疾走を開始した雁夜目掛け、200前後の武器がほぼ同時に射出された。
同時に打ち出されれば武器同士が衝突して勝手に数が減ってしまう為、ギルガメッシュの巧みな操作に因って一斉掃射を越える効率で持って雁夜に神代の武器が殺到した。
だが、サーヴァントどころか英霊の域に迄魔力放出で強化された身体能力を存分に揮い、数多の魔弾が発射された直後に姿勢を低くしつつ疾走の速度を更に上げ、回避と接近を両立させる雁夜。
回避と接近は成功し、雁夜は1秒にも満たぬ間に距離を半分近く詰めた。
そして雁夜はその儘更に速度を上げて肉薄しようとした。
が、先程の倍以上の展開範囲と、先程を越える密度で先端を覗かせる1千前後もの魔弾が、魔弾同士の激突を度外視して雁夜の行く手を阻まんと撃ち出される。
先程とは違い、物理的に前方の空間を魔弾で埋め尽くし、体勢や速度で潜り抜けるのが不可能な布陣で魔弾が雁夜に殺到した。
流石に今回の布陣を抜くことは出来ないと判断した雁夜は、即座に上方か後方か左右への回避か迎撃かの選択に迫られる。
上方に移動すれば次は斜め下方からの攻撃に晒されるので選べず、後方に移動するのは遠距離攻撃の命中精度が低く且つ次は簡単に距離を詰められない上に此の勝負で下がるなどという無様を桜と玉藻に見せるわけにはいかない為断じて選べず、左右に移動すれば倉庫か海に追い遣られて倉庫の外壁か水飛沫で次回か次次回の対処が困難になるので選べず、雁夜は結局はその場で迎撃という選択を選ぶことになった。
発射された魔弾は1千を越えるが、実際雁夜に命中するだろう魔弾は100もなかった。
だがそれでも100という数は個人が捌くにはあまりに膨大な量であった。
尤も、先程と違って着弾迄の時間差を計算せずに放たれた魔弾は、言ってしまえば凄まじく間隔の短い連弾である為、ゼルレッチの多重次元屈折現象を用いた同時攻撃の連続や同時多数発動に比べれば迎撃はまだ可能な部類で在った。
但し、雁夜は類稀どころか並の武練すら持たない存在の為、身体能力に任せて手足を振り回して弾く。
更に捌ききれないと判断した魔弾は通過する空間に適当な術式の対象にし、術式に魔力を流して自身の特性を活かして魔術を暴発させて爆発を引き起こし、爆圧で弾き散らす。
そしてそれでも捌けなかった魔弾は、着弾する寸前に噴出する魔力の一部に術式を叩き込んで爆発させ、自身は魔力の鎧で爆圧から守りつつ魔弾だけを弾き逸らした。
自身の特性に頼った面が強いものの、それでも無事に無傷で捌ききった雁夜だが、ギルガメッシュはそれがどうしたと言わんばかりに再度魔弾を装填して撃ち出してきた。
同士討ちしたり雁夜が弾いた物の中で大破した物は回収されなかったようだが、そうでない物は多少破損していても再装填されて魔弾として使用され、再び雁夜とその行く手を塞ぐべく放たれた。
再度放たれる魔弾は先程とほぼ同数であったが、一度足を止めてしまった為、雁夜の行く手を塞ぐのに充てられる魔弾の数が先程よりも減った為に先程の約3倍の量の魔弾が雁夜に殺到する。
しかし雁夜は巻き込まれるのを覚悟して自分を半球状に包み込む様に暴発した際に空間爆砕が起こる術式を展開し、術式に魔力を流し込んで迫り来る魔弾を弾きにかかる。
が、如何に空間爆砕が先程の爆発を超える範囲と威力を誇ろうとも、流石に一度の空間爆砕で全てを弾ける筈もなく、連続して空間爆砕を実行する。
