天稟のローズマリー   作:ビニール紐

20 / 41
ローズ○リー「こんな危険な島に居られるか! 私は大陸に戻らせてもらう!」


第20話

「ほっ」

 

助走してローズマリーが跳ぶ。

 

「はっ」

 

ローズマリーが丸で囲った地面に着地、それと同時に再び跳ぶ。

 

「とっ」

 

また別の丸に着地、もう一度ローズマリーが跳ぶ。

 

ローズマリーはポンポンと島の浜辺を跳び回っていた。これは別に遊んでいる訳ではない。本場に備えた予行練習だ。

 

「…………」

 

更にローズマリーは複数の歪に砕かれた木材の感触を一つ一つ足裏で確かめる。

 

その表情は真剣そのものだ。

 

そして、ローズマリーは十数分、木材を踏み続けると、感触を完璧に覚えたのか、力強く頷いた。

 

「……よし」

 

その直後、ローズマリーが決意を固めた瞳で、木材を両手に抱えた。そのまま彼女はその場で一回転。踵、爪先と重心を巧みに変え、ハンマー投げのように木材を加速させると、背後に向かい放り投げた。

 

高速で放たれた大きめの木材が、優美な放物線を描き、飛来する。そして数秒後、ボチャンと大きな水飛沫を上げて海面に着水した。

 

「…………」

 

ローズマリーは着水した木材の位置と浮いている事をその目で確認、次の木材を手に取り、同じように、しかし、今度は更に遠くに投擲した。

 

 

 

 

「はぁ……ふぅ、はぁ……ふぅ」

 

緊張した面持ちでローズマリーが息を整える。彼女の視線は海に固定されている。いや、正確には海に浮かぶ複数の木材に固定されていた。

 

彼女がしようとしている事は簡単だ。木材を足場に海に入らないように大陸まで戻る事である。

 

どう考えても無茶苦茶な方法だ。

 

島から跳躍し、揺れる海面を漂うそれぞれ数十から数百メートル離れた一メートルに満たない木材、そこに着地出来ると考える頭脳、それはどう甘く見積もってもイカれている。

 

しかも、今は雨が降っている。

 

晴れの日でもあり得ないのに、ローズマリーはこんな日にその愚行に挑戦しようとしているのだ。

 

これを誰かが知れば完全にローズマリーの正気を疑うだろう。

 

そして、なんと言えば良いのか、残念な事に、今のローズマリーは本当に若干正気を失っている。

 

真剣な目付きだが、その目は何処か虚ろだし、目の下には真っ黒なクマが出来ている。

 

それも仕方がない事なのだ、一昨日の嵐と満潮時が被ったことにより一時的に海面が上昇、島の九割が沈み、狭い陸地の中、一晩中、サメから逃げ回って夜を過ごしたのだから。

 

「…………」

 

ローズマリーは手足をプラプラさせ、調子を確かめるように爪先で地面を叩く。

 

それから一つ頷き、彼女こう呟いた。

 

「はは、ぜっこうちょう、よゆう、よゆう」

 

 

全然余裕じゃない。

 

 

お目々グルグル、掠れた声で繰り返し自分を鼓舞する呟きを漏らすローズマリー。この上彼女は全裸と来ている……その姿は明らかにヤバイ人だった。

 

可哀想な事に、どうやらサメの襲撃に頑丈な肉体は無事でも精神の方は参ってしまったらしい。

 

「できる」

 

「うん、だいじょぶ、できる」

 

「ちょーよゆう、しっぱいとか、ありえない、できてとうぜん」

 

そのまま、およそ10分間、ローズマリーは只管自分は出来るといい続けると。

 

「……………」

 

いきなり無言になった。

 

それからローズマリーは静かに、虚ろな瞳を一度閉じる。思い浮かべるのは島での日々と、大陸に居るテレサとヒステリアの顔。

 

それを思えばこんな所には居られない。

 

そしてローズマリーはカッと目を見開き、極限まで集中すると大地を蹴って駆け出した。

 

一歩、二歩、三歩、ローズマリーは百メートルを超える助走距離を数歩で潰し、加速すると、歩幅を合わせ砂浜へ。

 

そして、ドンッと、地を揺らしローズマリーが島から跳躍した。

 

「…………ッ」

 

ローズマリーが空を舞う。顔を叩く雨風に目を瞑りそうになるも、彼女は必死にそれを抑え、着地点の木材を視認、全身でバランスを取り、体重移動と風を利用し体勢を整えると、島から数百メートル離れた木材に。

