者を侮りはしないと其の瞳から推測出来たので、此れ以上釘を刺すのは手間なだけだと判断した雁夜は話を続けることにした(リンディとなのはは玉藻の正体を知って侮っていたのではなく、職責や生来の思考からの態度である)。
「それと提案を受けた場合、此方が他に要求するのは衣食住に娯楽品の提供とアリサちゃんとすずかちゃん以外の神職者数名程度だ。
金銭や権力が欲しければこっちで何とかする。
まあ、立ち上げた会社が肥大化し過ぎて合併吸収するかもしれんが其の辺りは知らんし、そっちが合併吸収しても文句は言わん。闇討ちとか詐欺とかしない限りはな。
さて、補足はこんなもんだな。
で、改めて訊くが、此の提案、呑むか蹴るか答えてもらう。3分以内にな。
短いと思うだろうが、相談して得られることなんて無いだろうし、俺達の発言の裏付けなんて取れはしないんだから、必要なのは決断する意思だけだから十分だろう。
それじゃあ秒読み開始だ」
一方的にそう言い切った雁夜は、玉藻と一緒に時間迄部屋の隅に置かれていた新聞や雑誌を読んでいることにした。
Side In:
「なるほど。つまり全てを掌握している神ってことなのか」
「いや、あたしも詳しくは知らんけど、多分そんな感じの神様って感じでしか憶えとらんから、あんま真に受けられても責任持てんと言うか何と言うか……」
「いや、今は大まかな情報が得られれば十分だ」
「だね。
だけど……複数の神の側面を持つ神がいるなんて、凄く興味深いな」
たしかに。宗教の分派や言語の変化、他にもある一面を切り取って崇めたりした結果、別名なのに同一神というのは風俗や人口分布等が複雑に絡み合った興味深い話だな。
……考古学者のユーノが興味を覚えるのも分かるな。
「あたしんとこの国の神様って、結構他所からの神様が多いんよ。
多分メジャーな神様の半分くらいはルーツが大陸にある筈やで。
後、話戻すけど、仏教とか神道……あの神様が属する大まかな宗教やけど、頭おかしいとしか思えん規模の単位と表現がありまくりやから、伝承通りの凄さなら仏教や神道の偉い神様に逆らったらまず詰むで?」
「頭おかしい単位や規模って、具体的にどんな感じなんだい?」
ミッドには一応聖王教会があるけど、アレは一応故聖王を奉っているだけだから、神聖視されていても伝承は自ずと人の限界に縛られるから、言い方は悪いけど僕でも運に恵まれれば似た様な結果は叩き出せるから、仮に奉られている聖王が生きて実在しててもそこまで怖くはないけどな。
だけど、さっきの彼女級がぽんぽん奉られているのなら、知らなきゃ確実にヤバい。
「詳しゅう知っとる訳じゃないけど、人間どころかアリやカを殺しても平気な奴は死んだら等活地獄ってとこにいくんや。
そしてそこじゃみんな体から剣とか何かが生えてて、誰もが意味も無く殺し合いをするらしいんよ。
当然すぐに死んでまうけど、風が吹くと誰もが生き返って又殺し合いに耽るって地獄なんよ。
で、その地獄は1兆6千億年くらい経たんと終わらんらしいんよ。
しかもソレ、地獄の中じゃ一番軽いんやで?
