MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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005話

持っている剣はARMではない、そんな彼らにとって衝撃的な事実を言い放ったジーク。それに驚愕するスノウにメリロ、驚きつつもではその剣は一体どのようなものなのか酷く気になるギンタ。

 

「そ、その剣ARMじゃないって……」

「そ、そんな……普通の剣がガーディアンARMを両断できるなんて有り得ない………」

「こいつは唯の剣ではない、所謂魔剣だ」

 

剣を天に翳しながらそう呟くジーク。魔剣バルムンク、北欧神話おける最大の英雄の一人・シグルドの持ちし剣。その切れ味は、水にさらすと上流から流れてきた一筋の羊毛が絡みつかずに真っ二つに断たれるほどといわれ、更に鍛え直された時には金床の石を砕き邪竜ファフニールの鋼の鱗を斬り伏せるなど凄まじい切れ味と破壊力を誇る。

 

「ある意味極めて近い存在であり、極めて遠い武器だ。魔力が通っている、それがこの剣とARMの共通点だろう」

「そうなんだ、でも魔力が通っているという事はシンクロ自体は可能かもしれませんよ!」

「ええ!魔力が通っているなら!」

 

首を傾げるジークとギンタ、まだメルヘヴンにやって来て日が浅い二人にとって女性陣が何の事を言っているのか全く理解出来ない。

 

「ARMとのシンクロは自分の身体の中にある魔力を操り、集中してARMに流し込み身体との一体化を図る事なんです。ガーディアン然りウェポン然り、どんなARMも魔力を浸透同調させる事でARMとのシンクロを高めてその力を引き出します」

「鍵は魔力、か」

 

バルムンクを見ながらそう呟くジーク、既に自分は魔力の使い方には気づいている。竜穿も魔力をバルムンクに纏わせ鋭い斬撃にして放つ技、纏わせる事が出来るのならば浸透させる事も出来る筈。そう考えたジークは割れずの門の前に立ち意識を集中する。

 

「ふぅ~………魔力、開放」

 

小さく、一言呟く。瞬間、彼を中心とする凄まじい突風が発生する。湧き上がっていく魔力、それが周囲の空気を押しのけていき彼だけの空間を作り上げていく。

 

「な、なんて魔力なの!?」

「こ、こんな魔力を持っているなんて凄すぎます!!」

「すげぇ、すげぇぜジーク!!」

 

周囲の驚きと感嘆の声など耳に入って来なかった、あるのは魔力を練り上げながらバルムンクの中へと流し込んでいく感覚のみ。一本、また一本と線のような魔力が剣に入り込んでいく。剣の中に作り上げられていく魔力の通り道、初めは細く数の少なかった道は次第に流れてくる魔力によって数は増やされ太く大きい道へと変わっていく。

 

縦横無尽に駆け巡る魔力と感覚、それが織り成す楽章が奏でるは本来の英雄の力の象徴。鎮魂歌となり邪悪な竜を打ち砕きし剣は長き眠りから目覚める。同時にジークの身体の中が変化して行く、サーヴァントとは聖杯戦争に則して召喚される特殊な使い魔。だが今の彼は全く違う、生前の生身の身体をベースにしサーヴァント:セイバー(ジークフリート)のデータをダウンロードした状態。

 

だがダウンロードしただけでまだそれを活用し切れていない、10%にも満たない英霊としての力。だがその力が今本当の意味で身体に馴染み始めている。そして彼の身体は人間の肉体から英霊との融合体である擬似英霊融合体(デミ・サーヴァント)というべき存在に昇華した。

 

「そこだっ!!!」

 

振り抜かれた一撃、身体の感覚や意識が切り替わり直感的に何かを見つけた。一撃は割れずの門の一部貫き一瞬で崩壊させた。

 

「す、すっっげええええ!!!!」

「驚きました!たった一度で!!」

「うん!ジークさん、本当に強い!!」

 

―――ステータス情報が更新されました。

 

謎の声のようなものが脳内を過ぎる、ステータスが更新された?どういう事なのだろうか、兎に角ステータスを回覧してみることにする。

 

真名(対象)】:ジークフリード

【種族】:『擬似英霊融合体』

【属性】:『混沌・善』

【精神状態】:平常

【ステータス】:筋力D+ 耐久C 敏捷D 魔力D+ 幸運E+ 宝具C

【スキル一覧】:直感 B :騎乗 B :仕切り直し A

 

