MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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ジークフリード

不慮の事故で死亡したが生前の善行が評価され転生を許された青年。
正義の味方志望の魔術使いほどではないが自分よりも他人を優先し人助けを好むと同時に助けを求める人間の苦しみや困った姿を見る事が好きな若干のサイコパス。
ジークフリートの能力と宝具を手に入れてからはそれらに惹かれているのかサイコパスな面は消滅している。


034話

『ガァ~ガガガガガ!!良い風だ!狩猟で遊ぶには丁度良い鳥だ!!』

「ぐっ!!」

 

余りにも巨大すぎる故に戦場であったキノコは崩壊し地面に直接足を降ろしカルナのガーディアン"ガルーダ"と戦闘するファヴニール、否彼にとって戦闘にさえならないのかもしれない。ワザとガルダーが起こす暴風をその身で受けて無力を感じさせてから圧倒的な力で相手を殺さぬように蹂躙する。

 

「凄まじい力だ。俺のガルーダはそこらのガーディアンなど圧倒すると言うのに、魔力と精神力の消費も激しいようだなジークフリード」

「ま、あな!!さっさと片付けろ!!」

『ちっもう少し楽しませろよ!』

 

悪態をつきながらも遊びを辞めるファヴニール、彼自身も契約者と協力者(ジークとドロシー)魔力と精神力(供物)でこの世界に限界出来ていると言う事は承知しておりそれが供給され、された分の仕事はすると決めている。悪竜と名高い竜だが義理堅い性格でもある。今まで掠り当てで済ませていたガルーダへの攻撃を取りやめ一気に拳を振り抜いた。

 

『ッッッ!!!!』

『はっはぁ!もう壊れたか!!』

 

ガルーダ。飛行可能なガーディアンの中でもその飛行速度は頂点に位置するほどの速度を誇るがファヴニールにとっては鈍間な蝶が飛んでいるかのように感じられ容易く捉えられ砕け散った。

 

『クカカカカカ!!!そうだ蝶のように舞い、蜂のようにもがき死ね!』

「末恐ろしい力だ。だが俺はそれを打倒しなければならない」

 

砕け散ったガルーダのアクセサリーを見ながら髪で隠れた右目を手で覆いながらファヴニールを見る。余りにも巨大且つ邪悪な竜、禍々しくも美しく醜い竜は高らかに勝利の咆哮を挙げている。だが自分はそれを打倒する。例え―――悪の女王の手駒という身分であったとしても。

 

「―――武具など不要。真の英雄は目で殺す」

「っ!ファヴニール!!」

『俺に命令するな、腐れ騎士が!!』

 

目に集中していく魔力を感じ取ったジークは守護者(悪竜)に声を飛ばすが苛立った声で反応した竜は自らに深々と突き刺さっていた巨大な大剣(バルムンク)を引き抜いた。

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

『おらぁああ!!!』

 

ッ刹那、髪で覆われていた右目が赤く輝き凄まじい魔力を伴った光線となってジークへと襲い掛かった。それを竜の体から引き抜かれた大剣が防ぐが切り裂かれた魔力は四散しそこら中へと散らばり大爆発を起こしていく。まともに受けていれば命など簡単に消し飛んでいただろう。

 

「上手く凌いだか」

『………目から怪光線かよ』

「否あれは奴の眼力が視覚したものだな」

『どんだけ強力なんだよ………』

 

流石のファヴニールもカルナの梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)の火力と言うよりもその正体にドン引きするのであった。

 

「これで駄目なら切り札を出そう。ガーディアンARM」

「まだ来るか―――っ!?」

 

カルナが新たなガーディアンを出そうとした瞬間ファヴニールがその巨体にジークを乗せた。

 

「何を!?」

『黙ってろ駄騎士、ふざけてる余裕は無さそうだ』

「―――だな」

 

その言葉通りにカルナの後方の空間には亀裂が走りそこから闇が溢れてきていた、それはファヴニールにも負けず劣らない力を感じさせていた。漆黒の鱗を日の本に出し醜悪で残酷な感情を表情に出しひたすらに相手の苦しみを糧とする竜。住処とする大樹を度々枯らそうとする竜、その名

 

「―――来るが良い。ガーディアン 怒りて臥す者(Nidhogg)

『野郎………なんてもの召喚しやがる、戦い甲斐があるもんだしてくれんじゃねぇかぇええ!!』

「俺としては頭が痛い………」

 

Nidhogg(ニーズヘッグ)。世界樹ユグドラシルの根元・冥界ニヴルヘイムに無数の蛇と共に棲んでおり、しばしば世界樹の根を噛み砕いて損ね、枯らそうとする竜。ファヴニールと同じく北欧神話に準ずる竜、とんでもない竜を出してきた。

 

『こりゃ出し惜しみしてる暇なんてねぇぞ、おいジークに女。ありったけの魔力を回せ』

「この大食いが―――!!!」

―――ええいもう!持っていきなさいよ!!!

