MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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メリクリ編

男は家路を急いでいた。季節は冬だが急な大雪に見舞われるとは思いもしていなかった。貫くような寒さが身体を貫いていく、身体を震わせながら首に巻いているマフラーに深く顔を埋めて足を急がせる。

 

「……こういう時だけは自分の特権を恨むな………」

 

男はとある事情で暖かい防寒着を着用する事が出来ず手袋やマフラーだけで寒さを凌いでいたが十分すぎるほど寒い。今だ身体の体温が保たれて普通に身体が動く事にも疑問を覚えながら自らを恨む。常人の常識内の範疇から完全に抜き出てしまった肉体、精神を持った男は溜息を付いた。白くなった息は昇って雪に紛れていくのを見て再び家路へと急いだ。

 

「ぁぁ………寒いな」

 

 

「ふふふふ~ん♪」

 

鼻歌交じりにキッチンで踊るような足取りで調理を続ける女性が一人。今日は久しぶりに夫である人が帰ってこられる日だからだ。忙しい性分である彼は忙しい時は仕事場に泊まりこむ必要があり中々帰ってこれない日が多い。

 

「もうっ少し♪」

 

今日はそんな帰ってこれる彼を労う為に特別な料理を山ほど作ってある、今日は二人で食卓を囲んで食事をしゆっくりとするという入念な計画が彼女の頭の中では作られていた。そして出来上がって最後の料理をテーブルの上に運ぶ。

 

「これでよし!ARMで温度管理も万全だし何時帰ってきても大丈夫ね!」

 

例えどれだけ遅くなっても待つ気持ちではあるが愛しの彼には出来るだけ早い会いたいと思う、それが乙女心という物だろう。そんな時に玄関の扉の鍵が回り開かれる音がした。花が咲き誇ったような笑みを浮かべながらエプロンを外して走り出す。目指すは玄関。廊下への扉を開き廊下を行くと玄関には……愛しの彼が立っていた………身体に雪を積もらせて。

 

「おかえりーって大丈夫!?凄い雪まみれ!?」

「………認めたくない物だな……自分自身の、無敵性ゆえの過ちというのは……これで42回目だ………」

「どれだけ自分の事恨んでるの!?と、兎に角雪を落として中に入って!冷えた体を温めなきゃ!!」

「す、すまないドロシー……」

「謝らなくていいから早く入ってジーくん!!」

 

 

「あ"~……凍死しそうなのに出来ずに永遠と身体が動かせる感覚なんてもう味わいたくない……」

「本当にお疲れ様……暖まった?」

「おかげ様でね」

 

漸く帰ってこれた夫であるジークは身体に降り積もった雪を落とし暖炉で暖をとり漸く体温を平常時に戻し終わった。妻であるドロシーはそんな彼の身体の無敵性が改めて便利そうで不便だと思った。

 

「まあご飯にしよう!それとも……私にしちゃう……?」

「それでも悪くないが正直空腹でまともに君を満足させられそうに無いから先に食事といきたいな。君を頂くの最後のデザートという事にしよう」

「―――もう」

 

笑顔でそれを言ってしまう辺り流石自分の夫である、そしてその言葉に一切の偽りは無い。ジョークなど一切混ざっていない本音だという事に思わず赤面してしまう。

 

「お世辞とか抜きで言えちゃうジーくんは本当に凄いよ」

「君にそういう冗談は無粋だろう?愛しい君にはね♪」

「もう♪それじゃあ乾杯しようか」

「そうだな」

 

互いのグラスに酒を注ぎ乾杯をする、グラス同士がぶつかり小気味良い音が耳に付く。口に酒は非常に美味ですっと喉を通り過ぎていく。

 

「こうして君と酒を飲むのは久しぶりだな」

「普段はディアナが乱入してくるからね~……今日は大丈夫よね………?」

 

毎回毎回乱入してくる姉のディアナを警戒する余り箒を握り締めいつでも攻撃できるようにしつつ家の周囲の気配を探る妻に思わず苦笑いしてしまう。まあ確かに自分と二人っきりとなれていた時間を悉く潰されているわけだから警戒するのも解らなくないのだが。

 

「大丈夫だよ。俺の仕事が終わった時にはまだ仕事中だったしな、それに今日ぐらいは自重するって言ってたしな」

「う~ん………それだけ信用はしないけどジーくんが其処まで言うなら信用するね」

 

夫の言葉を信用し箒を収めるドロシー。そんな彼女を見つつ料理に手を付ける。

 

「………うん美味い。上達したじゃないかドロシー」

「そりゃ愛する旦那様の為に頑張って練習したからね♪でも個人的にはまだ満足出来る出来じゃないのよね~」

「何?何処が満足出来ていないんだ?非常に美味なのだが……」

 

ドロシーの料理は申し分無いほどに美味い。一流の料理店で味わえる料理ほどに美味であるのに作った彼女自身はこの料理に満足などしていなかった、個人的には大満足できるレベルなのだが一体何処に不満があるというのだろうか。

 

「前にジーくんが作ってくれた料理と何かが違うのよォ!!あの料理の味と食感とか全部覚えてるの私!でも何かが違うの!私が目指したのは貴方の料理なのに如何して違うの!?」

 

思わずがくっと椅子から落ちそうになる。確かに以前は自分がこんな料理を作ったことがあった、成程自分の料理を基準にしていたのか。ならば違いは簡単だ、経験である。自分は今までずっと料理を続けてきた。年単位で彼女が料理を本格的に始めるまえにから経験を積んでいる、そんな彼女は料理を始めてまだ1年と少ししか経っていない。そんな彼女が自分の領域に踏み込んでいたのであれば寧ろショックを受けてしまう。

 

「まだまだ修行が足りない。という事かな?経験を積めば何れ俺と同じ料理が作れるようになるさ」

「そうかなぁ~?愛情とか一杯一杯込めて作ったのに……」

「ふふふっそれは解っているさ、口に含み身体に入れる度君の愛情を感じるよ」

「あん改めてそう言われちゃうと照れちゃうワン♪」

 

思う存分に彼女の料理を味わった後に待っている物といえば……

 

「ドロシー」

「なぁに♪今洗い物済ませちゃうからちょっと待っててね」

「そのちょっとが、俺にとっては待ちきれないかもしれないな」

 

洗い物をしている彼女の背後に回ったジークはそっと彼女の体を抱きしめた。

 

「んっ、ちょっと待って……まだ洗い物残ってるよ………?」

「ならそれは明日に回してしまおう、俺も手伝うからさ……なぁ?」

「もう……しょうがない旦那様♪」

「申し訳ありません奥様♪」

 

そんな二人はこの後、二人っきりの時間を味わうのであった。


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