MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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ジークVSスノウ戦後の夜


番外編ー01ー

「ドロシーちゃん、どないしとるフック」

「ナナシ殿か」

 

レギンレイブ城の一室、ドロシーの為に割り振られたその部屋の扉の前に立つ男が二人。ナナシとMrフック、フックの手にはプレートがありその上には食事がある。それは部屋に篭ってしまったドロシーの為に持って来た物だったのだが扉は堅く閉ざされてしまい中に入るおろか声すら返ってこない。

 

「全く駄目だ。相当ショックなのだろう、今はそっとしておくのが一番であろう」

「それなら自分もそうなんちゃうか?主が敵になっとるって解ったんやで?」

「お気遣い感謝するぞよ。しかし某は問題無し、待つ事には慣れておるから故」

「そうか強いのぉ」

 

ナナシに頭を下げてその場を去るフック。残ったナナシは扉に寄り掛かるのやめ歩きながらこれから更に荒れていくであろうウォーゲーム最終戦の残り試合について思いを巡らせながらドロシーのみを案じるのであった。

 

 

「ジー、くん………貴方はもう、私の知ってる貴方じゃない、の………?」

 

ベットの上でジークの替えの服を抱きしめながら身を捩るドロシー。今日のウォーゲームで明らかになったジークの所在とその現状。無事である事は解ったが記憶を操作され自分に関する全てを消去された上を熱く塗り固めるように建造されたディアナという巨大な砦(偽りの記憶)

 

「いやだ、よぉ………何時までも、私の傍にいてくれるってひっく……くれたのにぃぃ……」

 

ARMで見た彼の心の中にあったのはディアナへの強烈な思いと忠義だった。断片的に見る事が出来た記憶では6年前のウォーゲームよりも前に彼は失意の中にあったがディアナによって救われそこから彼女に尽くすようになり互いを愛するような関係になっていた。まるで自分(ドロシー)(ジーク)が関係を深めていったように。

 

「ディ、アナァ……私の大切なジーくんをよくも……よくもぉぉ……」

 

悲しみは次第に愛しの人を奪っていった女への憎しみへと転じていく。故郷(カルデア)を裏切りあらゆる人を敵に回し挙句の果てには自分の恋人の全てを奪い去っていった。許す事など出来ない、出来る訳など無かった。

 

「ジーくん………」

 

だが憎しみは悲しみを凌駕する事は無かった、今は悲しみの方があらゆる感情を上回っていた。恋人をただ奪われただけなら奪い返せば良いだけの話だけだった。だが今はそれとは全く違う、自分との出会いや囁きあった愛の言葉、重ねあった身体の感触や熱など全てを無い事にされてしまっている。これをどうすればいいのだろうか解らなかった。

 

「私は………私は………」

―――諦めるのも、一つの手。なのかもしれませんね。

「ッ!?」

 

身体を起こし反射的に箒を展開し握り締める。聞いた事があるようでないような声が聞こえてくる、幻聴のような不安定さもあるが明らかに聞こえてきた声には意思が宿っていた。

 

「誰ッ!?何処に居るの!?」

―――そう慌てるな。私は貴方の前にいる。

 

前、そこにいると言う声に導かれて正面を向くと直感的にそこに何かがいる事が取って解った。何がいるのかは解らないが何かがそこにいる。そしてそれは次第にはっきりしていき、偶像でしかなかったものが幻影として彼女の前に姿を現した。

 

―――初めまして、で良いだろうな。魔女ドロシー、もう一人のあの人を愛する人。

「だ、誰なの………??」

 

目の前に現れた半透明の姿の喪服を着ている女、正に絶世の美女と言う言葉が彼女為だけに作られたかのような美しさを持っている。

 

「一体誰!?」

―――誰、誰かと聞かれればそうですわね……クリームとでも御呼びください。

「クリーム……?」

―――あなたの恋人であるジークフリードの元となった人物、竜殺しの騎士の妻です。

 

それを聞いたドロシーは驚愕した、ウォーゲームが始まったばかりの頃食事をしていた際にジークのことに着いて話題になった事があった。その時にメルヘヴンに伝わっている竜殺しの騎士の伝説が上がったことがあった。まさかそのその人物が実在していたなんて……。

 

―――悪しき魔女によって騎士は変えられてしまった、ですが可能性はあります。

「可能性ですって!!?」

―――ええ。但しそれは正に賭けになります。

 

クリームの口から語られたのはジークの心を取り戻すっというよりもジーク本人に選ばせると言う事だった。ディアナによって記憶は完全に操作はされているが、元の記憶は深層心理の奥に封じ込まれているとの事。それを目覚めさせる事が出来るかどうか、それはドロシーがジークに掛けている愛がディアナを凌駕するかに掛かっているとの事。

 

「つまり私はジーくんの愛を吐き出し続けて記憶を呼び起こせばいいんでしょう?」

―――ハイ。しかし失敗すれば記憶は更に奥に封じ込まれてしまいもう二度と呼び起こす事が出来なります。

「………望む所よ!!私の愛がディアナなんかに負けるわけ無いじゃない!!!」

―――その意気です、では私はこれで。

「あっ待って!!」

 

半透明だった姿が更に薄くなっていくクリームを必死に止めるドロシー。

 

「如何して私にこんな事を教えてくれたの!?」

―――簡単です。貴方に私と同じ道を進んで欲しくないからです。

 

最後に愛しの彼への愛を目指している乙女に応援を送りクリームは消えていった。ドロシーは不思議がりながらも顔を引き締めながらもジークの服を纏ってベットへと飛び込んだ。

 

「お休みジーくん………」

 

疲れていたのかそのままドロシーはすやすやと寝息を立てて眠ってしまう。彼の服を着ているからか彼に抱きしめているかのような感触を味わいながら夢の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

―――これで良いのでしょう、私は消えるわよ。

「ええいいわ、感謝するわよジークフリートの妻"クリームヒルト"。私は女としてあの子と勝負する」


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