天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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イレーネさんのうっかり発言をフォローしよう。

第一弾。

イレーネ「動きではお前、力ではソフィア、剣の速さでは私の方がそれぞれでテレサを上回っている」


第3話

 

「ギシャァア」

 

覚醒者の爪が急激に伸び、ローズマリーに突き刺さる。

 

命中箇所は顔面と右胸それは位置的に完全に致命傷、だが次の瞬間、爪が刺さったローズマリーの姿が掻き消えた。

 

「グギャァ!?」

 

驚愕の叫びを上げる覚醒者。

 

それが最後に発した覚醒者の声だった。

 

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

守りながらの戦いは消耗する。

 

ローズマリーは額に浮かんだ汗を拭った。

 

「……やはりヒステリアさんのようには行きませんね」

 

ローズマリーは先ほどの拙い動きを思い出し苦笑を浮かべる。

 

ステップにより緩急をつけ速度差により残像を見せる技、練度の差は歴然なれど、それは紛れもなくヒステリアの『流麗』だった。

 

この間の休日にてローズマリーはヒステリアと予期せぬ邂逅を果たした、その時行われた模擬戦でヒステリアが使った技を練習し自分なりに再現してみたのだ。

 

ただ、ローズマリーにヒステリアほどのセンスはない。

 

ローズマリーとヒステリアに速度差自体はそれほどないのだが、緩急のつけ方が甘く生じる速度差が少ない為、動体視力が優れた者にはあまり通用しないモノとなってしまっていた。

 

もっと修練を積めば別だろうが、現時点でこれが効くのは下位の覚醒者、中位ナンバーの戦士くらいまでだろう。

 

 

「……それにしても」

 

ローズマリーは不審気に眉をひそめると倒れ伏す三体の覚醒者をじっと見つめた。

 

「(変な覚醒者だったな)」

 

ローズマリーは疑問に思った。

 

覚醒者とはクレイモアの成れの果て、妖魔に堕ちた戦士の事である。

 

だが、今日、ローズマリーが戦った覚醒者はなんというか動きがとても素人臭かった。

 

覚醒者になって間も無いとしてもあまりに稚拙、まるで戦いを知らぬ一般人が突然化物になってしまったかのような力任せの戦い方。

 

しかも知性が低いのか言葉を発する事もなく、ただ意味のない叫びを上げるだけで、ローズマリーが名前を聞いても全くの無反応だった。

 

「(戦士時代から才能がなかったから? それとも訓練生時代に、本当に幼い時に覚醒してしまったのかな?)」

 

「ク、クレイモア、さま」

 

ローズマリーが不審な覚醒者について考えを巡らせていると、彼女に身なりの良い初老の男性が話しかけて来た。

 

おそらくこの町の町長だろう。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「よ、妖魔退治代金を払おうと思いまして」

 

そう言って青い顔の町長がぎっしりと貨幣が詰まった皮袋を差し出した。

 

それは、一般家庭が丸々20年、遊んで暮らせる程の大金である。

 

しかし、ローズマリーは差し出された皮袋を首を振って拒否し町長に返した。

 

「いえ、これは依頼されて行った事ではないので代金は要りません」

 

「そ、それでは前回の分としてお納め下さい、実は前回、我々は資金に窮しあなた方に仕事を頼みながら代金を払えなかったのです」

 

「………払えなかった?」

 

「は、はい、1年程前に妖魔の討伐を頼んだのですが、その時も妖魔が三体居まして食糧難で冬を越す為に大量の麦を買った為、二体分しか代金を払う余裕がなかったのです。その旨を代金を請求しに来た男に伝え待ってもらおうとしたのですが……男は代金は要らぬが妖魔が現れても二度と助けぬと言って帰って行ってしまったのです」

 

町長の話を聞きローズマリーは不審に思う。

 

「(そういえば、聞いたことがある。妖魔退治の代金を払えなかった村が数ヶ月後に大量の妖魔に襲われて壊滅したとか……いや、まさか、な)」

 

頭によぎった嫌な想像にローズマリーは顔を引きつらせる。

 

「(いや、あり得ないか、妖魔、覚醒者を操れるなら戦士を作る必要もない、それに組織がそんな事をするメリットがない、もし、金が欲しいなら、この大陸を支配したいなら戦士に人間を攻めさせれば良い、人間相手ならすぐに制圧出来るはずだし)」

 

 

「あ、あのクレイモアさま?」

 