ぶっちゃけ仏罰は他の宗教と違って桁が外れとるから、仏教圏の人が慎ましやかになり易いのも仕方ないっちゅうわけや。
なにしろ、神様に唾吐いたり親より先に死んだり反乱で死んだり神を貶めたりHに耽りすぎたり美味しい物見境無く食べまくったりしただけで地獄行きなんやからな」
「「…………」」
聞きたかった話と大分違うけど、神に逆らうと地獄行きとか、彼女の存在を考えると現実味が在り過ぎて怖いな。
「まあ、仏教はたしか幸せになるための教えじゃなくて、【悟りを開くため】の教えだったはずやから、苦しんでなんぼなんやけどね。
とゆうものの、悟りは一番早く開けるっていう弥勒って元人間の御方も56億7千万年かかるって言われとるから、凡人はいったい何度生まれ変わり続ければ開けるのやらって話やけどな」
「「………………」」
何と無く方向性が読めてきた。
つまり――――――
「死んだら罪を纏めて清算して、ソレが終わったら生まれ変わって苦しみながら悟りとやらを開く難行にチャレンジする……」
――――――というわけか。
「多分それで正解や。
一応極楽浄土って概念はあるんやけど、輪廻転生っちゅう生まれ変わり続ける概念と真っ向から対立しとるから、詳しいとこは知らんのやけどな」
「……何だか凄くアバウトな宗教だね」
「あたしもそう思うで。
なにしろ、昔見たテレビで13宗56派とか言われとったけど、現代でも増えたり減ったりを繰り返してるらしいから、今どれくらいか分かってる人いるのか謎やな」
本当に興味深い歴史を辿ってそうだな。
一段落したらユーノと一緒に調べてみるのもいいかもしれないな。罰が当たらない範囲で。
「話は変わるんやけど、本当にあたしらに手錠とかかけんで良いん?」
「「ん?」」
「いやな、理由は兎も角うちの家族が人様に迷惑かけたのは事実なんやから、こうしてのほほんと話しといて良いものかどうか疑問なんよ」
たしかに彼女としては自分が知らないとはいえ守護騎士達……家族が傷害行為に走っていた責任を一緒に取ろうとしているのに、軟禁どころかのんびり外で話していられる現状は不思議なんだろうな。
実際、本来なら彼女は兎も角守護騎士達はデバイスを没収して厳重監視下で軟禁するぐらいの処置はしてるだろうから、彼女の指摘は至って普通だな。
だけど、迂闊にそんなことをするわけにはいかないんだよ。
「君が気絶している間のことは映像付きで説明したから分かると思うけど、今、なのはが起きたら何をすると思う?」
「そりゃあ………………は……ははは……」
「お察しの通り、彼女達を探し回って暴走するだろう。
だがアースラには彼女達の手掛かりは残っていないだろうから、如何しても事情を知ってるかもしれない僕達が標的になる。
だけど当然僕達は言うつもりは無いからなのはは業を煮やす。
その結果なのはが僕達に固執するだけならまだ安心だけど、フェイトがアリサとすずかという少女達の安否を確認して連絡が取れたり居場所を探知できてしまったら、なのはがフェイトとアルフを引き連れて情報収集に動く可能性は窮めて高い。
そうなったら当然……」
「最悪、見事に鉢合わせやろな」
その通り。
考えただけで胃が痛い。ついでに眩暈もする。
「勿論そんな事態になったら、なのはどころか僕達も纏めて消されかねない」
「本当はデバイスを没収してバインドで拘束してれば安心なんだけど、一応ユーノからの借り物らしいけど、個人情報が詰まっている上に民間協力者であるなのはのデバイスを通告無しの強制回収や徴発する名目は無いし、拘束しようにも危険行為や犯罪行為をしたわけじゃないから出来ない。
と言うか、流石にアースラが転移した所に個人で転移するのは凄まじく時間と手間を食うから、そもそも時間的に間に合わないから、考えても仕方ないことなんだけどな。
とはいえ最善策が実行出来ないからって何もせずにいるわけにはいかないから、なのはが暴走した時の為に月村すずかって子の家の周りで張ってるわけだ。
当然武力行使をするかもしれない以上は武器を没収するわけにもいかない。
あと、魔法に不慣れな君を近くに置いておくには危険過ぎるからかなり離れた場所に置いとくことにしたんだ。
勿論、何もせずに離れているだけならなのはに見つかって突撃されるだけだから、簡単に発見されないように迷彩結界を展開して守護騎士達が先に発見されるようにはしている。