そして圧倒的神秘で空間爆砕の干渉撥ね退けた魔弾は、身体能力に物を言わせて弾いて捌いた。
何とか捌ききった雁夜だったが、先程と違い少しとは言え手傷を負っており、それは先の密度と魔弾の格が続けば何時かは討ち取られるということを示していた。
そしてそれを理解しているギルガメッシュは再度先程とほぼ同数の魔弾を再装填し、雁夜へと放った。
手傷を負っていると言えどもそれは軽微であり、更に距離と前方から直線にしか放たれておらず、しかも腕を振れば叩き落せるということもあり、今の掃射を軽く600回は危な気無く捌けるだけの余裕が雁夜には有った。
が、それは終りを先延ばしにするだけであり、勝利する為には距離を詰めるか離れた距離から攻撃しなければならなかった。
そして現在魔法で生成した物質を腕と足に纏い且つ尋常で無い出力の魔力放出を行い、更に空間爆砕を連続で行っている最中にギルガメッシュの鎧を貫いてダメージを与えることは現在の雁夜の限界を超えており、魔法で生成した物質を減らすか空間爆砕の使用を減らすか威力を更に上げて今より広範囲意を迎撃出来る様にして時間を捻出する必要があり、距離を詰めるには被弾前提で弾幕に突撃しなければならず、どの道手傷を負うのは想像に難くなかった。
腕の魔法物質を消せば迎撃能力は著しく下がり、足の魔法物質を消せば地面に魔弾の展開面が展開された時に串刺しになり、空間爆砕の回数を減らせば弾かなかった魔弾が殺到し、空間爆砕の威力を強めれば広範囲の魔弾を弾ける代わりに自分も軽くない手傷を負い、距離を詰めようとすれば恐らく串刺しになる為、どうするべきか雁夜は数秒思案した。
が、その様子を見ていたギルガメッシュは不機嫌とはいかずとも愉快ではなさそうな声で雁夜に話し掛ける。
「どうした!?まさかそこで我が宝物を捌くだけで終わるというのではあるまいな!?
若しそうなら期待外れも甚だしいぞ!」
ギルガメッシュが話し掛けている間に魔弾は10回以上再装填されて発射されていたが、相変わらず雁夜は微細な傷を負うだけで捌けていた。
が、矢張り状況は全く好転しておらず、何とかして状況を打開しなければジリ貧は必至であった。
故、雁夜は多少不利益を被ろうとも状況を打開すべく手段を実行した。
「ぬっ!?」
突如何の脈絡も無く今迄の比ではない規模での空間爆砕が起こり、セイバーの聖剣に匹敵する魔弾も大きく弾かれた。
ギルガメッシュは雁夜が採るだろう選択肢を、迎撃威力を上げての時間確保か、迎撃を数瞬放棄しての時間確保か、手足の魔法物質を放棄しての攻撃手段の確保か、被弾覚悟の特攻かのどれかだと踏んでいた。
だが、今起きた空間爆砕の規模は流石に予想を超えており、アレでは稼げる時間と放てるであろう攻撃回数を比較すると明らかに割に合っておらず、自棄を起こしたのか自分が想定していた以外の選択肢が有るのかの何方かだと思い、爆発ではなく水平から上方へ向けての空間爆砕の為粉塵すら巻き起こらない為確保されている視界の先に居る雁夜を注視する。
すると――――――
「ぎぃっ!?!?」
――――――呻きと呼気が合わさった様な声を発した雁夜が、腕と足に纏わせていた魔法物質を体内に取り込んだをの見た瞬間、ギルガメッシュは瞬時に発射直前だった魔弾の狙撃箇所を自分の10メートル前方辺りという大幅な近距離へと修正して撃ち出すことにした。
