ねこだまし!   作:絡操武者

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2ヶ月強になってしまいましたか。大変長らくお待たせいたしております。

エタるとか言うんでしたっけ? エタってませんので引き続きよろしくお願い致します。

お気に入り件数1760件。ありがとうございます。
感想133件。本当にありがとうございます。

もう今年も終わりですね。良いお年をというタイミングでの投稿になります。




38 ネコ屋敷

 

「ふぅ……OK何とか形になったよ。ありがとね」

「いえいえ。楽しみにしてますね明日の昼の部」

 

 弧月を逆手に持つクマちゃん先輩は弧月をしまい、俺はレイガストをしまって訓練室を後にした。クマちゃん先輩と模擬戦をしたのは1時間ほどだっただろうか。遊真と当たった時は相性が悪いから多分勝てないと思う。そう伝えたけど、もし村上先輩と戦う事になった場合、上手くいけば最低でも片腕は取れる……かもしれない技を伝えた。

 

「ネコも夜の部、わけわかんないけど頑張ってね」

「はいっす」

 

「じゃあまた後でね」

「……はいっす」

 

「アンタが呼んだんでしょうが」

「そうでした!」

 

 

 

 そんな昨日の出来事を思い出しつつ。俺はラウンジでココアを用意して開始を待っていた。ここで見るのは初めてなんだけど、解説とかは聞こえるし周囲の雑音も気にしなくて良さそうなので、入ってみた。

 今日の実況はみかみか。解説は迅さんと太刀川さんだ。席は続々と埋まっていくが、やはりC級隊員が目立つ。勉強熱心である。

 

「お、ネコじゃん」

「いずみん先輩……と、二宮さん。今日はよろしくです」

「……手加減があると思うなよ?」

 

 逆にこっちがただビビッてるだけだと思わないで下さいよ? 蓮さんと話し合いをして『襲う』事に対してはそんなに抵抗感はないし、ネイバー役として殲滅してやるけんね? 囲まれたら負けるかもしれないけど、まぁそれは夜の部の本番次第だ。

 

「どの隊を見に来たんですか?」

「俺らは太刀川さんの解説メインだな」

「あまり期待はしてないがな」

 

 ポイントまでは知らないけど、個人のランクだったら太刀川さんが1位、そして、このスタイリッシュ二宮さんが2位って聞いた事がある。ライバル視でもしてるのかもしれない。

 

「お前は玉狛を見に来たのか?」

「玉狛は2割ぐらいですかねー。今日は主に那須隊を見に来ました」

 

 

 そうこう話している内に試合は始まった。MAPは『河川敷A』天候は『暴風雨』である。俺が選ぶときは基本的に晴れしか選ばないので、これをやられたら困惑するだろう。しっかし……ずぶ濡れになるからこんな中で戦いたくないなー。

 

 見事にバラけた各隊員達。合流を優先したいのだが、激流となっている川を各隊で挟んでいる状態では橋を渡るしかない。……ふーん、そうか。クマちゃん先輩は変化がほしいからメテオラの練習も多少してはいたけど、村上先輩と絶対に戦闘するというわけでもない。橋を落とすためのメテオラでもあるわけか。那須先輩もメテオラ持ってるし、日浦ちゃんも持ってるのだろう。誰が橋に一番早く着いても、村上先輩と遊真を戦わせてしまえばいい。その状況を作れるならいつでも橋を落とすって考え方か。

 

 一番早く橋に辿り着いたのはクマちゃん先輩だ。逆サイドにいる那須先輩の下へ日浦ちゃんと向かい橋を落とせば理想の形になる。それが叶えば来馬隊の隊長とスナイパー。玉狛の三雲君と千佳ちゃんだけになる。

 

「那須隊いい形だなー日浦ちゃんの位置だけが惜しいけど」

「那須隊の勝ちか村上がどこまで粘れるかだな」

「いずみん先輩の言う通り、日浦ちゃんが間に合いませんねー。それに橋は先に落とされるかなー」

 

 俺の声に反応したいずみん先輩の疑問の声と同時に逆サイドから砲光と砲声が上がる。橋は爆音とともに崩れ落ちた。

 

