MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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027話

「うう………」

「あっジークさん目が覚めた!?」

 

瞳を開くと光と共に飛び込んできたのは自分の顔を覗き込んでいる仲間(スノウ)、酷く心配そうな表情から自分が倒れた事を思い出す。

 

「ああ………気絶、していたのか………」

「うん、凄い魔力と精神力を消費して意識を保てなくなっちゃったんだよ。すっごいガーディアンだったよ!」

「ほんまそうやで、久しぶりに全身に鳥肌が立ったで」

 

ナナシの手を借り身体を起こすと身体に強い重さと混濁のような不快感。身体の内部がグチャグチャに掻き乱されているかのような感覚を覚える。そして何故こうなったのか、それは自分がカルデアで授かったARMの一つ、ガーディアンARM"ファヴニール"が原因となっている。

 

ギンタのガーゴイルとは比較にならないほど使用者の魔力と精神力を食い潰す事で世界に姿を現し全てを破壊する事が可能になるほどの竜のARM。悪竜ファヴニール、英雄ジークフリートが討ち取った竜を従える羽目になるとはジーク自身も思っていなかった。だがこんな事ではあのARMを使いこなす事等出来る訳が無い。

 

「………修練の門に入れてもらうか」

「どうしたんやって魔力を強化するためかいな?」

「ああ。これからの戦いにはファブニール(こいつ)の力が必要不可欠だ。俺は………お前たちの足枷に、なりたくない」

 

足枷、その言葉にスノウとナナシは戸惑った。自分達は彼の事を一度も足枷や足手纏いなど考えた事がなかった、寧ろ自分達を押し上げてくれている存在と思い続けてきた。ギンタがその大きな気持ちや心でメルを引っ張り、その後ろからジークが冷静な判断や言葉で自分達の背中を押してくれていると考えていた。だが彼はそんな事のように考えていなかったらしい。

 

「私たち、ジークのことそんな事考えた事無いよ?」

「せやせや。サブリーダーって考えたでメルの」

「………そう言ってくれると有難いな。すまない、少し焦っていた」

 

その直後、目の前の黒と緑が掛かったドーム上の物体から青白い光が空へと伸びていった。それは何度も見た事があったガーゴイルの必殺技(ガーゴイル・レイ)であった。まだウォーゲームは続いていた、今はギンタが戦っている。彼と戦っているのは恐らく骸骨仮面を被ったアッシュ。キャンディスと同じく13星座の一人、激しい戦いである事は明らか。一体どうなったのかギンタは無事なのか激しく気になる、黒緑の空間がボロボロと崩れて行きそこからギンタとアッシュの姿が見える。

 

「……本当に凄いなギンタ、どうせなら本当にファントムを倒して見せな!俺の負けだ」

「なんじゃ、まだお主は戦えるじゃろう?」

「なぁに俺は子供達が笑顔で暮らせればどっちでもいいのさ」

 

そう言いながら仮面を外すアッシュ。骸骨という死と恐怖を象徴する仮面の下にあったのは優しげな大人の笑みであった。彼が望むのは子供達が安心して暮らせる世界、ファントムが世界を統治すれば安全になる。ファントムが倒されればメルヘヴンに災厄を与える物は消え平和になる。アッシュにとってこのウォーゲームに勝ち負けはたいした問題ではないのだろう。

 

「頼んだぜギンタ」

「おうっ!!」

 

アッシュの言葉を確かに胸に刻み絶対にファントムに勝つと誓う、そしてアッシュのギブアップによりギンタの勝利となり第4戦が終了した。

 

「勝って来たぜ!」

「やったねギンタ!」

「よくナイトに勝てたな」

「ご苦労さん、ホンマよう勝って来たなぁあの気味の悪い骸骨仮面に」

「まあ身体が分離したのはびっくりしたけどなってジークどうしたんだ?」

「ギンタ、後ろを見ろ!」

 

皆が勝利を祝福する中一人だけ自分の後ろを凝視しているジーク、彼の指差す方向を見てみるとそこには稲妻のような光を走らせた雷雲のような闇が掛かっていた。そこから響いて来たの男の声、アッシュの戦意喪失に驚きながら姿を現したのはナナシが着ている服装と瓜二つな装備をした男だった。

