傍迷惑な奴と出遭った
しかも爺さんに匹敵する程の傍迷惑振りだ。
何しろ初対面時に詳しい話は食べながらしようとか言い出した挙句、焼肉屋で俺の胃の大きさを勘違いしているとしか思えない量を注文した挙句、俺に代金を全て押し付けやがった。
幸い宝石とかを生み出せるから金の心配は要らないが、それでも良い気分じゃないのは確かだ。
おまけに俺が宝石を生み出せると知った時、首輪を付けて一人旅に連れて行こうとしやがった。
当然怒った俺は文句を言った。
同じ日本人ならもう少し慎みというか遠慮を知れ、と。
ついでに顔とスタイルは良いのに性格が残念だとも言ってやった。が、次の瞬間俺の体が光る拳の直撃を受けて窓ガラスを突き破り、当然の様に高層階から道路へと叩き付けられた。
おまけに上からあいつが認識阻害を施した魔力弾をピンポイントで俺へ大量に撃ち込み続けた。
幸い体は頑丈だから怪我はしなかったが、傍目には何故か体が奇妙に震えたり痙攣している状態だから、心配されるより不気味がられたから病院には連絡されなかった。が、警察には連絡が行ったらしく、パトカーのサイレンが早くも聞こえてきた。
日本の警察の優秀さに辟易しながらも、即座に周辺の奴等の記憶から俺に関する情報を思い出せないように封印して逃亡した。
当然代金を払ってないし金も預けてないが、その辺の責任は店から俺を叩き出したあいつが全て負うのが筋だと思い気にしなかった。
生憎と俺は女だからと無条件に甘くないし、あいつは可愛げも無ければ精神的色気も無い上礼儀知らずで無遠慮だから、此れ位の対応でも俺の心は全く痛まない。
ついでに俺の懐も全く痛まない。
おまけにあいつの懐は痛むから、少しは俺の気分も晴れる。
うん、ザマアミロ。
ただ………噂では記憶操作を殴ってするらしいが、あの時店内に居た人間全員を逃さず殴るのかと思うと、正直二度と遭いたくないな。
……………しかし流石は破壊魔女と言ったところか。
まさか記憶も封印や消去じゃなくて、脳細胞を破壊することを選択するとは……………。
………うん。………………本当に関わり合いになりたくないな。
店に残った多分無辜の人達への健康を僅かに祈った後、タクシーを拾って此の場から出来る限り遠ざかることにした。
当然追跡されない様に自分自身に細工を施して。
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さっきの場所から十分離れていて(100km以上)、更に夜中に指定しても余り不自然じゃない場所として、観光地の宿屋に急いで追い付こうとしている客という設定にして那須の町へと向かい、無事目的地に到着したので夜間割増料金を払ってから降りた。
………今更ながら那須は余り観光地として向いていないと思いながらも、殺生石に何か神秘的なモノでも在るのか?、と言う疑問解消の良い機会と思って選択したが……………山に登るのは早まり過ぎた感がしないでもないな。
……………茨城の大甕倭文神社の宿魂石を見に行く時は昼間にした方がいいな。
ま、とりあえず稲荷寿司と夜食と安酒を買ってから向かうとするか。
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………完璧に大当たりだな。此れは。
もう神秘がバリバリ感じられるぞ。
何で魔術師の連中がコレをパクらないか不思議でならないレベルの神秘だぞ。
いや、本当に何で魔術師の連中は此れをパクらないんだ?
祟りの千や2千を覚悟してでもパクリそうだけどな、此れは。
まぁ、爺さんが言うには「」と繋がっている魔法使いは、………特に内側から至った毛色の違う俺は特に物事の深い所を知るのに優れてるらしいから、自分の感じることが必ずしも他の奴等が感じているわけじゃないらしいから、案外繋がっていない奴らは余り感じないのかもしれないな。
尤も、それでも只で手に入れられるならパクリそうなもんだけど………………魔術師連中の考えは理解出来ないな。別にしたくないけど。
しかし……………此れの神秘的に伝説の大部分は本当そうだが、果たして玉藻の前は災厄の女だったんだろうか?
