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音無ネコがまた倒れた。大規模侵攻後の退院から3週間も経っていなかった。入院した際の病院からの情報だと精神的疲労による頭痛という事だった。
病院では3日ほど寝たきりだったがそれ以外に異常は診られなかったという。しかも、その後は至って健康。病院側としても問題がない人を患者とは呼べず退院となった。
その音無ネコが再び倒れた。原因が彼のサイドエフェクトであろうことはほぼ間違いないだろうと思われていた。幸いな事に今回の彼は数十分後と、割りと早くに目覚めた。精密検査を次の日の早朝に予定し、結果は何で倒れてないのか不思議な身体だった。そんな本人自身もいつもの笑顔の感情は薄く、無表情に近い顔になっていた。無理をしてるのは明白だった。
音無ネコのサイドエフェクトはかなり使える。トリオンに作用させる系統の能力なのは見聞きしていればすぐ分かる。開発室のチーフエンジニアである寺島雷蔵からの報告書からもよく分かる。ただ、音無ネコ本人への負担が計り知れない。最悪死ぬ事も視野に入れなければならない。
迅は音無ネコが倒れた事により、再び音無ネコの少し先の未来が視えた。だから未来に従って上層部に対し告げる。
―――本人に聞けば答えは返ってくる。
迅はあくまでもネコに言ったとおり、迅の口からネコのサイドエフェクトをバラす事はしなかった。基本的にネコがはっちゃけた結果や、自分の口から言った事でバレて行ったことである。
そして、上層部はこの翌日に音無ネコのサイドエフェクトを知る事になる。
◇ ◇ ◇
上層部は玉狛支部に預けてある捕虜。ヒュースへの
「ふむ、一つ心配事が減ったな」
「全く、心配させおって……」
「いや、まだ予断を許せない状況ですよ。これ以上悪化しないようにしなければ保護者の方にも報道にも対応は難しいですからね」
城戸、鬼怒田、根付は口を揃えるが、それは三雲修らにも聞こえていた。
「どうしたんだ?」
「お前達には言ってなかったが、ネコが昨日の試合後に倒れた。今回はすぐに目覚めたから大丈夫だと思ったんだが、状態は良くない」
「音無先輩がまた倒れたんですか!?」
三雲修と空閑遊真は林藤から聞いてしまった内容につい声を出してしまう。加えてヒュースも少しばかり表情を変える。サイドエフェクトで城戸へ心音による感情の変化を伝えるために同席していた菊地原士郎は自身も音無ネコが倒れたという内容に驚きつつもヒュースの変化を城戸に伝える。
『……少し乱れました。このネイバーはネコにある程度心を許してるかもしれません』
「……君は音無ネコを知っているか?」
「……食事を提供してもらった事がある。アイツは無事なのか?」
「彼は今後のこちらの対応次第だが、とりあえず大丈夫だ」
「……嘘は言ってないか」
嘘を見抜くサイドエフェクトを持つ空閑遊真は城戸の言葉にとりあえずの納得を見せる。その後、再度の確認事項を数点行いヒュースへの尋問は終わり、解散となった。
鬼怒田は空閑を連れて開発室へ向かう途中に口を開く。
「本当なら音無に依頼するところだったんだが、あの状態ではな……」
「ネコ先輩のサイドエフェクトか……」
「それに、嘘を見抜くという点に於いてはお前の方が向いているらしいしな。迅が音無ではなくお前を推す訳が、音無が再度倒れた今分かるとはな」
◇ ◇ ◇
