カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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最終話・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:間桐 桜

 

 

 

 一言で言うなら、〔魔王と覇王の激突〕。それが私の直ぐ側で繰り広げられていた。

 

 圧倒的なパラメーターに物を言わせて小技や物量を粉砕する雁夜おじさん。

 対するは最強武具を特攻させたりチート武具を絶技で操って個人を戦争に呑み込むギルガメッシュさん。

 英雄でも触れれば呪われたり消し飛んだりしそうな武具を雁夜おじさんは蝗を払う様に弾き散らして、カンストしてそうなパラメーターでの攻撃をギルガメッシュさんは3つのチート武具と絶技に物を言わせて捌いてた。

 

 はっきり言って余りに格上の戦いだから殆ど学べる所が無い。

 雁夜おじさんは普通に素手で弾いたりしてるけど、私じゃ相当防御を固めないと触れた瞬間に武具の神秘に負けて特殊効果を受けて直ぐにやられちゃう。……特殊効果無しなら多分いけるかもしれないけど、瞬時に判別なんて無理。

 かと言ってギルガメッシュさんの様に最強武具を節操無く投げられる備えは無いし、チート武具は3つも無い上に絶技と言える程の技はないから、一撃一撃が地図修正級のラッシュを捌くとか無理です。

 

 詳しくは解らないけど、ゼルレッ爺さん曰く、[今はスズメの涙程だが、成長すればORTにすらある程度勝ちを狙えるだろう]、と言われていた実力が伊達でも誇張でもないのだけは良く解った。

 正直、志貴さんと20km以上先のORTさんを見た時、自分達が100億いても完封されるだろう程に格が離れている相手に、現状で雀の涙程でも勝てるという段階で格の違いを痛感出来ます。

 雁夜おじさんは事ある毎に、[玉藻に比べれば俺の戦闘力なんて塵芥だし、技術が無いから基本的に格下にしか勝てないから、いじめカッコ悪い状態だから]、って言ってるけど、雁夜おじさんより格上って他にはアルクェイドさんやORTさんといった、命や根性や策や技で埋められない差が在る方達以外は表には居ない気がするから、ゴリ押しの戦い方は理に適ってる上にそれが一番雁夜おじさんの特性に合ってると思うんですけどね。

 と言うか、万能魔法(魔法の皮を被った世界変革法っぽいですけど)持ちの超絶強化のゴリ押しタイプだから、同格でも基本的には有利に戦えると思えるんですけど、どういう訳か雁夜おじさんを知っている人の中で雁夜おじさん自身が一番低い評価をしてるのは凄く謎ですね。並の死徒ならダース単位で瞬殺される弾幕を捌き続けるとか、多分現在此方側に10名もいない筈なのに。

 見てるだけで目を回しそうな同時多角曲線攻撃と砲撃を捌けるとか、どういう思考速度してるんでしょうか?

 シオンさんが言うには高速思考だけならスパコンすら遙かに凌駕している可能性が極めて高いって言ってましたけど、私としては極超音速を普通に認識して反撃できる中枢神経系と反応速度も凄いと思いますね。

 私じゃ思考強化して予測しても防御が間に合いませんし、神経系を強化すれば予測が追い付きませんし、かと言って攻撃に回れば攻撃する前にやられますし、だからと言って逃げに徹しても思考と神経と速力の強化を随時適切に変動させるのは至難の業なのでほぼ逃げられませんから、思考速度と神経系がセットになって初めて恐ろしいと思い……いえ、思考や神経系だけじゃなくて強度や神秘と言った本来不変である基本値までも纏めて上がっているから恐ろしいんですよね。

 

 しかし、人類最強の英雄のギルガメッシュさんと正面切って戦えてるのに、どうしてあんなに自己評価が低いんでしょう?

 雁夜おじさんは、[一般的な自己評価だから、特別卑下してるわけじゃないよ]、って言ってますけど、雁夜おじさんが一般的な自己評価になってる時点でどうしてとんでもなく卑下してるって気付かないんでしょう?

 確かに普段は一般的な優しい家庭人ですけど、戦うと決めたら傷を気にせず死地にだって微笑みながら赴けるんですから、如何考えても一般とは程遠いですよね。

 他にも日常や未来の為に精神を鑢掛けされる様な行為をし続けたり、世界を握れる力が在るのに日常生活を何よりも大切にするという、…………本当に尊敬出来る人柄です。

 いや、まあ、……私に遠慮して恋人の甲斐性が右肩下がりし続けてるのだけは少し……いえ可也……と言うか滅茶苦茶残念ポイントですけど、只のヘタレじゃなくて私を大切にしているからこそなのを考えると文句は言えないし嬉しいと思うのも本当ですから意見し難いですけどね。

 後……今回の勝負の結果を見て改めて思いましたけど、…………人の領分と言うか限界を超えた事を当然の事として可能にしている段階で、一般どころか人じゃないと理解しました。

 人という軛から完全に解き放たれるということや、貴き神の性を宿すということが如何いうことか少なからず……本当に少なからず理解出来ました。

 

 

 ギルガメッシュさんは一見すると宝具頼みに見えますけど、それでも宝具無しで精霊の域に届く程の基本性能で宝具を十全に使いこなしていますから、他の英霊じゃあ人外の基本性能を前提にした宝具をを起動させたら途中で乾涸びて死んじゃうか制御出来ずに暴走させるだけでしょうから、きちんと宝具と基本性能のバランスは取れていると思います。

 ……普段面倒臭がって宝具と言うか宝物を飛ばすだけですから道具頼みに見えますけど、本当は凄くてカッコ好い王様なんですよね。デフォルトで面倒臭がりなのが玉に瑕ですけど。

 対して雁夜おじさんは何処かの覚醒した汎用人型決戦兵器で、圧倒的防御力と質量(神秘)の桁が違う攻撃で一撃滅殺。

 イージス理論を地で行き、現代兵器をも凌駕する殲滅能力も持つ、宛ら無敵の巨神兵。デフォルトで面倒臭がりなんで戦闘と言うかちょっかいを見逃し過ぎるのが玉に瑕ですが。

 

 何方も共通して他人が自分に対して抱く評価を余り気にしていないですけど、やっぱり突き抜けた存在は其の他大勢のことは基本的に気にしないものなんでしょうか?

 そう言えば、神霊や真祖や魔法使いや魔導元帥や覚者や神殺しって特別視される方達は、基本的に周囲の視線や評価を物ともしてませんよね……って、ああなるほど。だったら雁夜おじさんの自己評価が低いのも仕方ないですよね。

 其の他大勢が自分に影響を与えないなら判断基準にも含まれませんし、雁夜おじさんの知り合いの平均値って自分より確実に上でしょうから、必然的に自己評価が相対的に低くなっちゃいますよね。お日様を隠せたりお月様を落とせたり死の概念が無かったりとか、明らかに雁夜おじさんより格上ですし。

 まあ、如何考えても比べる相手が悪過ぎると思いますけどね。

 アジア圏内で最高の知名度を誇る神霊、星が作り上げた触覚の最高傑作、他天体の究極の一と言われている地球外存在。……雀の涙でも勝率が有る段階で色色狂ってますね。

 如何考えても数値化された神秘で打倒出来る限界を超えてますし、数値化不能な神秘を以ってしても、万物を総該若しくは太陽であると数十億からの信仰を受ける神霊や、自前の強大さと自然宗教の信仰の恩恵を受ける星の化身や、何故か地球に黙認されている他天体からの地球を侵食する侵略者(インベーダー)、とか、明らかに相手の存在規模を把握するだけで発狂しそうな存在ですからね。

 

 けど……そんな色色と存在規模が狂っている雁夜おじさんが、よくも彼処迄怪我したものですよね。

 

 

 最後の大攻勢から数十秒経った頃、突然一瞬の間に何方も即死級の怪我を負ったのは血どころか心臓が凍るかと思いました。

 ……いえ、感情が理解に追い付いた時には雁夜おじさんが海に落ちた後だったから、虫食い状態に状況を認識するのが精一杯でしたけど。

 

 海に落ちた後直ぐに玉藻おばさん(私にはお姉さんじゃなくておばさんて呼ばれて喜ぶなんて、本当に雁夜おじさんラブですね)が異議が無ければ勝負終了と看做すと言って、当然何方も喋れる状況じゃないですけどもう一度念の為に確認した後、最速で両者とも治療してましたね。

 ……雁夜おじさんがギルガメッシュさん(・・・・・・・・・)との勝負の後の治療に差が在るのを凄く嫌うと思ってたみたいですから、両者を同時に奇跡の御技で治療してましたね。

 まあ、雁夜おじさんの生命力と言うか回復力的にそこそこ余裕が在ったみたいですから両者同時に治療してましたけど、雁夜おじさんに少しでも余裕が無ければ絶対にギルガメッシュさんを放ったらかしにしてたでしょうけど。

 とは言え……ほんの少しでも積み重ねた行動が狂えば相殺してたかと思うと、余り気軽な話題じゃないですね。

 

 

 しかし、大怪我と言うか死体としか思えない怪我を負ったものの、何方も無事危険域を脱せて良かったです。

 最後の勝負で何方か若しくは両方に障害が残ったら嫌でしょうからね。

 けど……最低限治療されたらどっちも怪我を放ったらかしにして宴に突入すると思ったんですけど、軽く目で会話したら直ぐに別れるとは思いもしませんでした。

 

 ……健闘を称えるでも再戦を望むでもなく、越えられない壁を睨む様な眼をしつつも悲願を達成した様な雰囲気で、一言も喋らずにあっさり別れたのは驚きました。

 雁夜おじさんに聞いたら、[玉藻に治療してもらわなきゃ共倒れするくらいなら、意識を保った儘綺麗に決着を付けるか、もう少し怪我してでもはっきり決着を付けたかったってところだろうな]、と言ってましたけど、生きてた喜びよりもそういう感情が先に立つなんて、どっちもあの勝負に対する意気込みは私じゃ解らない程に凄かったんでしょうね。

 

 そして、呆気無く勝負の余韻も消え去ったらあっと言う間に普段の日常に戻って、月末には雁夜おじさんも玉藻おばさんも出て行っちゃいました。

 何時もの様に間桐邸から専用機で出て行くんじゃなくて、極普通にバスとタクシーを乗り継いで空港に行き、極普通に空港でお別れをし、そして極普通の飛行機でロンドンに行きました。

 別にゼルレッ爺さんは私の家に来ても構わないと言ってたんですけど、雁夜おじさんが出来るだけ普通の別れにしたいと言ってましたので、極普通の別れになりました。

 