 

見事、着地した。

 

それは尋常ならざる身体能力と運動センス、そして極限の集中力を併用してなした、正に神業だった。

 

「………フッ」

 

成功を確信したローズマリーが小さく笑みを浮かべる。そのまま彼女は全身で着地の衝撃を和らげ、次の跳躍に繋げる為、膝を曲げ、木材を蹴る。

 

そして、次の瞬間、ローズマリーが着地した木材が砕け散った。

 

「うぅえ!?」

 

ーーまあ、普通に考えれば分かる事だ。

 

数百メートルの跳躍から着地、更にその跳躍を成す脚力、それを連続で叩き込まれた、ただ木片が砕けないと思うだろうか? ……いや、思わない。

 

というか最初の投擲で海面に叩き付けられた時点で木材は半壊していた。

 

つまり、元から成功の可能性はゼロだったのだ。

 

「………あ」

 

走馬灯のようにスローになるローズマリーの視界。この頃良くなる感覚、それに嫌な予感がビンビンする。

 

すると、やはりと言うべきか、待ってましたと言わんばかりに側面から忍び寄っていた巨大サメが大口開けて突っ込んで来た。

 

ここでようやくローズマリーは正気を取り戻す。

 

だが、時既に遅し。

 

角度、速度、共に完璧。更に着地の衝撃から水没に掛けて最もローズマリーが対応し辛い最高のタイミング。それら全てが合わさった神業的狩猟。

 

これの前に正気の有無など無意味だ。

 

 

「………ま」

 

待って、とでも言おうとしたのか? ローズマリーの口から音が漏れ、それが意味を持つ前に、ローズマリーはサメの口の中に消えて逝った。

 

残念な事に同じ神業でもローズマリーと違い、サメは馬鹿な失敗をしないのである。

 

 

 

 

 

 

深淵の者、西のリフル、その進軍は組織にとって青天の霹靂だった。

 

何故なら組織はルシエラの死を知らない。その為、彼等は未だ三体の深淵が睨み合う構図が成り立っていると思っていたのだ。

 

「馬鹿な、なぜリフルが動く!?」

 

「とにかく伝令を急げ!」

 

「一桁ナンバーを全員召集させろ!」

 

「リフルの現在地はロートクレ!? ここから30kmもないぞ!?」

 

「戦力を集めろ! 訓練生でも構わん!」

 

組織の幹部達が焦ったように指示を出し、下級構成員が慌ただしく走り回る。

 

「…………」

 

「…………」

 

その彼等を無表情のリムトと楽しい気なダーエがそれぞれ眺めていた。

 

「……ダーエ」

 

「はい、なんですかリムト様」

 

「実験的に作り出した龍喰い……今は何体いる?」

 

「全部で四十体ですな、ただ、覚醒者を判別してそれを喰らうのが、その内のたったの五体だけ、残りは条件付けが中途半端でして龍喰い以外の妖気を持つ者を優先的に狙うような状態です」

 

「つまり、戦士、妖魔、覚醒者問わず襲い掛かるということか?」

 

「いえ、妖気を持つ者を優先的に狙うだけで、奴等の獲物には人も動物も含まれます」

 

ダーエの説明にリムトが舌打ちした。

 

「ち、殆どの個体は戦士との共闘は不可能、という事か……」

 

そこで一度リムトは黙る。彼は暫しの間、目を瞑るとダーエの語った言葉を噛み締め、今後のリスクと照らし合わせ、一つの決断をした。

 

「……………分かった。では今すぐ調整を終えた五体を除く全ての龍喰い共を解放しろ」

 

それは龍喰いの解放である。

 

「よろしいので? 下手をすれば各地に広がり人や召集中の戦士を襲う事になりますぞ?」

 

リムトの命令に本当に良いのか? とダーエが問う。

 

それはリムトを止めようとしている発言にも聞こえる。だが、そうではない。その証拠にダーエの口端は鋭く釣り上がっていた。

 

彼は龍喰いを試したくて仕方がなかったのだ。そして、ダーエは知っていたのだ今更何を言おうと、リムトが命令を取り消さない事を。

 

つまり、これは単なる確認に過ぎない、だからこその発言である。

 

「構わん、非常自体だ。組織がなくなっては元も子もない。今はリフルを追い返す事、あるいは手傷を負わせる事だけを考えろ」

 

