カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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拾肆続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 玉藻が聖杯戦争の関係者の殆どに絶望に近い衝撃を話の序の様に話した直後、驚いていたギルガメッシュが表情を笑みに変えながら雁夜に話し掛けた。

 

「流石は我と引き分けただけはあるな。

 まさかそれほどの神を自力で具現させるだけでなく、骨抜きにして娶っているとはな」

 

 揶揄うのではなく、純粋に雁夜の力量と魅力を褒めながらも誇るギルガメッシュ。

 対して雁夜は、ギルガメッシュが若干勘違いしているものの悪意が無いだけに頭ごなしに否定し難く、更に玉藻の発言も事実を婉曲したりもせずに素直に発言された為文句を言い難く、どう言い繕うべきか悩んでいた。

 

 少なくても此処で雁夜が玉藻が不仲とも取れる振る舞いを行えば馬鹿な魔術師達が増長して襲い掛かる要因にしかならず、玉藻の言葉を否定するのは明らかなマイナス要素であった。

 だが、逆に玉藻の言葉を受け入れるか否定しなければ繋がりは強固と認知され、馬鹿な魔術師達の増長を抑えて桜に血生臭い場面と関わらせる確率が減る為、少なくても否定する要素は無かった。

 何より、雁夜は先の玉藻の発言は自分の外堀を埋める気が微塵も無いのは此処最近の玉藻との遣り取りで確信しているので殊更に頭ごなしに否定し難く、然れど素直に頷くのは気が進まず、どうしたものかと雁夜は逡巡していた。

 が、そんな雁夜の悩みを晴らす様に――――――

 

「残念ですが私の想いは未だ届いてはいません。

 そしてそれは主様の意思を確かめもせずに降臨して負担を強いてしまい、更に当初は私の想いを一方的に示したことを思えば当然の帰結。

 ですがそれでも主様は私の想いを無碍には扱わず、更には私の行動に嫌悪を示しながらも私と過ごした時を快と仰られ、御傍に置き続けて下さったのです。

 ですので先の言葉は主様には些か以上に思う所が在る言葉と思われますので、以後留意して下さい」

 

――――――玉藻が波風を立てぬ様、柔らかながらもはっきりと先のギルガメッシュの発言を否定した。

 そして玉藻のその言葉に更に笑みを濃くしたギルガメッシュが雁夜に話し掛ける。

 

「ほう?まさか娶っていないにも拘らずここまで骨抜きにして尽くさせるとは……神すら殺せる女殺しのスキルでも持っているのか?」

「か、勘弁してくれ。俺は初恋の相手が結婚する時にも告白せずに送り出したヘタレだぞ?

 女殺しなんて不名誉な言葉は俺から一番遠い言葉だぞ?」

「ふむ……なるほどな。それも一枚噛んでいるから助力しているというわけか」

 

 そう言って桜を愉快そうに見るギルガメッシュ。

 そしてそれに頬を引き攣らせながら雁夜はどうにか反論しようと言葉を探す。

 が、雁夜が言葉を見つけるよりも早く桜が爆弾発言を炸裂させる。

 

「半分当たり。私と出逢ったのは……それが理由。

 そして雁夜おじさんは……女心がわかっていない女殺し。

 いつも上げて落として上げて……振り回してる」

「うえ”っ!?」

 

 抱き抱えた桜の発言を聞き、驚愕に目を見開く雁夜。

 そしてそれを聞いたギルガメッシュは愉快で堪らないといった顔をしながら雁夜に話し掛ける。

 

「ふっはははははっ。まさか天然の女殺しとはな。

 しかもなんだかんだで幼女に嫌われていないとは凄まじい才能ではないか?」

「主様は結果だけでなく、過程迄も意図せずその様にしてしまわれる為、不満は涌けども決して憎むことが出来ない御方ですから」

「なるほど。狙った獲物を確実には仕留められぬ代わりに、意図せず大量に仕留められるという訳か。

 存外に難儀なタチだな」

「然れど興味を惹かれない者達には御自身に害が及ばれない限りは、仮令御自身の益に成るとしても干渉しようとされないので、ソレが発揮されることは稀ですが」

 

 玉藻がそう言うと、ギルガメッシュは納得がいったという顔をし、雁夜と玉藻と桜を見ながら言った。

 

「ほう。つまり時臣とそこの人形を交え、御三家とやらが集った場で正式にこの戦いを辞退して平穏を掴む気か」

 

 害に成れば干渉するという玉藻の言葉を聞き、ギルガメッシュはあっさりと雁夜の行動を読みきる。

 そしてそれに何とか立ち直った雁夜が、話を完全に変える為にも言葉を返す。

 

「俺としちゃ時臣に桜ちゃんと一緒に会うだけで済ませたかったんだが……、全員揃ったなら御三家の代表を集めて教会で徹底的に話し合った方が後腐れを無くせそうだからな」

「出涸らしに集る雑種共の相手とはご苦労なことだな」

「仕方ないさ。

 其れも出来る限り穏やかな暮らしをする為の対価と思えば納得出来るしな」

 

 やれやれと言った感じで肩をすくめる雁夜を見、ギルガメッシュは些か不機嫌そうに言葉を返す。

 

「だが、それで下手に出ると勘違いする馬鹿は必ず沸こう?」

「それはお互い様だろ?

