MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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016話

去っていったファントムたちを見送ったメルの一同、そしてポズンから改めて休みの通達が入り正式な休みが取れることになったメルの一同。

 

「やったぁナンパやぁ!ナンパ!ナンパ!!」

「そんな事してる場合じゃないだろ馬鹿……」

「やっぱり修行っすよね…」

 

アルヴィスが目配せをするとギンタとジャックの修行の相手をしていたガイラが頷く。

 

「ギンタ、ジャック、ドロシー、ナナシ、アルヴィス、ジーク。お前たちにはこれから一日分、修練の門に入って貰う」

「確か修練の門の中ってえ~っと……ろ、60日分修行するのか!?」

「なんや60日って!?」

「ま、また入るんすか!?」

「如何して!?如何して私も入るの~!?」

「事前に言って貰えるのなら文句はない」

 

地味に突然門の中に打ち込んだ漸く(エド)から分離出来たアランを非難するジークであった。

 

「悪かったって言ってるだろ、もう勘弁してくれ」

「まあいいだろう……んで今回はどんな修行をするんだ?」

「今回は特別メニューだ、もうお前たちには余裕はない!これからお前達はある意味尤も戦いにくい敵と戦ってもらう」

「ある意味尤も、戦いにくい敵?」

 

如何いう意味だろうか、自分が一番苦手な物や傷つけたくない者と戦うのだろうか?そうなる自分(ジーク)の場合は生前大っ嫌いだったサソリなどだろうか。それとも

 

「?ジーくん、私の顔に何かついてる?」

「いや、尤も戦いにくいというならドロシーかも知れないと思ってな」

「う~んたしかに、私もジーくんとは戦いたくないなー」

「では行くぞ。ディメンションARM、修練の門!!!」

 

ガイラが取り出したARMの竜が輪のような物を離すと足元に巨大な扉のような物が出現し、扉が開かれる。

 

「なんやこれえええええええええええ!!!!??」

「やっぱり落ちるんすかぁあああああああああ!!!!??」

「うわああああああああああああ!!!!???」

「いやあああああああああああああああ!!!!!???」

 

それぞれの悲鳴が響きながら落下していく5人、そして嘗てアランの修練の門と同じようにそれぞれが全く違う場所へと引き寄せられていく。そして到達した地、完全にバラバラになったメルの一行。

 

「戦いにくい敵、仲間同士で戦うと思っていたが違うのか…?」

 

周囲の様子を見ていたジークだったが次の瞬間目を疑った、足元の影が立体化し自分の目の前に立ちはだかったのだ。

 

「これは、俺の影か!」

『そういう事だ5人とも』

 

頭上から声が響く、それはこの空間に落とした張本人ガイラの声であった。

 

『今回お前達が戦うのは自分自身。ネイチャーARM シャドーマン、影とはいえ魔力の強さは各々と全く同じ。身体を苛め抜き、魔力を向上させよ。魔力が強くなればシャドーマンも同じ魔力で応戦してくる。己の敵は己、というわけだ』

「影……面白いっ!!」

 

早速襲い掛かってきた自らの影、それを迎え撃つ為に引き抜いたバルムンク。振られる大剣、影はそれと正反対のような動きで剣を動かし立ち向かう。だがその力は異様に強く自分が全力で剣を振るっているとの全く同じ力だ。何度も打ち合いを繰り返すが相手の力は全く衰えない。

 

『それぞれが魔力MAXの状態で攻撃してくるぞ。極限の力で立ち向かえ、限界を超えるのだ』

「常に全力全開ってか、辛いにも、程があるな!!」

 

自分と全く同じ力かつ常に全力での攻撃を仕掛けてくる、パワーの変化なども減少は無く上がり続けるしかない。だが修行としては非常に効力が高い、自分の力が上がっていると感じにくい為慢心もしにくいからだ。

 

「うおおおおおお!!!竜穿!!」

 