狙撃箇所を大幅に修正された魔弾は誰も居ない所へ発射された筈だった。
だが、体内に有り得ない特性を有した在り得ない物質を取り込み、身体の在り様を変化させる事で異常強化を発動させた雁夜が
しかし流石にプロペラ機の限界を超える突撃速度はギルガメッシュも予想外だった為、僅かに狙撃箇所を見誤ってしまい、速度は大幅に落とせたものの完全に足を止めるには至らず、弾幕を突破されてしまう。
最早魔弾を掃射しても自身に辿り着かれるのは避けられないと判断したギルガメッシュは、[抜かせられるものなら抜かせてみよ]、とばかりに一本だけ射出せずに残して置いた剣に内心笑みを浮かべながら手を伸ばし、引き抜き様に斬りつけた。
振るわれた剣は後世に絶世の名剣と謳われるデュランダルの原典。折れず鈍らないという、剣にとって当然の命題とも言える概念を貴き幻想へと昇華させて物質化させた奇跡の剣。
対してその剣目掛けて振るわれる拳は魔法を纏っていた。無を否定するという、矛盾に満ちた常識外の法則を宿した奇跡の物質。
貴き幻想と呼ばれる奇跡の剣と、常識外の常識と呼ばれる奇跡の塊を纏った拳を、互いに躊躇する事無く叩き付け合った。
そして結果は――――――
「ぬぅっっ!?」
――――――奇跡の格と腕力の双方に置いて完全に負けていたギルガメッシュが、後世にデュランダルと名付けられる剣を砕かれながら後方へと飛ばされた。
流石に技量に置いて雁夜を圧倒的に凌ぐギルガメッシュだが、自身の腕力の倍以上の者が突進力をも上乗せした状態にも拘らず真正面から打ち合えば力負けして当然であった。
しかも一級の名剣であろうデュランダルと雖も、正真正銘科学で再現不可能な魔法の塊と打ち合えるだけの神秘は保有しておらず、圧倒的膂力と神秘の前に砕け散ってしまった。
が、剣は砕けはしたが、雁夜の突進力と腕力を所有者であるギルガメッシュに伝え、拳が直撃しない様に後方へ押し飛ばすという成果は上げていた。
後方へと押し飛ばされたギルガメッシュは、雁夜が追撃に移る迄の僅かな時間の内に再装填した魔弾を雁夜目掛けて小細工無しで掃射した。
が、雁夜は左拳に纏っていた魔法の物質を巨大団扇の様に薄く広く展開すると、殺到する魔弾を纏めて払い飛ばした。
流石に薄く広げてしまった為強度が下がったのか、雁夜の左手に繋がっている魔法物質に幾つかの薄い亀裂が発生していた。
だがそれも瞬時に修復され、更に巨大団扇の様に薄く広げていたのを拳に纏わせる様に展開し直し、再び魔弾を再装填していないギルガメッシュへと肉薄して拳を繰り出した。
しかし、星が鍛え上げたと謳われるセイバーの聖剣と同格級の
しかも後ろへ飛ばされぬ様に雁夜の拳の威力を下方向へ変換する為、剣身と切っ先を地面に対して垂直ではなく斜めに構えていた為、今回は確り地面に足が付いた状態でギルガメッシュは雁夜の攻撃を凌いだ。
そして雁夜がもう片方の拳で攻撃する前にギルガメッシュは半歩踏み込みながら剣身の腹を見せていたメロダックを捻って刃を立たせ、更に剣身へ篭手で覆われた手を沿えて上へ切り上げる支点とし、雁夜を股下から逆風に切ろうとした。