そして最後に、今現在、少しでも彼女達の情報が欲しい執務官の僕と……」
「ある程度は地球の風俗に詳しくて、更に神事関係知識が少しは有る上、結界が得意な僕が同行したんだ」
「それと万一なのはの暴走の矛先が君に向かった時の為の護衛という意味もあるけどね。
因みに僕は護衛というより迎撃要因だな」
他にも、重要参考人に見張りも付けないのは問題だし、万が一守護騎士達が反乱を起こした際に人質として使うというポーズを示す意味もあるけどね。
まあ、そんな必要は無さそうだし、それに若し仮に逃げると言うか抵抗したとしたら、地球に居る限りは手を出さない方が良いと思うしな。
なにせ、彼女が特に咎めなかった者を、彼女の不況を盛大に買った僕達が彼女の近くで追い掛け回して地球を荒らそうものなら、次は警告無しで消し飛ばされる可能性すらあるからな。
ソレを考えるとあんまり待遇を悪くして反意を持たれない為にも、可能な限り待遇を良くするべきだからな。
……個人的に同情の余地が凄くあるから酷い扱いをしたくないって思いもあるけど。
「ええと…………ごめんなさい?」
「いや、君がなのはと友人ということは別に悪いことじゃない。
そして一番力尽くで口を割らせ易いと思われているだろうことも君に非は無い。
寧ろ……」
「思い込んだら手段を選ばず状況を弁えずに暴走するだろうなのはの方に問題が有るからね……」
…………あれ? そう考えるとなのはは単なる危険人物ということになるな。
言うこと無視するし、示威行為どころか武力行使上等な考え方だし、本人も悪魔でもいいとか言ってたし。
「っちゅうか、もしなのはちゃんが暴走したとして、いったい何をする気なんやろ?」
「「………………説得?」」
「いや、いったいナニをどう説得するんやろ?」
「「…………」」
言われてみればなのはの話は場当たり的というか主体性が無いような感じがするな。
おまけに無自覚に超上から目線だよな。
守護騎士のヴィータと話し合いをしようとしてたけど、協力
……冷静に考えたら説得じゃなくて降伏若しくは服従勧告だな。
「しっかし、クリスマスらしくファンタジーっぽい出来事満載な時間やったんやなぁ。
まあ、神様は全く別の宗教の神様やったけど」
「あ、そのクリスマスってやつの神様はどんな神様か教えてくれるかな?」
「そうだな。彼女程非常識な神ではないと思うけど、知っておかないと危険な気がするしな」
万が一その神縁のロストロギアを管理局が徴発しないとも限らない以上、出来るだけ早急に地球の神話は修めておかないとマズイからな。
「えーと、エホバっていう神だけを奉ってる一神教で、宗教名はキリスト教って名前なんよ。
生憎詳しくは知らんけど、漠然と偉い神様っていうこと以外のことは語られてなかった筈や。
タイプは信徒に使い走りを寄越して奇跡を起こす類の神様やね。
後、物騒なお告げとやらが横行して他宗教の人や他民族を虐殺しまくった宗教で有名や。
ついでに言うと他宗教は絶対に認めん思想で有名やし、同じ起源の宗教同士でも戦争起こしたりする過激な宗教団体や。
まあ、暴走しとらんかったらボランティア精神豊富な団体やし、慈愛や清貧や貞淑を謳ってたりしてるから信徒さんも気の良い人達が多いで」
「……凄まじく罰当たり的な説明な気がするけど、説明有り難う。
だけど……キリスト教のキリストって部分、どうも人の名前に聞こえるんだけど?」
「あ、それは昔イエス・キリストっちゅう、一度死んで蘇って奇跡を振り撒いた神様の子の名前なんよ。
ソレでどこがどうなったのかは知らんけど、ユダヤっていう地方のユダヤ教がキリスト教って名前に変わったんよ」
「……さっきの彼女っていう前例を考えると、なんだか本当に居そうで怖いなぁ」
「そうだな。
矢張り何処だろうと宗教関係と揉めるのは得策じゃないな。
……実際に神と呼ばれる高次元存在が居るなら尚のこと」
「まあ、もし本当にエホバ神が居るんならとっくの昔にハルマゲドンっていう、エホバ神が自分の使い走りと信徒以外を皆殺しにするっていうイベントが起こってると思うけどな」
「「…………」」
聖王教会しか宗教は知らないけど、宗教ってこんな物騒なのが普通なのか?