魔力を込め槍の如き突き出すがシャドーマンはそれをさらりと回避した同時に竜穿を放ってくる、ジークも回避する事が出来たが頬の一部に軽く当たってしまった。宝具の影響で無効化されているが改めて自分の限界の力というものを実感させられる。

 

「自分との勝負か……こういう展開は良くあるけどまさか実際にやるはめになるとはな!!!」

 

全身に力を込め更に魔力を全力で放出しながらバルムンクを振るう、それと全く同時にシャドーマンの力も上昇して行き全く互角の戦いになる。

 

「流石は、俺だな!!っ!!?」

 

シャドーマンの力に感心しつつ剣を大きく弾き後ろに飛びのく、頭上から魔力で構成された弾が降り注ぎ地面を焼いた。

 

「誰だ!!」

 

上を向くと其処に居たのは自分の影が立体化したシャドーマンと同じように全身が黒で染まっている人影であった、だがその形はドロシーに似ているような気がした。それは自らのシャドーマンと同じように全力の魔力を放出しつつ襲い掛かってくる。

 

「くっそどうなってんだ!?」

 

 

「ムウ………異常が起きたな」

「如何したガイラの爺さん」

 

休養の為にスノウとお目付け役としてエドを修練の門に入れようとしたアランだが、ガイラの言葉に反応しそちらを見た。ガイラは渋い顔をして何か困ったような仕草をしている。

 

「いやジークのシャドーマンが分身しおった」

「なに分身だぁ?あのARMは対象になった奴の影、つまり対象の分身になる奴だろ。それが何で分身するんだ?」

「解らん、影は本来一つ。人間が持てる影は一つのはずだ」

 

ネイチャーARM シャドーマン。影が立体化し対象と全く同じ魔力で戦うARM、だがただ影が立体化している訳ではない。対象となる人間の心などを解析しそれを本人の写し身である影に同化し立体化する。それが分身するなど通常はありえない事だ。

 

「ねえガイラさん、もしかしてジークさんって元々は二人とかじゃないんですかね?」

「元は、二人……?」

「そう、エドとアランが一緒だったみたいに何かの理由で二人だった人間が一人になっちゃったとか」

 

スノウが提唱した仮説、それはエドとアランがダークネスARMによって合体させられてしまったように元々は二人の人間だったがそれが融合してしまいジークという人間が誕生してしまったという物。その影響で記憶を失っていると考えれば合点が行く。

 

「ふむ………十二分に有り得るな、その為にシャドーマンが分身したと考えれば自然と納得がいく。そのシャドーマンの姿がドロシーに似ているのはジークの心の中を占めているのがドロシーだからか、はたまた元の人物がドロシーに似ていたかのどちらかだな」

「だとしてもジークが一番辛い修行になるだろうな、自分と同じ実力っつってもそれが二人で全力で襲い掛かってくるんだ」

 

 

「これが、俺の心の形……そうか、生前の俺か!!」

 

襲い掛かる魔力弾を回避し続けながら魔力の斬撃を飛ばす、それはあっさり打ち消されてしまうがその間に接近し一閃!遂にシャドーマンに一撃を加えることに成功する。

 

「おっとっ!」

 

背後から迫ってくるドロシー似のシャドーから距離を取りながら思考する。一体のシャドーマンは今の自分であるジークの影、ならばもう一体の影は何故ドロシーの姿をしている。それは自分の心にドロシーという女性がどれだけ刻まれているか、その表れである。

 

「今の俺と昔の俺がタッグを組んで襲ってくる、か……辛い修行になりそうだがやってやろうじゃないか!!!」

 

降り注ぐ魔力のレーザーと剣撃、恐らく尤も辛い修行を送るのは間違いなくジークだろう。だが逆にそれがジークの闘志を燃え上がらせた。

 

「やってやろうじゃねぇか!強く、強くなってやろうじゃねぇか!!チェスの駒にいる俺を欲しがってる奴を倒す為にもな!!!!」


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