が、剣身が跳ね上がる前に雁夜は右足でメロダックを踏み付けてそれを封じ、更にメロダックを踏み抑える為半歩踏み込んだ雁夜は顔が付く程に近くなったギルガメッシュの腹部へ、鎧ごと貫くと言わんばかりのボディブローを放つが、拳が鎧に触れる直前にギルガメッシュがメロダックを離した為雁夜の踏み込んでいた足場が無くなり、結果、ギルガメッシュの眼前で転倒寸前に迄体勢を崩してしまう。
斬首されて当然と言える程の隙を晒してしまった雁夜だったが、ギルガメッシュが刀剣類を手にしていなかった為、後方へ大きく蹴り飛ばされるだけで済んだ。
ダメージを負わせることではなく距離を取ることを目的にした蹴りだった為、雁夜は殆どダメージを負わなかった。
そして雁夜は蹴り飛ばされている最中、ギルガメッシュが魔弾を射出する為、魔弾を再装填するのを見、驚愕はせずとも焦燥した。
雁夜が焦燥した理由は、ギルガメッシュの背後の魔弾の数が先程より増えていたり、超一級の物ばかりが装填されているからではなかった。
寧ろ魔弾の数や質は先程よりも大幅に下がっていた。
だが、先程と違い雁夜の上下左右前方向に、合計で先程を上回る数の魔弾が装填されていた。
背後だけは自分にも被害が行く為か、外界と隔離する様に展開することが出来ない為か、はたまた完全な背後から襲い掛かるというのが矜持に触れる為か展開はされていなかったが、最早雁夜が今迄の様な力任せで迎撃可能な限界を超えていた。
一応全力で後方へ跳躍すれば回避しながら迎撃は可能だがそれは時間稼ぎに過ぎず、何より雁夜としてはこの戦いを見守ってくれている桜に、困難に瀕したからと言って後ろに下がる姿は断じて見せたくない為、初めから後ろに下がるという選択肢は無かった。
しかし現状では後ろに下がらない限り刺殺は必至であった。
そして、[まさかコレで終わりか?]、と言わんばかりのギルガメッシュが手を抜いたりする筈もなく、装填された魔弾が雁夜へと切っ先を向け始め、今にも掃射されようとした刹那、雁夜は異常強化されて極限迄強化された思考速度で考えを巡らせた。
(どうする!?
見えない所から放たれる魔弾を特攻魔術で弾き散らすのは難しい!それに中てても弾かれずに向かって来るのも在る筈だ!
手足の魔法を上下左右に壁の様に展開しても、前方はがら空きになる!そうなったら魔弾の質と量が跳ね上がって特攻魔術と素手だけじゃ手数が足りなくて捌けなくなる!
全身を覆うように魔法物質を展開するのは手足に纏うよりも複雑に形を変えなきゃいけないから出来ない!棒立ちで構わないなら出来るが動いたり特攻魔術を使用するような余裕は一切無くなる!
況して掃射される前に特攻魔術や魔法物質を放ったところで物量の前に防がれてしまう!それ以前に移動しながら正確に中てられる程俺の遠距離攻撃の命中率は高くない!
どうするどうするどうする!?!?
現状じゃ間違い無く詰みだ!
若しどうにかしようとするなら新しい手札を得るか試したことのない手段ををやるしかない!
得られそうな新しい手札は玉藻を降臨させた際に無意識に行ったという、生命力を使い捨ての魔力供給管にしての根源からの魔力の汲み上げ!欠点は遣り方が全く解らない!
試したことの無い手段は今よりも更に魔法の物質を取り込んで身体に同化させる。欠点は魔法の物質に因る侵食を抑えきれずに完全な人外となってしまう!
はっきり言って莫大な魔力の供給もヤバイが、人外の神秘の固まりに変わったら魔術師共から付け狙われる要素が尋常じゃなく肥大化する!