突然無言となったローズマリーに再び町長が話しかける。それにハッとなりローズマリーは今まで考えていた事を頭の隅に追いやった。

 

「……失礼しました、少し考え事をしていました。先ほども言いましたが代金は要りません、しかし、前回代金を払えなかったのはマズイですね、その男が言った通り、組織はその理由を問わず一度でも代金を払わなかった村や町を二度と助けることはありません」

 

「そ、そんな、では以前言った事は本気だったのですか?」

 

「はい、残念ながら」

 

申し訳なさそうに言うローズマリー。

 

その話を聞いた村長は必死の形相で跪いた。

 

「お願いいたします! クレイモアさまから組織の方になんとかなるように言っていただけないでしょうか?」

 

「……私は末端の戦士に過ぎないので組織の方針に口を挟む事が出来ないのです」

 

「そ、そこを、そこをなんとかお願いできないでしょうか?」

 

懇願する町長にローズマリーの顔が歪んだ。

 

人よりも強く見つけ出す手段もない、そんな怪物に襲われるのがどれほど恐ろしいか、同じく故郷を妖魔に滅ぼされたローズマリーには痛いほど分かる。

 

だが、それでも、安易な事は言えない。組織に取って戦士とは末端も末端、替えがきく駒に過ぎない。

 

ローズマリーもそれは同じ、如何に一桁上位の戦士であろうと組織に取ってはちょっと他の戦士より価値があるだけ、決して特別ではないのだ。

 

故に、ローズマリーの意見など組織は聞き入れない。

 

つまり言うだけ無駄なのである。

 

「……申し訳ありませんが、組織の助けは諦めて下さい」

 

心苦しい思いから囁くように小さな声でローズマリーが告げる。

 

「そ、そんな」

 

ローズマリーの拒否に町長が暗い顔で崩れ落ちた。

 

「(あ、まずい)」

 

失意に沈む町長を見て自分が余計な事を言おうとしているのが分かる。

 

止めとけ、止めとけ、そう思い口を閉じようとする。

 

だが、そんな思いとは裏腹に何時の間にかローズマリーは口を開いていた。

 

「……ですが、それは組織がです、あくまで妖気を感知した時だけに限りますが、この町に妖魔が現れれば私が討伐します」

 

「……え、ほ、本当ですか!?」

 

「はい、あくまで私が存命中に限りますが」

 

内心で冷や汗をかきながらも笑顔で言うローズマリー。

 

そんなローズマリーの手を跪いたまま町長が取ると何度も何度も頭を下げる。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

「(ああ、また、やってしまった)」

 

繰り返し礼を述べる町長を見つめながら、ローズマリーは心の中で頭を抱えた。

 

 

 

組織の戦士ローズマリー、前世の名残か、彼女は日本人特有の頼み事を断れないタチの人間だった。

 

 

 

 

 

 

「何をしている?」

 

目を閉じ耳を塞いでしゃがみ込むローズマリーにルヴルは不審げな顔で問いかけた。

 

「…………」

 

しかし、よほど集中しているのか、鋭敏な感覚を持つはずのローズマリーはまるでルヴルに気付く事なく目と耳を閉ざし続ける。

 

「おい、ローズマリー」

 

「…………」

 

「ローズマリー!」

 

「…………」

 

「ローズマリーッ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

叫んでみたが反応がない、ならば身体を叩いてみるか? そう思い、ルヴルはローズマリーの肩に触れようとする。

 

だが、その寸前で思い留まり、やはり触るのを止めた。

 

以前、組織の黒服が自身に気付いていない戦士に背後から声をかけた所、驚いた戦士に真っ二つに斬り殺されたという事故を思い出したのだ。

 

さすがにルヴルもそんな間抜けな最後はごめんである。

 

「(さて、どうする?)」

 

ルヴルは数秒、自身の存在をローズマリーに教える方法を考えた。考えた結果、ルヴルは足元に落ちていた石を拾う。

 

十歩ほどローズマリーから離れたルヴル、彼はポンポンと石の重さを確かめると彼女目掛け思いっきり石を投擲した。

 

なかなかのコントロール、常人ならば病院送りになりかねない威力の石が真っ直ぐローズマリーの顔に飛んでいく。

 

事情を知らぬ者が見たら悲鳴をあげる光景が展開され、そして、ルヴルが投げた石がローズマリーに顔面に直撃した。

 

 

 

……と、思われた瞬間、ローズマリーの姿が掻き消える。

 

「…む」

 

「…あ、ルヴルさんでしたか」

 

自分の動体視力では目視不可能な速度で動いたのか?