「では、予定通り音無には伝えないという事でよろしいですね」
ボーダーの本部長という役職に就いている忍田真史はヒュースらの退室を見送り、残った城戸と根付がいる部屋で音無ネコに『エネドラが
「そうだな。あの子は他を助ける気持ちばかりが先行してしまい自分を蔑ろにしてしまいがちだ。今はまだ情報を与えない方が体調も立て直しやすいだろう。メディア対策室長」
「分かっています。音無君への情報規制ですね。関係の無い雑誌の記事などで対応させましょう」
話をまとめていき、夕方頃になると再度上層部で集まり音無ネコは呼ばれるのだった。騙しのサイドエフェクトの説明。それを使わない状態でのトリオン能力の計測。トリオン体状態での栄養剤などの服用などが行われていく。
◆ ◆ ◆
音無ネコは精神にも異常をきたしている傾向が診られる。味覚が無かった期間があったらしいが、精神的なものと思われる。頭痛も精神性のものかもしれないが、それらを踏まえて、今回は通常の精密検査の他にいくつかの診断テストを行った。
奉仕者、自己犠牲タイプ。よく言えば他者を助けるのに生き甲斐を感じるタイプと言えるが、悪い面を挙げると、自分の事は二の次。他者から与えられる事は自分の価値観を失わせる事の様に感じ恐れる傾向にある。また、行き過ぎれば与えた事に対して望んだ答えが返ってこない場合、更にストレスを抱える状態になり更なる悪循環を生みかねない。
【音無ネコに関する報告書より一部抜粋】
◆ ◆ ◆
◇ ◇ ◇
【悲報】ネコがまた倒れたらしいんだが……part.1
『マジかー( ´・д・)』
『試合後だろ? 何で倒れたん? 病気とか聞いた事ないんだけど』
『ネコ自身に病気はないらしいよ。でもちょっと前から『アイツ大丈夫か?』的な感じで言われてるってウチのオペが言ってた』
『オペも又聞きかよ。病気ないなら大丈夫って何がよ? kwsk』
『有名なのは頭痛かなぁ』
『噂になってるのは鼻血が赤黒いので出てくる・味覚障害とかかな』
『え、それで病気じゃないとか……』
『入院して治ったけど再発したってこと?』
『おい! 味覚障害はKさんのチャーハンの所為だろ!!』
『いえ、ネコ先輩は大丈夫なチャーハンしか食べてないですよ』
『双葉ちゃんがネコスレに降臨した!!』
『この前のネコ写真うpあざーっす』
『大規模侵攻の時に入院したじゃん? 健康そのものだったんだってさ』
『それが3週間ぐらいで倒れるほど悪化するって何? 怖いんだけど』
『通りすがりの実力派エリートに言わせてもらうと、サイドエフェクトの所為なんだわ』
『元S級さんちーっす。どういうことっすか?』
『自分にも強い影響出ちゃうみたいなんだよね。結果だけ言うと防衛任務とかランク戦とかは少しの間様子見で出られない』
『え、じゃあ本部行ってもネコと戦えないのか……』
『自重しろダンガー』
『モチバカ……』
『昨日もぬるい解説しやがって』
『あ! スーツさんは実際に戦ってますよね!? 試合後何があったんすか?』
◇ ◇ ◇
夢を見ていた……。
意地悪そうな大人が俺に向かって馬鹿にするように諦めろって言うんだ。それが悔しくて俺は叫んだんだ。
(出来らぁっ! 1対1ならボーダー全員と戦っても誰にも負けないって言ってんだよ!)
『……こりゃあどうしてもボーダーの全員と1対1で戦って勝ってもらおうじゃないか』
(え!? 1対1で全員と!?)