 神代の時代なら兎も角、今は変に暇を持て余した奴等が多いんだ。

 暇を持て余した奴等が周囲を見渡して珍しいモノを見つければ、暇も手伝って大抵欲に眼が眩んだ挙句、甘い考えで特攻したり部下を嗾けて日常を荒らす奴等が溢れてるんだ。

 下手に出ようが上手に出ようが馬鹿は必ず沸くだろ」

「ふん。随分と身の程を弁えぬ馬鹿が増えた時代に成ったものだ」

「まあ、世界の勢力バランスや個人の能力がある程度平均化されて久しいからな。

 同盟なり徒党を組むなりすれば、数で圧倒可能なのが殆どの世の中だから仕方ないだろ」

「ふん。ならば適当に同士討ちして数が減り、人界を纏める真の王を切に欲した時、再び我が威光を示して治めるとするか。

 雑種共が我の代わりに敷く今の治世は直ぐに破綻するであろうから、今の世を回って暇を潰している間に時は来るだろう」

 

 妙案とばかりに当面の目的を決めたギルガメッシュ。

 対して雁夜は苦笑いしながら言葉を返す。

 

「平穏に暮らしたい俺としては世界大戦なんて起こらないことを願うばかりだな」

「それを回避する武が在るのに願うだけか?」

「仮に戦争に介入して鎮圧しても、根本的問題を解決しない限り再び戦争は起きる。

 そしてそれを回避する為には上に立たねばならない。

 だが、武に優れただけで人の上に立てる程人は猿に似ていない。

 

 第一、自然体で人を纏めることと導くことが出来、更に自らを含めた和を愛せ、そして虚飾の欲に染まらずに自身の在り方を貫ける者だけが人の上に君臨出来る。

 俺じゃ纏めたり導くのは技量以前に意図しなきゃ出来ない以上、何れ重責に感じて投げ出すか潰されるのが目に見えてるからする気は微塵も無い」

「やはり卓越した見識と自己分析だな。

 勇者・覇者・王者・聖者・賢者と人の至る極地が在るが、どう見ても賢者の極地に立っている以上、聖者と勇者の適正は在れども覇者や王者の適性はないからな」

「逆に賢者と勇者の適正は無さそうだけど、配下に加えればいいだけに問題無さげなのが少しずるい気がするな」

「はははははっ。それが王者の特権というものよ。

 賢者が俗世の政に関わらずに引き込める特権と同じよ」

 

 機嫌良く笑うギルガメッシュを見、玉藻は会話が一段落したと判断した為会話を切り出した。

 

「主様、御歓談も一区切りしたようですので、此の場で改めて聖杯戦争に対する立場表明等を済ませられては如何でしょうか?」

「っと……そうだな。何時迄も周りの奴等から聞き耳を立てられるの良い気分じゃないし、さっさと済ませるか」

 

 そう言うと雁夜は周囲を見回し、一度此の場の全員を知覚した後、はっきりと告げた。

 

「第四次聖杯戦争参加者間桐家現当主間桐雁夜は全ての令呪を消費した上で改めて告げる。

 間桐家現当主にして暫定クラス名アウト・キャストのマスターである間桐雁夜は、今を以って正式に第四次聖杯戦争を脱する。

 監視の手段は残すものの、聖杯に託される願いが此方を巻き込む類でなく、更に此方の敷地等を荒らさぬ限りは第四次聖杯戦争中は此の冬木の地より離れよう」

 

 そしてそれに続いて玉藻もはっきりと告げる。

 

「天照の一側面である玉藻の前も告げます。

 我が主様が聖杯を求めぬ限り、私も聖杯など求めはしません。

 そして我が主様が御命令を下されぬ限りは、第四次聖杯戦争中は此の冬木の地より離れましょう。

 無論、私も監視の手段は残しますが」

 

 周囲から少なからず安堵が漏れる中、漸く流れ的に会話に入れると見たアイリスフィールがセイバーを伴って雁夜達の前に駆け寄りながら話し掛ける。

 

「ま、待って下さい!」

 