 

「あ、あれがナナシと戦いたがってた相手か?」

「知り合いなのナナシさん?」

「―――あいつは………だぁれっ?」

「「「だぁあああ!!」」」

 

溜めに溜めて口に出した言葉はまさかの誰、それも思わずずっこけるギンタとバッボ、ジークそして呆れるスノウとアルヴィス。

 

「知らねぇのかよ!!」 

「お主に縁のある人間じゃないのか!!?」

「否だってホンマに自分覚えないし」

「なら無駄に緊張感を盛り上げるな………」

 

記憶に無いというナナシだがジークはその言葉に嘘は無いと感じた。その上でステータス回覧能力を使用し彼の精神状態を探ったが状態は軽く混乱しているが平常時に近い状態であった。どうやら本当に知らないようだ。

 

「記憶がないのは当然だ、私が私に対する記憶を封じたのだからな。しかし時期に思い出すだろう、再会の時には戻るようにはしておいた」

「ホンマに自分誰なんや………?」

「昔話は後にしよう、戦いながらでも出来る」

 

そしてジャッジ(ポズン)によって試合開始の合図が出された、ナナシと縁があるという男は早速と言わんばかりのARMを展開した。それは髑髏が刻まれている壺のような物、一体どのような攻撃をしてくるのかと思っていたら壺の中から次々と髑髏の頭を持った無数の縄が飛び出し自分へと襲い掛かってきた。

 

「なんやぁ?しゃらくさいのぉ、ウェポンARM!!」

 

蛇の群れを思わせる無数の縄の攻撃がナナシへと到達した、その身体へと髑髏が食らい付いたかのように見えたが次の瞬間には髑髏の縄はボトボトと地面へと落ちていった。

 

「グリフィンランス!」

「ほう、だが無駄だ!この縄、"マジックロープ"は無限に伸び続ける!!」

「ほなら、こうするまでやで!エレクトリックゥ……」

 

切断しても尚動き続け迫り来るロープ、これがARMの特殊能力だというのならば幾らロープを攻撃しても焼け石に水。ならば手は一つ、ARM本体を破壊するまで。グリフィンランスを地面へと突き刺し槍を中心にするように両手をかざし槍に雷撃を集中させる。

 

「ランスアロー!」

 

雷のエネルギーが十分に充填された事で激しく放電を繰り返す槍を握り力強く突き出した。突き出された槍からは蓄積された雷のエネルギーが一気に解放され雷の斬撃が一直線にマジックロープの本体である壺へと伸び、それを貫き電撃でそれを焼いた。

 

「へっどうや……っ!」

 

マジックロープが破壊され自慢げに口を開くがナナシの脳裏に何かが走った。以前からこれを見た事があった、エレクトリックアイを使う度に走った謎の影。今それを理解した。今目の前にいる男ガリアンが影であったのだと。

 

「どうやら自分、あんたを確かに知ってたらしいわ」

「まあな。お前の命を助けたのは私だからな。まあ今はお前の命を狙う側となっているがな」

「自分の命をっ………!」

「エレクトリックフリスビー!」

 

新たにARMを展開するガリアン、その周囲に現れたのは銀色の円盤状の物体。素早くナナシの周囲に集うとそれは激しく帯電し互いの電撃を共有し強力な物へと変化させてからナナシへと雷を落とした。だが腐っても雷使いであるナナシはその事に素早く反応し回避行動をとっていた。

 

「……ほう」

「自分と同じ雷使いかいな!なら、対処法だって知っとるんやで!」

 

再び雷を落とそうとする円盤の前に槍を深めに地面に突き刺し自分も姿勢を低くする。槍は避雷針の役割を果たし雷を全て受け地面へと流し無効化した。雷の際チャージを行う隙を狙っていたナナシは即座にサウザントニードルを展開し円盤を全て串刺しにする。

 

―――強くなれナナシ、再び会うその時までにな。

 

「………ガリアン、思い出したで。全部なぁ!!」

「少し早い記憶の復活だな、まあいいだろう。その方が気兼ねなくやれる!」


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