そして、目が覚める。うぅ、色々と痛い。頭に身体の中が痛い。何で痛いんだっけ……あれ、ここはどこだ? 夢の内容は何となく覚えてる。『ボーダー』とか専門用語が出てたけど、組織的な名前に感じた。あ、ヤバイ自分の名前以外思い出せない。枕元にあったスマホを手に取ると自分のモノのようで、指紋認証後に操作できるようになった。さて、何か情報を……と思ったとき、何も思い出せないままにスマホが着信を告げた。
さて、このトリオン体という姿でいるのが本当に楽だ。完全とは言えないが、痛みとかがほぼ無い状態になる。たまに頭が痛い気がするけど、まぁ大丈夫だ。まぁそんな事はどうでもいいんだ。問題は他にある。
「倒れたとは聞いたが……大丈夫なのか?」
「え、あ、はい。さっき鬼怒田さんって人に
「蛍光緑の栄養ドリンクって……無理すんなよ?」
「ネコの手も借りたいとは思ってたけど、ネコは気楽にやっていいから」
嵐山隊作戦室という部屋に来ていた。そこには書類の山が出来ていて、その仕分けとかでこの人たちは大忙しのようだ。
「ネコ先輩大丈夫なんですか?」
「へ、あ、み、見ての通りだよ」
「じゃあ駄目じゃないですか」
「マジかぁ……」
駄目に見えるのか。駄目かー。何とか行けると思うんだけどなぁ。まぁ普段の俺のことを知ってる人からすると駄目なんだろう。とりあえず何をするのか分からないけど、問題はそこじゃない。
問題は俺自身の名前以外がほとんど分からないという事だ。朝起きたら電話が鳴って、いきなりうるさいオジサンから怒られるように「学校は休みにしたんだろ!? 早く本部に来い!」と言われる。ズキズキガンガンする頭と身体でスマホを色々弄っていると、本部とはボーダーと言う建物の事だと分かり、何とかMAP検索で辿り着いた。で、正面玄関から入ると「え、何でこっち側から来るんですか?」と目の前にいる赤いジャージっぽい姿の可愛い子に言われた。口は少し棘があるが親しみも感じる辺り、知り合いなのは間違いないだろう。周囲からキトラとかアイちゃんとか呼ばれてるからキトラと呼べばいいか。
そして「か、開発室に用があるんだ」と言うと、キトラが「……もしかしてこっち側から入ってきたから分からないとか言うんじゃないですよね?」と言うので、俺は恥を忍んで「あ、案内してくれる?」と言えば、開発室まで連れてきてくれた。途中で何度も「ここまでくれば分かりますよね?」「え、まだ分かりませんか?」「からかってます?」等と言われもしたが、そこはほら、分かんないんだからしょうがない。最後には「もう開発室まで来ちゃったじゃないですか! こっちだって暇じゃないんですから!」と言われるが、本当に助かった。
部屋に入れば鬼怒田さんという小さいおじさんに捕まり奥の部屋へ連行され「何故トリガーを起動していない!? 早くトリガーを起動しろ!」とか言われるの。イミワカンナイ。でも荷物として持ってきてたトリガーって物を言われるがままに起動するとあら不思議、痛みと言う痛みが殆ど吹っ飛んだ。更に何かの危ない色の不味そうに見える美味しい液体を飲まされれば更に楽になった感じがした。これを何日間か続けるらしい。
開発室でその後も「ここを歩け」「痛みとかはあるか」等の質問を答え、「じゃあ嵐山隊で仕事して来い」となった。嵐山隊ってどこだよ? そう思って開発室を出るとさっきのキトラって子が待ち構えてた。この子も嵐山隊なんだってさ。遅いから迎えに来たんだそうな。
さて、話は現場である嵐山隊に戻る。
何だか分からないけど何でもやるぞー。と、思ったら綾辻さんという綺麗な人に手招きされてソファーに座らされた。
「まずはネコ君の持ってきてくれたどら焼きを食べよう」
「あ、はい」
「私お茶入れます」
俺の家にはいくつかの菓子折りがあった。そこから適当に持ってきてみたけど、持ってきて正解だったようだ。菓子折りをいくつも用意してるって事は俺は何度も何度も迷惑をかけて謝る為に菓子折りを常時切らさぬ様にしているのだろうか? でもそれにしては扱いが優しい気がする。(またお前か!)みたいな扱いではない。菓子折りが多いのは何でだろうか? 貰い物だったら食べてると思うんだよな……。
お茶を頂きながらお仕事の話になる。本日のお仕事はご覧の有様となっている山積みの書類整理がメイン。しかし俺がその書類に触れることは無く……。
「ネコ君は俺たちの代わりに綾辻と一緒に雑誌の取材を受けてきて欲しい」
「あるぇ? え、こんなに仕事あるのに雑誌の取材もあるんですか?」
「さぁそろそろ行くよーネコ君」
「終わった頃に三雲くんも来る予定だからな。賢はスナイパー訓練だろ」
「おっと、時間か。準備して俺も行きます」
いつの間にやらどら焼きを2つ食べ終わっていた綾辻さんに言われ、俺は嵐山隊を出た。ミクモ君って誰だろう? ケンというのが今準備を始めた奴か。同い年ぐらいだろうか?