もしそうなら宗教関係に干渉する時は細心の注意を払うだけじゃなくて、事前に宗教団体が在るかどうかから調べた方が良いな。
……あの二人が居なかったら、僕達は纏めて消されていたみたいだからな。
「っちゅうか、大抵の偉い神様って性格云々抜きにして、〔怒るの分かるけど何でそこまでするかな~?〕、って感じなんばっかりやけどな。
とはいえ神様なんて宗派や地域によってころころ伝承が変わったりするみたいやから、一概に神様の性格とかを決め付けん方がいいかもしれんけどな」
「……そうだな。事実だとしても不敬としか思えない描写で残そうとする奴なんてそうそうないだろうから、伝承は美化されたものが普通だろうしな」
「だね。
多分直接相対した人が残した伝承でも遠慮以外に主観や推測が相当混じってるだろうし、編纂や口伝の途中に歪められた可能性も大だろうから、下手すれば神様が司っている物事すらも間違っている可能性が在るかもしれないと思う」
「やね。
しかも大げさな表現になってるだけなら取り越し苦労で済みそうやけど、昔の人のボキャブラリーの少なさを考えると……」
言いたいことは良く分かる。
余り考えたくは無いし当たってほしくもないけど、つまりは――――――
「説明不足と年月の経過で弱く描写されている可能性もある」
――――――ってことだよな。
「しかも過不足なく伝わっているとしても、彼女みたいに人知を飛び越え過ぎた存在が実在するって事もありえるよね」
「考えただけでこの世界……彼女風に言うならこの星だけど、兎に角この星とは全力で関係を拒否したくなる考察の帰結だな」
「管理局ってところも二の足…………って、すずかちゃんとアリサちゃんや」
……正直、どれだけ距離が開いているとしてもも、彼女が居る可能性が在るだけで振り返りたくない。
ユーノも同じみたいだし、このまま無視を決め込みたい。
少なくても、実害が出る寸前までは振り向いて確認したくない。居るかもしれないって可能性に止めておきたい。折角気配がさっぱり感じられないんだから、希望に縋り続けていたい。
「あと、アマテラスさんとその夫さんみたいな人もいるで」
「「……おぅふ」」
可能性消滅。神は死んだ。って言うか寧ろ逆だな。神が現れた。
「ちょ、ちょお? なんか雲行きが怪しいんやけど?」
「「!!!?」」
おいおいおいおいおい! 何を遣ろうとしているんだ!?
って……やめろーーーーーーっっっ!!!
何を考えてるのかは知らないけど、わざわざ宇宙規模の怪獣に喧嘩を売るなーーーーーーっっっ!!!
「うわ。まるでターミネーターやな。
拳銃どころかマシンガンとかも平然と受けとるし、投げ飛ばしたり吹っ飛ばしたりする対応もまんまやな」
り、理由ははっきりとは解らないが手加減してくれてるみたいだな。
…………良かったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「なあ、魔法ってああいうのも普通に出来るん?」
「えっ?あ、う、うん。
物凄く高位の魔導師なら似た様なことは出来ないことはない……かな?
基本的に僕らが使う魔法は魔法……と言うか魔法の術式に対して最も効率的に効果を及ぼす様になってるから、純粋な物理に関しては見た目程の効果は無いんだ」
「そもそも質量兵器……君達が言うところの科学兵器は禁止にしているから余り対策としては考慮していないし、僕達があそこに立っていたら今頃挽肉になってたな」
「あ、ただ、僕やクロノ……って言うかミッドチルダ式の魔法を使う者達と違って、科学兵器を使った戦争を潜り抜けただろう守護騎士達は物理系に対する機能も備えてると思うよ。
流石に彼女より少し先を歩いている彼みたいに集中攻撃されたらバリアジャケット……じゃなくて騎士甲冑だっけ?まあ兎に角それが突破されなくても、衝撃で骨が砕けてタコみたいになって死ぬだろうけど」
だな。余りの弾丸密度で彼の姿が霞んで見えるし。
「あと、彼女達はどう見ても防御術式を展開している様に見えないから、多分アレは素の状態の防御力だと思う」
「念の為言っておくけど、僕達どころかドラゴンでも傷を負うだろうし、無防備にアレを食らい続ければ戦艦の装甲だって危険だから、間違ってもアレを普通と思わないでくれよ」
「と言うか、彼と彼女は完全に別格だからね。
魔導書のバグの部分だけ取り除いたり、バグとはいえ大部分を取り除かれて不安定な筈なのに官制人格を完全に安定させているとか、見た目は地味でもあんなお手軽に出来ることじゃないからね?