 別れてから落ち込みながらも間桐邸に帰ろうとしたら、空港の外に何時の間にか居た秋葉さん達から一言貰えた時、本当に……凄く嬉しかったです。

 雁夜おじさん達が私に歩いてほしかった世界を改めて実感して、もう逢えないのが凄く悲しかったですけど、それでもその時の私に残った大切なモノは、雁夜おじさん達との出逢いが在ったからこそなんだと思うと、凄く誇らしい気持ちと同時に、私に残った大切な日常の欠片なんだと改めて実感しました。

 

 暫く経って何とか痩せ我慢や無理もせずに日日を送れるくらいになった頃、改めて秋葉さん達が訪ねて来て、混血と退魔と彷徨海とかとの折衝関連での来訪や訪問スケジュールを組んで消化した以外は特に大きな変化は在りませんでした。

 それもこれも秋葉さん達が高校を出る迄は出来るだけ日常を謳歌出来る様にと、殆どの業務を引き受けてくれたからで、本当は人を効率的に使っても出席日数が足りるかどうかの瀬戸際程に遅刻早退欠席をしなきゃいけない程に忙しいらしいんですけどね。

 

 そしてあっと言う間に年も明けて暫く経った頃、当たり前といえば当たり前ですけど、予想通り私に聖痕(令呪)が現れました。

 

 

 聖杯に託す願いなんて思い付かないですし、頼まれても預かりたくもなければ貰いたくもない物ですけど、聖杯戦争に参加しない部外者の儘じゃ私の日常が壊されようとした時、守ろうとしても部外者の介入と取られて魔術協会や聖堂教会から刺客が雪崩の様に送られるかもしれませんし、そうなると却って危険になるかもしれないので参加すると決めたんです。

 他にも、雁夜おじさんが玉藻おばさんと出逢って家族が増えた様に、[広く感じて寂しい間桐邸に、新しい家族が増えたら良いな~]、って思ったりもしましたけど。

 

 でも、私は聖杯を手にする気は微塵も在りませんから、召喚される方にできるだけ迷惑がかからない為にも、聖杯を求めていない方が召喚される様に細工をして召喚に挑みました。

 あ、どんな方が該当するか分からなかったので、取り合えず片っ端から触媒を魔法陣に内に積み上げました。

 

 結果は御覧の通り、ライダーが召喚に応えてくれました。

 そして私は聖杯戦争へ飛び込んだというわけです。

 

 

 

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「と、まあ、私の事情はこんな感じです」

 

 大分駆け足で、しかも幾つか暈したりもしましたけど、私や現在の間桐邸の成り立ちは此れで説明出来た筈です。

 

 ちょっと喉が渇いたので、金よりも高いけどとっても美味しくてお気に入りの玉露を一口。

 ……うん。高いだけあって冷めても美味しいです。

 本当は昨日京都から届いたどら焼き(黒の粒餡)を食べて小休止したかったんですけど、男装の性倒錯……じゃなくて伝説の男の娘のセイバーさんに気付けば食い尽くされちゃって無いのが残念です。

 ……机の上の分は兎も角、テレビ台の中を開けて迄食べるのは食い意地張り過ぎですね。

 机の上の箱の分は兎も角、家捜しして勝手に食べた分は後で請求しましょう。

 

 って、あ。先輩の考え事が終わったみたいですね。

 

「なぁ桜。俺が学校で俺が襲われて死に掛けたの治療してくれたのって、……ひょっとして桜なのか?」

「あ、ごめんなさい。

 その辺り端折っちゃいましたね」

 

 聖杯戦争に飛び込む迄は説明しましたけど、飛び込んでからの説明はしてませんでしたね。

 

「ええと、端的に言うならその通りです」

 

 私がそう言うと遠坂先輩達から睨まれましたけど、気にせず話を進めることにします。

 

「あの時私は藤村先生が用事で来れないからって事で、ライダーと二人で間桐邸で先輩と夕食を食べる為に待ってたんですけど、そしたら何処の何方様かが防犯カメラや用務員さんの存在を無視して学校でいきなり戦闘を始めるとかいう神秘の漏洩をやらかしてくれたので慌てて確認しました。

 するとどうやったのか分かりませんが、フォロー役の魔術師の眼も逃れながら見物している一般人が居て、しかもそれが先輩でしたから更に驚きました。

 

 で、何とか間に合う為にも学校に転移したんですけど、転移発動迄に少し時間がかかったので状況が動いてしまっていて、先輩は胸に孔が開いて倒れてました。

 幸い死んでいませんでしたので、生きている生体組織を集めて何とか傷を治してたんですけど、其処に遠坂先輩達が向かって来てたんで、戦闘を避ける為にも取り合えず先輩のダミーを其処に残して慌てて先輩を抱えてその場を後にしたんですよ」

 

 百面相をしている遠坂先輩にアーチャーさんの白い視線が突き刺さっていますが、それに構わず更に続けます。

 

「流石に陣地外で先輩を転移とかは出来ないんで、間桐邸側と森を抜けた郊外の方と柳洞寺の方は監視が厳しいので、仕方なく簡単な迷彩を施してから急いで先輩の家の近くのちょっとした林で治療を続けました。

 そして何とか治療や復元が終わったので、安全確保と説明の為に先輩を間桐邸に運んでいたんですけど、先輩の家に向かっているランサーさんと見事に鉢合わせしてしまい、更にアーチャーさんが此方を視界に納めていましたから、不用意に移動しながら戦えば抱えた先輩を狙われると思って急いで先輩の家で戦うことにしたんですよ。

 

 でも、私は先輩を抱えつつも傷付けさせない様にする自信なんて在りませんから、一先ず先輩を土蔵に放り込んで(避難させて)から戦おうとしたんです。

 けど、土蔵を封鎖する時に先輩が起きてしまい、封鎖して少し経つとどうやってか召喚を成功させてしまい、その後は先輩も知っての通りランサーさん諸共私も切りかかられました。

 

 そして私が呼んだライダーに参戦されると流石に不利と判断したのか、ランサーさんは撤退しました。

 で、何とか一難去ったかと思ったら、さっき私を捕捉していたアーチャーさんが遠坂先輩と一緒に現れて混沌具合に拍車が掛かった儘現在に至るというわけです」

 

 こうして改めて振り返ってみると、遠坂先輩のうっかりが酷いですね。

 防犯カメラや用務員さんの存在を忘れて戦闘を始め、1うっかり。

 観戦に夢中になって先輩を発見出来なくて、2うっかり。

 記憶改竄を施し忘れ、3うっかり。

 ……私の遠坂先輩に対する想定が甘かったりダミーのログを治療後にでも閲覧しなかったという非は確かに在るんですけど、厳しく見たとしても私が3で遠坂先輩が7の比率な気がします。

 いえ、別に遠坂先輩は味方でもなんでもないので、全部私の責任と言えば其れ迄なんですけど、神秘漏洩の危機ということに関してはほぼ100%遠坂先輩の責任ですね。

 

 っとと、どうやら先輩の考えが纏まったみたいですね。

 真剣な顔をして見られると何だか緊張します。

 

「つまり桜は俺の知らないところでみんなのために頑張っていたって事か?」

 

 ……う~ん、そういう考え方は先輩の美徳だと思いますけど、此処ははっきりさせとかないと後後大変に成ると思いますから、サクッとカミングアウトしちゃいましょう。

 

「いえ、私が動くのは私の周囲……この場合は精精冬木で一般人が裏側に巻き込まれそうになったらってだけで、一般人同士の事故や殺人はノータッチです。

 後、自分の意思で裏の事情に踏み入れた方が殺されるとしてもノータッチです。

 つまり、遠坂先輩が裏の方方と戦闘をしてもノータッチです」

「なっ!? さ、桜は同じ学校の奴が死ぬかもしれないのに平気なのか!?」

「先輩。私は先輩のそういうところは大好きですけど、敢て言わせてもらいます。

 そんなのはその人の勝手です、って」

「っ!!?」

 

 本当は先輩に力添えしたいですけど、迂闊に私が変な理由で動けば却って先輩が危険に巻き込まれちゃいますから、此の辺りは確りさせとかないと。

 

「先輩が言っているのは極端な話、〔ボクシングの試合!? 駄目だ駄目だ駄目だ! お前達の悲願や情熱なんかどうでもいい! 俺は人が傷付くのが嫌だからこんなの台無しにしてやる!〕、って言ってるのと変わりませんよ?」

「そ、それは…………」

「安全といわれるベースボールだって人が死んだことはありますよ?

 他にも商業スポーツじゃないですけど水泳や登山は毎年死亡者が出ていますけど、それも先輩は全部止めるべきだと思いますか?」

「………………」

 

 む、胸が痛いです。落ち込んだ先輩を見てると、罪悪感で崩れてしまいそうです。

 ……い、言うべきことは言いましたから、後は急いで確りフォローしましょう、

 

「で、ですけどっ、先輩の八方美人的なふしだらで無責任な優しさは凄い美徳だと思いますよ!?

 綺麗な人に頼まれたらはいはい頷いたり、人が傷付くなら理由を把握する前に先ず止めに入る考え無しの熱血漢なとこや、身近な人を放り出してでも困ってる人を助けに行く近視的と言うか視野狭窄的なところや、女性の下着を徒の布と言って気にせず届ける小さな親切大きなお世話を炸裂させる考え無しの優しさとか、とってもとっても素敵だと思いますっ!」

「ぉぅっ…………」

「あ、あれ? ど、どうしました先輩?

 急に机に突っ伏しちゃって……何処か具合が悪いんですか?

 無事な生体組織を掻き集めて治しましたし、血液は少しばかり筋肉を液化して変化させたのを代替させてますから、倒れる程の倦怠感はない筈ですけど、若しかして先輩って筋疾患を抱えてたりしました?」

 

 私は玉藻おばさんと違って病気は完全に治せませんから、下手したら今すぐ集中治療室(ICU)に先輩を連れて行かないと!

 

 と、焦っていたら先輩はむっくりと顔だけ上げ――――――

 

「いや、この面子の中で俺の株が大暴落(これからが大変)だと思うと、少し眩暈がしただけだ」

 

――――――何故か泣き笑いの顔でそんなことを言いました。

 ……どうやら知らずに何か爆弾発言してしまってみたいです。

 此処は今度こそ確りフォローを入れつつもアピールしましょう!