「くっくっく、それは重畳……それでは解放前の調整がありますので私はこれで」

 

ダーエは愉快そうに笑う。と軽くリムトに一礼し軽い足取りで部屋を出て行った。

 

「……ふん、どこが重畳だ」

 

リムトは小さく吐き捨てると、下級構成員に今本部にいる戦士を集めるように指示を出した。

 

 

 

 

 

「んあ?」

 

それの接近に最初に気付いたのは意外な事にダフだった。

 

「りふる、だふる、なんかへんなようきが、ちかづいてねぇか?」

 

「あら、そうね、これは覚醒者の群れ?………いえ、ちょっとだけ……」

 

違うわね、とリフルが呟いた。

 

彼女は接近する者達の妖気に違和感を覚えた。覚醒者のソレに性質は近いのだが、どこか決定的に異なる、そんは言葉にし辛い違和感。

 

それに何かしら、と首を捻っていると、ダフの肩に乗るダフルがあっ、と声をあげた。

 

「あたし、このようきしってる」

 

「本当? どこで感じたの?」

 

「ねこさん、のあとにたたかったひとと、おんなじようき」

 

「猫さんの後? ………ああ、あいつか」

 

猫さんが、何を指すのか思い出したリフルはすぐにその存在に思い当たった。

 

「あいつって、だれだ?」

 

合点がいった様子のリフルにダフが問い掛ける。

 

「ほら前に話したでしょ、倒せたか分かんないって言ったあの戦士よ」

 

「………むねからしたが、けしとんだ、ってやつか?」

 

「そう、そいつよ。ダフあんたは念の為、覚醒体になりなさい、あり得ないと思うけどこいつらが全員あの戦士と同レベルだったらかなり厄介よ」

 

「わかった」

 

その言葉に答え、ダフは妖気を解放する。強大な妖気が空気を震わせ、ビキビキと音を鳴らしダフの筋肉が膨張していく。白かった肌色が黒く変色、金属のような光沢が走った。

 

「がへ」

 

現れたのは鋼の巨人、それがダフの覚醒体だった。

 

「……きた」

 

ダフが変じたのと、ほぼ同時に複数の人影がリフル達の前にやって来る。

 

「あら、少し見ない間に随分と戦士の格好が変わったわね」

 

それを見たリフルは苦笑し、組織と人影に対する皮肉を飛ばした。

 

人影は衣服を纏わぬ、男女が入り混じった集団だった。全体的に大柄な者が多いが、戦士と似た姿をしている。

 

だが、決定的に違うのはその腹部。半妖改造の折、痛々しいし手術痕を残す筈のそこが実に綺麗なものだった。

 

その痕は覚醒しない限り消えないにも関わらずだ。

 

「ギヒャ、ギャハハ」

 

リフル達を視認し、人影達ーー龍喰いが駆け出した。

 

その動きはかなり疾い。

 

龍喰い達は、その金眼を細め、凄惨な笑みを浮かべる。その口からは待ちきれないと言わんばかりに大量の涎が溢れていた。

 

龍喰い達はリフル達を敵とは思っていない。リフルが人を食料と認識しているように、彼等はリフル達をただの餌と考えているのだ。

 

「なるほど、組織は戦士じゃなく、人型の化物を作り始めたわけか……いや、あの戦士を見るにこいつらはアレの失敗作ってところね」

 

先手必勝、龍喰いが接近しきる前に、リフルは髪の一部を鋼の触手に変化させる。

 

そのまま、彼女は自身に駆け寄る龍喰いの一体にカウンターでそれを突き出した。

 

防御も回避も間に合わない。高速の刺突、それが、ずぶりと音を立てて龍喰いを貫いた。

 

突き刺したのは心臓。普通の戦士ならば致命傷。

 

しかし、龍喰いはそれを気にした様子もない。

 

「ギ…ヒャ」

 

それどころか龍喰いはミチミチと、傷口を広げるながら刺さった触手を撓ませると無理矢理自身の口元に引き寄せ、そしてかぶりついた。

 

ガジガジと噛み砕かれる触手。

 

「ちっ」

 

それにリフルは舌打ちし、別の触手を龍喰いに放つ。振るわれた触手は食べる事に夢中な龍喰いの頭部に直撃、その頭を半分に斬り分けた。

 

「ギ、ガ?」

 

鼻から上を失った龍喰いは何かを求めるように一歩、二歩歩くと、糸が切れた人形のようにバタリと地に倒れ伏した。

 

