MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士   作:魔女っ子アルト姫

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012話

「メルのセカンドバトル勝利の食して乾杯だぁあああ!!」

「「「「「かんぱぁあああい!!!!!」」」」」

 

セカンドバトルが終わった夜、修練の門で修行をしていたギンタとジャックも帰還し一同が揃った所で改めて勝利を祝うために宴が開かれる事になった。勿論料理はジーク製である。

 

「へぇ~それじゃあスノウとドロシーが勝ったのか、ナナシ残念だったな」

「なぁに今度は完勝したるさかい安心せいギンタ」

「ドロシー姐さんもお疲れ様っす」

「ありがとねジャック、それよりも……ジ~くんご飯食べさせて~♪」

 

一応ジャックからの礼を受け取ってからジークの元へと走っていくドロシーに笑いを浮かべるジャック。

 

「にしても明日のウォーゲーム、なんでも2対2らしいで。それでジークが出るていうとるけどどうするギンタ?」

 

ギンタはそれを聞きながらジュースを口にする、ギンタとジャックが戻ってくる寸前に決まった次回のウォーゲームの人数、それは二人のみだった。戦いの場はこのレギンレイヴ城、そこで戦うと立候補したのはジークとアルヴィスだった。しかもただの2対2ではない。

 

「タッグマッチ……二人同時に戦うって初めてのことらしいし少し不安だよおいら」

「大丈夫だジャック、ジークは強いしアルヴィスだって同じだ!」

「だといいんすけど………」

「まあジークの強さは折り紙つきやからな、アルちゃんの強さは自分知らないけどな」

 

視線を向けるとドロシーに抱きつかれ呆れながら疲れているようなジークの姿がある、彼は強い。メルの中でもその力はトップクラス、絶対に負けるはずがないとギンタは信じている。

 

「へいっくしょん!!」

「あら大丈夫ジーくん?風邪?」

「いや、どっかの馬鹿に噂でもされたかな」

「誰が馬鹿だってジーク!!?」

「………ほら馬鹿が釣れた」

 

 

 

「………良い月だ」

 

宴も終わりそれぞれが明日に備え眠りに付いた頃、ジークは一人城の屋上に上がり月見酒を楽しんでいた。二度目になる月見、今回は一人でゆったりと月を眺める……という訳には行きそうにない。

 

「何か用か―――アルヴィス」

「一応気配は消したつもりだったんだが」

「それでも完全に消しきれていない、だが筋はいい」

 

屋上へと姿を現したアルヴィス、ジークに促され隣に座りジュースを渡されそれを口にする。

 

「良い月だな……ドロシーと月見をしていた時はチェスとうちの馬鹿どもが見事に邪魔してくれたがな」

「ドロシーとはどこで」

「何処といわれては困るが、バッボの封印場所近くの草原だな」

 

酒を口にしながら月を見続けるジーク、生前からか妙に夜空に浮かぶ月というものは好きだった。そしてこの世界での月はさらに美しく感じる。空気の汚染がなく視界をさえぎるものがまったく無いからだろう。

 

「一つお願いしてもいいだろうか」

「なんだ」

「明日のタッグマッチ、貴方の本気を見せてほしい」

「―――ほう?」

 

思わず口角を吊り上げ笑みを作るジーク、未だこの世界に来てから全力というものは発揮していない。筋力という意味での全力は何回か発揮しているが全てを出し切るという意味での本気を出したことは無かった。

 

「それは、俺の今までの戦いぶりが不満だからか?」

「いやそう言う訳ではない。この際言っておく、俺は貴方を警戒している」

 

単刀直入、何の回り道も無く言ってきた言葉にジークは静かに耳を傾けた。

 

「ギンタの言うとおり善人である事は間違いない、だが目的は不明瞭しぎる」

「それはドロシーもじゃないか?」

「彼女はARM集めという名分がある。事実今回の試合では相手のARMを奪っている、そして貴方と行動を共にするという目的も」

「俺の目的、ね」

 