 

「大丈夫です先輩。

 私は先輩が困ってたら、寝惚けて藤村先生の下着を穿いたとか条例に引っ掛かる本を持ってて補導されたとか、そういう条例以前に倫理的にアウトなこと以外なら出来る限り力に成ります。

 第三次世界大戦に発展すると解ってても汚職政治家の証拠を報道して世界の政治を麻痺させたり、アラブの人達や既得権益者を奈落に突き落とすと解っていても宇宙太陽光(太陽からのマイクロウェーブ)発電プランを実行してエネルギー問題解決に乗り出したりとか、本当に出来る限りの力に成りますからっ」

「もう止めてくれ桜ぁ! とっくに俺の社会的信用(ライフ)はゼロなんだ!

 後、桜の想いは嬉しいけど、セットで付いてくる権力は俺じゃ耐え切れない程に重過ぎるから少しは自重してくれ!」

「は、はい♥」

 

 こ、こんな大勢の前で想いが嬉しいなんて、……嬉しいけれど照れちゃいますよ先輩。

 

 何気無い先輩の本音に喜んでいましたが、如何でもよかったですから最低限の警戒だけ残して思考から外していた遠坂先輩が話しに参加してきました。

 

「へっぽこ朴念仁と金持ち乙女の漫才はこの辺りで止めてもらえるかしら?」

「へ、へっぽこって何だよ?

 いや、朴念仁も文句言いたいけどさ」

「あら、気に障ったなら見習い半人前魔術師1/2君に変えるけど?」

「悪化してるからな! それ!」

 

 ……当たってるだけに援護し辛いです。

 血の匂いが云云とかは言いませんけど、魔術とかの存在を常識として知っているだけの人よりほっっっんの少ーーーしだけ上なのが先輩ですし。

 

「悪化してるって言わないでほしいわね。

 [正当な評価は控えてくれ]、とでも言ってほしいんだけど?」

「お、俺はそこまで馬鹿にされるほどなのか!?」

「あら、馬鹿になんてしてないわよ?

 私は魔術師として、衛宮君の人間性で一切減算せず且つ客観的に能力のみの正当な評価を下しているだけだから」

 

 ……アーチャーさんは当然として、変態(セイバー)さんもフォローを入れませんね。

 ライダーが隣で、[フォローしないのですか?]、って眼で言ってきてるけど、此の事――――――

 

「な、なぁ桜。

 俺って魔術師から見たらどれくらいなんだ?」

 

――――――に関して…………って、其れは変態(セイバー)さんに訊いてほしいです。先輩。

 凹んでる先輩は可愛いんですけど、基本的に凹ませる様なことはしたくないです。先輩。

 

「え、えっと……」

「頼む桜。それを知らないとセイバーのマスターを続けていいのかすら解らないんだ」

 

 お願いですからそういうことは変態(セイバー)さんに聞いて下さい!

 変態(セイバー)さんから難易度の高い要求をしてそうな視線を送られてしまいますから!

 ああ、でもでも、先輩に頼られたら嫌とは言い難いですし、先輩が自分の立ち位置を知れば少しは考えて動いてくれるかもしれませんから、此処はズバッと言っちゃいましょう!

 

「……えーと、私や遠坂先輩は隠れている魔術師を含めても世界で20番以内は確実と言われていて、世界に名を馳せるスプリンターと思って下さい。

 で、文句無しの一流魔術師が全体の多分約1%で、学校でかけっこが速い子供程度です。

 次に、一人前の魔術師が全体の多分10%で、歩き始めた幼児程度です。

 そして、半人前と言うか未熟な魔術師が残りの殆どで、誕生直後の嬰児程度です。

 最後に、先輩は……呼吸も出来ずに死に掛けている嬰児くらいかな~、と思ってます」

「…………」

「マスター。私は魔術に疎いので戦闘者としての意見になりますが、少なくても桜と言う少女とマスターの間にはそれ程の隔たりが確かに存在しますから、桜の魔術師としての見立てはほぼ正確といっていい筈です」

「………………」

「ですが御安心を。私は貴方が魔術師として問題外で、実力に見合わぬ幻想にすらならない妄想を紡ごうとも、貴方は私のマスターだ。

 如何なる障害も排除して共に聖杯を掴み取るという意思に変わりはありません」

「うん。ありがとうセイバー。

 心に突き刺さるその言葉は嬉しいよ。

 だけど心に突き刺さるだけのスペースはもう無いから勘弁してくれ。

 何て言うか世界中のみんなに平均点を下げていることを土下座して謝っていきたい気分なんだ。寧ろ謝って生きたい気分なんだ。と言うか謝って逝きたい気分なんだ」

 

 ああっ!? 何か先輩が面白可愛い具合に壊れかけてます!

 じっくりと眺めていたいところですが、先輩に非が無いなら急いでフォローしなければ可愛そうですから、脳内フォルダに厳重保管した分だけで我慢しつつ急いでフォローしましょう!

 

「大丈夫ですよ先輩! 頑張ればそこのアーチャーさんの様な英雄に成れるだけの一芸は在るっぽいですから!

 流石に精霊の域には届かないかもしれませんが、1ヶ月毎日命をチップに自己改造(修行)し続ければ変態(セイバー)さんと戦えるくらいには強くなれますよ!」

「意外と過激!?」

「大丈夫です!

 病気じゃなくて怪我なら、何とか神拳の壊骨拳で骨無しになっても私がキチンと治療しますから!」

「そんなことになる修行は流石に勘弁願いたいぞ!?」

「他にも飛竜何たら波の修行の様に先輩の女装や女物の下着を穿いた写真をばら撒いたりしても、先輩が捕まらない様確りと司法機関に手を回しますので安心して下さい!

 

 ちょっと外を歩くと辛いかもしれませんけど、慣れれば人が南瓜以下に感じられますし、将来内職系の仕事を斡旋したりも出来ますので、慣れない時のケアもばっちりです!」

「氷の心以前に真冬の人生を歩むことになるのは勘弁したいから!?」

「違う遊び相手がほしいって言ってましたから、今なら真祖の姫君って言われるアルクェイドさんが相手してくれる筈です。

 後、面白がってゼルレッ爺さんが死徒の城に放り込むとかいう、死亡率95%越えの強烈修行も出来る筈です!」

「95%死ぬ修行ってもう殺人だぞ!?」

「玉藻おばさんと同格級の天元突破存在のORTさんの領域に放り出されたのに比べれば――――――」

「はいはい。話が進まないから漫才はその辺にしときなさい」

「――――――全然余裕です!

 という訳で、サクッと肉体苦痛の限界に挑む修行を始めましょう!

 一日に30回くらい三途の川とかを垣間見れば、早ければ3日程で起源覚醒くらい出来る筈ですから!」

 

 ……ああ、自動蘇生(オートレイズ)を憶えたら、バルトメロイさんに脳髄破壊を日に何度もされたのは今でも嫌な思い出です。

 魔力が数瞬で全快しますから、精神が擦り切れる迄延延と脳漿をぶち撒け続けて庭を汚し続け、3日で色色新境地に辿り着いたのはシンドイ思い出です。

 

 美化出来ない鮮烈と言うよりも痛烈な思い出に少し浸っていると、顔面体操でもしたのか、何故か矢鱈と頬を痙攣させながら遠坂先輩が話し掛けてきました。

 

「華麗に聞き流すなんて随分偉いのね。桜は」

「? 何を言っているのか解りませんけど、脇道に逸れる話題はやめませんか。遠坂先輩」

 

 ……あれ? 何で遠坂先輩の顔面体操が加速しているんでしょう?

 

「ふ……ふふふふふ。

 …………喧嘩を売っているのかしら?」

「いえ、遠坂先輩に何かを売る程私は何かに困っていませんから、それは遠坂先輩の勘違いですよ?」

 

 何故だか伝説の勇者を見る様な視線を私に注ぐ先輩達が激しく気になります。……一体如何したんでしょうか?

 後、アーチャーさんが遠坂先輩を見て溜息を吐くと、遠坂先輩の顔面体操にターボが掛かりました。

 

「ふふふふふふふふふふふふふふ。それはこの聖杯戦争でどっちが上かハッキリさせるってことでいいのかしら?」

「あ、私、遠坂先輩と団栗の背比べするつもり無いですから。

 どっちが上か決めたければ、此処で平和的且つ素早くじゃんけんして決めませんか?

 

 後、脇道に逸れてる会話をし続ける毎にアーチャーさんの残念そうな視線濃度が高まってますから、早く話題の軌道修正をした方が良いと思いますよ?」

 

 私がそう言うと遠坂先輩は鞭打ち願望と言うよりも一人SMの性癖を疑う速度で振り返ってアーチャーさんを見ました。

 するとアーチャーさんは一見余裕そうな皮肉気な顔に戻りましたけど、内心結構圧され気味なのが解りました。

 ……藤村先生に詰め寄られた時の先輩と雰囲気が同じですね。

 

 何と無く姉さん女房のポジションも悪くない気がしてきましたけど、わたしのキャラ的に無理があるんで素直に断念しましょう。

 それに私にとっての理想は、やっぱり玉藻おばさんの様なポジションですし。

 目指せ文武両道床上手! ですね。

 

 っとと、遠坂先輩に引き摺られて私も脇道に逸れたら話が進まないですから、遠坂先輩を無視してサクサク話を進めましょう。

 

「取り合えずアーチャーさん達(向こう)は措いておくとして、結局先輩は聖杯戦争参加の是非は決まりましたか?

 もう少し他の視点からの意見を知りたければ、新都の教会の言峰神父という監督役から概要を知れますけど、死亡フラグの塊の変態(セイバー)さんを連れて行けばその儘教会でお祈りをされる様に早変りしちゃうメに遭うでしょうから、私的には電話が一番だと思います」

「死亡フラグの塊って……セイバーってなんか呪いでも持ってる奴なのか?」

「調べれば何か解るかもしれませんけど、少なくても今は在るとは断定出来ません。

 後、死亡フラグ云云ですけど、先輩が召喚する前の段階で6騎召喚されてるのは先輩以外の参加者は知っている筈ですから、今先輩が新都の教会に態態行って参加表明したりすればそれは直ぐに他の参加者達に知らされますし、そうなれば教会の敷地を出た瞬間に遠距離攻撃どころか宝具を受けたりとか普通にありえます。

 

 仮に先輩が、〔一般人大量虐殺してサーヴァントを強化してやるぜ! 神秘は秘匿してんだから文句は無い筈だぜ!〕、とかいう人なら、私は教会の敷地を出た瞬間に1秒で200もの弾丸を発射するE-宝具級のガトリングを多方から撃って挽肉に変えるくらいはしますし。

 他にも、アーチャーさんなら2~3キロ離れて反撃不可能な所から宝具を放ったりしそうですし、キャスターさんなら帰り道に変態(セイバー)さんの対魔力を逆手にとって先輩だけを転移させる罠を配置したりしそうですから、凄く危険ですよ?