……死んだのである。

 

だが、リフル達に向かうのは今の一体だけではない。複数の龍喰いがリフル目掛け同時に飛び掛った。

 

「気持ち悪い……あたしの身体を汚さないでよね」

 

その龍喰い達を前に、リフルが髪全てを鋼の帯に変化させる。

 

そして、それを黒髪を龍喰い目掛け乱舞させた。

 

刃の群れと化した多数の触手が飛び掛った龍喰いを細切れにする。

 

スライスされた龍喰い達はその勢いを失いリフル達の手前でボトボトと地に落ちた。

 

しかし、頭を失った個体以外はたった数秒で完璧に身体を再生させ、再び飛び掛って来る。とんでもない再生能力だ。

 

「……面倒ね、ダフ、攻撃は上半身を狙いなさい、こいつら頭を潰さないと再生するわよ」

 

「りょうかい」

 

了承と共にダフはリフルの触手を掻い潜った一体にその拳を叩き込む。圧倒的パワーにより龍喰いの上半身が弾け飛んだ。

 

これはもう再生出来ない。

 

「よし、その調子よ、ダフルは……」

 

撃ち漏らしをお願い。

 

そう、リフルは指示を出そうとした。

 

だが、その前にダフルは動いていた。彼女は母と同じように、その黒髪を全てを帯状の触手に変化させる。ただし、その太さはリフルより細く、数は多い。

 

そして、ダフルはその触手を龍喰い達の突き放った。

 

閃光のように走った多数の触手が正確に龍喰いの頭を消し飛ばす。

 

本当に一瞬の出来事だった。

 

その一瞬で数十いた龍喰いが全滅した。

 

「…………」

 

「…………」

 

リフルとダフが唖然とした顔で自身の娘を見つめる。ダフルはその視線に、どうしたの? というように首を傾げた。

 

龍喰いは弱い敵ではなかった。むしろ並みの覚醒者より強い疾い。圧倒的再生能力も相まってリフルとダフだけでは苦戦したかもしれない程の戦闘力を持っていた。

 

しかし、ダフルの前では有象無象、取るに足らぬ雑魚の群れに過ぎなかったようだ。

 

「おわったよ、いこう、おかーさん、おとーさん」

 

固まる両親に、無邪気な笑顔でいうダフル。それに二人はハッとした。

 

「……そうね、行きましょう」

 

リフルがその声に応え、先へと進み。

 

「すごかったぞ、だふる」

 

ダフが良くやったと、ダフルを褒め、その指でダフルの小さな頭を撫でた。それにくすぐったそうにダフルは目を細める。

 

 

 

結局、龍喰い達がリフル達に与えたダメージはほぼゼロ、稼げた時間も数分に満たない僅かなものに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

組織の広間、そこに複数の戦士が集められていた。

 

そのメンバーは。

 

ナンバー1流麗のヒステリア。

 

ナンバー3鮮血のアガサ。

 

ナンバー10 ラキア。

 

ノーナンバー、訓練生のテレサ。

 

そして、無言で佇む、五体の龍喰いだ。

 

「……集まったか」

 

リムトが戦士達を前に話始めた。

 

「既に分かっていると思うが、現在、深淵の者、西のリフルがこの地に進軍している。お前達はこれの討伐、出来ねば追い返す事を命じる」

 

「質問しても良いかしら?」

 

リムトの言葉に一早く口を開いたのはヒステリアだ。

 

「なんだ?」

 

「……メンバーはこれだけなの?」

 

彼女は難しい顔でリムトに問い掛ける。それに対するリムトの返答は。

 

「そうだ」

 

の、一言だった。

 

「…………」

 

これにヒステリアが黙る。それからしばらく部屋に沈黙が訪れた。

 

「……質問はそれだけか?」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

その言葉を受けて、アガサが慌てたように声をあげた。

 

「なんだ、アガサ」

 

「め、メンバーは本当にこれだけなの!? ならいくら何でも無茶です、相手は深淵、しかも他に二つも大きな妖気を感じるんですよ!?」

 

「問題ない、お前は知らなかっただろうが、そこの五人は全員が一桁ナンバー相当の実力を持っている………ローズマリーの出来損ないと言えば意味が分かるか?」

 

そのリムトの説明に。

 

「ッ! そういう事……通りで」

 

「…げぇ!?」

 

「…………」

 

「…………」

 