寧ろ今の僕達じゃどれだけ設備と人間を揃えたちしても、官制人格にバグを押し付けて消えてもらわなきゃ事態収束は不可能だから。
分かり難いけど、彼も僕達の常識の外側の存在だから」
「それはリインにも聞いたで。
なんでも、〔蜘蛛の巣1000個丸めた塊を綺麗に解いて、手掛かり無しで元張ってあった場所へ精確に張り直すより難しい作業〕、って言うとった」
「……ようするに無理って事だよね?」
「バグ取りだけってぃゅうわっ!?!?!?」
「「!?!?!?」」
……一瞬で館が微塵切りとか、悪夢だな。
しかもどう見ても溜め無しで微塵切りにしたよな。
「ユーノ。アレ、魔法と思うか?」
「解らない。ただ、バグを一撃で消し飛ばしたのを考えると、何らかの特殊能力が在るか魔法を付加することが可能かのどちらか、もしくは両方なのは間違いないと思う。
それとあの触手みたいなのの形状と位置的に、後3本以上は展開可能だと思う」
「そうだな。
というか、今何気無く空中を歩いているけど、どう見ても魔法が行使されてるように見えないのを考えると、特殊能力か僕達が理解出来ないレベルの偽装、若しくは僕達が理解出来ない領域の術式で編まれているかのどれかだな」
「リインが言うには、リイン達の知る常識とは根本から違う上に完全に格上の系統なのは間違いないらしいで」
「…………一番聞きたくない答えだな」
そんなのを本局に報告したら絶対にこの世界に干渉するぞ。
そしてその時は控えめに考えても派遣された人員が全滅。最悪本局が消し飛ばされる。
溜め無しでアースラをミッド近海に転移させたのを考えるに、アルカンシェルを防いだ技法を攻撃に転用して本局に連続で転移させて炸裂されたら数秒で終わる。
「ああ…………世の中余計な事知らなきゃ良かったって事ばかりだよ」
「……クロノ。決め台詞間違ってるよ」
五月蝿い。冗談でも彼女達の存在を指して、[こんな筈じゃなかったことばかりだよ]、とか言えるか!
一度もこっちに視線を送ったりとかしてないけど、アリサとすずかって子達が何度か僕達を正確に見ていたんだから、絶対彼女達気付いてるぞ!
そんな状況で不敬丸出しの台詞なんて言えるか!
その後、数分経つと荒れに荒れた敷地内が脈絡も無く元通りになった。
しかも倒れていた連中が警備位置に当たり前の様に立っているだけじゃなく、さっきまでのことを全く知らないかのように平然と警備しているという不気味な光景を目の当たりにした(記憶が改竄されているとしか思えなかった)。
そしてその数分後、復活したなのはとなのはに引き連れられただろうフェイトとそのお供のアルフが予想通り突撃してきた。
尤も、流石に守護騎士全員と管制人格の総がかりは突破出来ず、無事取り押さえる事が出来た。
だが、諦めていないのは火を見るより明らかで、後日アリサとすずかという少女達に突撃するのは解りきっていた為、その対策をどうするかで今から胃が痛くなって仕方なかった。
Side Out:
【玉藻内の好感度】(洒落と思って流し読みして下さい)
評価0:無関心。
評価1:無関心でない程度。
評価2:気になる。
評価3:凄まじく気になる。
評価4:ヤンデレやストーカーも脱帽級。
評価5:ルナティック∞
・雁夜
愛:4→5↑
好:4→5↑
欲:3→5↑
信:3→5↑
友:2→5↑
・桜
愛:0→2→5
好:0→2→5
欲:0→0→4
信:1→3→5
友:0→3→5
・アルクェイド
愛:2
好:4
欲:3
信:4
友:4
・大河
愛:3
好:4
欲:3
信:4
友:4
・琥珀
愛:1
好:4
欲:3
信:4
友:4
・志貴
愛:0
好:2
欲:0
信:4
友:4
・バルトメロイ
愛:0
好:1
欲:0
信:2
友:0
・ウェイバー
愛:0
好:0
欲:0
信:2
友:0
・士郎
愛:0
好:0
欲:0
信:1
友:0
・なのは
殺:4
嬲:4
怒:4
嫌:4
怨:4
・アリすず
警:3
疑:3
嫌:1
憎:0
信:2
・超一流の油揚職人
愛:0
好:2
欲:0
信:2
友:2
~~~~~~~~~~
【とある日の間桐邸】
年末も大詰めの昼下がり、ライダーは桜と一緒に桜の私室の大掃除をしていた。
尤も、増設した宮殿の方の桜の私室である為広さは㎡ではなくk㎡単位という、私室と呼ぶには首を傾げる広さであった。
