MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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020話

「ジ、ジーク。どないやアクアの様子は?」

「………電撃による火傷はあるが命に別状はない。恵みの女神で治療してやってくれドロシー」

「はぁ~いジーくんのお願いなら~♪」

 

ウォーゲーム第五回戦、第五試合。ギンタVSギロムが行われている中、ジークはラプンツェルによって虐殺されそうになったアクアを救い出しホーリーARMによって治療をドロシーに行ってもらっていた。

 

「うん終わったよ、あとはゆっくり休ませてあげるだけ」

「ありがとうなドロシーちゃん、それにジークも」

「いや、俺自身あの糞婆の行動に苛立っていたからな」

 

そう言いつつも礼を言われたからは頬を染めたジークは照れ隠しと言わんばかりとギンタの戦いへと目を向けた。

 

「ネイチャーARM アイスドアース!!」

 

氷の力を利用して氷の刃を連続発射するギロム、周囲が氷の大地なのもあってか氷の収束率は高くなっており放たれている氷の密度と量が尋常ではない。だがギンタは落ち着いていた、試合が始まるまで冷静ではなかったがバッボの叱咤激励によって冷静さを取り戻し魔力を練りながら戦う事が出来ている。

 

「バージョン1、ハンマーARM!!」

 

迫り来る氷の刃の間を縫うように駆け抜けていくギンタ、回避不能の巨大な氷は持ち前の腕で砕き前へと進んでいく。止まらない止まらない、ギロムは更に多くの氷を発射するがそれでも捉えきる事が出来ていない。

 

ギロムはヴェストリの地底湖でギンタのガーゴイルに敗れており、ギンタには強い憎しみを抱いておりその憎しみが大きな勢いとなっているがそれが原因で精密さを失っている。

 

「へっ!」

「うなぁっ!?うがぁあ!!」

 

遂にギロムの懐へと到達したギンタ、相手の目の前で笑顔を見せてからその顔面へとハンマーのパンチを決めた。大岩さえも木っ端微塵に砕き切るハンマーの一撃が炸裂する。痛みに耐えながら先程よりも巨大な氷山というべきサイズの氷をギンタへと投げる。

 

「バージョン2、バブルランチャー!」

 

即座に形態を変化させバブルランチャーを放つ、巨大な氷山を覆い尽くしたバブルは一斉に起爆し氷を爆砕させた。装備されたマジックストーンによって多彩な能力を発揮するバッボ、それを即座に変更可能なのがバッボの強みとも言えるだろう。

 

「おいギロム、ごめんなさいって言いながら土下座してみろよ。許さないけどな」

「だ、誰に言ってやっがんだこのがきゃああああああ!!!!ネイチャーARM!!!」

 

新たにARMの発動を宣言したギロム、即座に警戒を強めるギンタ。これもジークとの修行で学んだこと、常に相手を観察し相手の行動を予測しろ。彼との対人戦で口酸っぱく言われていた事だった。相手を観察すれば次に自分がどんな行動をすればいいのか判断出来る、それと自分の直感を信じること。この二つを大切にしろと言われていた。

 

「(さあどうするんだギロム……!?)な、なんかやばい!!」

 

何かが危ない、ギンタの直感が警報を鳴り響かせた。とっさに上へとジャンプしたがそれでは意味はなさなかった。下を見たときそこに広がっていたのは氷の大地が真っ二つに裂けて谷間が広がっている光景であった。

 

「まさか、これがARM……!!」

「ネイチャーARM、クレパスだぁ。死ねぇいギンタァアアアアア!!!」

 

驚愕に染まるギンタ、成す術もなく自然が齎す力の一つであるクレパスへと落下していく。その瞳に浮かんでいたのはいったい何なのだろう。それを知る由もなく大地は轟音と共に閉ざされ当時にギロムの笑い声がこだまする。

 

「メルキャプテン死亡!!!ウォーゲーム終了だぁああああ!!!!」

 

勝ち誇った笑いをあげながらギンタが落ちて行った地点を見下すギロム、自分は勝った!!あの憎らしい小僧を殺してやったと陶酔し切っていた。そしてポズンも勝利の宣言を上げようとしていたその時、大地から爆音と共に何かが飛び出した!!