「流石は千佳ちゃん、いい仕事するわー」

「はっはー相変わらずギャグみたいな威力だな」

「ふん……」

 

 橋の前で相対する形で睨み合うクマちゃん先輩、村上先輩、遊真。狙撃位置でタイミングを計る日浦ちゃん。アタッカー3人の戦いで狙撃のタイミングは複雑化する。この流れの鍵は日浦ちゃんだろう―――。

 

 

 

 

 

<どぅわあああ~!! やっぱりダメでしたあああ~!!>

 

 寒いからおでん。そんな思惑の買い物を済ませて帰ってくると、那須家からそんな声が外に響いてきた。……俺に出来る事ないしなーと思いつつも何か出来ないかと考えてしまう。そして、おでんの材料の入った袋を見やる。

 

「これじゃあ少ないよねー……もう一回買い物行くか~」

 

『那須隊の皆さんへ。寒空に響く泣き声を聞きつけてネコは考えました。温かいおでんでも食べて落ち着きませんか? 18:00には熱々おでんが振る舞えます。  ネコ』

 

 これで良し。那須先輩にメールを送って俺は再び買い物に出かける。こっちから誘うなんて今回だけですからね? まったくもー。

 事前に来るという返答を貰い、準備を進めて、クマちゃん先輩との模擬戦に出かけて、戻ってきてと忙しかったが、予定していた時間より早めに那須隊は集合した。

 

「泣き止んでるじゃん! じゃあおでんいらないね!」

「いりますよ! 気持ち切り替えたんですよ!」

 

(ネコ、ありがとね。切り替えたって言ってるけど、まだ落ち着ききってないからさ)

(今回は気にしないで下さい。自分で言い出したことですから。今回は気にしないで下さい)

(次回もよろしくお願いねネコ君)

 

 こっちが先手を打ってるんだから後の先を打たないでくださいよ! 人の話を聞きなさいよ!

 

「そ、そういえば、『にゃんこ』と『ちゃんこ』は響きが似てますよね?」

「小夜は落ち着きなさいな。『にゃんこ鍋』は見たくないでしょ? はいお皿用意して」

 

 会話に無理矢理参加してきた鉄砲玉の様な小夜をクマちゃん先輩が落ち着かせ、おでんを皆で仕上げ、前と同じ茶飯でのほほんとした晩御飯となった。

 その後、俺は少し開発室に用があって本部に行っていた。帰る頃にはもう就寝時間。家に辿り着いてふと笑い声が聞こえたと思い、那須家を見上げると少々騒がしかった。頑張ってほしいなぁ。頑張ってほしい。

 

 

 

 

 

 ―――試合は動く。遊真の片腕がほぼ機能を失ったタイミングで日浦ちゃんが狙い撃ったが、ミスした。いや、遊真の反応とグラスホッパーが組み合わさると狙撃は中々利き辛い。位置の割れたスナイパーは浮いた駒だ。仮に俺が日浦ちゃんの立場なら、遊真の戦闘力も知ってるしベイルアウトを選ぶ。しかし、日浦ちゃんは迎え撃つことにした。

 メテオラも目くらましに使い、迎えて一撃で確実に仕留める為にアイビスに切り替えるが、遊真が機能を失っていた片腕を囮に使った為か、日浦ちゃんはベイルアウトしていった。

 

「……まぁいい感じだったな」

「そっすね……。でもクマちゃん先輩がいますから」

「熊谷が村上に勝てると思ってるのか?」

 

「勝てるかもしれませんよー? イチオシです!」

「お、何か知ってんのか?」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

『村上先輩ってレイガストの使い方が上手で、アタッカーと戦う時は必ずと言っていいほど形状変化させるんですよ。特に弧月の時にはこんな感じの形に』

『まぁ、それは見たことあるけど』

 

 ネコはそう言って私にレイガストの形状変化を見せた後に、そのレイガストを渡してきた。私は臨時接続でレイガストを起動して、弧月を受け止める様な溝を作る。慣れないから少し手間取ったけど、それをネコが言う通りに構える。ネコが弧月をゆっくりと振り下ろしてくる。私はそれを溝で受ける構えを取る。