ステータスを回覧するとそこには今まで無かったスキルが映し出されていた。そして種族が"人間"ではなく"擬似英霊融合体(デミ・サーヴァント)"というものへと変化していた。文名から察すると擬似的に英霊との融合が完了した形態のようだ。つまり今までは完全に英霊の力を引き出していなかったという事になる。

 

「すげえよジーク!!本当にすげぇ!!」

「うん!本当に凄いですよジークさん!!」

「……俺はまだまだ強くなれる、先へ行くんだ……」

 

そこからギンタ、スノウ、ジークの修行は本格化して行き苛烈していった。

 

「来いギンタ!!」

「おう行くぜジーク!!」

 

ARMを用いた模擬戦、バッボとバルムンクの正面からの激突。ぶつかりあう魔力と魔力、力と力。

 

「でやああああ!!」

「うおおおおお!!」

 

60日で漸く一日分という特異的な流れの空間で彼らは我武者羅に修行を続けた。ただ強くなりたい、チェスの駒という存在を打倒したいが為に。

 

「竜穿・砕!!」

「ハンマァアアアARM!!!!」

 

 

そして気がつけば修練の門で過ごした時間は半年を迎えていた。此処で修行時間は半年、だが外ではたったの3日しか経っていない。なんとも便利な空間だろうか。遂に修練の門から出る時がやって来た、真っ先に飛び出したギンタ、それを追うジークとスノウ。

 

「っ!スノウ、魔力を感じる、だが邪悪な物だ」

「うん、これはチェスの駒だよ!」

「急ぐぞ!ARM展開、ウィング!!」

 

唯一所所有している翼を宿すARMを展開しスノウを手を掴み速度を高めて上昇していくジーク、そして遂に見えてきた修練の門の出口。それから飛び出すと其処に居たのは傷だらけになりボロボロのエドと不敵な笑みを浮かべている男と氷の城で倒した者達と同じ仮面をつけた奴が居た。

 

「おいおっさん、無理矢理打ち込んどいてその様か?」

「へっ、悪かったなカッコ悪くてな……」

「いや、訳ありだろ。無きゃあんたがそこまでになる理由にならない」

 

そういうとスノウが首を縦に振った。ガーディアンARMを発動させている術者は一定範囲の行動を制限されてしまう、門の中で自分たちをサポートしていたメリロを展開していた為にエドは自由に動けなかった。更に戦闘となると修練の門をARMに戻す必要があり、それでは自分たちを異空間を閉じ込め二度と出れなくしてしまう。つまり、エドは自分達を守る為に耐え続けていた。

 

「ギンタ、やるのか」

「ああ。あいつは俺がやる」

 

そう言いながら前に出るギンタ、それに遵って放出されていく魔力も増えている。

 

「おい確かジークっつったな」

「ああ」

「お前は何者だ?」

 

ジークは答えない。

 

「その魔力、普通じゃ考えられない位に澄んでやがる。まるで清流の水みたいにな」

「今は、ギンタの戦いでも見てなおっさん。そのうち教えてやる」

 

そう言いながらギンタの戦いに目を向ける、先程から彼の腕にある銀色の短剣。それはバッボが変形した物であるバージョン1、ハンマー&ダガー。二つの顔を併せ持つARMである。瞬時に切り替えが可能な近接戦闘武器、かなり便利と言わざる得ない。

 

「おらぁああ!」

 

迫り来る鎖のような剣を切り刻み攻撃を防御する、ジークとの模擬戦で対人スキルも大幅に上昇している彼にとってこのような剣を捌く事等既に容易くなっている。だが攻撃を捌くだけでは勝つことは出来ない、相手のARMは幾ら破壊されても再生する事が可能のようでこのままでは焼け石に水だ。

 

「んじゃあれ行くか!」

『うむっあれじゃな!』

「バッボバージョン2!」

 

腕が一体化したバージョン1が変化して行き手に保持する形の銃のようなものへと姿を変える。その銃口からは薄いピンク色のバッボの形をした大量のシャボン玉が次々と放出されていく。

 