 

更に魔力をファヴニールへと供給するジークとドロシー。激痛を堪えながら魔力を生産し続けそれを悪竜へと捧げ続けている二人の負担は想像を絶する。満ちていくファヴニールの邪悪な輝きは全身へ浸透して行きファヴニールに掛かった拘束を外していく。

 

『クククッ……行くぞっNidhogg!!』

「迎え撃て」

―――!!

 

掛けられた拘束から解き放たれたファヴニールは全身の力を一点へと収束させそれを口内で暴走させ威力を何百倍にも高め始めた。対するNidhoggもカルナから供給されてくる炎の魔力を元に最大限の力を今か今かと解き放とうとしていた。

 

哀れな悪竜の叫び(ファフナー・グレイ)!!!!』

―――!!!!!

 

二体の巨大な竜から放たれた光はぶつかり合った。一国さえも消滅させる一撃同士のぶつかり合いは一瞬で終幕を迎える事となった。全く互角の力は一瞬で対消滅し放った竜達に凄まじいダメージを追わせた、その際にダメージでNidhoggは思わずARMに戻ってしまいファヴニールも倒れ伏し動かなくなった。

 

「ぐっ………無事、かファヴニール………?」

『て……てめぇに心配されるとは皮肉だぜ……』

 

減らず口が叩ける辺り無事なようだが状況は悪くなっていた。確かにNidhoggの一撃は相殺したがカルナ自体にダメージを与えられていないだけでは飽き足らず此方の魔力もそこを付きかけている。

 

「どうやら決着が付きそうだな、竜殺しの騎士よ」

「………だな。ファヴニール、ARMに戻れ。お前じゃもう足手纏いだ」

『ちっ……』

 

舌打ちをするとファヴニールの地面の空間が割れて行きそこへゆっくりと降下していき消えていく。ジークは竜から降り迫ってくるカルナへと迎え合う。

 

「宣言した通り切り札を出させてもらう。悪く思うな」

「ああ来い。俺も―――宝具を出す!!」

 

同時に飛び退く二人、バルムンクを引き放ち残っている魔力全てを剣へと込めるジーク。ドロシーも残った魔力をジークに託す、この後互いに笑いあう為に。

 

「天を治める魔の邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽に至る!!打ち落とす!!」

 

「神々の王の慈悲を知れ………インドラよ、括目しろ……!」

 

三度槍を出現させた施しの英雄(カルナ)は翼の装飾を展開し光の羽を形成し飛翔する。その姿はなんとも言えない神々しさを持っていた、正に神の子として生まれたカルナこそ持てる美しさだろう。

 

「絶滅とは、是 この一刺し……」

 

竜殺しの騎士(ジーク)へと向けられた槍の矛先。雷撃と猛火が募った槍はバチバチと激しい音と唸りを上げる竜のような低い音を響かせながらその力を高めていく。そして準備は整った―――

 

―――人の身でありながら幻想の頂点たる竜を討ち取った男

 

―――神の子として生まれた施しを与える男

 

その双方の最強の一撃が今―――衝突する。

 

「―――幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)!!!!!!」

「―――焼き尽くせ、日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!!!!!」

 

大剣からは半円状に拡散する黄昏の波が斬撃でありながら砲撃としての特性を持った最上級の一撃、黄金の鎧を捨てることを代償としてその姿を現す神をも滅ぼす光の槍。圧倒的な力が衝突し空間が振動しこの世界(メルヘヴン)その物を揺るがす戦火となった。

 

「ぐっおおおおおお!!!」

「くっ……!!おおおお!!!」

 

互いに一歩も譲らぬ宝具の衝突、一瞬であるのにも拘らず永遠にも感じる不思議な時間の流れ。その時間の中で二人の英雄の身体は軋み始めていた、英雄が持つ神秘の象徴たる宝具。竜殺しと神殺し。似て非なる最強の"特定の対象を殺す"宝具のぶつかり合いは終わりを告げ

 

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

胸の高鳴りのままに体を動かした。この戦いを心の奥底から待ち望んでいたと感じた、そのまま槍を騎士の胸へと一気に突き刺した。悪竜の血鎧を貫通し胸を穿った槍、口から吐血するジーク。

 

「がっ………!!う、うおおおおおおおおお!!!!」

 

負けぬものか、自分は勝ってドロシーと笑いあう。その為だけに竜騎士は前へと進み握り締めた剣で一閃!!カルナの左腕を斬りおとした。

 

突き刺さった槍と振り抜かれた槍、どちらが敗北したとしても可笑しくは無い状況……だったがカルナの身体の一部が薄れていき消え始めた。それを見てかったと確信したジークはゆっくりと倒れこみ瞳を閉じた。

 

「………しょ、勝者。カルナ!!!!」

 

だが最後まで立っていたのはカルナだった、実質的に勝利したのはジークだろうがカルナが勝者となった。そう判断されてしまった。

 

「後一歩……お前が倒れるのは遅かった俺の負けだった………否今でもお前の勝ちだ。称えよう、竜騎士よ―――

 

 

 

そしてすまない」

 

ゆっくり残った右腕を上げたカルナの手には銀色に輝くARMが握られていた。




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