 まあ、他にも想定される事態がありますから、変態(セイバー)さんに訪ねられた方が詳しく聞けるかもしれませんよ?」

 

 変態(セイバー)さんが四次に参加してたって私から話したら噛み付かれそうですから、それっぽく話題を誘導して水を向けるのが一番ですね。

 

「ライダーのマスター。一度説明を始めたならば最後まで説明してほしい。

 後、私を呼ぶ時に酷く不快な感じがするのですが、一体どの様な意を籠めて発音しているのか是非訊かせてほしいのですが?」

「川で蛸?寧ろ烏賊ですかね? 兎も角真っ二つにした事件を知っているので、付け入られる口実を作りかねない無茶振りは断らせて頂きます。

 

 後、気付けば何時の間にか家捜しされて食べているお菓子ですけど、一つか二つで最高紙幣が無くなる程のお値段なんですけど、どうやって払うのか訊いてもいいですか?」

「マスター。此処は男らしく決意表明と共に耳を揃えて支払い、堂堂とこの家から出て行きましょう」

「いや無理だから!

 一口最中や煎餅の一つだけでも1万とかするのにそれを100以上食べてるし、何か試作品ぽいのとか幾らするのかも解らないのにそれも軽く50は食べてるから、爺さんの遺産を本格的に崩さないととてもじゃないけど払えないから!

 

 と言うか、人が真剣に話してたり考えたりしている間にドンだけ食べてたんだよ!?」

 

 それに関しては全くの同感です。

 極自然に家捜ししてましたから気に留めるのが可也遅れましたし、気に留めた時には既に貪り尽くされた後でしたからね。

 

 しかし、流石に先輩が支払うことになるのは全然本意じゃないので解決策を出すことにしましょう。

 

「手持ちがなければ一部の地域の様に血液で支払ってくれても構いませんよ?

 変態(セイバー)さんの血液なら大匙二杯……30CCでチャラですね。

 後、先払いなら敵対しない限りは今後も血液で御売りしても構いませんよ?」

「解りました。ならば180CC支払いますので、それに相当する加工食品や料理を所望します」

「ちょっ!? プライドは無いのかセイバー!?」

「何を言うのですマスター。労働の対価に賃金を貰うか物品を貰うかの違いだけで、コレは労働による立派な取引です。

 汗を流して賃金を得るか、血を流して物品を得るかの違いでしかありません」

 

 キリッとした顔で残念な正論を展開する変態(セイバー)さん。

 ですが、当然といえば当然ですが、先輩以外にアーチャーさん達もツッコミを入れ始めます。

 

「待つんだセイバー。

 確かに正論かもしれんが、君がやろうとしていることは、嗜好品を得る為に身体を売る行為とレベルこそ違えど同じだぞ?

 英雄というか人としての誇りは無いのか?」

「愚かな。士気や気概を維持する為には嗜好品も重要な存在です。

 

 第一、先程食した数々の品は恐らく、芳醇な大地で育まれた至高の食材を連綿と受け継がれた芸術の域に迄昇華された匠の業を以ってして作られた、正に現代の宝具とも言うべき物。

 現にその恩恵で魔力も少なくない量の回復を果たせましたし、更に食せば失血に因る体力低下を回復した上でマスターに因るパラメーターダウンも幾つかは回復出来る筈です。

 故にコレは戦略的見地による判断でもあるのです」

「流通してる食材と一般人の加工品にそんな効果があるの!?」

「嘆かわしい。ああ嘆かわしい。全く以って嘆かわしい。

 アーチャーのマスターよ。貴方は自国の誇るべき文化すら知らずに異国の文化に傾倒していますが、自らの足元も見ないその有様では真に大成することなどありえません。

 

 ……ああ、眼を閉じるだけで瞼の裏に浮かびます。

 マナが満ちる肥沃の大地より湧き出した清水。

 その二つを糧にし且つ手厚く手入れをされて育まれた食材の数々。

 そこに流れる清水と生える草を糧にしつつ手厚く育てられた牧畜達。

 そして何百年という伝統を守りながらも研磨されてきた、至高の職人達が愚直なまでに守り続けた伝統に籠められた信仰という神秘を織り交ぜて作られる工程。

 

 ……栄養さえ摂取出来れば構わないと判断し、食と言う文化の研鑽を怠った私は愚かだったと今なら断じれます。

 少なくとも此の様な一品が高級品とは雖も民草の手が届く値段で普及していたならば、我が国は内外の敵を魅了して幸福な時代を過ごせた筈です。

 にも拘らず……これ程の素晴らしき文化を自国民であろう貴方が知らないとは…………とんだ異国被れの非国民ですね」

 

 なんだか変態(セイバー)さんが素晴らしくキャラブレイクしている感じがします。

 まあ元からそんな感じかもしれませんし、余り興味が無いですから如何でもいいですけどね。

 

 っと、それよりも取引は迅速且つ過不足無く実行しないといけません。

 呪術師足る者、己の言の葉に宿る御霊を軽視するなど最低の行為です。

 と言いますか、一個人としても社会人としても裏の者としても、口約束を反故にするようじゃ一流が限界ですから、仮令どんな些細な口約束でも守らなければなりません。相手が先に反故にしない限りは。

 御菓子のストックはもう無いですから、急いで取り寄せれば40~50個は明日の夜前に着きますけど、急ぎだと言われるならば料理を作るか食材を渡す……と先輩に作ってもらいそうなんで料亭のデリバリーと言うか調理用車両の予約にするとしましょう。

 

 

 さて、それじゃあ出来るだけ先輩と変態(セイバー)さんの仲を進展させない様にして、セイバーさんが人類鏖の後の回帰(リセット)を聖杯に願うと知った時に袂を別てる様に、出来るだけ自然に距離を調整しましょう。

 若し変態(セイバー)さんがそんな願いを聖杯に託さないんだとしても、其処は其れ、ライバルに成りそうな方にはサクッと退場していただけるんで問題無しです。

 と言うか、ギルガメッシュさんが御執心な以上、間違っても変態(セイバー)さんの意識を先輩に向けさせるわけにはいきませんからね。

 

 うん、それじゃあ私と先輩と藤村先生と、新しく加わったライダーとの幸せ家族計画実現の為にも頑張りましょう!

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:間桐 桜

 

 

 

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:Illyasviel Von Einzbern (イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)

 

 

 

 ある日、アインツベルンの結界がいきなり全壊した。

 理由は、ロンドン行きの飛行機が墜落する際、二人と言うか二名が飛行機を去ってその儘スカイダイビングしながらアインツベルンの領域内に落っこちたのが原因だった。

 

 魔法の域の神秘を叩き付けられない限り、少なくても一撃で壊れることは無いと断言出来るアインツベルンの結界だったけど、落っこちてきた二名のどっちか若しくは両方が展開していた、魔術的にも科学的にも捕捉を妨げる結界に触れただけで、圧倒的神秘に耐え切れずにアインツベルンの結界は綺麗さっぱり全壊した。

 当然その時点では誰の仕業か全く解らなかったから、私やお爺様は物凄く慌てた。

 

 何しろその時点で判っていたのは、結界全壊前に僅かに感知出来た情報と結界全壊という事実を併せ、

 

1.最低でも精霊の域の存在の2名が来襲。

2.術式ではなく単純な神秘で結界が全壊。

3.意図は不明だが元の結界と同規模程度と推測される理解不能な結界が展開された。

4.捕捉しようにも未だ捕捉阻害結界を纏っているのか新たに展開された結界のせいか捕捉出来ない。

5.城外に仕掛けられた罠が全部纏めて機能が一時が完全にかは判らないが停止した。

6.如何考えても相手に比べて神秘が圧倒的に足りないから、戦闘にすらならないと断定出来る。

 

と、清清しい程に板の上のコイだった。

 気休めなのは、問答無用で消し飛ばされていないことから、少なくてもアインツベルンか此の辺り一帯を消さない理由が気紛れかもしれないけれど向こうには在るということだけ。

 

 はっきり言って全面降伏以外に道は無かった。

 交渉というか頭を下げて慈悲を請う以外の選択肢が無かったし、若し自棄になって突撃しようものなら、全ての尊厳を剥奪された上で嬲られながら生かされることもありえるから、絶対に無礼を働くわけにはいかなかった。

 だから当然、私達は最高の状態で二名を迎える為の準備を最速で進めた。

 

 持ち得る限りの全ての財を尽くすんじゃなくて、相手を持て成す為に労力の限りを尽くす方向で準備は進んだ。

 成金趣味にならない様に細心の注意を払い、精霊の域以上の存在と言うかズバリ精霊か神霊と思われる以上、自然との調和こそを至上として準備は着実に進んでいった。

 独立していた城内の結界を解除して淀みを大急ぎで消し去り、更には相手が人間の文明の利器から現れたことからあまりにも人から懸け離れているホムンクルスの殆どを別棟に隔離し、可能な限り自然と人間に近い状態にして相手を出迎えることにした。

 

 

 そして、万全とは言い難いけれど時間内で出来る限りの全てを尽くした私達の前に現れたのは、若干低姿勢だけど礼節に則った男と、少し後ろに従者と言うか妻の様に控えた女のカップルだった。

 

 男の方はそこそこの美形か結構な美形程度の人間味が在って、女の方は人間離れした凄い美形だった。

 だけど、どっちの応対姿勢や容姿よりも、身に纏う神秘が何よりも私達を圧倒した。

 

 相対しているだけで圧倒的神秘の圧力の前に魂が崩壊しそうで、女の方はほぼ確実に完全な神霊なのが発する神気で泣き叫びたい程に解った。

 そして、神霊では無い存在が神霊と行動を共にしていると理解出来た時、私達は直ぐに相手の正体に思い至った。

 

 片や人間の限界を突破して精霊の域に昇格し、更には神霊の域に迄手を伸ばす、第一にして最強の魔法使い、間桐雁夜。

 片や世界の人口の約6割を占めるアジア圏内で絶大な信仰を得ている、世界でも最高位の神霊の分霊である玉藻の前。

 何方も今や現代の魔術師の世界に於いては絶対に敵対してはならない存在の代名詞で、不用意に関わろうとするだけであらゆる交流を断絶するのが常識と迄言われる存在だった。

 

 以前何方か若しくは両名の捕獲乃至抹殺を試みた魔術師達は、タマモが一定範囲(多分10キロ前後)に近寄っただけで無警告に何百人も消し去り続け、しかも降伏や逃亡を一切許さない速度で行い続けるという、苛烈性を見せ付けながら恐怖をばら撒いてきた。