「バブルランチャー!!」

「バ、バッボが分身!?い、いやこれはシャボン玉か!!目晦ましの能力か、邪魔、くさいよ!!」

 

男はウェポンARM、オクトパスでシャボン玉を割ろうとしたが触れた瞬間にシャボン玉は炸裂し煙幕を作りながら爆発した。これがギンタが想像したバージョン2 遠距離戦用バブルランチャー。そして爆発によって出来た煙幕に紛れながらハンマーARMに変形させ重い一撃を腹部へ炸裂させた。

 

「ぐあああ!!!」

「近距離のバージョン1に遠距離の2か……頭の悪そうな餓鬼だからもっと滅茶苦茶な想像をするかと思ったが、真面目に戦うつもりで滅茶苦茶な事考えやがったな」

「あいつは結構やる奴だぞギンタh「ジィィィィィィイイイイイイイいくぅぅぅぅううううううううううううんんんんんんん!!!!!!!!!」こ、この声は………」

 

ゆっくりと背後を見ると歓喜の感情に瞳と顔を染めながら、大粒の喜びの涙を流しながら飛び上がりこちらに向かってくるドロシーの姿があった。

 

「ドロシー!」

「会いたかったよぉおおおおおおおおお!!!」

「俺もってどわぁああああ!!!??」

 

そのまま押し倒すかのごとくジークに抱きついたドロシーはそのまま強くジークに抱きつき胸を強く押し付けながらジークの頬、額、首筋などに次々にキスを落としていく。本当は唇にしたいのだろうがジークが激しく動きドロシーを引き剥がそうとしているので上手く行かないようだ。

 

「ちょや、止めろドロシー!!」

「チュチュチュチュ~♪逃げないで~もっとしよ~よ~!!」

「わ、解ったから離してくれ!!今そこにチェスの駒居るんだから場を弁えてって鎧を剥がそうとするな流石にそれはアウトだ馬鹿止めろ!!!」

「だって半年に感じるジーくんの体温に声に鼓動、全てが愛おしいんだも~ん♪もっと感じあおうよ~!!」

「や、やるならあ、後で!!し、しっかり時間取るから止めてくれぇええ!!!」

 

「うううううう………ジークさん、羨ましすぎっす……なんでおいらは少しも優しい言葉も掛けて貰えないんだ……猿だからか………」

「ジャックゥ!久しぶり!!!元気そうで何よりだぜ!!」

「ううううう………ギンタの優しさの言葉が心にしみるっす……」

 

目から血涙を流すが如く悔しがるジャック、まあ彼は半年間ドロシーのジークに対する愛の言葉を知覚で聞き続けたので辛かったという気持ちは酷く理解出来る。がジャックは敵が居ると解ると直ぐに気持ちを切り替えた、何故かと問われれば仮面の敵が自分を見ているからだ。魔力が一番低いから自分を狙ったと思ったのだろう。

 

「ふん、八つ当たりじゃないけどお前にはおいらは倒されないっすよ!!」

 

手に持ったARMのスコップを地面に突き刺しARMに魔力を浸透させる、するとスコップの柄に嵌めこまれたマジックストーンが輝きだした。

 

「アァアアス!ウェイヴッ!!!」

 

スコップを通して魔力が地面に送られそれは強力な衝撃波になり地面を伝い仮面の敵を吹き飛ばした、その後は酷く荒れた地面が続き威力が伺える。

 

「おおっやるなジャック」

「どうすっかジークさん、おいらもこれからは戦力になるっすよ!!!」

 

この後、敵、イアンが負傷した仲間(ギド)を治療するためにホーリーARM"癒しの天使"を渡す取引を提案しギンタが了承。

 

「オレっちは強くなるぜ、お前にできたんだからオレっちだってでかくなる。次に会う時はそっちが負ける番だ」

 

と宣言し撤退した。こうしてジークたちの修練の門での修行は完了し敵も撃退、一同はそっと胸を撫で下ろすのであった。

 

「さあジーくん、敵も居なくなった事だし」

「(ギクッ)」

「イチャイチャしよぉおおおおお!!!!」

「だあああああだから鎧を剥がそうとするなっておい服は止めろ!!抱きつくは良いけど服はやめろぉおおおおおおおお!!!!」

 

………二人を除いて胸を撫で下ろすのであった。


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