時代的に考えれば宮廷や都には玉藻の前が来る前から碌でも無い事の火種は在っただろうしなぁ。
かといって火の無い所に煙は立たないし、仮に事実無根だったら関係者がある程度死んだら実情が広まりそうなものだけどな。
……………大方、金遣いが荒いとか腹黒いとか悪女とかは当たってても、実際は妾や側室としては辛うじて許容内程度のモノだったんだろうな。
ついでに言えばソレが許される程の美貌の持ち主だったんだろうが…………………………さっきのあいつとどっちがマシなんだろうな?
容姿は見てないから解らないが多分玉藻の前の方が上だろうが、性格の悪さも玉藻の前の方が上だろうな。
…………………………逢ってみたい気もするが、本当にあいつよりも性格が悪かったらどうなるか解ったもんじゃないな。一応日本三大化生の一だしな。
………さて、と。
物見遊山も終わったし帰るとするか。
あ、伝承が本当ッぽそうだから、好奇心で見物した侘び代わりに稲荷寿司を供えるとするか。
ついでに安酒の飲みかけだけど、清め酒として掛けるとするか。
………でも清め酒にしちゃ量が全然足りないな。
う~ん、飲まなきゃギリギリ足りたんだろうけど、景色も好いからつい此処で飲み食いしてしまったからな~。
て言うか、冷静に考えれば墓だか牢だかの前で飲み食いしてる俺は相当罰当たりだな。
焼肉食ってる時から酒飲んでたとはいえ、少し礼節に欠いてるぞ。コレは。
……………ムム………此の儘じゃああいつみたいに日本人にも拘らず礼節と遠慮を欠いた駄目日本人になってしまう。
ならせめて侘び代わりとして、徹底的に清めてやろう。
幸い足りない酒の分は俺が魔法で水増し出来るからな。
ついでに汚れとか穢れとか封印とかも纏めて洗い流せる様なモノで水増しするか。
後、周辺の山とか地脈も効果範囲になる様にするか。
あ、最期に魔術師に荒らされん様に地脈どころか龍脈に組み込んで、龍脈の一部の力で此の辺りを荒らすという思考を持てん様に異界化の儘安定させて、トドメに此処で暴れたら天災に見舞われる様にするか。
…………………………何だか子供の頃の秘密基地を作ってる時みたいで楽しいな。
よし。それじゃあ興も乗ってきたからもう少し追加要素を盛り込むか!
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そう言えば他力本願って本来の意味は、〔自分一人の力で成し遂げた様に思えても、ソコには御仏の導きと力添えが在る〕、って意味なんだよな~。
つまり、あの時の俺の行動は御仏の導きと力添えが在ったというわけで、別に俺だけの責任というわけじゃないと思う………………………………………すんません、調子乗りました。
マジで協会に口添えしてくれた事に感謝してます。
例え魔法使いが現れたと知れ渡ってとしても、名前がバレてないだけでも十分過ぎる程に感謝してます。
いや、酔ってて高揚してたのもあるんですけど、秘密基地を作っている感覚で童心に戻ってしまい、自重とか秘匿という単語を彼方に置き去りにしてしまって、気付けば那須の山一帯が神殿化してました。
いえ、一応最低限の秘匿意識は残ってましたから、一般人が彼処の異変にそう簡単に気付いたりはしない筈なんですが、彼処辺りを荒らそうとすると良くてその場で落雷、悪ければ後日呪いで病死とか、可也際どい事が起こる程度の…………………………すんません。
………………………………………は?
協会と現地の退魔組織を納得させる為に俺が此の辺一帯を買い取らなきゃ駄目?
いや、流石にそれだけの金を工面出来る程宝石売ったら足が付いて俺の名前までバレかねないんですけ……………はい、全く以って仰る通りです。
バレた時は素直に諦めます。
しっかし……………何処で宝石を換金するべきか。
必要金額の額が額だから、余程の所じゃないと換金出来ないだろうし、余程の所は監視カメラが在って面倒なんだよな~。
………いや、魔法で顔が別人の様に見える様にするのは出来るが、解除するタイミングとか結構気を使うのが面倒なんだよ。
日本じゃ足が超付きやすいから今回換金する気は無いけど、日本以外じゃ治安が悪いから物取りが後を付いて来て鬱陶しいんだよ。
………は?バルトメロイ?誰だそいつ?
……………時計塔のロード?しかも現代最高の魔術師?おまけに究極貴族主義?