とてもじゃないが傍に居る桜ちゃんが付け狙われないとは思えない!……いや、落ち着け。落ち着け俺。そもそも前提が間違っている。
俺が傍に居るから桜ちゃんが狙われるんだ。
だったら俺が離れれば桜ちゃんは然して危険じゃない筈だ。
爺さんや蒼崎も魔法使いだけど、縁者を人質にして接触しようとする阿呆はいないし聞いたこともない。
と言うか、人質を取っても相手にそのことを伝える手段が無いのだから、人質を取るだけ徒労となる。
確かにそれでも桜ちゃんを人質にしようとする馬鹿が涌く可能性は否定出来ないが、桜ちゃんひとりならば俺が傍に居る時とは比較にならない程狙われる可能性は減るだろう。
ならば、桜ちゃんが独り立ちする時に俺が雲隠れすれば問題は殆ど無い筈だ。
まあ、その場合あまり長く一緒に居ると情が移り過ぎたと思われて人質にされる可能性が徒に高まるから、義憤で動いていると納得させられる期間しか一緒に居られないけど、それは仕方ない。
桜ちゃんや玉藻に話もせずに勝手なことをするのは心苦しいけれど、俺は桜ちゃんが俺と一緒に居る期間が少し減ったとしても、人並みだけど何よりも大切な日常と幸福を得られる機会には代えられないと思っている。
まあ、魔術に関わるから完全に人並みとはいかないけれど、それでも陽の光の下で笑って幸せを謳歌することは出来ると思う。
そしてその未来を求めて時臣と対峙しようとしてくれたんだ。
絶対に無様は晒せない。
というか勝ち負けなんか初めからどうでもいい。
ただ、困難に対しても挑むという姿にほんの少しでもいいから何かを感じ、今よりももっと勇気を振り絞ってくれるなら本当に勝ち負けはどうでもいい。
尤も玉藻なら勝ってほしいと言うんだろうが、不意を突いて勝っても桜ちゃんは不安な儘だろうから、俺としては勝つことに対してはそこまで拘りは無い。
だけど、信頼に応える為にも全身全霊で挑む。
我が身可愛さで躊躇したりしない。
人外に成るからといっても、……穏やかな日常を送れなくなるとしても、全力を振り絞っていないのに勝負を終わらせられずに続いているなら、さっさと全力を振り絞って終わらせる!
それに人外になった代わりに桜ちゃんの力になれた上に玉藻の信頼に応えることが出来るなら安い買い物だ!
俺のその後のコトなんて知らん!
よし!
そうと決めたら早速行動だ!
もう殆どの魔弾の照準は合わせは終わってるだろうから、直ぐにでも掃射されてしまう)
恐らくコンマ何秒か後には上下左右前方に展開されている魔弾が掃射されるだろうにも拘らず、雁夜は一切気負う事無く体内に直接奇跡と呼べる物質を生成した。
後戻り出来ない選択を選んでいるにも拘らず、雁夜に躊躇や恐怖は全く無かった。
それは桜や玉藻を想っているからなのか、それとも雁夜という存在が魔法を十全に操ることに特化した存在故に起きるだろう変化を本質的に害悪と認識していないのかは定かではないが、呼吸をする様な気楽さと、今迄の生成速度とは比較にならない程の速さで奇跡と呼ばれる物質は生成された。
そして雁夜に変革が起こり始めた時、魔弾は掃射された。
迫る魔弾が僅かな間とはいえ雁夜をギルガメッシュから隠し、後数瞬で雁夜に魔弾が着弾するに迫った時に雁夜の変革はあっさりと終った。
そして既に視界を埋め尽くす迄に至った魔弾を全て弾き散らした。
弾き散らされた際に幾つもの魔弾が砕け、更に幾つかの魔弾は特性や属性の為、砕けた瞬間に内包していた魔力を炸薬代わりにして爆発を引き起こした。
だが、魔弾全てを対処したであろうにも拘らず、立ち込める砂塵の中から雁夜が出てこなかった。
そしてそれを不審に思ったギルガメッシュは、宝具の掃射を一旦中断し、砂塵の奥を睨みやった。
緩やかに晴れていく砂塵の中心に、血を僅かたりとも流していない雁夜が静かに佇んでいた。
宝具の炸裂で一時的に感じ取れなかったが、今は纏う魔力や神秘だけでなく、格そのものが昇華したのをギルガメッシュははっきりと感じ取った。
此処に雁夜の変革は成された。