 

そう、ルヴルが思い至ったと同時に彼の背後からローズマリーが話しかけてきた。

 

そんなローズマリーにルヴルは溜息を吐き振り返る。

 

「あ、じゃない。こちらの呼び掛けを何度も無視して何をしていたんだ」

 

なんでもない風に言うもルヴルは内心で僅かに焦っていた。

 

「(…また、強くなったか)」

 

ルヴルはとある事情から強い戦士の誕生を歓迎していない。

 

特にローズマリーやヒステリアなど複数の覚醒者を単独撃破出来る上位戦士は早めに死んでくれとすら思っている。

 

ルヴルはローズマリー達を見本に強力な戦士が量産される事を恐れているのだ。

 

 

「すいません、ちょっと、妖気感知の訓練をしていまして」

 

ルヴルの内心を露知らず、ローズマリーはすまなそうにルヴルに頭を下げた。

 

「また訓練か…しかし、妖気感知など鍛えた所で戦いに役立つのか?」

 

「多分役には立ちますよ、極めれば妖気を持つ者の動きをある程度、先読み出来るようになると思います。でもまあ、私の場合は戦闘面ではなく本当に探知面、そう、妖気の探知範囲を広げたいんです」

 

「探知範囲?……なんだこの前の任務地で何か言われたか? 」

 

「いえ、任務では特に何も言われませんでした」

 

「では、任務外で行った町で何か言われたか、お前の事だ、どうせ町人の為に何か余計な事を口走ったのだろう?」

 

大当たりだ。

 

図星を指されたローズマリーが冷や汗を垂らす。

 

組織が見捨てる方針の討伐代金を払わなかった町を勝手に助ける約束をしてしまったのだ。

 

バレたらかなりよろしくない。

 

「……まあ、少々約束を」

 

ルヴルから目を逸らしボソッと呟くローズマリー。

 

組織にとって不利益な事をしたとバレバレである。

 

「(早めに危険な任務にでも行かせ消そう考えていたが、コイツは手を下すまでもなく組織に粛清されるんじゃないか?)」

 

人助けの末に死ぬローズマリーを想像しバカな奴だとルヴルは心の内で細く笑む。

 

組織に粛清されるというのは目立った動きを取りたくないルヴルにとってベストな流れだった。

 

しかし、それにしても。

 

「はぁ、見返りもなく他人を助ける意味が分からんよ」

 

心底疑問に思った声でルヴルは言う。

 

そんな言葉にローズマリーは肩を落とした。

 

「私も時々……いえ、毎回自分のバカさ加減に呆れてます」

 

「ならばなぜ直さない?」

 

「それはまあ、それも良いかなって思てるから、でしょうね」

 

「無駄な行動と認識していながらそれを許容するのか?」

 

困惑した顔でルヴルが問う、それに苦笑しローズマリーは自分の考えを話し出した。

 

「はい、そういうバカな行動を取るのが自分らしいと思うんです」

 

「つまり、お前はバカだと?」

 

「酷いこと言いますね……でも、まあ、そうなんでしょう、私はそんなに頭は良くありません。自分が苦しくなる約束なんてするべきじゃない、なのにいつの間にか約束をしている本当にバカ丸出しですよ」

 

そう、自分を落とす発言をしながらも何故かローズマリーの顔はむしろ晴れやかだった。

 

「でも、どうにも直そうと思えないんです」

 

「……自分が苦しくなるのにか?」

 

「はい、でもその苦しいってのはだいたい肉体面の話しなんですよね、精神面は頼み事を断った時の方がずっと苦しくなります。昔、頼み事を断って死ぬほど後悔した事がありまして、あの時こうしてれば、時間が戻ればいいのに、そう、今でも思ってますよ、無理だと分かっているのにね」

 

そう言って自嘲するローズマリー、ルヴルの目を見ていながらも、その視線はどこか遠くを見ているように感じられた。

 

「後悔先に立たずか……だが、頼み事を聞いて後悔した事も多いだろう」

 

「そりゃ山ほどありますよ、聞かなきゃ良かったと死ぬほど後悔した事もありましたねぇ」

 

そう、おどけたように言うローズマリー、もう彼女は遠い目をしていなかった。

 

「……やはり、お前はバカだな」

 

