MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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009話

ウォーゲームの参加資格テストの翌日、遂に始まろうとしているチェスの駒との戦争。既にメルのメンバー全員は準備が出来ており今か今かと戦いの時を待っていた。そしてメルの前へと姿を現すウォーゲームの進行役兼ジャッジをするポズン。

 

「夕べは良く眠れましたか?」

「ああぐっすりだ!」

「久しぶりにふかふかのベットで眠れたっす!」

「それは良かった、ではウォーゲームのルールを説明いたします」

 

1.2つのサイコロの目の数でフィールドと人数を決める。この際、各チームで参加者を決めるが指定人数より少なくても構わない。その場合は勝利した誰かが足りない人数分戦う。

 

2.参加者が各チーム1人ずつ戦う。最終的にチームごとの勝者数を比べて、チームの勝敗を決める(団体戦)

 

3.負けたチームに所属している上に、個人で敗れた者は以後のウォーゲームへの参加資格を失ってしまう。負けたチームに所属していても、個人で勝利していれば以後のウォーゲームにも参加可能である。

 

4.ここまでの団体戦を、全ての参加者が参加資格を失うか、キャプテンが個人戦で敗北するまで、繰り返し行う。

 

「以上がルールとなります、何かご質問はございますか?」

「否無い、さっさと始めてくれ」

「キャプテンは決めて御座いますか?例外としてチームの勝利数が多くても、キャプテンが負けてしまえば、"ウォーゲーム"は終了となるので注意して下さい」

「それなら決まってるぜ!俺だ!!」

「お名前を」

「ギンタだ!」

 

メル:キャプテン ギンタとメモするポズン、決定前はアルヴィスやジークが候補に挙がっていたがメルを事実上引っ張っているのはギンタという事でギンタに決定した。

 

「ではまずレギンレイヴ姫!」

 

ポズンがそう声を上げると城のバルコニーにこの城を治めている姫が現れそこから二つのサイコロを投げる。落とされて赤と青のサイコロ、地面に落ち数回回転した後停止した賽の目。示された数字は3と4。

 

「決まりました、まず最初のサイコロで人数は3人と決定。そして戦いの地はこのレギンレイヴフィールド!!」

 

大声を上げると城の一部の地面が大きく割れていく、其処からせり上がって来たのは石造りの競技台、その上で戦えという事なのだろう。そして暗い影から対戦相手と思われる4人組が現れる。筋肉隆々の大男に仮面をつけた男、大きな鉄球が付いた棒を担いでいる女。

 

「あの方々がチェス第一のチーム"ロドキンファミリー"です。ではそちらから選出される3人をお決めください」

「じゃあまずキャプテンの俺が!」

「俺が出るか?様子見程度なら適任だろう」

「ジーくんが出るなら私もー!」

「それじゃあ私も!」

「嫌々おいらが行くっすよ!」

「ここは自分の力を見せてやってもええで?」

「いや俺が行こう」

 

なんだかんだで全員出る気満々なメル一行、このままでは埒が明かないのでメモに使っている紙を破き細いくじにして3つの紙の先を赤く塗るジーク。

 

「このままでは決まらんな。即席ですまないがくじを作った、これで決めよう」

「おおっ!ナイスアイディアジーク!!」

「んじゃさっさと選んでひくっすよ!!」

「せぇの!おりゃ!!」

 

全員がそれぞれくじを持ち一気に引き抜く、そして赤くなったくじを引く事が出来たのは………

 

「やったぁ当たりだ!!」

「おいらも当たりっすよギンタ!」

「おお頑張ろうぜジャック!!」

 

まずはギンタとジャックが決定、そして残りの一名はというと……

 

「最後の一人誰や?自分は外れやったわ」

「私じゃないよ」

「私も違うわ」

「俺もだっと言う事は」

「俺、のようだな」

 

残った最後のくじ、それを持っていたジークが最後のメンバーのようだ。

 