 対してカリヤは敵対した魔術師の研究資料や道具と言う財産を根こそぎ破壊しただけじゃなくて、一族郎党の魔術回路や刻印も完膚なきまでに消し尽くして徒人に戻すという、魔術師にとっての悪夢を幾度もばら撒いてきた。

 特にカリヤは生粋の魔術師嫌いで有名で、敵対した魔術師に協力したり唆した者達すら決して許さず、一族郎党も含めて徹底的に破滅させ続けた事は当時の魔術師達を震撼させた。

 

 そんな堕ちた真祖(魔王)よりも危険と言われる二大存在に相対した私達は、正直、生きた心地が全くしなかった。

 何せ行動の苛烈さも凄いけれど、タマモに比べれば遙かに弱いとされるカリヤでさえ最低でもAランクもの宝具を無防備に受けても無傷という、現代の魔術師が害せる存在じゃないのは明白だった。

 おまけに音速で動ける上に転移どころか魔術行使そのものを封じたりも出来るらしいから、逃亡もほぼ不可能。

 だけど、私達がアインツベルンの歴史を儚んで絶望している最中、カリヤは結界を破壊してしまったことを詫び、更に結界修復の代行若しくは此方が結界修復に要する全費用を水増し負担すると言い出した。

 その上それとは別に、宿代を払うので暫く止めさせてくれないかとも言い出した。

 

 当然そんな展開は全然想定していなかったから、私達は如何答えればいいのか盛大に悩んだ。

 相手の力量と要請という容を採っている事を考えれば、仮に断ったとしても実力行使される可能性はほぼ無し。何しろ掌返すくらいなら最初から洗脳なり殲滅なり好きに出来るんだから。

 だけど仮に断った事実が何処かに知られれば、アインツベルンと僅かでも交流を持っていれば不興を買うと恐れられて完全孤立どころか交流が在った事実を消す為に敵に回られる可能性が高いから、はっきり言って断るなんて選択肢は極力選びたくない。

 かと言って蟻の巣にフェニックスを招く様な自殺行為は極力したくないのもまた本音とは言え、此処迄出迎えの準備をしていた相手を、今更掌返して断るとかいう馬鹿にした真似は流石に恐ろしくて出来ない。

 何しろ、タマモの身内至上主義は有名だから、カリヤに恥を掻かせた報復にこっそり死なないけれど破滅する程度の呪いを掛けられかねないし。

 

 で、カリヤの思惑は兎も角、周囲の状況的に断るなんて選択肢を選択出来ない立場だと理解したお爺様は、数秒の沈黙の後に快諾したような顔で了承した。

 

 

 そして、それからの日々は凄かった。

 

 先ず、カリヤが霊脈を弄くってアインツベルンの霊地を超1級の霊地に改造した(何でも、[どうせ荒廃するから回すだけ無駄だろう]、って言って、北朝鮮辺りに流れる分を殆ど回したらしい)。

 次にタマモが神霊魔術だか呪術だかで超1級の宝具並の結界を築いた(曰く、[私の陣地ではないので可也出来は悪いですが]、らしいけれど)。

 そして慰謝料と宿代で10桁貰った(振り込んでもらったのを確認したのは相当後だけど)。

 正直、これだけで黒字どころか文字通り奇跡を貰ってる状態だから、何時もは難しい顔をしているお爺さまも顔が緩んでいた。

 なのに、更にカリヤはお爺さまに取引を持ちかけた。

 

 何でも、1年以内に起こるだろう次の冬木の聖杯戦争で、間桐桜と同盟若しくは敵対されない限り決して害さず且つ害されても極力殺傷を控えるならば、第五次聖杯戦争後に冬木のシステムを丸ごとアインツベルンに移せる様に手配しておくって言い出したからだ。

 当然お爺様は此れを快諾。

 何しろ、此処で拒否すれば殺傷すると宣言しているのと同じだからカリヤに首を跳ね飛ばされかねないとかいう以前に、カリヤが心血を注いでサクラの為に作り上げた規格外宝具の性能の一部はバルトメロイの宝具の性能と同じく広く知られていたからだ。

 おまけにサクラ自身の戦闘力も27祖の上位陣に食い込めるっぽい上、魔術師としては超一流の上にタマモが仕込んだ呪術は評価規格外という、間違い無く宝具持ちの超1級サーヴァントと宝具無しで互角以上に渡り合えるだろう出鱈目さだから、以前冬木の聖杯解体の話し合いの際に互いに身内を害されない限りは敵対しないと話を付けていたこともあって、断る要素は全く無かった。

 お蔭で、冬木の大聖杯を丸ごと私達の領地に移せる算段が付いた。

 

 まあ、

 

1.転移させる為に大聖杯とアインツベルンの両方に入念な準備を施す(冬木側はタマモの欠片がするみたい)。

2.転移する為の魔力の殆どは間桐邸敷地内に溜め込む。

3.転移させる前に冬木の霊脈から大聖杯を切り離す。

4.3の後に大聖杯を一度間桐邸敷地内に転移させる。

5.間桐邸敷地内とアインツベルンとの間に作った強固なパスを利用して大陸を越えて転移させる(タマモの欠片達が行うみたい)。

 

って言う手段をとるから、間桐が絶大な貢献をする以上はアインツベルン以外に唯一聖杯戦争に対する大きなアドバンテージを持たせてしまうけれど。

 とは言え、遠坂が消える上に今代の間桐当主のサクラは極力聖杯戦争に関わりたくなさそうだったし、アインツベルンに移した大聖杯は15~20年周期で満ちるそうだから、運が悪くてもサクラが生きている間に3回は聖杯戦争が開催されるから文句は全く無かった。

 第一、間桐の後継者にはサクラの廃スペック宝具と規格外呪術を継承するだろうから、危険な聖杯戦争に本腰を入れて出場する可能性は凄く低いから、間桐からは力試し程度の奴が参加しそうなだけだから、本当に特に問題は無いし。

 

 そして莫大な利を得たお爺様は、新規の聖杯戦争の受入や開催準備、他にも改変された霊脈の確認に財政管理と、スケジュールが軽く1年は潰れてしまったので嬉しい悲鳴を上げながら奔走し始めたから、カリヤ達の接客関係は全て私が代理責任者として全うすることになった。

 で、丸投げされた私は多分可も無く不可も無く役割を熟してたんだけど、気さくなカリヤとの話題の中で何時まで留まるつもりなのか訊いてみたら、宝石翁が半年程は姫君と一緒に姫君の護衛を鍛える(おもちゃで遊ぶ)から、それまでは適当に時間を潰していろと言われたらしいから、邪魔じゃなければそれまでのんびりさせてもらうっていう答えが返ってきた。

 

 それから別れる11月まで、本当に色んなことがあった。

 私は自分の魔力で実現可能なら理論を飛ばして何でも実現出来るけれど、カリヤも理論を知らなくても理解と魔力が足りれば同じく何でも実現出来ると知った(厳密には私も干渉する対象を理解なり認識なりする必要があるから、同じと言ってもいいと思う)。

 そしてカリヤは子供が好きなのか私が好きなのかは判らないけれど、聖杯戦争で少しでも生き残れるように、私の理解力というか認識力を強める手伝いをしてくれた。

 ただ、[自分は才能が無いから、自分が出来た事は誰にでも出来る筈]、って言って私に高位次元を垣間見せて廃人に仕掛けたりと、可也きつかった。

 他にも、タマモが長生き出来るようにって、お爺さまに内緒で私に呪術(特に房中術)を教えてくれた。

 何でも、[自身の肉体を素材にして組みかえる呪術(プログラム)なら、肉体改造は御手の物ですから習得して損は無い筈です]、って理由だったからこっそり教わった。

 

 後、私が雪は好きだけど寒いのは嫌いだと知ったカリヤが、熱移動を選択的に禁止する礼装というか宝具を創ってくれたりしたけど、A++の神秘を纏った約-200℃(液体窒素)約1500万℃(太陽の中心温度)も平気っていう、はっきり言って頭おかしいとしか思えない性能の宝具だった。

 他にも私の外付け魔力タンクになる指輪を創ってくれたりもしたけど、霊脈や空気中のマナを吸収するどころかAランク以下の魔力干渉を防ぎつつ吸収する能力を兼ね備えていたりと、此れも頭がおかしいとしか思えない性能の宝具だった。

 正直に言えば嬉しいんだけど、自分が渡す代物がどれほどの物かという客観的視点が著しく欠けているのが良く解るエピソードだった。

 それと、カリヤは物作り(寧ろ物創り?)とかが好きで、始めると当初の構想どころか途中の構想すらいつも超え、最終的に凝ったと言うよりも廃スペックな物に成るという事も解った。

 何しろ、リズのハルバートを日本の何とかの大冒険とかいう漫画のハルバートと同じ様に風刃と火炎と爆発を生み出せる様に改造する筈が、氷雪や雷電や使い手認識(魔術師廃業トラップ付き)や自動回復や対物理と対魔力障壁を展開したりと、セラが自分達には過ぎた物だから私専用に創り変えるよう進言してくれって頼んでくる出来に成っていた。

 そして改造と言うか最早形だけ同じ別物にしてもらったリズは楽しそうに外で振り回してたけど、何度も辺り一帯の地面や雲を吹き飛ばしてセラに怒られてた。

 尤もそれを見たカリヤは、修復や維持に特化した腕輪を創ってセラに贈ることにした。勿論結局凝り過ぎて治療や復元だけでなく、傷痕の移動や破壊の肩代わりや反射といった呪いとしか思えない機能も確り付けていた(貰ったセラは余りの価値に戸惑っていたけれど、結局押し切られて貰うことになったけど)。

 

 そして、私がバーサーカーを召喚するほんの数日前、カリヤ達は普段通りの雰囲気の儘突然時計塔に行ってしまった。

 宝石翁がいきなり連絡入れたのもあるらしいけれど、聖杯戦争が始まった時に間桐の縁者がアインツベルンに居るのは何方にも余計な隙を作るだけだからって言うのもあったみたいだけど、その日の内に居なくなるのは流石に早過ぎる気がした。

 と言うか、送迎パーティどころかお爺さまの到着すら間に合わずに行っちゃうのは、絶対照れ臭いのと寂しいのと面倒臭いのが理由だと思うけれど、カリヤらしくてしょうがない気もした。

 

 で、来る時も突然なら去る時も突然だったカリヤ達だったけれど、残ったのは不思議な気分と尋常ならざる価値のモノばかりで、特に洒落にならない価値のモノはあの毎日が本当だったと告げている様な気がした。

 実際常識を投げ捨てたモノを見ないとあの毎日が夢としか思えない程だった。

 まあ、悪夢と思える程に常識が壊される日も多かったけれど、すっごく久し振りに楽しい毎日だった。

 