(なんか、今日のネコ先輩おかしくなかったですか? 来た時なんて正面玄関から入ってきて、開発室の場所も分からなかったんですよ)
(開発室って一番行き慣れてるんじゃないか? 確かにおかしいな)
(多分、記憶に異常があると思う)
(どういうことだ充)
(自分の状況や他人の関係性を探ってるような感じでした。鬼怒田さんのことも「鬼怒田さん
(あ、確かに……今日は私の事も挑発してなかったかも知れません。いつも以上に腰が引けてたというか……)
(え、もしかして記憶喪失ってやつ?)
(まだ分からないですけど、戻ってきた時に大丈夫だったにしても、念の為に報告は挙げておいた方が良いかも知れません)
(そうだな。充の言うとおりだ)
綾辻さんの後ろを付いて行き、着いた部屋には誰も居なかった。綾辻さんは「ここで待っててね」と言うと、雑誌記者の人を迎えに行ってしまった。
「ふぅ……綺麗な人だなー」
椅子に座ってそんな事を口からもらす。部屋の隅にあるお茶を淹れる場所を見て何気なく、人数分のお茶を用意しようとすぐさま立ち上がり、お茶を淹れているとフラッシュバックが起こった。
「あ……前にもここで取材をして……確か嵐山さん達と、皆で写真も撮って……ぁ、あぁ……うん、あぁ……そうだ」
そこからはとんとん拍子で思い出していった。今日、何で開発室で奇妙な色の栄養剤を飲んで今ここにいるのかという理由まで思い出すと、記憶が戻った事にホッとしつつも、やばいんじゃないだろうかとも思ってしまう。
記憶が飛ぶのは異常だ。何度かあったことだけど、今回は一番長く記憶無かったみたいだし正直ヤバイ。身体が痛いならまだ大丈夫だ。身体の中が痛いのとかはヤバイ気がする。でも、記憶喪失なんてドラマとか漫画でしか見たことの無い状況が俺に降りかかるのはヤバイ。
おっと、いけない。落ち着け、検査してくれてた人も言ってたけど、抱え込むのは更にヤバイ。悪いことばかり考えると精神的に悪化する可能性もあるだろうから、身近な人に報告・連絡・相談はこまめに行うようにって言われた気がする。親にももちろん連絡行ってるけど、俺からは大丈夫とだけしか伝えてない。これ以上親に連絡が行けばボーダーを辞めさせられるかもしれない。ならば
城戸さん、怖い。忍田さん、忙しそう。鬼怒田さん、うるさく言われそう。根付さん、好きじゃない。唐沢さん、ラグビーやらされそう。まったく! 上層部は駄目だな!! じゃあもう先輩隊員さん達しかいないじゃないか!