メル選出メンバー:ギンタ、ジャック、ジーク。このメンバーに決まり早速台に上がろうとするギンタを制止するジーク。

 

「まあ待て、いきなりキャプテンが出るのも味気が無い。それにもしもお前が一番最初に負けては元も子もない」

「むぅ……一理あるな」

「一理所ではないわ、少し落ち着かんかギンタ。ではジーク、おぬしが行くのか?」

「ええミスター、ギンタいいな」

「……ああ!やっぱりキャプテンって最後に出た方が様になるもんな!」

 

キャプテンの了承も得た所で競技台へと上がるジーク、それを確認したかのようにチェスの駒からは仮面をつけた男が台へと上がってきた。仮面の下から覗かせている瞳は妙にぎらついている。

 

「それではロドキンファミリー、レノ!そしてメル、ジーク!!」

 

遂に始まる戦い、落ち着くはらっているジークに周囲からは不安の声が漏れている。

 

「おいあのジークという奴大丈夫なのかなぁ」

「さぁな……諦めちまってるのかな」

「鎧とか剣付けてるけど……ARM持ってねぇのか?」

 

ARMを基本とする戦いでウェポンARMではない剣を使用すると思われる風貌に不安と諦めの声がする。だがそんな声などジーク自身もメルのメンバーも気になどしていなかった。特にギンタとスノウは酷く落ち着いていた。

 

「ギンタ、ジークのあの剣はARMなのか?常にウェポンARMを発動させているなど聞いた事がないが」

「いやあれはARMじゃないらしいぞ?」

「な、何だって!?」

 

明らかに通常の武器を超越するような魔力を放っているのにも拘らずあれはARMではないと言われ驚愕するアルヴィス。

 

「魔剣って奴らしいぞジークの剣は」

「魔剣………?」

「うん、ジークさんの剣は普通のARMとは全く違う。でもそれでもガーディアンARMを両断出来るだけの力を秘めてる。大丈夫だよ!」

 

スノウの言葉を聞いてジークを見るアルヴィス、背中に鎧を纏わずARMとは全く違う剣を持つ剣士。一体どれほどの男なのか興味を抱く。

 

「おい色男さんよぉ、降参するなら今のうちだぜ?どうせ俺に負けちまうんだからよぉ」

「獲物を前に舌なめずりか、ド三流も良い所だな」

「ん、んだとぉ!?」

「さっさと来てみろ、俺を殺せるだけの力を持っているならな」

「上等じゃねぇか…ウェポンARM、フレイムソード!!!」

 

指輪型の待機状態のARMが変化しジャマダハル状の剣となり輝きを見せる、それを見てバルムンクを抜くジーク。あたかも拳で殴りつけるように腕を真っ直ぐ振りぬいてくる相手に合わせるように剣を振るう、激しい音を響かせながら戦闘を開始するレノとジーク。

 

「そらそらそらっ!!ARMでもねぇ剣で俺に勝とうなんてふざけた野郎だぜ!!」

「そのふざけた奴を直ぐに殺せないお前は何になるんだろうな」

「う、うるせえ!!」

 

一見はレノが圧倒的な手数と勢いで優勢に見える、観客たちは早くも絶望の言葉を口にしているが実際は相手の力を逃し最低限の動きのみで攻撃を無意味と化しているジーク。アルヴィスはその無駄が無く相手が気づかないレベルに繊細な動きに驚きを隠せなかった。そして次第焦りの色が見えてくるレノ。

 

「(如何して、如何してだ!?なんで俺が押している、それなのに!!如何して押し切れねぇ!!?)」

「随分を汗をかいているな、疲れてきたか」

「この野郎!!こいつを食らえ!ネイチャーARM、ファイアボール!こいつでも食らいやがれ!!」

 

レノの周囲に浮かび上がる火の玉、それを操りジークへと向かわせる。簡単に回避は可能な火の玉、だがジークは足を止めそれを真正面から受けた、身体は炎に包まれ轟々と燃え始めている。