当然余りに広過ぎて全く落ち着かないので桜は幻術や結界で幾つか間仕切りしており、今桜とライダーが大掃除している場所は倉庫に当たる箇所であった。
だが、幾つかの道具を片付けていたライダーは、手に取った桐箱から懐かしい臭いを嗅ぎ取り、露骨に顔を顰めた。
「どうしたの、ライダー?」
「いえ、この箱から懐かしくも忌々しい臭いが漂ってきたもので……」
不思議そうな顔でライダーに尋ねる桜に、ライダーは何とか顰め面を最近すっかり顔に馴染んだ微笑に戻して言葉を返した。
すると桜は合点がいったのか苦笑いしながら言葉を返した。
「あ、あはは。そういえばソレ、昔雁夜おじさんが使ったペルセウス縁の触媒だったよね。
……ごめんねライダー。私、ちょっと配慮が足りなかった」
「いえ、サクラが謝ることは有りません。
普段使っている私室や通路に飾られているなら兎も角、倉庫の中に奴縁の品が在ったとしても文句はありません。
それに、私こそ神経質に反応してサクラに気を遣わせてしまい、すみません」
そう言って互いに頭を下げ合う桜とライダー。
両者とも何だかんだで生真面目な為、此の儘頭の下げ合いに発展しそうだったが、既にそういう事態は何度も経験しており、又、其の度に大河がキリが無いから1回で終わらせた方が互いの為と言っていたので、好い加減相手に気を遣わせ過ぎるのは良くないと学習した桜とライダーは一度互いに謝罪してだけで終わらせて次に進めることにした。
「ライダーが其れを快く思っていないのは分かるけど、其れは思い出というか記念と言うか…………兎に角大切にしておきたい物だから、元在った所に直しといてくれる?」
「分かりました。
それとサクラ、丁度大掃除も終わりましたので、よければどういう思い出が在るのか話してくれませんか?」
「いいけど、それなら向こうの椅子がある所かベッドのある所で話さない?
ソレが在る此処だと、ライダーはあんまり良い気分じゃないと思うし」
ライダーが棚に直した桐箱を見ながらそういう桜。
それを聞いたライダーは微笑みながら桜の気遣いに感謝を述べる。
「有り難う御座います、サクラ」
「気にしなくていいよ、ライダー。
だけど……もう直ぐ暗くなりそうだし、やっぱり
其の言葉を聞いたライダーは眼鏡の奥の目を輝かせながら――――――
「それならばサクラ、早く戻る為にこの自転車に乗って帰りましょう。
大丈夫です。漕ぐのは私ですので、桜は後ろでゆっくり座っていられますっ」
――――――欲望駄駄漏れの言葉を即座に返した。
そしてそんなライダーに桜は頬を引き攣らせなが言葉を返す。
「い、いいけど…………安全運転だからね?」
「大丈夫です。天にも地にも、私の疾走を妨げるものはあんまり在りません」
「いや、大丈夫でもなんでもないから。それ」
「大丈夫です。私は神霊の状態と雖もライダーのクラスで召喚されし者。
騎乗している状態で後れを取る事などあんまりありません」
「だから、全然大丈夫でもなんでもないから。それ」
「大丈夫です。なぜなら大丈夫なのですから大丈夫です。
それに私は痩せても枯れてもライダーのサーヴァントです。
マスターと共に天地を疾走することこそが本領であり使命なのです」
「…………」
桜の言い分を完全無視するかのようにヒートアップするライダーを見、ここで駄目出しをすれば盛大に拗ねるのが目に見えている桜は、嫌な予感がするものの了承することにした。
「分かった。分かったから落ち着いてライダー」
「分かって頂けましたか、サクラ」
同姓すら魅了してしまう微笑を浮かべながらそう言うライダー。
だが、その微笑を向けられた桜は見惚れるどころか早まった真似をしてしまったかもしれないと若干後悔していた。
そしてそんな桜に気付きもせずにライダーは上機嫌に桜が座っても痛くない様に後ろの荷物置き場にタオルを巻き付ける。
「さあサクラ、タオルを捲き付けただけですが、取り合えず座っても痛くはないと思いますので出発しましょう!」
「ライダー……もう一度言うけど、く れ ぐ れ も! 安全運転でお願いね」
「大丈夫ですよサクラ。
幸い此処には一般人など居ないので轢き殺す心配は在りません」
「いや、だから、自転車で人を轢き殺すかもしれないスピードを出すと暗に言ってるライダーの思考が――――――」
「それでは暗くなる前に出発します!