生成された奇跡の物質は周囲の物資に同化するとも侵食するとも取れる様に消え、そして奇跡に触れた物質の特性や格が凄まじい勢いで上昇し、雁夜の深層意識の抑制を完全に振り切り、雁夜を精霊の域迄一気に押し上げた。
更に存在が昇格した際、動物が産まれた直後から立てる様に、雁夜は極自然に自身の生命力を使い捨ての供給管にして根源へ繋げる方法を理解した。
その上、自身の技量の無さを手数で補おうとした結果、背より肘から指先迄程の長さの八本の棒が飛び出し、更に棒の先端から、触手とも蛇とも取れる様なモノが生えており、全体的に見ると蜘蛛の脚にも見える一本一本が先程迄雁夜が手足に纏わせていた魔法の物質の軽く10倍以上の量が有り、しかも宿す神秘が格段に上昇しただけでなく、一流の魔術師数十人分以上の魔力が内外に存在していた。
単純な物理干渉で傷を負うことは無く、神秘も一級のモノでなければ無効化し、寿命や老化という概念からすら解き放たれた存在であり、完全にヒトとしての領域から外れていた。
しかも蜘蛛の脚の様なモノ一本一本が最早規格外の宝具とも言うべき物であり、内包及び外装の魔力の量から推測する限り、魔法という神秘を抜きにしても構成に費やされている魔力を解き放つだけでもA+++以上の宝具に相当するだろうことは想像に難くなかった。
静かに佇みながらも雁夜は静かに全身の調子を確認し、殆どの機能がヒトから完全に逸脱しているのを静かに受け入れた。
ただ、精神だけは未だに人間の儘であるが、それだけでも残って良かったと思いながら雁夜は静かにギルガメッシュへと話し掛ける。
「随分待たせてすまなかったな。
此処からは全身全霊で挑む」
その言葉と同時に雁夜の身体に魔力が満ち、魔力放出による擬似強化ではなく、身体が魔力を糧に強化するといった人外の所業が起こる。
そしてそれをギルガメッシュは楽しそうに見ながら言葉を返す。
「構わん。我も漸く慢心が抜けたところだ。
これから存分に英雄達の王たる力を見せてやろう。
故、確と魂に刻み……」
上機嫌に告げていたギルガメッシュだったが唐突に言葉を切って黙り込んだ。
が、数秒の後に凄まじい怒気を撒き散らしながら怒声を張り上げた。
「弁えろ時臣!
王たる我が勝負を投げ捨て退けだと!!?
王に対してその妄言、刎頚に値するぞ!!!」
ギルガメッシュの怒声から察するに、どうやら時臣がこれ以上の戦闘を良しとせず、令呪を用いて撤退を促したようだった。
だが当然それを聞き入れるギルガメッシュではなく、身体に令呪の強制を示す魔力が纏わり付いていたが、圧倒的対魔力で以って令呪に対して抗っていた。
そして令呪に抗っている隙に令呪を肩代わりさせる様な物を取り出そうとしていたが、それより早く雁夜が虚空へ向かって語り掛ける。
「令呪の縛りを消してくれ」
気負う事無く雁夜が言った直後、殆ど瞬間的にギルガメッシュを戒めていた令呪の縛りは霧散して消えた。
急に消えた令呪の縛りにギルガメッシュは少なからず驚いた表情をしていたが、今の現象を見ていたギルガメッシュと雁夜達以外は驚愕していた。
恐らく間桐邸に居るだろうアウト・キャストが、遠隔で他のサーヴァントの令呪の効果を容易く消し去ったのだから、下された令呪の命令内容すら書き換えられるどころか、最悪、他者の令呪を無理矢理使用可能な可能性に思い至り、殆どのマスターとサーヴァントの背筋に冷たいものが走った。
だが、雁夜はそれを無視してギルガメッシュに告げる。
「装備品を勝負以外で消耗させたら対等な勝負じゃなくなるからな。
こっちで令呪は消させてもらった。
ああ、念の為に言っとくが、やったのは俺じゃないから消耗は無い」
「余計な真似をと言いたいところだが、時臣の驚いた間抜けな声を聞けたので、それはそれで良かろう」
「気分を害さず何よりだ」
そう言うと互いに軽く眼を瞑り、意識を再び先の状態へと戻してゆく。
そして素早く意識を先の状態に戻した雁夜とギルガメッシュは、仕切り直しとばかりに声を上げた。
「盛大に道を踏み外した愚か者相手で悪いが、最後迄付き合ってもらう!」
「来るがいい、無謬の道化師よ!