冗談だろ?何でそんな面倒事を凝縮した爺さんの様な奴に遭いに行かなきゃ……………マジですんません。
いや、だけどマジでバルメトロイだかトロイメライだか知らないが、そんな貴族主義の権化みたいな奴と遭うとか勘弁してくれ。
しかも現魔導元帥とか諸に俺が注目されるだろが。容姿どころか名前もバレるだろが……………って、あいつに名前は言わなかったけど顔はバッチリ見られたから、憂さ晴らしに俺の顔を広めるくらいはしそうだな……………。
うん?ああ、あいつってのは第五の奴だよ。
ほら、行き成り焼肉屋に拉致した見た目美人で中身残念な女のことだよ。
…………………………あぁーー………………何か詰んでる感じがするし、もう諦めてその豪傑貴族の女王様に遭うとするよ。
………しっかし………………魔法使いの爺さんにすら敬意を払わない奴に紹介しなくても、他に金を持ってて爺さんに敬意を払う奴はいるだろ?
何で俺にとっても爺さんにとっても面倒な奴を紹介するんだ?
……………生憎と俺は自分に噛み付いてくる奴を剛毅な奴と許容出来る程器は広くないんでな。
嫌な思いする奴と好き好んで遭いたくはないんだよ。
況して物騒な奴なら尚更な。
……………は?
何で
…………………………はあ?
魔法だけじゃなくて俺自身にも興味が在りそう?
いや、俺の魔術回路は単に特化型のだから、特に奴等の興味を惹く様な面倒なモノじゃないぞ。
…………………………いや、そう言われれば確かに俺の回路と言うか体は魔法専用で、魔力操作やその派生系は単におまけと言えるだろうけど、魔法回路とか面倒極まりない名前を付けるのは勘弁してくれ。
縦しんばその名前が定着したとしても、俺は自分の体を弄繰り回させる気は無いぞ。
……………う~ん……………話すだけなら……………いいか?
その代わり爺さんも立ち会ってくれよ?
後、俺にふざけた事したらそいつとそいつの家をぶっ飛ばすからな?
それと俺の名前は兎に角他言しないこと。少なくても協会に知れ渡る迄は。
当然宝石はきちんと那須の山一帯を買い取れるだけの金で買い取ってくれるのが最低条件だ。無論吹っ掛ける様な真似はしない。
他は……………俺がヤバそうになったら爺さんがきちんとフォローしてくれるんなら話を受ける。
……………気持ち悪いくらい爽やかな笑顔で快諾するな。
まぁ、爺さんは嘘は吐かんだろうからいいか。
それじゃあ早速チケットの予約……………はぁ?転移する?
ちょい待。
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…………………………もうあの爺さんは信じない。
………結局バルトメロイを出汁に俺で遊んでただけだろが。
……………体は弄くらないけど服は剥くし撫で回すし、唾液を啜られるし血は採ろうとするし、…………………………精液採ろうと房中術を………………………………………………………忘れよう。
……………まぁ那須の山一帯は無事買えたし、表の面倒事だけじゃなくて
………さて、金も30億ポンドも残ったから、利子でのんびり暮らせそうだな。
利子で足りなければバルトメロイが俺が生み出した貴金属………って言うか寧ろ体液を買うって言ってるから、別途で金の当てもあるし。
………うん。当面は安泰だな。
それじゃあいざこざがとりあえず全部解決したし、あちこち飛び回って御土産も結構溜まったし、そろそろ冬木に帰るか。
吹っ切れたとはいえ、葵さんが笑顔かどうかも確認したいし、凛ちゃんや桜ちゃんが元気に育っていくのは見ていて嬉しいし和むからな~。
それにそろそろ聖杯戦争だから、もし時臣の野郎が冬木に葵さん達を残すなら、絶対とはいえなくても葵さん達を連れて逃げるくらいなら今の俺なら出来るからな。
葵さん達がどうするかを知るのも兼ねて帰るか。
しかし…………………………独り身なのに矢鱈老人臭いな。俺。
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そして、久し振りに冬木に帰った俺は桜ちゃんが間桐に引き取られたと知り、急いで爺を問い詰めて目にしたのは、蟲の苗床になって虚ろになった桜ちゃんだった。