と、ノックと共に綾辻さんが記者さんを連れて戻って来た。
「あ、お茶淹れてくれてるの?」
「久しぶりネコ君」
「あ、どうも」
この前と同じ記者さんだった。
まずはボーダーの食堂、好きなメニューという軽い内容からだった。ICレコーダーを用意すると取材は始まった。
「この前は他のメンバーには聞いたから、綾辻さんから聞こうかしら」
「そうですねー。デザートとか甘いものが好きですね。食堂でもついつい頼んじゃいます。あ、今日もネコ君がどら焼きを持ってきてくれて皆で食べてたんですよ」
「やっぱ気が利く子はポイント高いわー。ネコ君は?」
「最近は食欲無いんですけど……あ、この前テレビで見たんですけど、マグロのカツ丼が食べたいです。ここの食堂にあればなー……。」
「確かボーダーの食堂ってリクエスト出来るんじゃなった?」
「え、そうなんですか?」
実際にメニューに載るかは別の話だが、リクエスト出来るらしい。知らんかった。取材終わったら食堂に行ってリクエストしてみよう。
「―――じゃあ次ね。自分では料理するの?」
「私はお母さんの手伝いとかでやりますね。手の込んだものはレシピがないと難しいですけど、簡単なものなら作れるようになって来てますね。ネコ君は?」
「俺は、一人暮らしなので、困らない程度のモノは作れると思います。たまに母さんにメールでレシピもらったりします。でも毎日は無理っすわー」
何気ない質問の最中の写真や、綾辻さんと休憩中に談笑してる時の写真を撮られつつ、記者さんは帰っていった。
マグロカツ丼をリクエストしようと思い綾辻さんに告げると、一緒に来てくれた。カツにしてはヘルシーそうだし、女子受けも良さそうとのことだ。
リクエストを伝えると、実際にその場で作り方を検索して試作品となるマグロのカツを作ってくれた。ただのソースではなく、めんつゆを主に使った様なあっさり目のタレをかけていざ試食。
「これ、いけるね。マグロカツ丼とマグロカツ御膳でメニューに入れるか検討させてもらうよ。多分明日か明後日には決まってるだろうけどね」
「あっさりしてるのに食べ応えあるね」
「あぁおいふぃ……ふぅ満足した。もういいや」
綾辻さんに「早い早い」と突っ込みをもらいつつ、メニューに加わる事を喜びつつ嵐山隊に戻ることにした。
戻るとそこには三雲君が居て、綾辻さんとはじめましての挨拶から、俺を見たと思ったら「大丈夫なんですか!?」何て言ってくれるの。良い子良い子。
「今はだいじょばないけど、その内大丈夫になると思うから」
「何ですかだいじょばないって」
木虎は黙ってろよー。と、木虎と目が合うと拳が握られた。俺は綾辻さんの後ろに隠れた。な、なんだよー、や、やらねーぞーおらー。
「え、何? ネコ君どうしたの?」
「大丈夫なんじゃないか? 木虎から逃げたみたいだしいつものネコ君だろ」
「はい、多分。ネコ」
「ん? 何とっきー」
「記憶戻った?」
「ばっ……な、なんの話しですかー先輩ィ~?」
「嘘が雑すぎませんか……?」
「そこもネコ君のいいところだよー」
何だか心配も掛けてたらしい。申し訳ない。簡易的な報告書を上に挙げたらしい。マジかー……。
三雲君は射撃を習いに来ていたらしい。どら焼きも被って持ってきたらしい。本当に俺は邪魔しかしないなー。玉狛との初戦もそうだった。手伝うってつもりだったのに邪魔しちゃってたし、何だかやる事全部が悪……いやいや駄目だ駄目だ。プラスに考えよう。どら焼きいっぱい食べれて幸せな隊が一つ出来たと考えよう。
俺は嵐山隊を後にすると個人ランクのホールに向かっていた。戦うわけでもないのだが、誰かいるかなーぐらいの感覚だ。すると、見覚えがないからC級の人だと思うのだが、焦って逃げる様に二人が私服姿で駆け抜けてくる。
「やっぱ普通じゃないってアイツ!」
「なんだよあの狂犬!!」
そんな言葉を言い合いつつ、二人は俺の横を通り過ぎて行った。何だろう? 狂犬? っと、自販機だ。ココア片手に観戦して帰るか。
恐らく今の二人は個人戦をやってめちゃ強い人にやられたとか……いや、C級ならB級以上の人とはやれないか。じゃあ何だったんだ? ココアの缶を自販機から取り出し、(まぁいっか)と気持ちを切り替えて再度ホールへ向かおうとすると、曲がり角で人とぶつかった。