 

 

 そしてそれから数日後、私はバーサーカーを召喚した。

 カリヤから病的な精度の魔力操作と運用法を倣ってある程度はモノに出来たから、ギリシャ最大の英雄を狂化してもちょっとキツイ程度で耐えられると思った。

 だけど、召喚する陣が在るアインツベルンの霊地が超1級になったのと、冬木の間桐邸を通して大聖杯にパスが繋がっていたせいで、ヘラクレスが殆ど丸ごと召喚されてしまった(多分アインツベルンから間桐邸を通して大聖杯に魔力が注ぎこまれて召喚されたんだと思う)。

 おまけに狂化のスキルを付与してしまったから、魔力の消費量が尋常じゃない程に多くなってしまった。

 

 幸い、カリヤから貰った外付け魔力タンクのお蔭で、日中は霊脈から魔力を吸い上げて補充し続ければ夜間を通して全力戦闘する事は可能だった。

 但し、それはアインツベルンという超1級の霊地の中心点に据えた場合だから可能であって、冬木霊脈の傍流であるアインツベルン冬木城だと狂化無しで1時間ノーダメージで戦うのが限界な程にバーサーカーの燃費は悪かった。

 まあ、神代の昔に幻想種を絞め殺したりしたステータスやスキルが十全なんだから、寧ろそれくらい魔力を食うのが普通な気がするけれど、コツを掴むまでまた何度も死に掛ける羽目になった。

 だけど、あの悪夢とも言える夢の毎日を駆け抜けた私はそれぐらいじゃへこたれなかった。

 

 何しろ、高位次元を垣間見せられては発狂しては治療されてリトライし、体内の回路を掃除する時に出力操作を間違えては内部から爆砕するけど直ぐに治療されてリトライし、大呪術を行使しては全身が氷化や炎化や雷化して襤褸雑巾になっては治療されてリトライし、房中術の感覚上昇の出力を間違えて発狂しては治療されてリトライし続けた私はそれくらいじゃへこたれなかった(発狂を単なる気絶とイコールで結ぶ辺り、カリヤは一般人というか人間的思考を絶対止めてる)。

 治療してくれないのはキツイけど、怪我自体は十分我慢出来るレベルだった。

 第一、此れより遙かに酷いのをサクラは小さい頃に熟してきたらしいから、意地でも根を上げるわけにはいかなかった。

 

 そんなこんなでへこたれずに頑張り続け、終わってみればバーサーカーの事を知れて良かったと思える結果に落ち着いた。

 そしてサクラと受肉したアーチャーの逆鱗に触れない限り、聖杯戦争を無事に勝ち抜けると私だけでなくお爺さまも確信し、万全の準備を整えると直ぐにバーサーカーとセラとリズを連れて私は冬木へと旅立った。

 

 何事も無く冬木に到着した私達は今後の事に関して話し合う為、サクラに言われていた通り真っ直ぐ間桐邸を訪れた。

 そして、再び常識が瓦解していく光景を目の当たりにし、私だけでなくセラも酷い頭痛を覚えていた。

 

 何しろ、話には聞いていたけど、まさか龍や天馬といった幻想種だけじゃなく、妖精や精霊や神霊といった星の触覚が普通に存在している魔窟とは思わなかった。

 しかもとっくの昔に裏側に移った筈の神代級の存在も居るんだから、神秘がゲシュタルト崩壊していくのを私とセラは確かに感じていた。

 

 正直、何も見なかったことにして此の儘冬木の城に行ってぐっすり休んで、明日にでも電話で摺り合わせをしたら今後全力で間桐邸に関わらないように生きていきたかった。

 だけど、庭で幻想種達と戯れているのか死闘を繰り広げているのか判らないサクラとばっちり目が合い、それは叶わなかった。

 しかも何で居るの解らない真祖が……しかも十中八九姫君も私を捕捉していたから、もう無条件降伏以外に道は無かった。

 

 結局、不思議の国と言うよりは魔窟の極みと言える間桐邸の、しかも庭園で話し合いは行われた。

 館(と言うか既に宮殿だけど)の中で話すと神殿の奥ということで徒に緊張するからって理由で庭園で行われたけど、魔法級の神秘を体現している幻想種達の溢れる庭園も緊張具合じゃ然して変わらないと叫びたかった(と言うか、サラリと工房じゃなくて神殿といったのはもうツッコまないことにした)。

 何しろ、人工的とはいえ自然の触角に極めて近いホムンクルスの私達と受肉してないガイア側の英霊のバーサーカーは幻想種達の受けが良いのか、普通に近寄って覗き込んだりして来るから寿命が削れる程に緊張する。

 しかも宝石翁が一枚噛んでいる儀式ということもあって、真祖の姫君が立会いをすると言い出したから緊張に拍車が掛かった。

 おまけにさっきまで気が緩む程遊んでいたのか、はたまた気合を入れる程の死闘を繰り広げていたからなのかは判らないけれど、サクラ達の殆どが洒落にならない存在感を垂れ流し気味に放っていて、サーヴァントの凄さが全く分からない程の威圧感が満ちていた。

 

 ……はっきり言って転移が出来るならとっくにアインツベルンの城に逃げ帰っていると断言出来るし、その後八つ当たり気味にお爺様に状況を話して丸め込む事が出来ると断言出来た。

 全開のバーサーカー以上の存在感を発する存在が数百とか、はっきり言って悪夢としか形容出来ない。

 …………少なくても私とセラは、仮に間桐と言うかサクラと敵対したとしても、例え息を吹きかけただけで倒せる程に追い詰めたとしても、絶対に、間桐邸に立ち入らないようにしようと堅く心に誓った。

 罷り間違ってサクラが死んだ瞬間に間桐邸の結界が全崩壊して幻想種が解き放たれたら神秘隠匿不可能確定だし、何より、自分達の居場所を壊した輩ということで瞬殺されるとしか思えないし。

 

 で、幸いと言うか当然と言うか、結局何事も無く摺り合わせは終った。

 まあ、敵対してなければ門からなら好きに入れる様に許可してくれたのは収穫だった。

 もしもセラ達が買出ししている時に襲われたとしても、何とか安全地帯に逃げ込めそうだし。

 ……カリヤが創った常識を破壊する破格の宝具を持ってるリズなら並のサーヴァントなら多分倒せそうだし、セラなら相手サーヴァントのラインを使ってマスターに傷を全部押し付けられそうだから、余り役に立たない気もするけど。

 と言うか、絶対にリズは並のサーヴァントなら完封出来る。

 全力のバーサーカー相手に少なくても1分は食い下がれるんだから、カリヤ達が言ってた運命干渉系の宝具持ち以外なら多分対城攻撃をアウトレンジから撃たれない限り大丈夫な筈。だって姫君の対軍攻撃の衝撃波を単発なら捌けてたし。……アレが軽い運動とか、姫君どころかサクラも変だけど、思いっ切りハルバートを揮えるってはしゃいでたリズも変過ぎよね。

 

 

 

 ……兎に角、常識とか神秘とかシリアスとかが投げ捨てたりデフレしたり崩壊したりしたけど、漸く…………そう、漸く第五次聖杯戦争がさっき始まった。

 監視してたシロウの家でシロウがセイバーを召喚したのを確認したから、此れで漸く私の目的も始められる……と思ったんだけど、サクラがシロウを間桐邸に連れてっちゃったのを見て、如何するか激しく悩んでいる真っ最中。

 

 如何見てもシロウはサクラの身内っぽそうだから、もし私がシロウと戦おうとしたら絶対にサクラが敵に回る。

 シロウじゃなくてセイバーと戦うならギリギリOKだと思うけど、もしシロウがセイバーと一緒に向かってきたら巻き込まない自信は無い。

 

 …………いっその事サクラに事情を話して一騎打ち形式の立会いを持ちかける?

 ……上手くいけばトドメはさせなくても途中でオーバーキルなら出来そう。だけど……断られたらシロウどころかセイバーと戦うのも難しいくらい警戒される筈。

 かと言ってコレばっかりは退けない。

 どれだけ絶望的な状況になるとしても、私は絶対シロウと戦うと決めてるんだから。

 

 胸に秘めた決意を静かに反芻していると、唐突にFAXが動きだした。

 一瞬誰かと思ったけれど、私直通の番号はお爺様かカリヤかタマモかサクラしか知らない筈だから、間違い電話を除けば先ずお爺さまかサクラのどっちか。

 お爺様はFAXを使うくらいなら電話で要件を済ませる筈だから、サクラからだと中りを付けながらFAXに向かう。

 そして吐き出された紙を取って読むと、そこには多分最大限の理性的判断で譲歩しただろう条件が記されていた。

 

 …………まあ、此の辺が妥協点よね。

 コレでゴネても状況は悪化するだけだし、目的は果たせる筈だから、コレで納得するしかないわね。

 鬱憤は私の聖杯を掠め取ろうとしているセイバーやリン達で晴らして我慢ね。

 

 

 さて、それじゃあシロウが教会に直接行って届出すると踏んで先回りしようっと♪

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:Illyasviel Von Einzbern (イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)

 

 

 

 

 

 

「〔不細工は3日で慣れるけど、美人は3日で飽きる〕、とか何とかいう言葉が在りますけど、アレって大間違いですね。

 私的には、〔不細工は3日で殺意が沸くけど、美人は3日で骨抜きにされる〕、ですね♪

 もう私はご主人様にメロメロです★」

 

 夕食のおかず確保に玉藻と釣りをしていると、密着しながらそんなことを言い出した。

 ……俺もそう思うけど其の儘言うのは癪だし、後で人間じゃないから飲まず食わずの退廃生活に突入するから、本音は出来る限り隠して掛け合いするのが一番だな。

 

「俺は骨どころか魂抜かれそうだったけどな。

 ……24時間戦えますか×???とか、俺は一度お前の頭の中を覗いてみたくて仕方ないぞ」

 

 自重の二文字を前の世界に置いてきたとしか思えない行動は本気で凄かった。

 ……付き合えてしまう自分が本当に人外だと実感してしまうけど、玉藻と付き合えるならそれでも良いかと思えてしまったのをうっかり口を滑らせた時、羞恥心で悶え死にそうになったし、その後玉藻の暴走が更に酷くなって精根どころか魂が抜け掛けた。というか寧ろ溶け合った気がして仕方ない。

 まあ気にする程の事じゃないからいいけど、異世界に渡って1年近く退廃的生活しかしてない気がするから、いい加減健康的で文化的生活を満喫する為にも、此処で又退廃生活に逆戻りするフラグは立てないに限る。

 

「私の頭の中は、1にご主人様で、2にサクラちゃん、3・4もご主人様で、5もご主人様です!」

「いや、うん。俺が訊きたいのは優先順位じゃなくて、お前の望む日常が如何なっているのかを訊きたいんだよ」

「え?そんなの良妻賢母な生活に決まってるじゃないですか?」

 

 今更何を言っているのかが不思議でならない顔が本気で可愛いく思えて仕方ないのが悔しい。

 ……いやいや、此処でうっかり口を滑らせて退廃生活に逆戻りするのが今迄のパターンなんだ。

 そうならない為にも、最近の俺の抱負に、〔喋る前に考える〕、を掲げたんだ。

 少なくて玉藻相手に思った事をストレートに喋り続けたら、いつか絶対廃人化しては治されて又廃人化という無限循環に陥るから、慎重に考えて言葉にしないとな。

 

「……退廃生活をする良妻賢母が何処に居るんだよ?」

「? 夫婦の営みは健全な生活の一部ですから、全然OKな筈です!