 

「な、なんだぁありゃ!!?」

 

飛び出してきたのは見るから柔らかそうなゼリー状の物体であった。プルプルと震えている中にはギンタが笑いながら立っていた。

 

「バッボのバージョン5、クッションゼリー!どんな重たい攻撃もこのゼリーは吸収しちまうんだ!へへへ、ファントムから貰ったマジックストーンが役に立ったぜ」

 

クッションゼリー、まさに柔を持って剛を制す防御策。柔らかいゼリーは攻撃の衝撃やダメージ全てを吸収してしまう仕組みを持ちほぼすべての攻撃を無力化する力を持っている。だがなりより凄いのはこのような能力を創造してしまうギンタといえよう。

 

「ちきしょうちきしょうちきしょおおおお!!!エゴラァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

怒りのままに従いガーディアンARMを発動させるギロム。召喚されたのは氷の肉体を持ち凶悪な表情をギンタへと向けている氷の巨人、エゴラ。それに対抗するためギンタもガーゴイルを召喚する。悪魔(ガーゴイル)氷の巨人(エゴラ)は互いに牽制しあいながらも一気に詰め寄り組みあい互いの腕をへし折ろうと力を込める。

 

「いいよぉ、そのままガーゴイルの腕をへし折ってやりな!!!」

「任せて姉ちゃん!(氷のガーディアンエゴラはここでは100%以上の力を発揮する事が出来る、負ける筈がねぇ!!)」

 

氷使いのギロムと氷の巨人のガーディアンエゴラ、この二人にとってこの氷の大地は楽園のような場所。それぞれの属性には相性が存在し適したフィールドが存在する。適したフィールドであれば力は増幅され逆に苦手なフィールドでは力は半減してしまう。つまりこのフィールドではギロムはナイトクラスの実力を発揮でき、エゴラが実力以上の力を発揮する事が出来る。

 

「ジーくん解る?」

「ああ、ギンタの奴すごい魔力だ。しかもそれが上昇していくスピードが尋常ってレベルじゃない!」

 

更に魔力が満ちていく体に力を込めてガーゴイルと戦うエゴラ、だが相手の腕はピクリとも動かない。むしろ相手の力はさらに上がっていき自らの肉体が悲鳴を上げ始めていく。そしてエゴラの腕はガーゴイルによって捥ぎ取られてしまう。

 

「なああああ!!!?」

「ガーゴイル、止めだ!!」

 

加えているリングを離しそこへ魔力を集中させていく、魔力を集中させ雷鳴にも似た音を轟かせていく。そして魔力が集中し終わるとガーゴイルは一際大きい咆哮を上げた。咆哮はリングによって増幅されていき破壊エネルギーを伴った強力な光線と化しエゴラを襲った。両腕を失ったエゴラは成す術もなく光線(ガーゴイルレイ)で貫かれた。全身に亀裂が走っていき、遂に氷の巨人は崩壊した。

 

「あ、あああああああ………」

 

失意に沈みながら力を増したエゴラが負けたことを信じられないギロムの前へガーゴイルが降り立つ。エゴラを倒した身でありながらもギンタの魔力は尽きておらずそのままガーゴイルを維持していた。その事とガーゴイルの威圧感に襲われたギロムは震えた声を上げた。

 

「わ、悪かったよ………反省してるよ……本当だって!反省したから!!」

「ぶっ飛んで反省しやがれ」

 

無言で腕を振り被ったガーゴイル、怪力を持ったガーゴイルの一撃はギロムをそれ以上有無を言わず空の彼方へと吹っ飛ばした。

 

「しょ、勝者ギンタぁ!」

「うしすっきりしたぁ!」

 

勝利したギンタ、だがそんなギンタへのそそぐ憎悪の視線。向けているのは当然ギロムの姉ラプンツェル。たった一人の肉親である弟をぶっ飛ばされれば激怒するのは当然といえば当然だろう。だが残虐な手段を好むギロムには当然の報いといえる。

 