真の王の力を存分に知るがいい!」
言い終えると同時に雁夜は突撃を開始し、ギルガメッシュは宝具の掃射を開始した。
幾つかの補足
【何故雁夜がギルガメッシュと戦えるのか?】
これは単純にギルガメッシュが宝具の掃射という物量任せで挑んだ為、身体能力任せの雁夜でも何とか対応出来たというだけのことです。
特攻魔術のランクはA+++なので、常時解放型の特殊宝具でもなければ直撃しなくても大抵は弾き飛ばせますし、魔法は当然EXなので余程の事が無い限り神秘負けすることはありませんので、基本的に直進しかしない王の財宝は可也雁夜にとって相性が良かったのが理由です。
尚、アニメ版で通り過ぎたのが弧を描いて戻ったりする場面がありましたが、雁夜は射線の見極めが相当甘い為、中らない物も悉く叩き落したり弾き飛ばしたりしており、結果ブーメラン攻撃が起こらなかっただけです。
因みに特効魔術は魔術と名が付いていますが、実際には魔術基盤へ魔法混じりの魔力を叩き込んで魔術基盤を誤作動させて最高位階級魔術を暴発顕現させているだけで、仮にソロモンが魔術基盤を好き勝手弄ったとしても、特効魔術は魔術基盤が正常に作動した末の魔術ではないので、魔法の混じった魔力という質の問題を可決しない限り特効魔術は問題無く発現します。
なんなら雁夜を魔術基盤から切り離しても、大量の魔力が魔術基盤という逃げ場に出鱈目に流れ込み魔術基盤自体にも被害を与える可能性が在ります。
尚、玉藻は当然気付いていますが、別に自分も雁夜も困らないですし、伝える様な事でもないと放置しています(ZERO編終了後は完璧に自前で再現可能となっていますが、面倒なので魔術基盤が在る時はそちらを利用してます(スマホで情報入力するのと専用スパコンで情報を入力するような違いです))。
実は魔法を獲得したことで魔術師と言うか魔術基盤を扱う者としては永遠の半人前が宿命付けられましたが、魔術基盤を破壊する事にかけては人類発祥存在の中では最高位だったりします。が、矢張りそのことを本人は知りませんし、玉藻も割と如何でもいい事と捉えて態態告げてませんが、桜が魔術を習う時何気無くぽろっと言うと思います。
【異常強化及び魔力放出時の雁夜のパラメーターとギルガメッシュのパラメーター】
雁夜 ギルガメッシュ
・筋力:A5+・魔力:A5+ ┃ ・筋力:A++・魔力:A+
・耐久:A ・幸運:EX ┃ ・耐久:A+ ・幸運:EX
・敏捷:A5+・宝具:-- ┃ ・敏捷:A+ ・宝具:EX
雁夜の耐久が上昇どころか減少している理由は、雁夜が深層意識で人外になるのを拒み、変革に抗って至った直後に身体を回帰させようとして身体に負担を掛けている為ランクダウンしています。
【雁夜の技術力量】
はっきり言ってステイナイトの藤姉にも届いていません。
それどころか綾子に届いているかも怪しいです。
ただ、異常強化された思考速度と身体能力で技術の差を誤魔化しているだけです。