 

「ここで、俺が考えた奇策です」

「え? ぉわっ!?」

 

 私の腕は持っていたレイガストと一緒に斬り落とされた。

 

「『旋空』も使った方が成功率上がると思います。これなら多分片腕ぐらいは貰えるんじゃないですかね。もしこれでも駄目ならメテオラぶち込めば勝てるんじゃないんですかね?」

 

 

 

 

 

 ここで私が村上先輩を倒せたら、泳いででも向こう岸に行って玲を助ける。まだ勝った訳でもないけど、ネコは力を貸してくれた。ただでやられるわけには行かない。

 

 冷静になれ。村上先輩相手だと私の戦い方(受け太刀)は通用しない。受けた瞬間にレイガストで押し返されるからだ。それは相手も分かってはいるだろうけど、他の戦い方があるとも思っていない。

 ネコが言うには村上先輩のサイドエフェクトは勉強用のもので、次の時に強くなってるというものだ。そんな考え方はした事がなかったけど、確かに村上先輩の『強化睡眠記憶』は一度『睡眠』という休憩時間を挟まないとやった事を吸収できない。ならば見たことのない動きや戦い方なら対処が遅れるのではないか。という考え方だ。ネコ自身も村上先輩と話した事もないし、噂やログを見ただけの考えらしいけど、的外れとも思えない。

 

 鋭い弧月の剣先を逸らすように受ける。レイガストのシールドバッシュも崩れない程度に受ける。―――ココ!! 私は旋空弧月を起動して上段から真っ直ぐに振り下ろす。村上先輩はネコとの練習通りに溝で受けようとしている。貰った!!

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 日浦がベイルアウトし、村上と熊谷が剣戟を振るう中、実況解説席では三上に話を振られた迅が解説していた。

 

『熊谷隊員の調子が良いですね。日浦隊員がベイルアウトしましたが、気迫が崩れませんね。それにいつもと違う事をしようとしている。誰かが熊谷隊員に指南しましたね』

『何か視えてんのかお前』

『たしかに……先ほどの日浦隊員もそうでしたが、今日の那須隊の戦いにはいつもよりさらに気持ちがこもっているように感じます。太刀川さんはどう見ますか?』

 

『う~ん。三上には悪いけど気持ちの強さは関係ないでしょ。勝負を決めるのは戦力・戦術、あとは運だ』

『そうですか……? 気持ちが人を強くすることもあると思いますけど……』

 

『そりゃ多少はな。けどそれだけで戦力差がひっくり返ったりはしない。気合でどうこうなるのは実力が相当近い時だけだ。もし気持ちの強さで勝ち負けが左右されるってんなら……俺が1位になれるはずがない。はっはっは』

『うわぁ……嫌な1位……。ですが、村上隊員相手にこれほど耐えられている熊谷隊員も記憶にありませんね。おっと、動きますよ』

 

 動いたのは熊谷。弧月を上段から振り下ろす。村上はそれをレイガストで受け崩して弧月で斬る考えが見受けられる。

 そして、熊谷の弧月が村上のレイガストに作られた溝で受け止められた瞬間に異変は起きた。

 弧月の追加オプション『旋空』は、弧月の使い手のB級以上の隊員ならば入れていない人を探すほうが難しいレベルで使用されているが、起動時間による射程伸縮効果がある。極端な例を挙げると『生駒旋空』とまで言われている生駒隊の隊長の弧月は起動時間を0.2秒と短くする事により射程を40mにまで伸ばしているという。一般的なものは1秒程起動して射程を15m位にしている。熊谷も後者側で使うのが当たり前という考えだったし、その固定観念が壊されたのは昨日の事だった。

 一度距離を取り起動してから上段から振り下ろした旋空弧月の発動はレイガストで受け止められた後に発動された。起動時間こそ計ってないが、射程は観戦している者からすれば伸びたのかすらも分からない程度。