「おい婆、お前の相手はこの俺だ。覚えているだろうな、俺が勝ったら」

「ああ解ってるさぁぁ、あんなゴミ共好きにしな!!だがジークゥウ、私が勝ったらアンタが死ぬ寸前まで嬲って絶頂してからクイーンの元へと連れて行くからねぇ!!!!!」

 

クイーン、それが自分を欲しがっている者の名。だとしても負ける気など毛頭ない、このまま勝たせてもらう。その決意を胸に前へと出る、その途中ギンタとハイタッチをし勝利を彼へ誓う。

 

「メル ジーク!チェスの駒 ラプンツェル!!開始!!」

 

「まずは軽―――――――くイッちゃうよおおおお!!アイススパイク!!!」

 

弟のギロムと同じく氷系のネイチャーARM。地面から氷の棘が無数に出現しジークへと向かっていく、ナナシが使用したサウザントニードルとは違い完全攻撃用のARM。対してジークは―――動かず、静止していた。

 

「何してるんだよジーク!!?」

「早く逃げないと危ないっす!!!」

「この程度、逃げる必要性もないのさ」

 

余裕しきっているジークに遂に氷の棘が到達した、ジークの体へと次々と突き刺さっていく氷の棘。だがその棘からは血は一切滴っていない、綺麗な氷のまま。それもその筈、棘はジークの肌に刺さる事無く止まっていたのだから。

 

「この程度か、なら雑魚だな」

「私は美しい、不細工なお前には理解出来ないようだから教えてやろう、周りをよく見てみな!」

 

周囲には変わらず棘があるだからどうしたと思ったが少し地面が揺れていることに気付く、そしてジークの未来寄りに近い直感が何かを告げたが遅かった。ジークの左右の地面が競り上がりまるでトラバサミのようにジークの身体へと食らいついたのだ。

 

「もう一度言ってやるよ、私は美しいんだよお!」

 

「ジークゥウ!!」

 

叫ぶギンタ、幾らジークでもあれのような攻撃ではただでは済まないと思ってしまった。アルヴィスも顔を顰めている辺りかなり強力な攻撃である事に変わりはない、メルの一行がジークを心配する中、ただ一人心配していない者がいた。

 

「大丈夫よ、あの程度じゃジーくんはやられない。ねえジーくん?」

―――流石はドロシー、俺の事をよく理解している」

 

競りあがった氷の壁の中から響く声、それは紛れもないジークのもの。亀裂が走っていく氷の中から顔を覗かせたジーク、その表情は余裕そのものだった。

 

「ジークゥ!無事だったんだな!」

「この程度で俺がやられる訳ないだろギンタ、かぁっ!!」

 

ジークの一喝、大声と共に放出された魔力は一瞬で自分を包み込んでいた氷を溶かし水へと変えてしまった。キラキラと滴る水の中から出たジークはバルムンクを引き抜いた。

 

「でたぁ!ジークさんの必殺剣、バルムンク!!」

「我が剣は貴様を許さん!覚悟するがいい!」

「私の氷とお前の剣、どっちが強いかねぇええ!!」

 

再びアイススパイクを放つラプンツェル。

 

「竜閃!」

 

迫り来る棘の山脈を迎え撃つは魔力で強化された斬撃の風。山脈すべてを両断しつつ前進するそれはラプンツェルの頬を切り裂き血を滴らせた。血は頬から地面に落ち塗装を施す、僅かに施された塗装を見たラプンツェルは激昂し新たなARMを発動した。

 

「本気で絶頂(イカ)せてもらうよぉお!ネイチャァARM、ヘアマスター!!」

「ほう、婆の不細工さが更に磨きが掛かったな」

「こんの不細工がぁああああ!!!!」

 

ARMによって増幅され大きく太く多くなった髪を操りジークへと向かわせるラプンツェル、ジークもバルムンクを握りしめ走りながら前進する。迫り来る髪を両断しようとするが髪は鉄のように硬質化しているのか剣を弾き返す、更に力と魔力を込めながら前進するジーク。

 

「いいぞジーク!」

「そのままぶった切るっす!!」

「任せろ!!」

 

ヘアマスターの網を潜り抜け、遂にラプンツェルの頭上を取りそのまま切りかかろうとする、だが!!