 最高位の受肉した英霊に匹敵する人外と、更にその遥か上の存在である神霊に態態話し掛けるアイリスフィールを見た雁夜達とセイバー陣営以外は、勇者を見るとも愚者を見るとも判らない目でアイリスフィールを見た。

 そしてアイリスフィールも自身がとんでもなく危険なことをしていると、魂が圧壊する様な波動に晒されながら痛感していた。

 だが、それでも多数のサーヴァントが居る此の場で告げねばならない事が在る為、気が狂いそうな圧迫感の中、自身の右手を握り締めてくれているセイバーの手の感触を心の支えにしてアイリスフィールは告げた。

 

「間桐の当主よ。貴方が聖杯を望まず今次の聖杯戦争を降りると申されること自体に異論は在りません。

 ですが、聖杯を共に求めた御三家の一角として、今次の聖杯戦争を破綻させかねない行為に対する責に対し、どのように思われているのかお尋ねします」

 

 若し雁夜が凄まじく優れた程度のマスターで、玉藻が凄まじく強いサーヴァント程度だったら、アイリスフィールはもう少しはっきりと聖杯に魔力を注げと告げたであろう。

 だが、雁夜は先程受肉した英霊と自らに仕える者を除けば、恐らく単独で今次の聖杯戦争の全勢力を圧倒可能な人外であり、玉藻に至っては恐らく勝負そのものが成り立たない領域の存在である為、アイリスフィールは可能な限り丁寧且つ相手を刺激せず、然れど必要以上に下手にならない発言をした。

 又、これだけサーヴァントとマスターが居るならば、聖杯を望む者達の無言の訴えも届くかもしれないと思い、今此の場こそが雁夜から妥協を引き出す最善の機とアイリスフィールは判断し、ワケも解らず許しを請いながら気絶しそうな圧迫感の中、愛する人の願いを叶える機会を棒に振れないと自らを奮い立たせながら辛うじて気丈に振舞った。

 対してその発言を受けた雁夜は、近くで自分に対して尋常では無い警戒心を抱いたサーヴァントが居るにも拘らず、居心地の悪さに少少居た堪れない気分になるだけで、後は見知らぬ者と話すという程度の警戒心しか涌いていなかった。

 そして何時の間にか危険と認識するレベルが跳ね上がっていることに気付かぬ雁夜は、剰え警戒されているのは規格外の玉藻であって自分ではないと本気で思った儘、ルポライターとして相手の言質を幾度も取り損ねた経験を活かし、答える前に相手の言質を取ることから始めることにした。

 

「その前に確認する。

 今のお前は御三家の一角のアインツベルンの代表であり、更にセイバー陣営の代表と判断していいんだな?」

 

 暗に後で先程のは個人的な発言と行為と言われるのを防ぐ為、雁夜は念押しをした。

 音声を記録こそしなかったものの、これで相手が言い淀めば二度手間を防ぐ為相手にしないつもりだった。

 尤も、後で教会で話し合うことを考えれば二度手間に近いが、先に片方だけとでも話して結論を出しておけば話が纏まり易いだろうと雁夜は考え、アイリスフィールの発言と行動に責任が伴うならば話をするつもりではあった。

 そして、アイリスフィールもそこは察しているらしく、毅然とした態度で曖昧な言葉を交えずに返す。

 

「その通りです。今現在私の発言と行動はアインツベルンとセイバー陣営の代表としてのものです」

「了解した。

 ならば間桐家現当主として先の責を問う言葉に対しての答えを示す」

 

 そう言うと雁夜は桜を玉藻の傍に下ろし、少し桜から離れた位置に立った。

 アイリスフィール達は不審げに見ていたが、ギルガメッシュのみが面白そうに見る中、雁夜は一度深呼吸をした。

 その後雁夜は虚空に手を伸ばし、少なからず回復した生命力を使って再び根源から魔力を引き出し始めた。

 そしてほんの数秒後、虚空に伸ばされた雁夜の掌の先に、一般人十万人分以上の無色の塊が具現化された。

 

 文字通り色が無い力の塊の為、目で捉えること叶わないが、それでも誰もが直感で雁夜の掌の先にはサーヴァントがエネルギー化した様な強大な力が存在していると感じていた。

 そしてそれを全員が理解したと確認した雁夜は、掌の先に具現化した無色の塊を圧縮する様に手を閉じ、暫しした後、今度は掌が上を向く様にして手を開いた。

 すると雁夜の掌にはピンポン球程のガラス球の様なナニカが在った。

 だが、先程感じていた力を今は一切感じていないことから、ソレに先程の力が封じ込められていると誰もが理解した。

 

 自分の手の中のモノの存在を誰もが理解したと判断した雁夜は――――――

 