 と言うか、9年夫婦の営みが無かったんですから、9年分を取り戻そうとするのは当然のことです!」

「ならもうとっくに取り戻してる筈だよな!?

 と言うか寧ろ1~2年分はオーバーしてるよな!?」

「いえ! 9年営みが無かったんですから、9年は続けたとしても利子にも全然足りないくらいです!」

「待たせ過ぎたのは素直に謝る!

 だから自重を思い出してくれーーーーーー!!!」

「だが断る!(キリッ)

 今度は私の我が儘に付き合ってもらいますよー♥」

 

 

 

 亜熱帯地域の無人島で、暫く俺は玉藻と頭がおかしくなりそうな程に退廃的な生活を続けることになった。

 

 

 







【桜内の戦闘序列】

01.玉藻おばさん ≒ アルクェイドさん(種割れ?時) ≒ ORTさん
02.雁夜おじさん ≒ ギルガメッシュさん ≒ アルクェイドさん(普段時) ≒ 玉藻おばさんの欠片の方達 ≒ 間桐低幻想種の極一部の方達
03.私(宝具有) ≒ 玉藻おばさんの欠片の方達 ≒ 間桐邸幻想種の約半分の方達
04.私(宝具無) ≒ ゼルレッ爺さん > バルトメロイさん ≒ スミレさん(素面時) ≒ 間桐邸幻想種の約半分の方達
05.ライダー ≒ 志貴さん(種割れ?時) > 髭ライダーさん > 宝塚……じゃなくてセイバーさん
06.志貴さん(普段時) ≒ スミレさん(普段時) ≒ 蒼崎青子さん > シオンさん
07.シエルさん ≒ 両義さん(多分本人も知らない状態の時) > 蒼崎橙子さん > 秋葉さん
08.ウェイバーさん ≒ 言峰さん > マクレミッツさん > 遠坂凜さん(破産前提)
09.並の死徒 >> 影……じゃなくて髪が薄かった人
10.葛木さん ≒ 髭剃ってなかった人 > ヴァンパイア
11.グール >> 先輩
12.一般人


【士郎の感想】

・桜    :妹分?
・大河   :姉貴分。偶に妹分。そして異性と言うよりも異星の人
・一成   :友人。冗談半分に間桐と言う時もある。
・美綴   :友人。人見知りな桜を巻き込んで遊びに誘う良い奴。
・慎二   :友人。桜が絡むと機嫌が悪くなる。
・セイバー :何か駄目な感じの女の子。サーヴァントらしいけど桜より弱そうだから大したこと無い?
・ライダー :桜の姉貴分? それとも妹分? 後、悪意は感じないのに命以外の危機を感じる。
・遠坂   :何か俺の中で壮絶にキャラブレイクした。まあいいけどさ。
・アーチャー:何か嫌な奴。
・琥珀さん :凄く苦手だ。気さくな人なんだけど、気が付けば窮地に誘導されるから。
・遠野   :凄く苦手だ。悪い人じゃないんだけど、猫に甚振られる鼠の感じがするから。
・エルトナム:凄く苦手だ。悪い人じゃないんだけど、断頭台に案内される感じがするから。
・雁夜さん :良い人だけど超苦手。桜を不用意に傷付けたら、多分何処に逃げても詰む。
・玉藻さん :良い人だけど超苦手。桜を不用意に傷付けたら、多分何処に逃げても男として死ぬ。


【登場人物達の戦闘思想】

・玉藻     :スペック任せのゴリ押し。楽をする為に知恵を働かせる時も在る。
         無能ではなく人類が考案した戦闘技術の入り込む余地が無い領域の存在なだけ。
・アルクェイド :同上。
・ORT    :同上。
・雁夜     :同上。但し上記三名級だと敗北必至だが、技術が在っても結果は同様。
         技術習得よりもスペック上昇の方が効率的なので、技術習得は非効率的。
・ギルガメッシュ:物量任せの制圧射撃。相性次第ではEX宝具に因る遠中近対応の一騎打ちも可。
         能力と技能と経験と知識と道具の全てが超高レベルで融合。但し基本的に手抜き。
・桜      :呪層・黒天洞を活かした反撃型(エヌマ・エリシュも耐えられます)。
         但し、精霊以上の存在との戦闘を前提にしていないので、対象は基本同格以下。
・セイバー   :原作準拠のスペックと直感任せの接近戦。分が悪ければ真名解放で薙ぎ払う。
・アーチャー  :原作準拠の手数と引き出しの多さでの全距離戦。権謀術数も当然使用可能。 
・凜      :原作準拠の銭投げ魔術の使用。但し、籠められる術式や魔力等が可也向上している。
・綺礼     :原作準拠だがスペックが上昇して第七位に防戦が可能な域に成っている。
         浄化関連に関しては協会と教会の両方でも最高位の一名。
・志貴     :近接戦闘だけでなく、混沌の残滓を具現化しての中距離や遠距離も可能。
         混沌で身体を強化すれば祖の上位に食い込むスペックになるが、今は持続時間短し。
・シエル    :原作準拠だが、究極のカレーを食すと全能力が数分間約5倍になる悪夢が発生。
         但し、幸せに浸って自己分析をしていないのでその事実に全く気付いていない。
・ウェイバー  :自身に対する強化や変化や付与による近接戦闘特化。
         自分の身体に限定した場合、提唱した理想的な魔術を使用可能だが多様性が低い。
・バルトメロイ :原作準拠。但し一定以上の者相手には宝具を使う為単独で挑む。
         宝具を使って尚共闘する場合は桜にのみ打診する。


【ライダーのステータス】

  パラメーター
・筋力:A+++・魔力:A+++(EX)
・耐久:A++ ・幸運:EX
・敏捷:A+++・宝具:??

  クラススキル
●騎乗:EX
 同意があれば神霊すら乗りこなせる。

●対魔力:A
 五次セイバー準拠。

  固有スキル

●魔眼:A+++
 魔力A未満を石化させ、判定次第では魔力Aでも石化させる。
 石化をレジストされた場合、全能力を2ランクダウンさせる重圧が対象に掛かる。
 全盛期時の魔眼の出力と成っている為、相手を見るだけでも効果が十全に発動する。
 又、ある程度の加減も可能となっている。

●単独行動:A
 四次ギルガメッシュ準拠。

●怪力:--
 スキル消滅。

●神性:EX
 間桐邸の結界の恩恵により怪物等の要素が極限迄浄化乃至封印されており、現代では善悪を問わなければ神と認識されている為、神そのもののEXランクとなっている。
 尚、間桐邸の結界外で自身の神性を否定したり、怪物等に立ち返ることを強く望めば神性はダウンしていく。

 神性の恩恵は、
・パラメーターの強化(怪物になっても上昇補正はあるので実際は差し引きゼロ)
・殆どの運命干渉遮断能力(幸運EX)。
・龍種の騎乗。
・A+の未満の干渉遮断。
・大地母神の伝承に即した能力。
となっています。

  宝具

●自己封印・暗黒神殿:C
 原作準拠。
 但し、間桐邸のバックアップを受ければ間桐邸外でも冬木市内であればランクがAに上昇する。
 更に、間桐邸内でバックアップを受ければランクがA+++に上昇し、対魔力がA+未満の者ならば無条件に使用者の心に封じ且つ能力発動も阻止することが出来る。

●他者封印・鮮血神殿:B
 基本は原作準拠。
 但し、間桐邸が管理可能な範囲(冬木市内)且つ間桐邸のバックアップを受けられるならば、事前準備無しで冬木市一帯にランクA+で展開可能。
 事前準備を行い且つバックアップを受けられるならばランクA+++で展開可能で、更に範囲を絞ることでランクを上げる事も可能。

●騎英の手綱:A+
 原作準拠。

●玉藻の欠片や間桐邸の幻想種:EX
 協力要請を受け入れてくれた場合に限り騎乗することが可能。
 基本的に玉藻の欠片は桜が説得し、幻想種はライダーが説得する。
 中には水爆に匹敵する破壊を齎せるブレスを放てる龍種も存在する。


【ライダー召喚関連】

 ほぼイリヤと同時期に召喚しています。
 但し、イリヤと違って問題無く維持が出来ています。
 又、士郎と大河とも確り顔見世が済んでおり、立ち位置は桜の私的秘書兼助手です。

 因みに桜が調子に乗って陸海空の乗り物に乗せ捲くり、すっかり現代の乗り物に魅了された為、大半の乗り物の資格を取得して(金銭と権力で試験を受けさせただけで、試験内容自体は正規のもの)桜や大河の送迎に利用しています(当然乗り物は桜が用意)。
 既に現代に馴染みきっており、桜とマン島TTレースに参加するのを夢見る程になっています。
 尚、桜が学校に通っている間は原作通りのバイトを熟しています。
 正直、もう聖杯どころか聖杯戦争自体が眼中になく、士郎が参加しなければ全く気にせず普段通りに生活する気満満でした。


【今更ながらの雁夜と玉藻の捕捉】

 名前  :間桐 雁夜
 年齢  :9歳(ギルガメッシュとの勝負中から数え直している)
 種族  :単一種(戦闘力を除けば受肉した神霊が一番近い)
 自称特技:人混みに溶け込むこと。要点の箇条書き。意固地レベルのど根性。日曜大工。
 他称特技:第一魔法(改)。暴発魔術。本質捕捉。勝負所での剛胆さ。
 戦闘能力:ギルガメッシュを除けば英霊7体同時でも勝利確率高し。

