MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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007話

「本当にすまんかったのぉ、自分怪我ないんか?あの絨毯の下敷きになっとったさかい心配や」

「問題は無い、元来丈夫な身でな」

 

ジークと向かい合う金髪の男、男の名はナナシ。盗賊ギルドのリーダーを務める男、ルベリアはチェスの駒と敵対しており彼らの仲間も次々とチェスにやられているらしい。メルの一行は彼らの砦で情報を聞く事になり今、この世界(メルヘヴン)が置かれている状況を教えてくれた。

 

チェスの駒によって既に半数以上の国や集落は崩壊し多くの命が奪われている、それだけでも衝撃的な事実だというのにルベリアの同氏達の墓まで見せられたギンタは怒りを露にしチェスを絶対と倒すと誓った。そして今ジークはメルのリーダー格としてナナシと言葉を交わしている。

 

「しかし、俺達が修練の門の中に入ってる間に其処までの規模での活動が……」

「奴らの動きは早い上に残忍や、如何にかして奴らの尻尾を掴みたいんやけど」

「掴んだ情報は襲撃後のものばかり、か」

「当たり」

 

肩を竦めるナナシ、様々な場を襲撃しているのにも拘らず足取りを掴む事が難しい。かなり高度なディメンションARMを使用していると考えていいのだろう。これからの行動の方針を考えていると盗賊の一人が慌てた様子でナナシに駆け寄ってくる。

 

「ヒルド大陸の北西ヴェストリだ!まだ暴れているらしい……!」

「地底湖のヴェストリ、行った事あるからアンダータの範囲内やな。どやメル、自分を連れてってみいひんか?一瞬で連れてったる」

「何故俺に聞く」

「あんさんがメルのリーダーだと思うたからや、一番確りしてそうやから」

 

まあ確かに人間の状態ではないエドを含めずに考えるのであれば自分が一番年長者だろう。っと言ってもジークは生前の年齢で考えても20なのだが、それでもこの集団では一番の年上だ。

 

「………頼む、ナナシ。異論無いな皆」

「無い、寧ろ心強いぜ!」

「盗賊が仲間って居るのはす、少し不安すっけどジークさんが言うならおいらは文句無いですよ」

「私もです、これで7人目ですもん!」

「私ジーくんに従っちゃいま~す♪」

「私もいい判断だと思います、ジーク殿」

「との事だ。早速頼むぞナナシ」

「おっしゃ任せとき!ディメンションARM アンダータ発動」

 

メルへの加入を決めたナナシは指に嵌めている指輪型のARMアンダータを起動、光が灯って行きそれは徐々に大きく激しくなっていく。

 

「このメンバーを、ヴェストリへ!!」

 

行き先を告げると光が周囲を取り込みメルのメンバーとナナシを異空間を通じて一瞬で目的地であるヴェストリの村へと送り届ける。ナナシ曰くその町は水と緑で豊かな村だったらしいだが目の前で待っていたのは残酷な光景だった。

 

「っ!!!」

「ひ、酷い……」

 

倒壊した家屋、未だに上がる火の手、怪我をし絶望に打ちひしがれる人達だった。豊かで平和だった村の姿など、影の形も残っていなかった。唯の廃墟と化している、これがチェスのやり方。それに強い怒りを感じるギンタとジーク。

 

「こ、これがチェスのやり方……」

「あ、あんた達何しにきなすった……?」

 

そんな街の参上を目の前にしているメルたちの前に村人と思しき三人の男がやってくる、その表情には疲れと絶望が浮かんでいる。男曰く3人のチェスの駒が襲撃してきたらしい、一人は既に去ったが残った二人は地底湖へと向かったらしい。

 

「もう、この村は、終わりだ……」

「諦めるなって!!諦めちゃったらもう終わりなんだぞ!?」

「駄目だよ……例え直しても、また壊される………」

 

必死に励ましの言葉を掛けるギンタだが既に折れてしまっている男の心、幾ら言葉を掛けようが自ら立ち直ろうとしない限りその言葉は風となって過ぎ去るばかりだ。

 

「ならここで死ぬのか」

「えっ………?」

「それもいいだろう、それも選択の一つだ」

 

村を見回しながらそう呟くジーク。

 

「ジークお前!」

「黙っていろギンタ、だが唯死を待つなら、最後まで足掻いて死ね」

「足掻いて……」

「そうだ、生き物は結局は最後は死ぬ、生まれ出でて死ぬ。それは生命のルールでもある、何もせずに死ぬなど唯のゴミだ」

「で、でも……」

 

ジークの叱咤、厳しい言葉だがその本質は彼らの心に届いている。生きろと、そう言っている。

 

「ギンタ、行くんだろチェスの討伐へ」

「ああ行くっ!!」

「ほな自分も着いていくでギンタ」

「私もそっちも回るよ」

「よし、スノウとエドは村人の傷の手当だ。ジャック、直ぐに成長する植物を育ててくれ、皆に食わせる」

「「了解!!」」

 