「あ、ごめんなさ、ひっ」
「ア゛?」
あ、めちゃ怖い人……口もまるで牙の様である。なんだよーカトリンといい、この人といい、ぶつかったら怖い目に合うのやだよー。ココアでも和んでくれなさそうじゃないかー……あ、カトリンも和んで無かったかも。
そんな人が両手を上げる。肉食獣が目の前の獲物を狩り取ろうとする様に一歩、その足を進める。それだけで俺は短く「ひぇっ」ともらした。えぇ、ビビッてます。そして、俺も自然と一歩後ずさった瞬間、獣の脚力は爆発した。
「ガァァァァァァァァッ!!」
「ギャーーーーーーーッ!!」
こうして、俺と肉食獣の追い駆けっこが始まった。
<本編に関係ない上に絶対に繋がりもしないおまけの話>
◇ ◇ ◇
綾辻 遥は基本的に冷静である。
だが、最近の彼女は冷静でありつつも優越感を覚えている。
それはある人物の冗談の様な些細な一言だった。
仮にそれを他の人間が言おうが優越感には繋がり難かっただろうが、
言った人物が人気だった事も大きいだろう。
彼女は、今日も自分で立ち上げた過去スレッドを開く。
【ネコ君が私のことを大好きと言った件】
『詳しく』
『はよ』
『あくしろよ』
『ネコ君がチームランク戦に出るにあたってオペレーターを探してた→声を掛けオペレーターを紹介する→大好きと告白される→スレを立ち上げる←今ココ』
『はい冗談冗談』
『はい解散解散』
『審議中……』
『確か今回レンタルされたオペって、宇井ちゃんじゃない?』
『それを紹介したって事は……』
『綾辻だー!! 綾辻がネコに告白されたぞー!!』
『おい止めとけよ、本人だったら今頃顔真っ赤にしてんだから』
確かにそれを見た瞬間に彼女の顔は真っ赤に染まっていた。決して恋愛ではなく茶化された事に寄る自然な反応だった。でもすぐさまそれは彼女にとって優越感に変わった。
『羨ましい……』
『何で私に頼みに来ない? (´・ω・)』
『こんな事ならこっちから声を掛けておけば……その日は防衛任務だったけどね!』
それ以降、綾辻 遥は優越感を覚えていった。
だから、少しだけヤキモチを焼くこともある。倒れた次の日、また一つのスレッドが立ち上がっていた。
【悲報】ネコがまた倒れたらしいんだが……part.2
『今日の夜、家族で駅前にいたんですが、ネコ先輩と熊谷先輩が一緒にうどん屋さんから出てきました。他には誰もおらず二人きりだったようです。二人は付き合っているのでしょうか?』
『あー仲は良いよね。付き合ってるとしたら身長差カップルだな』
『本人ですネコさんとは付き合ってません』
『嘘乙w』
『玉狛のオペレーターが通りますよっと。信じる信じないは別として、ネコ君は誰とも付き合ってる様子はないね』
綾辻は自然と書き込みをしていた。自分が綾辻遥だとバレない様に注意しながら。
『ネコ君は嵐山隊のオペレーターに告白したんじゃなったっけ?』
その書き込みに対し、すぐに返事が入る。
『綾辻本人が来たぞー!』
『綾辻さんを『嵐山隊のオペレーター』って回りくどい言い方する人は、まぁいないね』
しまったと思った時には既に遅かった。
そして、彼女は一人ネコを思い出すたびに考えるようになる。これは恋なのだろうか。
そして、彼女は何度も同じ答えを出す。『違う』と。
そして、彼女は何度も同じ自問自答を繰り返す。
その答えが『YES』になった時、彼女は自問自答を繰り返し続けるのだろうか。
それは本人にしか分からない。
◇ ◇ ◇
<念のため、もう一度だけ。本編と絶対に繋がらないからね?>
◆ネコの見る夢
「出来らぁっ!!」
なお、今は出来ない模様
◇記憶を失ったネコ
大丈夫です。嵐山隊から報告が上がってます。ネコは後で問い詰められます。
◆マグロカツ丼
「マグロのカツの丼やで、ウマくないわけがないやろ!」
……って生駒っちが言う未来が視えた。(ボリボリ)
◇ネコと影浦の初対面
「た、たべないでくださーい!!」
「食べないよ!?」
というフレンズ的な感じだと思っていい。(ぉぃ)