ヒステリアが息を飲みそして納得、アガサが引き攣った顔で呻き固まる。テレサとラキアは無言、一人は理由が分からず、もう一人は敢えてなにも言わなかった。

 

「それと、ナンバー10のラキアも故あってこのナンバーであるだけで本来は一桁上位でもおかしくない実力者、そして、そこの訓練生のテレサはローズマリーやヒステリアに匹敵する力を持つと言われている」

 

「………ローズマリーとヒステリアに匹敵ィ?」

 

リムトの言葉にアガサが再起動。

 

何言ってんだコイツという目でリムトを見た後、視線をテレサに向けた。その視線にテレサが笑みを返す。

 

それにアガサが顔を顰めた。

 

「……いや、あり得ませんから、こんな訓練生がナンバー1クラスの力を持つわけないでしょう!?」

 

「……なんであなたにそんな事が分かるの?」

 

あり得ないと断じたアガサにテレサが抗議する。

 

「シャラップ! 実践経験もないガキンチョは口を挟まないで、今、私は長と話してるの!」

 

「……むぅ」

 

自身の言葉を聞かないアガサをテレサが睨んだ。だが、そのテレサの視線をアガサは無視、彼女はただただリムトに無理だ無茶だと喚いていた。

 

 

 

アガサの人生の中でも割と大きな死亡フラグを踏んだ瞬間である。

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ、誰が誰と戦うか決めましょうか」

 

そう、ヒステリアが言った。

 

「はい! 私は深淵以外が良いです!」

 

ヒステリアの言葉にアガサが即座に反応、リフル以外の希望届けを提出。

 

「とりあえず保留ね、テレサは誰と誰が戦った方が良いと思う?」

 

ヒステリアはその届け出を素気無く横に置き、先ずはテレサに問い掛けた。

 

「聞いといて酷い! てか、なんで最初がソイツなの!?」

 

自分の希望をあっさり流したヒステリアにアガサが抗議を入れ、そして、いの一番にテレサの意見を求めた彼女に疑問を浮かべた。

 

普通、ここはヒステリアが意見を言ってから他の意見を聞くべきなのでは? と。

 

「なんでって……このメンバーで一番強いからよ」

 

そんなアガサに、嫌そうな顔で、だが、ヒステリアはしっかりとテレサの強さが自分以上と断言した。

 

「……はい? 一番強い?」

 

だが、はっきり言われた言葉の意味がアガサには分からなかった。

 

そして、アガサは、一番強い…一番強い…一番強い……と、ヒステリアが言った言葉を下を向いて繰り返し呟く。

 

それからおよそ十数秒、アガサはゆっくり顔をあげると、その顔に絶望を滲ませラキアの方を見て言った。

 

 

 

「ラキア、どうしよう恐怖か何かでヒステリアが壊れちゃった!」

 

「深淵の前にあなたから斬り刻むわよ」

 

青筋を浮かべ、大剣の柄を握るヒステリア。

 

「ちょ、嘘です嘘です、ごめんなさい! 場を和ませるちょっとしたジョークです」

 

そんな、今にも斬り掛からんとするヒステリアを見て慌てアガサが謝った。

 

「…………まあ、良いわ。それでテレサはどう思う?」

 

はぁ、と深い溜息を吐くと、改めてヒステリアはテレサに意見を求めた。

 

「……そうだね」

 

それにテレサは珍しく難しい顔を浮かべ、しばらく考え悩む……自分にそれが可能か不可能かを。

 

「……………」

 

そして、考え抜いた末、彼女は自分の意見を口にした。

 

「……深淵をヒステリアさんとラキアさん、一番弱そうなのをアガサ……そこの五人は指示が効くか分からないから保留、そして私は………残り一人の相手をする。これが良いと思う」

 

テレサのメンバー決定にヒステリアが意外そうな顔をした。

 

「へぇ、てっきり自分が深淵をやるって言うかと思ったわ、それはつまり、あなたが速攻で一体を倒して、その後、他の救援に向かう……という事かしら?」

 

「………うん、そうだよ」

 

ヒステリアの言葉に、やはりどこか歯切れが悪い風に答える。

 

「ん?」

 

そんな割と物事をはっきり言うテレサらしからぬ態度にヒステリアが首を捻る。

 

 

 

結局、ヒステリアがテレサの態度に納得したのはリフル達が襲来してからの事だった。

 

 

 

 

 




龍喰いさんは犠牲となったのだ、ダフルのチート具合、それを読者様に伝える、その為の犠牲にな

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。