 しかし、目の前でそれをやられた村上はレイガストを持つ左腕を斬り落とされた。村上が初めて見て驚いたのはレイガストで受け止めた直後の熊谷の手の動きだった。弧月をレイガストで受け止めた瞬間、熊谷は弧月を逆手に持ち替えたのである。弧月は受け止められた位置で止まらずに、手首の関節の可動域まで動き、レイガストの内側にまで届いた。そこで更に旋空の効果時間の長い起動である。

 

『これは効果時間が長い旋空!?』

『どうも悪知恵の働く奴が教えたな。誰か知ってんだろ』

『どうかな~』

 

『しっかし、上手いな。くまの奴、レイガストに挟ませた瞬間に持ち方を逆手にしたろ? 片手だけでも斬り落とす執念があったな』

『これは熊谷隊員の大金星ですね』

 

 実況の三上の声に対して冷静に太刀川は告げた。

 

『いや、それは村上を倒せたらの話だ』

 

 

 

 村上鋼はアタッカーNO.4の弧月使いである。現在はスナイパーをメインでやっている荒船哲次が弧月の師匠だが、サイドエフェクトもあり直ぐに荒船哲次を超えるほどの使い手となり、B級のみならずA級のアタッカーとも多く個人戦をこなしてきたし、ログも出来るだけ見てきた。自己鍛錬も疎かにしなかったし、解説席に座る太刀川慶にも期待されるほどのアタッカーだ。強化睡眠記憶という学習能力がとても高いサイドエフェクトのおかげもあり、入隊から短い期間でNO.4にまで登り詰めた。そのサイドエフェクトの所為で他人が妬み離れていってしまうとも思い悩んだ時期もあったが、それも乗り越えてきたし、過日のアフトクラトルによる大規模侵攻でも新型のラービットを複数体抑え戦功を得たという形としての実績もある。

 熊谷友子が隊員として弱いわけではない。村上鋼が相手として強すぎたのだ。実績も経験値もサイドエフェクトで軽く上を行く。初めての動きに対応を取れなかったが、村上鋼は体捌きと足払いだけで体勢を立て直し、一瞬の慢心を抱いてしまった熊谷のバランスを崩した。

 

 

 

 ―――三上には悪いけど気持ちの強さは関係ないでしょ。

 ―――気持ちが人を強くすることもあると思いますけど……。

 ―――それだけで戦力差がひっくり返ったりはしない。

 

 

 

 ―――気合でどうこうなるのは実力が相当近い時だけだ。

 

 

 

 

 

(ネコに教えてもらったし、いつも見てる玲の戦い方をイメージしたらうまく体が動く気がする)

 

 熊谷はメテオラを放ちつつも距離を詰める。今ならば村上にレイガストはなく、自身の受け太刀が活かせるからだ。村上が弧月を振って来た時に受け崩せば勝てる。今はメテオラで牽制をして……。というのが悪手だった。人は自分の手に装備品があるとそれに意識が向いてしまいがちだ。

 

 ここで村上が取ったのはバックステップだった。シールドではない。シールドでは直ぐに割れるのは明白だったからだ。ではメテオラの回避の動きなのか。目の前には片腕を突き出しメテオラを放ちつつも迫ってくる熊谷の姿は見えている。詰めてくる早さ以上のスピードで下がると、村上は弧月を下段に構えた。

 

「驚きはしたが、付け焼き刃にやられる訳にはいかない」

「っ!!」

 

 ―――旋空弧月。

 

 

 

 

 

『惜しかった。だが、いい勝負だったな。村上相手にあそこまでやれたのは正直驚きだ』

 

 三上が違和感を覚えて太刀川に視線をやる。先程の解説だと、村上が勝つことを前提とし、この戦いには興味があまり無いのかと思えたからだ。太刀川は三上の視線に気付くと口を開いた。

 

「勘違いするなよ。俺は気合の乗ったアツい勝負は大好物だ。けど、気持ちの強さで勝負が決まるって言っちまったら、じゃあ負けた方の気持ちはショボかったのかって話になるだろ?」

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ……」

「残念だったな」

「っ!?」

 

「ど、どうしたんすか二宮さん?」

 