「ほら」

 

――――――そこらのボールを投げる気軽さでソレをアイリスフィールへと投げ遣った。

 投げられたソレは、普通に軽く放られた為アイリスフィールでも左鎖骨辺りへと中る軌道を描いていると余裕を持って予測出来た為、その辺りに手を置いて受け取ろうとした。

 だが、放られたモノはアイリスフィールの手だけでなく服すら透過し、当然服の下の身体も透過した。

 が、放られたモノはアイリスフィールを透過して地面に落ちる事無く、途中でナニカに当たったらしく、〔カラン〕、という乾いた音を立て、更にソレが器の様なナニカに収まる様な滑る音が暫く響き、遂には音がしなくなった

 放られたモノが地面に落ちていないことから、アイリスフィールの中のナニカに放られたモノが収まったのを場の全員は理解した。

 そして放られたモノがナニに収まったのかを正確に把握したアイリスフィールは驚愕の表情で雁夜に話し掛けた。

 

「何故そこまで正確に場所が解るの!?」

 

 驚愕するアイリスフィールを見たセイバーは素早く雁夜とアイリスフィールの間に割って入り、更に何をしたのかと問い詰めようとした。

 が、それよりも早く雁夜が告げる。

 

「サーヴァント二騎以上の分は在るか?」

 

 宛ら硬貨を投げ渡して確認しろと言っているかの如き自然さで雁夜が告げた為、気勢を殺がれたセイバーはアイリスフィールに何が起きたのかを視線で問う。

 するとアイリスフィールは雁夜を驚愕した眼で見た儘独りごちる様に答えた。

 

「他に一切影響を与えず聖杯に焼べるなんて……」

 

 アイリスフィールの言葉を聞き、雁夜達以外は驚愕した眼で雁夜を見る。

 だが雁夜は面倒臭げな表情でアイリスフィールに告げる。

 

「そんなことよりサーヴァント二騎分以上があるのかどうかを訊いているんだが?」

 

 相変わらず魔術師に正面から喧嘩を売る発言を自然体で炸裂させる雁夜。

 だが、雁夜的には先の勝負で多種多様の特殊効果を持った魔弾の対処をする方が遥かに難易度が高く、宛ら平仮名の書き取りが出来て驚いているアイリスフィール達の反応に付き合うのが馬鹿らしい雁夜は、現代の魔術師が嫌いということも相俟って雑な対応となった。

 そして若干不機嫌となった雁夜の言葉を聞いたアイリスフィールは、答えを返していないことに気付いた為、慌てて答えを返す。

 

「ああ、ご、ごめんなさい。

 ……はい、確かにサーヴァント二騎分以上の力が注がれています」

「なら此れで……いや、玉藻」

「はい」

 

 突如何か考え付いたのか、玉藻に呼び掛ける雁夜。

 それに対し玉藻は桜を抱えた儘返事を行う。

 

 何時もと雰囲気の違う玉藻が桜を抱き抱えていると一枚の絵画の様だと内心思いつつも、それを表情に微塵も見せずに雁夜は玉藻に告げる。

 

「今俺が焼べた分を除いて計四騎が焼べられる迄は、俺が焼べた分の影響が出ないように出来るか?」

「可能ですが、期間と対象損傷及び死亡時の回復の有無如何はどう成されますか?」

「期間は此れより168時間。余計なことは一切しなくていい。

 此れは単に想定外の事態によって早くに満たすことへの不満を封じる為だ。

 後、本人の意思次第で解除出来るようにしておいてくれ」

「了解致しました」

 

 アイリスフィールの意思を完全に無視して勝手に進められる雁夜と玉藻の遣り取り。

 だが、当事者のアイリスフィールとその護衛のセイバーは、少なくとも害が無いと思われる取り決めの為、特に反論せずに黙ってその取り決めを受け入れた。

 尚、一応無駄とは思いつつもアイリスフィールとセイバーは玉藻が余計なことをしないかと警戒していた。

 が、そんなアイリスフィールとセイバーの内心を無視するかの如き発言を玉藻は述べた。

 

「終わりました。

 此れで魔術師達が言うランク換算でA+++を超える干渉が無い限りは問題ありません」

「「!?」」

 

 一体何時玉藻がアイリスフィールに干渉したのか、雁夜達以外は微塵も理解出来なかった。

 だが、周囲の驚愕はそれだけで終わらなかった。

 

「序に勝負に巻き込んだマスター達に令呪を1画追加しておいてくれ」

「了解致しました」

 

 そう告げると玉藻は、先程回収した時臣の令呪を白紙化し、更にそれを5等分し、そして薄まった魔力は自前で補填した後に五名のマスターに遠隔で令呪を1画追加した。

 