目的はあると言えばあるだろう、建前である記憶を探す為。だが真の目的などありはしない。自分はこの世界の住人として転生を果たした、そしてこの世界が崩れるのならば自分は再び死ぬ事になるだろう。詰る所は自分の為に戦っているということになる。

 

「言うなれば、俺の為だ。世界が崩れれば俺も死ぬ事になる、生きる為に戦う、それだけだ」

「成程」

「それに、世界を救う位の度量が無きゃドロシーを幸せに出来そうにないからな」

 

少し照れながらも理由を述べるジークにアルヴィスは少し笑った、彼から見たジークは何処か堅苦しい武人のようなイメージだった。それは合ってはいるが今は違う、これが彼の素なのだろう。自分と惚れた女性が安心して過ごせる世界を守る為に戦う、それが彼の理由。

 

「少し安心しましたよ、では明日は期待してます」

「ああ、この剣と俺の真の力を見せてやるよ」

「楽しみにしてますよ」

 

そういって去っていくアルヴィス、彼が去るのを確認してから再び月見を再開するジーク。そしてアルヴィスとの会話で改めて自分がドロシーに惚れているのを再確認してしまい少し頬を染めながら酒を一気に飲み干すのであった。

 

「………人を好きになるって素敵な事だな」

「そうねジーくん♪」

「どわぁっ!?」

 

下から箒に乗って上昇してきたドロシーに驚き立ち上がるジーク、そんな彼を見て悪戯的な笑みを浮かべる魔女。

 

「私も一緒にお月見してもいいかな?」

「あ、ああもちろんだ」

 

改めてドロシーと共に座りなおし共に月を眺める、こうして二人で月を見るとキスをしそこなったあのときの事を思い出す。ドロシーもその事を思い出しているのか周囲にギャラリーがいない事を念入りに確認している。

 

「ねぇジーくん」

「んっなんっ(チュッ)むう」

 

振り向いた先に待っていたのは端麗で可憐なドロシーの表情、そして唇に重なった彼女の唇。繋がりあった互いの肌から伝わってくる互いの体温と鼓動。自然と腕が動いていき手を繋ぎ開いての体温と鼓動を貪欲に求めていく。暫しの間繋がったままの二人、そして唇が離れた時、互いの顔は赤く染まっていた。

 

「やっと……出来たね、キス」

「ああ……ド、ドキドキする物だな……(///)」

「嫌だった?」

「いや、こうしたかった」

 

再び軽く触れ合う程度のキスをする二人、身体を更に近寄らせる。

 

「本当は、君を戦いに参加させたくない。君が傷つく所は見たくない」

「それは私だって同じだよ、ジーくんが傷つく所なんて見たら私狂っちゃうよ」

「すまない。俺の我侭に付き合って貰って」

「ううん、約束だもん。気にしてないよ」

 

互いに互いの身の事を気にする、自分の身など如何なっても構わない。だがこの人が戦いで傷つくところは見たくないという感情は同じであった。

 

「でも私は戦わなきゃいけない………ある女を殺さなきゃいけない………」

「殺す………何か訳ありなんだな」

「……ごめんね、話す訳にはいかないんだよ……ジーくんでも言う訳にはいかないの」

「いや、俺も君に話していない事がある。おあいこだ」

 

女を殺す、それを言った時の彼女の瞳は少し悲しげだった。その正体が何なのか、自分には良く解らない。だが自分にも何かきっと出来る事はあるのだろう。

 

「ドロシー」

「えっ」

 

ドロシーの顔に手を当て自分の方に引き寄せそのまま唇を重ねる。

 

「俺は、君のそばにいる。必ず君の傍に居る」

「ジーくん……?うん、ありがとう………」

 

そのまま二人は身体を抱きしめあっていた。周囲には誰も居ない、二人だけの空間。今度こそ誰にも邪魔されずに居られる空間で互いの鼓動と体温を味わいながら時を楽しんだ。そんな二人を見ているのは、月だけ。

 

―――この時から二人は、正式に付き合う事にした。


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