  詳細
 とある不運で一度自らの意思で自滅する。
 しかし何の奇跡だか不条理でだか解らぬが、事象の果ての根源に還って尚自己を失わずに根源の一部を理解する。
 だが根源という圧倒的情報量の前に自己が洗い流されるのも時間の問題になり、早急な問題解決を模索する。
 そして情報の渦に飲まれる前に蘇生すれば良いという結論に至る。
 だが、根源の一部を理解して理論は解せども実行手段は確立していなかった為、嘗て誰かが遺した第一魔法という道を理論実行に利用することにする。
 結果、第一魔法(無から有を生み出す無の否定)を使って雁夜は肉体と白紙の魂を一から創造して自身を其処に移す。
 此れにより完全自力で蘇生(再誕)を果たす。
 尚、雁夜は世界創造や世界改変の域迄理解が及んでいるが、実行方法として第一魔法という型に自ら嵌る事を選択した為、世界創造や世界改変等を行うには一度第一魔法を経由(その特性を有した物質を創造)して実行しなければならなくなる(雁夜は気付いていない)。

 蘇生後目を覚ますと何処か不思議な空間に雁夜は存在し、其処で出会った(出遭った)ゼルレッチから強引に修行を受けさせられる。
 そしてその際にある程度魔法を使えるようになり、同時に魔術が何であろうと暴発するという結論も出てしまうが、27祖級の戦闘力を保持していると判断されてゼルレッチから解放される。
 其の後自分の気持ちにケリを付ける為に葵に告白して綺麗にフられる。

 気持ちの整理が付いた後、宝石を創造出来るので金銭面の心配をせずに根無し草として移動し続ける。
 途中殺傷石の見物に立ち寄り、夜景を眺める時に酒を飲んだ(無意識でアルコールの影響を受けるようにしていた)のと童心に返ったのが原因で、殺傷石を徹底浄化したどころか付近一帯の霊脈を操作して神殿状態にしてしまう。

 其の後葵達に土産を渡す為に冬木に戻った雁夜は、葵から桜が間桐の養子に成ったと知る。
 当然急ぎ間桐邸に向かうが、到着した時には既に桜は臓硯に改造されている最中。
 蟲蔵で改造されている桜を見た瞬間、雁夜は即座に桜へ駆け寄って蟲を払い散らす。
 そして桜に寄生している蟲を心臓ごと消し去って瞬時に心臓を魔法で強引に生成し、更に激情の儘に臓硯と蟲を完膚なき迄に蒸発させる。
 無事とは断じて言えないが桜を臓硯から解放した雁夜は此れからのことを考える。
 名目上の当主の兄は臓硯が死んだと聞くと荷物と遺産(現金9割)を持って自分達は間桐との関わりを絶つと告げて間桐邸を去り、残った自分と桜だけが後継者だと知り頭を悩ませる。
 碌に魔術行使不可能な桜が後継者に成れば養子に出した時臣が文句を良いながら桜を攫った後、再び別の魔術師の家に養子として放り出すのが目に見えている為、雁夜は自身が当主と成ることで桜が別の地獄に放り込まれることを阻止することにする。
 だが、雁夜は魔法使いでは在れども魔術を使えば必ず暴発させてしまう欠陥魔術師(特化魔術師)であり、その上雁夜の一般的な対外評価は魔術を嫌って逃げた凡愚の為、自分が間桐の当主と成って桜を他の地獄に盥回されるのを防ぐ為には障害が幾つも在ると理解し、それを解決する為に苦悩と妥協の果てに聖杯戦争に参加することを決意する。
 しかし召喚を試み、召喚されたのは那須の山で縁が結ばれた神霊・大日=天照=ダーキニー=玉藻の前だった(正確には玉藻が召喚される存在を押し退けての降臨)。

 召喚された玉藻と仲を深めながらも日常を過ごし、聖杯戦争開幕後、雁夜は桜の不安を払い且つ一握りの勇気が生まれるようにと願い、単独で時臣のサーヴァント・アーチャーに勝負を挑む。
 勝負の最中に自身の在り方の一端を自覚して精霊の域に迄完全に昇格し、更に自身が魔法を介せば大抵の物は創れる限定された全能性を有していると朧気ながらも気付く。
 そして雁夜とギルガメッシュの規格外の一撃の激突に因って時空断層を引き起こし、両者共に根源の渦に呑み込まれて引き分けという結果に終わる。
 尤も、直ぐに両者とも世界の外側から帰還を果たす。
 尚、その際にギルガメッシュは完全な受肉を果たし、雁夜は根源への理解度が更に上昇して実現可能な幅が更に広がる。

 勝負の後に雁夜は桜と共に冬木教会にて御三家の会談をを開き、今次の聖杯戦争の今後と桜の問題を終わらせる。
 会談終了後は冬木の地を離れ、第四次聖杯戦争に関わる事無く過ごす。

 そして当初の予定通り、10年経つ前に雁夜は玉藻と異世界へと旅立つ。
 因みに、雁夜の世界(星も含む)の寿命を延ばす技能の難易度は、玉藻やアルクェイドやゼルレッチをして成し得る存在が実在するとは思っていなかったりした程の規格外技能であり、此の三名をして恐らく雁夜が死後抑止力に名を連ねても此の技能は再現不可能ではないかと見ている。
 但し、雁夜自体の戦闘能力は通常アルクェイドとhollowのギルガメッシュネイキッドを足したレベルであり、アルティメットワンと戦えば高確率で敗北を喫する。
 尚、雁夜は世界延命をエアが再現する地獄を祓う風、若しくは日本神話の禊払いをイメージした水の二つで具現化し(水の方はSS本編未登場)、出力を上げる事で過剰浄化や過剰回復で攻撃に転用することが可能だが、星の様な存在格が桁外れに高いモノには万能薬と聖水とエリクサーが入った注射を乱暴に刺されている感じであり、寧ろ雁夜が暴れる事は星の様な存在格が桁外れなモノにとっては最高の御褒美の為、雁夜より格上が雁夜を殺害する可能性は事実上存在しなくなっている。


  ●▲■★◆▼●


 名前  :玉藻の前(大日如来=天照=ダキニ天)
 年齢  :??歳(約1250 ~ 25000以上)
 種族  :神霊
 自称特技:良妻賢母。呪術。神霊魔術(神霊魔法)。呪相・玉天崩。
 他称特技:軽い会話。呪術。神霊魔術(神霊魔法)。呪相・玉天崩。世界経済崩壊級の経済操作。
 戦闘能力:全開アルクェイドと同等域。要するに型月世界最高戦力の一名。

  詳細
 雁夜が殺生石を浄化した際、玉藻自身の願いも在って徹底的に浄化される。
 その際、他の人格(八尾)が大幅に弱体化し、玉藻(一尾状態)をメインに吸収統合される(因って、横暴な所や人間軽視な思考が玉藻にも存在しており、その為原作とは微妙に(結構?)人格が異なったりする)。

 召喚(降臨)当初に雁夜の魔力を吸い上げ過ぎて雁夜を全殺しへ追い遣るという大失態をしでかす(同時間軸上に存在し、魔力も宝具が在るので自前で解決出来るが、[先ずは一つに溶け合う所から!]、と余計な意気込みを持った結果、悦に浸り過ぎて雁夜を乾涸びさせてほぼ全殺しに追い遣る(しかも雁夜の魔術特性で魔方陣が爆発(儀式暴発)する筈が、玉藻が超絶魔力吸収した為玉藻の方で炸裂するものの、玉藻は小揺るぎもしないので爆発は逃げ場を求めて雁夜の方に逆流し、爆発は雁夜の内部を蹂躙し、更に其の直後雁夜は玉藻に魔力を吸い尽くされているので、本当に【ほぼ】全殺し状態))。
 更に誰にも邪魔されずにイケメン魂の主人に仕えられると当初は大暴走するが、雁夜の地雷を踏み捲くって絶縁寸前迄仲が悪化する。
 だが、腹を割って話した結果、改めて良好な仲をゆっくりと築いていく事にする。

 雁夜が桜を深く想っている事が切欠とはいえ、桜を実子の如く愛情を以って接する。
 が、雁夜が桜の両親は断じて自分達じゃないという考えを譲らない為、玉藻は自分を桜の叔母と認識しながら日常を過ごす。
 尚、桜とは本音トークを幾度もしており、雁夜が桜に遠慮と専念する為に自分と肉体関係に至らないことを話して盛り上がる程の仲の良さであったりする。

 幸せ家族生活の為にと雁夜の資産を運用し、9年経過後は地球上の5割強を席巻する多国籍企業へと悪夢の如き高速発展をさせる(社の推奨宗教を密教関係にして自身に補正が掛かるようにしている)。
 更に冬木と那須の両間桐邸を雁夜と徹底改造して神代級の神秘が溢れている状態にし、更に自身の欠片を集合させて住まわせたり、幻想種を呼び込んで間桐邸を魔窟化させる。
 その上、雁夜が心血骨肉籠めて作った宝具に同じく心血骨肉籠め、桜の護身用に規格外宝具の創造をしたりと、裏表問わずに世界を大きく一変させる行動を幾度も行う。

 雁夜と共に異世界へ旅立つことに否は無いが、桜と共に旅立ちたいのも事実だったりする。
 が、桜が雁夜の想いや期待に応える為に残ることも理解しているが、自分が雁夜との関係を進める為に残るという理由が在ることに気付いている為、凄まじい心苦しさも在ったりする。
 しかし、紆余曲折を経、晴れて雁夜とだけに成った時には一切自重しなかったりするのが実に玉藻らしかったりする(断る理由が無い上、何だかんだで玉藻にベタ惚れしている雁夜は当然……)。

 因みに、ガイア側の玉藻……というか天照=大日如来=ダキニ天は、星というか世界の寿命を延ばせる雁夜の護衛の為、玉藻は【天照=大日=ダーキニー=玉藻の前】全ての能力行使が可能になっている。
 尤も、雁夜の為に立ち上げた企業で推奨する宗教で稲荷宗教も存在し、悪ノリした玉藻が狐耳と尻尾をコスプレと勘違いさせて稲荷神のモデルとして写真を残し、後世に社の偉人として社員の大半とおぞましい数のオタク達から信仰を受け、遂に自身の中の他神格を含めて最大級の信仰を受け、更に一般で、【天照=大日=ダーキニー=玉藻の前】、という方程式が浸透した為、未来でまさかの下克上を果たす。
 尚、星の寿命を延ばせる雁夜が異世界へ渡れる理由は、桜若しくはその血族がガイア側に悪性干渉されず且つ間桐邸と共に存続している限り召喚と送還を星持ちという条件で定期的に寿命を延ばすと契約している為であったりする。(当然間桐邸と桜に掛かる加護は凄まじいモノになっている)。



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