 流石に普段ならば此れ程簡単に工房内に居るマスターに迄令呪の遠隔追加などは玉藻でも出来ないが、幸い雁夜と玉藻が自重せずに行動した結果冬木市内が神殿化している為、此の程度のコトは造作もなかった。

 だが、そんなことを知る由も無い他の面面達は、雁夜達以外は玉藻に今更ながら強い警戒を抱いた。

 が、当然そんなことを気にも留めない雁夜は最後とばかりに告げた。

 

「それでは話は早い方が良いだろうから、本日日付変更時に冬木教会にて御三家の代表が集まるということにするが、構わないか?」

「サーヴァントの同伴が可能ならば特に異論は在りません」

「此方の事情で召集する以上、制限なんて設けるつもりは無い。

 尤も、会談する対価に腕を寄越せ等の類なら、断る序にとりあえず全力で2~3発殴るがな」

 

 冗談で言ったならば和んだのかもしれないが、雁夜は本気で言っており、とてもではないが和む言葉ではなかった。

 しかも雁夜に殴られれば最悪サーヴァントでも挽肉になって消滅する可能性が高い為、言外に、[さっきのサービスで調子に乗るなら痛い目に合わすぞ?]、と籠められている様であり、アイリスフィールは先程雁夜が玉藻に頼んだ事柄は、単に雁夜が面倒事を回避する為に行っただけであり、間違っても自分達に引け目を感じてのコトでは無いと直感した。

 そして雁夜は自分を小市民の常識人と自称しているが、勝負の後の会話の端端に変に達観した価値観を覗かせ、更に魔術師を蛇蝎の如く嫌悪しており、その上万能と謳われる聖杯を塵の様に思っており、トドメに養子の少女の為にほぼ英霊状態のサーヴァントに単独で挑むという無茶をするという常識人からかけ離れた思考と行動力がある為、アイリスフィールだけでなくその場の玉藻達を除く全員が、迂闊に雁夜を刺激すると聖杯を破壊した挙句に参加者全員を鏖殺するかもしれない人物と少なからず思って警戒した。

 

 だが、自身がそんな風に思われているとは思いもしない雁夜は、此れで会話は終わって後は解散とばかりにアイリスフィール達から視線を切った。

 そして未だに結界が展開された儘なのを見、玉藻に視線で結界の解除を促す。

 すると玉藻は即座に頷き、先ずは自身から発せられる神気を限界迄抑え、次いで天空に輝く太陽を消して結界内を普通の夜に戻し、更に陽の光に暖められた空気や地面や建築物を元の冷え切った状態に戻し、最後に結界を全て解除した。

 

 錚錚たる顔触れが存在する以外は普通の夜の倉庫街に戻ったのを確認した雁夜は、此れにてお開きとばかりにギルガメッシュに向き直って告げる。

 

「それでは縁が在れば又逢おう」

 

 そしてそれにギルガメッシュも特に別れを惜しむ様な素振りは見せずに言葉を返す。

 

「その時はまた存分に競い合いたいものだな」

 

 その言葉に何か思う所が在ったのか、雁夜は暫し考え込んだ後、真剣な表情で言葉を返す。

 

「10年以内に……此の世界から旅立つその前に、もう一度だけ勝負をしよう」

 

 承諾を望んでいたとはいえ、まさか承諾されるとは思っていなかったギルガメッシュだったが、直ぐに不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「我に白星を渡して旅立とうとは良い心掛けだな?」

「生憎とくれてやるのは黒星だがな」

 

 負けじと不敵な笑みを浮かべながらギルガメッシュに言葉を返し、それに対しギルガメッシュは一層不敵な笑みを浮かべ、雁夜も同じく一層不敵な笑みを浮かべた。

 

 その遣り取りで挨拶は済んだとばかりに、ギルガメッシュは雁夜に背を向け歩き出す。

 そして何処かへと歩みだしたギルガメッシュだったが、ふと思い出したことを雁夜にではなく、他のマスターとサーヴァントに告げる。

 

「最早聖杯などという出涸らしに興味は無い。

 見所を示せばくれてやるが、見所を示せねば聖杯に焼べて時臣にでもくれてやるので、死に物狂いで踊って我を楽しませるがいい」

 

 そう言って夜闇に溶け消える様に歩き去るギルガメッシュだったが、完全に夜闇に消える前、つい今し方の嘲る様な声ではなく、穏やかな声音で告げた。

 

「楽しみにしているぞ」

 

 その声を最後に、ギルガメッシュは夜の街へと消えた。

 

 

 

 数秒ギルガメッシュが消えた方を見ていた雁夜だったが、直ぐに気を入れ換え、此の場を監視している教会の監視係へと言い放った。

 