「ふふ、まあ、それが私ってことなんじゃないですか?」

 

呆れたように言うルヴルに、ローズマリーは楽しそうに笑う。

 

その顔はどこか誇らし気だった。

 

「さて、私がバカだって話はもういいでしょう、次の任務を教えて下さい」

 

「……くっくっく、そうだな、無駄話はここまでにしよう、お前と話すといつもの長くなる」

 

「はいはい、それは失礼いたしました。それで今度の討伐は妖魔ですか? 覚醒者ですか?」

 

「いや、今回は討伐ではない」

 

 

 

 

「お前には短期間だがある訓練生の指導をしてもらう事になった」

 

その任務の内容にローズマリーは目を丸くし後、顔を思いっきり青ざめさせた。

 

「え、じょ、冗談ですよね?」

 

「……なんでお前はそんなに嫌そうなんだ、子供が嫌いなのか?」

 

意外そうに言うルヴルにローズマリーは首をブンブンと振って否定する。

 

「いえ、子供は好きです、でも指導出来る自信がありません」

 

ローズマリーにとって人にモノを教えるというのは頼み事を断る以上に苦手な事だった。

 

ローズマリーはなんでも自分でやってしまうタイプだ。基本誰かの頼みを事を聞いて、自分は誰にも頼み事をしない、彼女はそんな人間だった。

 

人に指示を出すのが苦手、厳しい事を言うのも苦手、自分に厳しく他人に甘い、それがローズマリーの性格だった。

 

そんなローズマリーが……

 

「他人に指導など出来ると思いますか?」

 

よほど焦っているのか冷や汗を垂らしルヴルに考え直すように頼むローズマリー、そんな彼女をルヴルは愉快そうに見て、

 

「いいからやれ、これは命令だ」

 

ローズマリーの懇願を無慈悲に拒否するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練生が自分の指導力不足のせいで戦士になれなかったらどうしよう。

 

自分の教えが悪くて妖魔に殺されたらどうしよう、覚醒させてしまったらどうしよう。

 

 

そんな悩みを抱え組織本部にやって来たローズマリーだったがその悩みはすぐに解消された。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

組織本部の訓練場にて、常に浮かべる笑顔を引っ込め、まるで強敵に相対したような雰囲気を醸し出すローズマリー。

 

彼女の視線の先には一人の少女が剣を構えていた。

 

若干癖のある金に近い銀髪を後ろに纏め、余裕に満ちた微笑を浮かべる少女。

 

名をテレサと言う。彼女がローズマリーの受け持つ生徒だ。

 

なんでも、訓練生の中で特出して強い為、現役の戦士が教師役をしなければならない程の実力とローズマリーは聞いている。

 

これを聞いたおかげで少しばかりローズマリーの心は軽くなった。

 

 

 

……しかし。

 

 

 

「(この子、そんなレベルじゃないでしょ)」

 

聞いた話とだいぶ違う。

 

ローズマリーはテレサを見てそう思った。

 

訓練生の中で特出した強さ……そう聞いていたがとんでもない。

 

過小評価も甚だしい話だ。

 

剣を交える前から分かった、訓練生のこの少女が、十代前半でまだ満足に身体の出来上がっていないこの少女が、既に戦士最強に片足を突っ込んでいる事を。

 

 

「じゃあ、反撃しないからちょっと攻めてきて」

 

「うん」

 

ローズマリーの言葉を聞きテレサが動いた。

 

軽やかなステップを踏み、左右にフェイントを入れながらローズマリーに接近、彼女の死角に滑り込むと高速で大剣を薙ぎ払う。

 

見事な動きだ、即戦士になってもやっていけるだろう。

 

「(だけど、この程度じゃないよね)」

 

こんなものではない、テレサから感じる力量はもっともっと高いものだ。それこそ自分に匹敵、凌駕する程のものローズマリーは感じた。

 

ローズマリーはテレサの攻撃をバックステップで軽々と躱す。

 

そのローズマリーの動きを見てテレサの笑みが強くなる。後ろに下がるローズマリーを追いかけてテレサが一歩踏み込んだ。その動きは先程以上に速い。

 

「…ふっ」

 

流れるように大剣が振るわれる。

 

袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎからフェイントを入れての突き、一撃ごとに速さと鋭さが上がっていく斬撃の数々をローズマリーは体捌きだけで躱しきる。

 