風で吹き飛ばされない様確り抱き付いてて下さい!」
「――――――全然安全じゃな……ってええええええええええっっっ!?!?!?」
態とか逸る心を抑え切れなかっただけなのか判りかねる表情と雰囲気のライダーは桜の言葉の途中でペダルに力を加えた。
そしてライダーは、雁夜が創り上げた自転車の名と形をした別な物を力強く漕ぎ始めた。
ランクA+++という、何を考えて製作したのか余人にはまるで理解不能な自転車擬きは、大地母神のスペックを持つライダーの力強く押し出される漕ぎ足を難無く受け止め、疾走を開始した。
向かい風で浮かび上がらない様に風や重力の操作が可能であり、更に空すら駆けられる自転車擬きは、熱中し過ぎて本来の目的を完全に忘れたライダーに如何無くスペックを発揮させられた。
結局ライダーが桜の声に気付いたのは、自身の全能力費やして垂直に地球の重力を振り切り掛けた頃であった。
~~~~~~~~~~
【其の前の桜達 其之壹・士郎の受難】
「なあ桜。雁夜さん達ってどんな風に戦ってたんだ?」
「? 如何したんですかいきなり?」
「いや、深い意味は無いんだけど、同じ人間なのに伝説の存在と真っ向から戦えるんならさ、俺がサーヴァントと戦う時に参考にならないかと思ってさ」
「あ~…………」
如何言ったらいいものか言い淀んでいる桜を見た凜は、呆れながら話に加わることにした。
「そこのへっぽこ。出来もしないことを訊いて後輩を困らせるのはやめなさい」
「むっ。なんだよ遠坂。出来もしないって決めつけるなよ」
「決め付けじゃなくて事実なのよ、へっぽこ。
衛宮君、理解してないようだから懇切丁寧に教えてあげるけどね、間桐雁夜って存在は正真正銘の魔法使いなのよ。解る?」
「いや、魔法使いなのはさっき聞いたぞ?」
明らかに解っていない士郎の言動を聞いた凜は怒りの混じった溜息を一度吐くと、頬を引き攣らせて怒気の混じった声で説明を始めた。
「あのね、衛宮君。魔法って言うのは、【正真正銘の奇跡】なのよ。解る?
一撃で山を消し飛ばそうが、重力を操作しようが、時間を加減速しようが、どれもこれも常識の範囲内で奇跡じゃないの。手間隙かかるけど私も衛宮君も似たような結果は起こせるんだから。
だけどね、魔法は冗談でも誇張でもなくて、正真正銘私達がどれだけ頑張っても再現出来ない結果なのよ。
つまりね、例えばだけど、過去の対象に攻撃する戦法を衛宮君は真似出来るかしら?」
「いや……それは……」
「出来ないでしょ? そりゃ魔法使いの戦闘スタイルが必ずしも魔法を主軸においているとは限らないけど、少なくても間桐雁夜は人外のスペックと魔法の圧倒的神秘に因るゴリ押しなのは有名なのよ。
だけどそれは技術の入り込む余地が無い領域に居る存在だから可能なのであって、衛宮君や私みたいな木端存在が真似してサーヴァントに挑めば良くて秒殺、悪ければ瞬殺されるわ。
て言うか、アーチャーやセイバーも多分あっさりリタイヤしかねないレベルの無謀な戦い方なのよ。本来は」
「そ、そんなに無謀な戦い方なのか?」
気圧された士郎はちらりと桜に視線を向ける。
すると桜は苦笑いしながら士郎の疑問に答える。
「遠坂先輩の言う通り、本当なら無茶無謀の窮みな戦い方です。
評価規格外以外の干渉は魔法の神秘に物を言わせて素手でバンバン払いますし、評価規格外の干渉は魔法の万能性に物を言わせて神秘を向上させたり都合の良い特性を自分に付加したりしますから、対処出来ない事態は純粋な格上か一定レベル以上の物量作戦ぐらいなんですよ」
「因みに間桐雁夜は常にA++以下は無効化するっていうインチキじみた防御力を持ってるから、殆どの相手は攻撃を無視して懐に飛び込まれた後に殴られて終了っていう運命らしいけど、衛宮君は音を超える速度で踏み込めたりセイバーの攻撃を無防備に食らっても平気だったりする?」