「〔本日日付変更時に其方へ伺い、御三家代表の会談の場とさせてもらう。

 勝手な話だろうが、探られて痛い腹が在るか、中立を名乗る気概が在るなら素直に受けてもらう〕

 そう言っていたと伝えてくれ」

 

 雁夜がそう告げると結界の外で状況が解らず困惑していた監視係の一人が、状況は解らないが火急の事態だと判断した為、無言の儘急いでその場を去った。

 

 そして言いたいことは言った為、雁夜は日付変更迄の時間を折角桜が外に出たのだから夜の散歩と洒落こむか、それとも間桐邸に戻って三人まったりと過ごすのとどちらが良いかを考え始めた。

 だが、今迄事態を冷静に観察していたライダーが、漸く一段落したという顔をしながら雁夜に話し掛けてきた。

 

「やれやれ。これで話も一段落したようだし、漸く話が出来るな」

 

 突如自身のサーヴァントが生きた核爆弾とも言える人外に成った雁夜と、人型の天変地異とも言える玉藻に話し掛け始めた為、ウェイバーは宛ら疫病神か死神を見る眼でライダーに食って掛かった。

 

「馬ぁッ鹿ッッ!何話し掛けてんだよ!?

 ここはこの場をとっとと離れて冬木を去ってくれるのを大人しく待つのが最善だろ!?」

「そんなことしたら、勧誘出来んではないか?」

 

 ウェイバーの言葉を、[何を言っておる?]と言わんばかりの顔でとんでもない答えを返すライダー。

 そしてその言葉を聞いた瞬間、ウェイバーだけでなくセイバー陣営とランサー陣営の全てがライダーに対し、信じられない馬鹿を見る眼を向けた。

 だが、それに微塵も堪えた様子の無いライダーに、ウェイバーは更に怒声を浴びせた。

 

「今まで空気読んで黙ってたなら最後まで空気読めよ!?」

「別に空気を読んで黙っとったわけではないぞ?

 単にあの金ぴかとの勝負が始まる前、知らぬとはいえ奴の友だか未来の嫁だかを悪く言ってしまったからなぁ。

 一応侘びはしたが、それだけではなんだから、気を遣って話を邪魔せぬように黙っておったのだ」

「そんな優しさがあるなら僕にも少しは向けろよおおおおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?」

 

 ウェイバーの魂の叫びとも言える絶叫が夜の倉庫街に響き渡り、それを聞いたセイバー陣営とランサー陣営が思わず憐れみの視線をウェイバーに向けてしまう程に哀愁を誘う絶叫だったが、ライダーは気に留めた風も無く戦車から降りて雁夜達の方へと歩きだす。

 最早止められないと悟ったウェイバーは人生か運命を盛大に呪いつつも、どうせ何処に居ても瞬殺されるならせめて無けなしの意地ぐらいは最後まで張ろうと思い、死刑囚の気分でライダーの後を追った。

 そして離れていると感じなくなっていたが、近寄ると先と変わらぬ圧迫感がウェイバーを襲ったが、自棄も混じった意地で進み続け、嬉しそうな笑顔で待っているライダーの横に並んだ。

 

 自分の横にウェイバーが並ぶのを笑顔で見届けた後、ライダーは雁夜達へと向き合い、ランサー陣営と何時の間にか離れているセイバー陣営が馬鹿を見る眼で見守る中、威風堂堂と告げだす。

 

「我が名は征服王イスカンダル!

 此度の聖杯戦争に置いてはライダーのクラスにて現界した者だ。

 うぬ等とは話したいことが山程あるが、それは一先ず後だ」

 

 そう言うとライダーは雁夜を確りと見据えて告げる。

 

「間桐雁夜よ!先の勝負、真に見事であった!

 讃える言葉は幾つも沸くが、敢てこの一言に全てを籠めよう!

 …………大した男だっ!!!」

 

 言葉通りその一言に全てを籠めたのだろう。

 実際、ライダーが発したその一言には胸を熱く奮わせる不思議な力があった。

 

 だが、余程の事態が無い限りは平平凡凡日日是好日しか眼中に無い雁夜は、極一部の例外の者達を除いて戦闘関連で讃えられても全く興味は無く、ライダーの言葉を聞き流す感じで聞いていた。

 尤も、名を名乗るという礼節を守り、更に貶すのではなく心から讃えているならば邪険にするのは礼節に欠くと思った雁夜は、特に余計な口を挟まず黙って聞くことにした。

 

 そして無言で先を促されたライダーは臆す事無く用件を切り出した。

 

「時に間桐雁夜よ。余の朋友とならんか?