 ネコの頭をポンと軽く叩いて励ます出水だったが、二宮がこちらを見たと思ったら表情をあまり変えない二宮が驚きの表情を浮かべたので出水は戸惑った。

 少し無言を貫いた二宮だが「いや……飲み物を買ってくる」と言って席を立ち、出水は疑問に思いながらもネコと熊谷と村上の戦いをネコと振り返ってみようと思いネコに向き直ると音無ネコはマジ泣きしていた。

 

「うぶぶ……ふぐぅぅぅ……ひっぐ……」

「ま、マジで泣いてんの? ほ、ほら次があるって、な?」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「やっと落ち着いたか……」

 

 二宮さんにココア奢ってもらって、試合をぼんやりと眺める。

 感情移入しすぎてしまったようだ。でもあの場面ならクマちゃん先輩もメテオラ使わなくても良かったと思うんだけど。

 

「近くに空閑もいたからな。決着を急いだのかも知れんが、結果として下策だったな」

 

 あ、またうるっと来た。

 

「だ、だが、よくやってたんじゃないか? NO.4相手に拮抗していたようにも見えたぞ」

「二宮さんがネコに優しいって本当だったんすね」

 

 試合はもう終盤というか、那須先輩がトリオン切れでベイルアウトしていくところだ。終わった。玉狛が勝ったのはいいけど、那須隊にも勝ってほしかったなー。

 泣いて見てなかったところやぼーっと見てたのは、村上先輩は遊真が倒して、那須先輩が来馬隊の2人と三雲くんも落としてた。那須先輩のベイルアウトは来馬隊長が与えた損傷らしい。

 三雲隊が4pt、那須隊が3pt、来馬隊が2pt。

 

「いやーネコが泣いたけど、太刀川さんも割りとちゃんとしてたし、メガネくんは戦い方がいい感じにやらしーな。さすが1回死に掛けただけのことはある。玉狛のスナイパーの子やばいでしょ? 黒トリガーレベルっすよ」

「白い髪の奴はともかく、大砲とメガネは別に問題にならないな。東岸で玉狛が生き残れたのは実力じゃない。ただの運だ。太刀川の野郎……ぬるい解説しやがって」

「玉狛第二はまだまだ弱いからマークされてないだけですよね。これからじゃないですか。遊真は除いてだけど」

 

「そうかもしれないが、あのメガネは戦術をかじっただけの雑魚だ戦術と戦闘どっちもいける奴には勝てない。お前ら、やたら玉狛を評価してるが玉狛第二が太刀川隊に勝てると思うか?」

「まさか、それはさすがにないです」

「じゃあ俺が玉狛第二に入ったら?」

 

「ネコは太刀川さんに任せておいて、お荷物に壁になってもらってれば勝てるかな」

 

 荷物なのか壁なのか……。

 

「でも雨取ちゃんの火力は侮れないと思うけどな~」

「うんうん」

「いくら威力があってもやれることは土木工事だけだ。今日の試合を見りゃ分かる。はっきりとな。あのちび大砲は人が撃てない」

 

 人が撃てない? ……んーこの前のランク戦の時は遊真と戦ってたから射線が通らなかったと思ったけど、土木工事ってことは生身の人が撃てないって事か。二宮さんは嘘は付いてないみたいだけど、千佳ちゃんと話してても違和感が生まれたことはないからなー。まぁ狙撃の話は殆どしないけど……。

 

「ネコ、携帯鳴ってるぞ」

「あ、本当だ。……蓮さんと合流するんで、俺はここで失礼します」

 

 

 

 

 

 千佳ちゃんが人を撃てないってーのは結構深刻な問題な気がするのは俺だけだろうか? だって遠征目指してるんでしょ? 駄目でしょ。実は撃てるとかで隠してるならいいと思うけど、まぁ今は自分の事だ。ネコ隊作戦室の前に何かのファイルを持った月見蓮さんが着ていた。

 

「お待たせしました」

「今来たところだから大丈夫よ。少し早いけどブリーフィングを始めましょう」

 