彼らの心は立ち上がりつつある、先程まで絶対にもう助からない、死ぬしかないと思っていた彼らの言葉にも迷いが出始めている。後は切っ掛けがあれば彼らは変われる。

 

「ドロシー、気をつけろよ」

「うん、解ってるよジーくん」

 

ギンタ達を見送った後、ジークはスノウの手伝いとして重傷者に手を貸しスノウの前まで連れて行きホーリーARM 癒しの天使によって治療を開始させた。精神的な弱さは身体の怪我によって引き起こされる。怪我が無くなれば少しは前向きに物事が考えられるようになる。

 

「アースウェイヴ!!」

 

村の端ではジャックが土を耕し、そこに特製の豆を植えさせている。豆を蒔いている村人の顔は明るい、どうやら立ち直り始めている。いい傾向だと思ったその時、強い魔力を感じ取るジーク。

 

「(……そう遠くない距離にかなりの魔力を持った奴が居るな。話であった去った一人か………)」

「ジ、ジークさんこの魔力……!」

「ああ、治療を続けてくれ。俺が何とかする」

 

ウィングを発動し飛翔し魔力の方向へと急行する、いま再び村が襲撃されれば完全に村人の心は折れる。そんな事はさせる訳には行かない、村から約2キロの地点で一人の男を見つけた。酷く筋肉質で腕、足の関節にARMと思しき鉄の輪を装備している。そして、その耳にチェスの駒である"ビショップ"を模したピアス。

 

「おい止まれ、チェスの駒」

 

チェスの駒の人間は明らか。

 

「何だぁきさまぁっ~?俺はこの先の………そうか、俺が感じた強い魔力はお前が源か」

「チェスの駒、俺に何かようか」

「おうよ、お前の全て―――くれよ」

「っ!!」

 

刹那、引き抜かれたバルムンクが迫る男の腕を止めた。その腕の表面は細かい、微小な歯がびっしりと生えており大根おろし機を連想させる。だがそれ以上にこの男の腕の硬度と力が尋常ではない。ステータスを見てみる。

 

【対象】:『グリール』

【種族】:『人間』

【属性】:『混沌・悪』

【精神状態】:興奮

【ステータス】 筋力C 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運E

 

筋力Cという自分を上回るほどの力を有している、そして魔力も高い。恐らくその魔力を使い筋力増強系のARMを多数使用しているのだろう。

 

「ほう、俺様の力でも折れない剣とは。気に入ったぜ、それも貰うぜ」

「誰がやるか、この野郎!!」

 

腕を弾き飛ばし蹴りをデイルの腹へと決める、だが手応えは異常なほどに固い。足を思いっきり殴られるがそれを受けたまま足を押し込むように更に蹴り付けて距離を取る。

 

「ほう、テメェの身体頑強だな。欲しいな、その頑丈さ……」

「欲しいしか言ってねぇなこいつ……お前だって十分頑丈だろうが」

「クッフッフフフこいつはこれのお陰だ」

 

そう言いながら肩に装備している輪のARMを示すグリール。

 

「こいつはウェポンARM シャークアーマー。全身を鮫のような歯の刃で包む事が出来るんだよ」

「成程、それで硬いのか……そして筋力増強系のARM、近接戦闘などこの以上に恐ろしい相手は居ないだろうな」

 

全身を覆う刃の鎧、生身で触れれば切り刻まれ。そして尋常ではない怪力で殴られると同時に刃の鎧が身体を切り裂く。恐ろしい限りだ、だが

 

「俺は負けないがな」

 

抑えていた魔力を開放、全力で魔力を放出しバルムンクへと注ぎ込んでいく。グリールも尋常ではない魔力の放出とそれが剣にどんどん吸い込まれていくという異様な光景に後ずさりする。彼自身ビショップになって其れなりに長いがここまで魔力を武器に集中させた光景はいまだ見た事がない。

 

「ガ、ガーディアンでもないのにそんな量の魔力、ARMが持たない筈……!!」

「砕け、抉れ……グラム・フリード!!」

 

最大限の魔力を収束させたバルムンクの一閃、それはグリールの刃の鎧を通り抜けながら振るわれた。グリールは思わず目を閉じたが何時までも襲ってこない痛みに目を開くが身体に異常は無かった。唯、目の前のジークは剣を納めてウィングを展開し去ろうとしていた。

 

「おい貴様待て!!逃げる気かあ!!」

「すまないが―――もう、終わっている」

「はぁ?なにをばかっ―――」

 

其処で彼の言葉は途切れた。何故なら言葉を発せられなかった、そして視界が回転し自分の身体を見ている。何故、どうして自分の身体を正面から見られる?そして気づいてしまった、自分の首が身体から落ちて転がっている事に……。そして次の瞬間、身体中から夥しい量の血液が噴出し完全に絶命した。

 

「竜殺し、その名は伊達ではないのでね」


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