 そして共に疾走し、世界を制する愉悦を味わわんか?」

 

 打算無く純粋に雁夜と世界を制してみたいと告げられたライダーの言葉だったが、平和な日常こそを是とする雁夜の心には届かなかった。

 だが、破天荒な振る舞いだが礼節に則り、更に真摯な想いで告げられた言葉を気に入らないからと雑に返す様な真似をする気が無い雁夜は、最低限の礼を払い、しかしはっきりと告げる。

 

「俺は友とは成るのではなく状況が生むのだと思っている。因って友に成ろうと付き合い始める気は無い。

 そして俺は平穏な日常こそが望みだ。

 

 日日の小さな幸福の連続こそが何よりも貴いと思っている。

 地位や名誉や権力は日常が送れる程度に在ればそれより上は不要どころか邪魔だ。

 自分の世界の外が不幸や幸福で満ちていようと、俺の世界に関係無い限り、はっきり言って基本的に如何でも構わない。

 だから俺は世界に対して覇を唱える気は微塵も無く、俺が世界に唱えるのは、[俺の世界に関わるな]、徒それだけだ。

 

 だから、生憎だがその誘いは断る」

 

 邪険には扱われていないが、責務や忠義や信念ではなく、純粋に思考の方向性故に断るという、セイバーやランサーよりも芽の無い断り方をされるライダー。

 だが、初めから断られると思っていたのか、ライダーは苦笑いしながら言葉を返した。

 

「やはり駄目か。

 せめて鍛冶師にくらいは成ってほしかったのだが、こりゃあ脈は無さそうだなぁ。

 まあ、己を磨きながらこの星を征服し、そして星々の果てに進軍する時にでももう一度声を掛けるとしよう」

「その時居れば茶くらいは出そう。

 まあ、王を名乗るなら遠からず最大の難関として現れるだろうから、その時消されるだろうがな」

 

 敢えて主語を省いてそう告げる雁夜。

 尤も、ライダーを馬鹿にしてそう言っているのではなく、雁夜なりの忠告としてそう告げたのだが、それに対してライダーは不適に笑いながら言葉を返す。

 

「障害は強大であるほど血沸き肉踊るというものだ。

 それに必ずしも戦うと決まったわけではなかろう?

 案外意気投合し、余と二人でお前さんを迎えに来るかもしれんぞ?」

「……若しそんなことになったら話を受けるかどうかは別にして、何か記念品を創って二人へ贈るとするよ」

 

 それを聞いたライダーは子供の様に目を輝かせながら言葉を返す。

 

「確かに聞いたぞ!いやあ、あの金ぴかが貰ったほどの物を貰えるとなると気合が入るわい!」

「いや、あの領域のは俺の限界を超えているから、俺が自力で創れて他人に渡せるのは多分数値化出来る程度の類に限定される筈だぞ?」

「やはり何事も言うだけ言ってみるものだな!

 思わぬ収穫があったわい!」

「……聞いてねぇよ」

 

 雁夜は話を聞かずに上機嫌に頷くライダーを半眼で見つつ、もう話も終りだろうと思い、とりあえずこの場を離れて余った時間をどうするか決めようとした。

 だがその前に――――――

 

「ああ、それと玉藻の前よ。

 フリーなら余の妻とならんか?

 朋友も捨て難いが、そなたほど良い女ならば是非と妻に迎えたいからな」

 

――――――ライダーが極大の爆弾を突いて盛大に爆発させた。

 

 自身の世界の一員である玉藻を引き抜こうとしたライダーに、雁夜が敵意寸前の視線を向け、それに気付いたウェイバーは、令呪を使ってでも帰ればよかったと後悔した。

 が、その数瞬後、突如倉庫街に再び先の結界が張られた。

 更にそれとほぼ同時に玉藻から発される圧迫感がほぼゼロになった。

 だが、次の瞬間には今迄と比較にならない規模へと跳ね上がり、しかもライダーへと向けられる怒気による威嚇は龍種でも腹を晒して服従しかねないモノであり、余波を至近距離で浴びているウェイバーは竦んで身動き一つ出来ず、離れていたセイバー陣営とランサー陣営は余計な動きや干渉をすれば巻き添えを食うのは必至と判断し、彫像の様に固まった儘黙って巻き添えを食わないことを全力で願った。

 そして嘗て感じたことの無い威嚇に晒されているライダーは、少しばかり控えれば良かったと自分の行動を省み、苦笑いした。

 しかしそんなライダーの内心など知ったことかとばかりに、玉藻は先程と全く変わった様子の無い声音で告げた。

 

「まさか主様への想いを軽んじられただけでなく、主様の前でこのような辱めを受けるとは思いもしませんでした」

 