 作戦室に入ってソファーに座る蓮さん。ファイルから取り出されたのは今回のMAP情報だった。

 蓮さんの意見も参考にして、うさみん先輩と一緒に弄ったMAPがこれだ。木々の少ない森。雑木林とでも言うのだろうか。ただ、異世界感も出したくて木々は雪も積もってないのに幹も葉も真っ白に近いし、地面は土色ではなく黒に近い。そこら辺に多少は苔やキノコも生えているが、色は少し毒々しいかもしれない。『ネコ君の好きな色で行こう』とうさみん先輩は言ってくれたが、別に好きな色でもなくランダムで選んだ感じだ。実際の近界(ネイバーフッド)とは違うかもしれないけど、日本でもありえない世界感になったと思う。

 まぁそこら辺をただの小学生レベルの塗り絵から、現存するかの様に調整してくれたのがうさみん先輩である。

 

 スタート地点が右上にあってゴールは左下。獣道のような細い道もあるし、通りやすい少し開けた道もある。様々な選択肢もあるこの道を進むのはこの近界にやって来たボーダー側であり、二宮さん達なわけだ。彼らはこの雑木林を通り抜けなければ現地の協力者と接触出来ないという設定だ。

 俺はと言うと、それを邪魔する悪いネイバーである。『ネコネイバー参上!』なのである。我が領土に侵略してきた愚かな玄界(ミデン)人に正義の鉄槌を振り下ろすのである。

 

「二宮隊、生駒隊、香取隊の3チームで、戦闘員は10名それをスタート地点で数を減らすのは間違いじゃないけど、スタート地点でまず仕掛けるのね」

「はい、最低でも一人はベイルアウトさせて、別の地点に移動したいです」

 

「じゃあ撹乱用に使う?」

「はい、1セットスタート地点で使いまして、移動の通り道でばら撒く様にもう1セット使います」

 

「悪くないわ。あ、そうそう、ちゃんと隊服もカラーチェンジしたかしら?」

「はいっす。昨日の夜に開発室でやってもらいました」

 

「じゃあ、どのルートを選ぶかは本番次第だから、最初の以外はその都度発生地点を決めていくわね」

「お願いします」

 

「ところで、この真ん中の建物は……」

 

 MAPのど真ん中辺り。そこには『玄界人侵攻反対!!』と大きく書かれた横断幕の張られた建物が建っていた。

 

 

 

 




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※優しくお願いします。エタる可能性があります(新しく覚えた言葉を使いたがる作者)

◆自分から那須隊を呼ぶネコ
 一瞬忘れて、クマちゃん先輩に「アンタが呼んだんでしょうが」とツッコミを貰いました。突っ込んだってことは、通常時はわざと来てるよね。

◇クマちゃん先輩 VS 村上鋼
 ネコにやらせようとしてた技ですが、村上との戦闘描くより先にクマちゃんが来たからクマちゃんへ受け継いだ。忍田さんみたいに逆手に弧月持つ人って今後も出て来そうだなー。でてきてほしいなー。

◆『にゃんこ』と『ちゃんこ』
 にゃんこ大戦争OPより。いつか書こうと思ってたけど、機会に恵まれなくやっと書けた小ネタ。

◇『気持ちの強さは関係ないでしょ』からの『気持ちの強さで勝負が決まるって言っちまったら、じゃあ負けた方の気持ちはショボかったのかって話になるだろ?』
 鉄板。太刀川さんの名言。
 他に名言としては『読めないわけじゃない、確信が持てないだけだ』※太一の苗字の件

◆ネコに優しい二宮さん
 でも試合になれば本気出す模様。

◇ネコネイバー!
 毎週土曜 朝8時00分より放送してません。
 とある近界(ネイバーフッド)の辺境に住んでいる変わり者。玄界人侵攻に対して友好的であったとしても反対運動をしている狂人。ドーム型の建物にはネコ耳のような屋根があるが、辺境の地であったとしても現地人からすると玄界とは友好を結ぼうとしている手前、彼は邪魔な存在であり、近々建物を建て壊し、立ち退きをしてもらおうと考えられている。


どうでもいい近況報告。
最近お掃除に嵌った作者。2週間ぐらい前からずっと掃除をしては新しい掃除グッズを買いあさり、昨日ふと気付いた。あ、大掃除だこれ。

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