 

「っ!!!!」

「ひゃははははははっ!!!ばぁ~かがぁ!!」

 

突如氷の中から飛び出した髪がジークの足を貫いた、今度こそ髪に付いた血を見て大声を上げて狂喜乱舞するラプンツェル。ジークが捌いていたのは囮、あれだけの数を剣で捌いていれば集中力はそちらに行ってしまう。その間にラプンツェルは氷の中に髪を忍ばせ攻撃の気配をうかがっていた。そしてそのチャンスが来た瞬間に魔力を一点に集中させジークの足を貫いたのだ。

 

「くっ!」

 

地面に降りながら足に刺さった髪を引き抜きながらラプンツェルを睨み付ける、悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)を貫通し足を傷つける威力、大したものだがこの程度ならばまだ戦闘は続行できる。

 

「ひゃはははは!血を見せてくれた礼に良い事教えてやるよ!昔ある所に4人の家族が住んでいました、父、母、姉、弟。あるとき父が死にました。母親は変わりました、姉弟に食べ物も与えずに毎日鞭で二人を殴りました。二人の心には大きな傷が出来ました、ある日遂に、二人は母を斧で殺しました」

「………」

「如何だい泣ける話だろうぉ?その姉弟が私たちさぁあ!!」

「なるほど、辛い過去だな。なら俺も昔話をしてやろう」

 

ラプンツェルの過去は確かに酷い、誰かを殺すことで快感を得るのは母を殺した時に自由を得たことが忘れらないからだろう。だからといって人を殺していい理由にはならない。

 

「ある所に一人の男がいた、王宮で大切に育てられた男はある日王宮を抜け出し冒険をした」

「ジー、くん……?」

 

「様々な冒険を経て男は成長し、遂には邪悪な竜をやっつけました。男は英雄となり、輝かしい栄光を手にした。だがある時、義兄の願いを叶えた時、義兄は義姉と対立し遂に戦いを始めようとしていました。戦いを防ぐには男が死ぬしかありませんでした」

「それって、もしかして………」

 

「………人々の期待に応え続けた彼が、最後に望まれたのは自身の死だったのでした、終わり」

 

冷たくなった瞳をラプンツェルへと向けた、流石のラプンツェルも多少なりとも驚いたような表情をしていた。

 

「面白かったか。くだらない話をしたな、続けよう」

「お、おまえぇ……同情でも誘う気かい?残念、私はそんな話じゃなんとも思わないよぉお!むしろそんな生涯を遂げたお前の死ぬ間際の言葉が何なのか気になってきたよぉお!」

「そうか、なら」

 

刹那、ジークの姿が消える。ラプンツェルは視界から消えたジークを探そうとするが間城から魔力を感じ振り返ろうとするが一閃!!!振りぬかれたバルムンクは硬質化し鉄のような髪を纏めて伐採してしまった。

 

「わ、私の髪が………」

「終わりだ、竜閃撃!」

 

魔力の尾を引きながら振りぬかれたバルムンクはラプンツェルの身体をVの字に切り裂いた。ラプンツェルは苦しみの声を上げながら仰向けに倒れこんだ。

 

「勝負あり!この勝負ジークの勝ち!!」

 

13星座(ゾディアック)の一角に勝利したジーク、その目に浮かんでいるのは安心の感情。ゆっくりとラプンツェルへと接近し声をかける。

 

「約束通り、コレッキオ、アヴルートゥ、アクア、そしてフックは貰っていくぞ」

「フ、ックだってぇ……あいつは、私がぁ………」

「ドロシー」

 

目配せをするとドロシーはあるディメンションARMを展開する、割れた空間から出てきたのはなんと自分が制裁したはずのビショップのMrフックであった。

 

「残念だったな、あいつもそれなりに優秀だからな。貰っていく」

「この、不細工がぁ……なんで、こんなやつを、クイーン(ディアナ)は………」

「ディ、アナ………?それがクイーンの名か?」

 

ディアナ、確かに聞こえた名前。それを聞いたドロシーは目を見開かせ、どこか遠い目をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「点と点が繋がった、私は魔女の国に一旦戻らなきゃいけない……」




Mrフックは死んだと思った?残念生きてました!

実は私Mrフックは結構好きなキャラでして生存させるって決めてました!

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