だが、テレサの動きは止まらない、避けられる度に疾くなる、避けられる度に強くなる。

 

まるでどこまでやっていいか試すようにテレサの動きが少しずつ加速していく。

 

下位の戦士レベルから中位、中位から上位、上位から一桁ナンバーへ、そして、その実力は遂に一桁上位ナンバーレベルまで到達、それで止まらずより疾く、より鋭くと天井知らずに上がっていった。

 

 

 

「(はは、勘弁して欲しいなぁ)」

 

天稟の才と称されるローズマリーだが、テレサの才はその数段上を行く。ローズマリーがテレサと同年代の訓練生だった頃はせいぜい中位の戦士レベルの力しか持っていなかった。

 

正に時代の寵児、最強となるべく生まれてきたような少女である。

 

ローズマリーはそんな怪物じみたテレサの才に舌を巻き、苦笑した。

 

「……どうかしたの?」

 

テレサは攻撃を中断すると、いきなり苦笑したローズマリーに首を傾げた。

 

「ああ、ごめんごめん、テレサちゃんがすごく強くてねビックリしちゃったの」

 

「そう? でもまだお姉ちゃんに一撃も当たってないよ?」

 

「はは、それはテレサちゃんが手加減してくれてるからじゃないかな?」

 

「ううん、もう本気だよ」

 

そう笑うテレサ、だがその言葉はとても信じられるものではなかった。

 

ローズマリーの予想ではまだまだテレサは本気ではない。

 

身体能力はそろそろ頭打ちだろう。

 

現時点ではまだ力もスピードもローズマリーの方が上、その自信がローズマリーにはある。

 

というよりもパワーとスピード、その総合値であのヒステリアすら上回るローズマリーに大人より頭二つ小さな幼い身体のテレサが近いレベルにあるというのが異常なのだ。

 

しかもここまでで既に異常な実力なのに、テレサはまだ妖力解放すらしていない。妖力解放による身体能力の上昇値は人それぞれだが、テレサが解放すればおそらくここから二倍、三倍と身体能力が跳ね上がる。

 

もちろん、妖力解放はローズマリーもしていない。まあ、ローズマリーの場合は “出来ない” が正しいのだが、例えローズマリーが妖力解放出来たとしても、自分はテレサに勝てない、そんな確信を彼女は抱いていた。

 

「…………」

 

だが、まあ、本人が本気と言うなら良いだろう。

 

無理に追求する必要はない。

 

ローズマリーは軽く息を吐くと大剣をその背にしまった。

 

「あれ? もうおしまい」

 

「うん、今日はおしまい」

 

ローズマリーは壁際に置いておいたリュクを漁り、一つの紙袋を取り出す。

 

「はい」

 

そう言ってローズマリーは紙袋から透き通った小さな青い玉を取り出しテレサに渡した。

 

「これは?」

 

「飴っていうお菓子だね、食べてみて、あ、はじめは噛まないで口の中で転がしてね」

 

「…………」

 

テレサは受け取った飴玉をしばらく眺めると、一度匂いを嗅いでから口の中に放り投げた。

 

一回、二回、口の中で飴を転がすと、テレサ顔が驚きに染まり、そしてすぐに綻んだ。

 

「…甘い」

 

「ふふ、気に入った?」

 

「うん、ありがとうお姉ちゃん」

 

テレサが微笑ではなく満面の笑みを浮かべてローズマリーにお礼を言う。

 

「どういたしまして」

 

テレサの笑みにローズマリーも笑顔で応えた。

 

如何に怪物級の実力を持とうとテレサはまだ子供、遊びたい盛りだし、我儘も言いたい時期だろう。ならば大人として面倒を見ねばなるまい。

 

ローズマリーはテレサの頭を軽く撫でて今度はリュックからトランプを取り出した。

 

 

 

 

急いで鍛える必要などない。

 

ゆっくりと成長を待てば良い。

 

きっとそれだけで彼女は誰よりも強くなる。

 

ローズマリーは近い将来最強の頂に登るだろうテレサを想像し、小さく笑みを浮かべるとスピードのルール説明を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




イレーネ「動きではお前(妖力100%解放、つまり覚醒状態)力ではソフィア(覚醒状態)剣の速さでは私(高速剣、つまり一部覚醒状態)の方がそれぞれでテレサ(妖力無解放、手加減状態)を上回っている」

ノエル「……そりゃ、上回れなきゃ上位ナンバーとしてダメだろ」

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