 その言葉と同時に玉藻は尾の数本を巨大な突撃槍の形を模してライダーに突き付け、更に突き付けられた尾は先の掘削剣やカリヤや鎖に劣らぬ神秘を放っており、しかも其其が熱気と冷気と電気と振動と風といった要素を規格外の域で籠められており、解き放たれれば玉藻達以外は即座に消し飛ぶとライダー達ははっきりと理解した。

 だが、そんなことは知らないとばかりに、更に玉藻は言葉を紡ぐ。

 

「しかも先の主様の勇姿を目に焼き付けているにも拘らず、主様よりも優れていると自負せん、その天井知らずの不敬。

 何人が許そうとも、天であり神であるこの私が許しません」

 

 その言葉と同時に突如現れた太陽から、大気が高電離気体化する程の熱線が玉藻達から離れた所へ暴雨の如き数と密度で連続して放たれた。

 そして放たれた熱線は悉く地を気化させて蒸気爆発を引き起こさせた。

 

 煙が晴れると底の見えない穴が地に空いており、先の一瞬で蒸発させられた地の質量を物語っていた。

 10万度どころか100万度すら軽く越えるだろ熱線の暴雨を目の当たりにし、神霊、それも最高位の神霊の格というものを知り、緊張を振り切って諦観が場に満ち始めた時――――――

 

「止めろ。激情に任せて暴れる姿を晒す気か?」

 

――――――雁夜の言葉が待ったを掛けた。

 その言葉で我を取り戻した玉藻は、自分が桜の前で激情に任せて殺処理し始めるところだったのを自覚し、雁夜と桜に頭を下げながら侘びだす。

 

「………………とんだ醜態を晒してしまい、申し訳のしようも御座いません」

 

 ライダーの発言を許してはいないものの一先ず突き付けていた尾を収め、玉藻は自身の行いを深く恥じながら雁夜と桜へと謝罪を述べた。

 そしてその言葉を受けた桜は、玉藻を慰めるように玉藻の頭を撫で、雁夜は玉藻を落ち着かせる様にその頭に手を乗せながら言葉を返す。

 

「問題のある行動とは思うが、醜態だとは思っていない。

 第一、俺なら有無を言わさず殴り飛ばしていただろうから、それに比べれば威嚇で撤回を求めていたのは大した自制心だろう」

「…………勿体無き御言葉……深謝致します」

 

 俯いた儘小さく呟く玉藻。

 

 暫し俯いていた玉藻だったが、やがて顔を上げて桜に微笑んで感謝を告げると、空笑いと苦笑いを足した表情していたライダーへと話し掛ける。

 

「失礼。少し取り乱しました」

「う、うむ」

 

 辛うじて言葉を返すライダーに、玉藻は冷静さを取り戻した瞳で答えを告げる。

 

「先の誘いに対する答えですが、断固拒否、です。

 私が愛し、尽し、仕えるのは、私の隣に居られる御方以外在り得ません。

 仮令時の果て迄誘われようと、私の答えは決して変わりません」

 

 激情の一切を抑え込み、冷静に答えを返した玉藻を見た雁夜は、これで用件が済んだと思い、此れ以上余計な厄介事が起きる前に戻った方が良いだろうと思い、夜の散歩は断念し、さっさと間桐邸に帰ることに決めた。

 

「それでは此れ以上互いに話すことは無いだろうから、此れで失礼する」

 

 簡単な別れの言葉を告げると、雁夜は玉藻に目配せをした。

 目配せをされた玉藻は雁夜の意を正確に受け取り、即座に先と同じく此の場で起きた異変の痕跡を消した。

 そして誰かが話し掛ける暇すら与えず、玉藻は雁夜達と共に間桐邸へと空間転移した。

 

 後に残ったのは、正しく神の怒りに触れて消されかけた恐怖より解放されて安堵する面面だった。

 

 

 







【桜の感想】


・雁夜
 カッコ好くて凄くスゴイ。
 大切な人。

・玉藻
 綺麗で凄くスゴイ。
 大切な人。

・ギルガメッシュ
 キラキラの王様。
 カッコ良くて凄くスゴイ。

・ライダー
 もじゃもじゃ。
 牛の人。

・ウェイバー
 泣き虫。
 変な髪。

・ランサー
 嫌な感じがする。(←愛の黒子)
 影薄い。

・ケイネス
 髪薄い。
 嫌な目で見る人。

・舞弥
 良く解らない。
 隠れてた人。

・切嗣
 隠れてた人。
 髭剃り無いの?

・セイバー
 女の人なのに男の人の真似?
 変態?

・アイリスフィール
 あの帽子テレビで見た。
 多分アレが人妻の魅力。

・アサシン
 猿みたいに座ってた。
 ばいばい。



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