「…………」
「あ、因みに間桐の敷地内に居る幻想種や神霊の方方ですけど、探せば超一級サーヴァント程度の方も居ると思いますから、先輩が腕試しをしたいなら頼んでみますけど、如何します?」
超一級サーヴァントを程度と言う桜に凜と駄菓子を貪っている最中のセイバーは顔を顰めたが、ソレに気付かず士郎は言葉を返す。
「どうしますって言われても……死亡フラグにしか思えない挑戦は流石に遠慮しておく。
あ、それと、〔程度〕って言ってるけど、もしかしてセイバー達ってあんまり凄くないのか?」
自らの無知も相俟り、士郎は超弩級の地雷を踏み抜いた。
そして流石にその言葉は無視出来なかったのか、駄菓子の海で溺死するかの如く駄菓子を胃に収め続けていたセイバーが怒りを顕にしながら反論しだした。
「シロウ。たしかに私は此処にいる幻想種や神霊と戦えば勝てる方が少ない程の戦闘力でしょう。
ですが、それは私が弱いのではなく相手が強大過ぎるだけです。
寧ろ人の身で幻想種や神霊に勝てるかもしれないというだけで破格なのです。凄いのです。
本来人間と幻想種や神霊との差は、蟻と象以上の開きが存在するのです」
「少なくても人というカテゴリーの中においてサーヴァント……って言うか英雄は頂点に位置する存在なのよ。
私達が生まれたての赤ん坊以下の能力しかないのに、彼らはオリンピック選手級の存在だって言えば凄さがわかるでしょ?」
「あ、ああ」
「だけど相手は熊やライオン、果ては象や鯨、最悪ゴジラみたいな存在なんだから、負けて当然っていう差が最初から在るんだから、普通は比較しないでしょ?
短距離のゴールドメダリストの評価で、チーターに負ける大したことない奴って言う馬鹿はいないでしょ?」
「馬鹿って……桜の言ってる事は間違ってるって事か?」
「そうは言わないけど不適切なのは間違いないわ。
偏差値100万の人外を基準にしてる感じが桜なのよ」
「ひゃ、100万って……」
子供が出鱈目で言ったようなまずありえない数値に頬を引き攣らせる士郎。
だが、それに対し至って真面目な顔で凜は言葉を返す
「少なくても間桐雁夜の伴侶の玉藻の前は、確実に此の数値以上の人外よ」
「シロウ。私は神霊が力を行使するところに立ち会ったことがありますから、そう言った存在に比べれば私達が大したこと無い存在なのは遺憾ですが認めるしかないと理解は出来ます。
ですが、相手が強大で私達が劣っているからといって、シロウと私達の差が縮まったわけではありません。
ですから、くれぐれもサーヴァントを侮って戦闘に介入するなどという暴挙をしないで下さい」
自己弁護だけでなくマスターの心配もするセイバーだったが、生憎と士郎はセイバーが想定しているよりも色色とアレであった。
なので士郎は憮然としながら反論する。
「雁夜さんや玉藻さんがぶっ飛んだ存在なのは理解出来たけど、セイバー達は人間のまま偉業を成して今の領域に辿り着いたんだろ?
だったら俺も頑張れば少しくらいは役に立つんじゃないのか?」
「…………桜、そして凜。すみませんが、教会に行く前に、死なない程度にシロウの目を覚ましてあげて下さい」
其の後、士郎は凜に徹底的に叩き潰され、其の都度桜に完全回復させられ、結局10回以上沈黙する破目に陥った。
しかも途中からセイバーどころかアーチャーも参加して士郎を叩きのめし続けた。
特にアーチャーは色色と思うところがあるのか、桜が完全回復させられるのをいいことに、100回以上叩きのめしたのだった。
尚、桜としては実践修行の難易度としては
だが、其の説明を聞いた士郎は、桜に対して微妙に腰が引けてしまったのだった。