 

「ははははっ!!ざまぁみやがれ!!これで俺の勝ちだぁ!!!」

 

完全に勝利を確信したレノ、高笑いを続けるがジークが一行に倒れない事に少しの疑問を感じていた。そしてその疑問は驚愕に変わる事になる。

 

「温い火だな」

「!?」

 

確かに耳を劈いた声、それはジークの声そのもの。大急ぎで振りぬくと其処にはまるで埃を払うような仕草で身体に付いた火を消しているジークの姿があった。

 

「身体の前面しか燃えていないのに勝利を確信とは、目出度い物だな」

「そ、そんなぁ……な、なんで平気なんだぁ?!」

「さてね、避ける事は容易いが仲間達に当たってしまっては申し訳無いのでね。ワザと受けさせてもらった」

 

ワザと受けた、その言葉のインパクトは十分すぎる物だった。つまりこの男にとってあの程度の攻撃など攻撃の内にも入らず避けるにも値しないという事になる。

 

「さてと、そろそろ終わらせよう。祝賀会の仕込があるのでね」

「な、何ぉう!!?ふざけんじゃねっ!!!!???」

 

―――呼吸が止まる。肺が空気を取り込めない。何故。腹部に突き刺さったジークの拳による物だ、ぱくぱくと開閉する口。彼の肺は空気を求めているだろうが呼吸活動は少しの間正常に行う事は出来ない、それ程に重く鋭い一撃。地面に蹲り空気を求めて這い回るレノを持ち上げ競技台の上から放り投げるジーク。

 

「レ、レノ!?だ、大丈夫!!?お、落ち着いてゆっくり呼吸をして!!!」

「落ち着くんだレノ、しっかりしろっ……!」

 

仲間っというよりもファミリーと言われていた所を見ると本当の家族なのだろう。家族の見た事の無いような苦しみ方を見て心配する二人を放置して背を向けるジーク。

 

「コールを頼む、既に奴は戦えないだろう」

「………はっははい!!勝負あり!!メル、ジークの勝利!!!」

 

一瞬の静寂の後湧き上がる城、たったの一撃で勝利を収めたジークに観衆はどよめきながら歓喜の声を上げる。

 

「つ、強い………(攻撃の瞬間、魔力が凄まじく上昇していた……)」

「ほら見ろジークは強いんだぜ!!」

「そ、そうだな……」

「ほえええ……あいつあんなに強かったんだ…」

 

ジークの予想以上の強さにアルヴィスは自分と行動を共にしている妖精の少女(ベル)と共に驚いていた。

 

「さっすがわしの第三家来じゃわい!!良くぞやったぞジーク!」

「有難うミスター、これでいいだろうギンタ?」

「ああ、でも信じてたから心配してなかったけどな!」

「私もだよ!」

 

共に修練の門で修行したギンタとスノウは勝利を疑ったおらず彼を信じていた、彼の実力そして魔剣の力を身を持って知っているからだ。二人に礼を言おうとしたその時

 

「ジィィイイイくぅぅうううん!!!」

「どわぁあああ!!!??」

 

横からドロシーのタックルのような抱きつきを食らって吹き飛ぶジーク。

 

「とってもカッコ良かったよ~♪チュッチュ~♪」

「だあああああ気持ちは嬉しいけど止めろってドロシー!!」

「やぁあだもぉおおん♪」

「如何してこうなったぁあああああああ!!!!??勝ったのに嬉しくねぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」

「もう照れないでよぉ~~!!!」

 

 

 

 

「―――へぇ、あの彼やるじゃないか。フフフ、彼の成長も楽しみだね。ギンタと同じ位に」

 

暗闇に包まれた中、一人の男がジークの戦いぶりを見ながら期待に笑みを浮かべながら今後の彼の成長を楽しみにする中一つの視線がジークを凝視していた。

 

―――ジーク、竜殺しの英雄………ジーク、フリード………欲しい……。


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