ねこだまし!   作:絡操武者

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大変お待たせしております。

頭痛いから鎮痛薬に手を出し始めた作者です。相当効く薬です。個人的にはカタカナで『クスリ』って書くと危なさを覚えます。EVE効きます。



34 ネコとタコさんウインナー

 

 

 月曜日。本部に来ていた。防衛任務ではない。何で来たんだっけ。とても大事な用があった気がするんだけど……おっとここを登るのか。俺は崖を登って次のエリアに入る。

 

「にゃんこ、そっちはー?」

「んー、いないっすねー」

 

 柚宇さんと一緒に携帯ゲーム機で赤いドラゴンを捜しているのだが、予想していたポイントには居なかった。

 

「あれーおかしいなー」

「あ、いました!」

 

 ……って思い出したよ! 携帯ゲームで一狩り行ってる場合じゃない!

 オペレーターさんを探しに来たんだ! オペレーターさんを探してブラブラしていたところ、太刀川隊のパーカーを着た柚宇さんと休憩所の自販機前で会うと、青い携帯ゲーム機を渡され太刀川隊作戦室にて『ヒトカリイコウゼ!』となった。

 

「違うっす! こんなことしに来たんじゃないっす!」

「にゃんこ後ろ後ろー!」

 

「へ? 何もありませんけど?」

「そっちじゃないよ! 画面画面!」

 

「ぎゃー!」

 

 俺の操作していた双剣使いが背後から襲い掛かってきたドラゴンの爪攻撃で一撃で瀕死になる。柚宇さんの大剣さんが駆けつけて、回復薬も間に合ってなんとかクリアした。

 

「もう集中しなきゃ駄目だよー」

「ごめんなさい……って違う!」

 

 柚宇さんは「あーごめんごめん」と思い出したように携帯ゲーム機を片付けると、俺にコントローラーを渡してきた。

 

『テコンドーノシンズイミセマショウ』

『バビットヤッツケチャウゾ!』

 

『ハキキャク! ハンゲツザン!』

『コオーケン! チョーアッパーダボー! ハオーショーコーケェン! エイエイオウオウジャーンプブイブイ!』

 

「あーやられたー……って違いますってば!」

「あれ? 格ゲーしたいんじゃないの? あ、そっかわざわざ悪いねー」

 

 はい?

 ……なんで少し照れてるの?

 

「ネコ君のことだから和菓子でも持ってきてくれたのかね? 私はゲームソフトの方が嬉しいかなー。いや、でもにゃんこの気持ちの篭った誕生日プレゼントなら何でもカモンだよ」

 

 俺は今日の日付を思い浮かべる、今日は2月3日でしょー? ……2月2日は柚宇さん誕生日だ! 昨日じゃん!

 もう過ぎちゃったわけだけど、この前はぬいぐるみも取ってもらった訳だし、何かしら用意しないと失礼である。そもそも何で手ぶらで来てしまったんだ俺は……いや、違うぞ、今日は強制的に連れてこられたんだ!

 

「柚宇さん!」

「お?」

 

「じ、実はプレゼント用意してあったんですけど、家に置いて来ちゃったみたいだから取りに行ってきます!!」

「あ、冗談だよ? 気にしなくていいんだよー? いっちゃった……」

 

 

 はい、嘘つきました。家にプレゼントなんて用意もしてないけど、ゲーム屋さんで物色しよう。嘘を本当にしよう。

 何かあるだろうか。というわけで商店街の小さなゲーム屋さんに辿り着く俺。

 主に誰かと対戦したり助け合ってやるゲームが多いのは何となく分かるが、一人プレイのゲームがないわけではない。スペランカーとか言うタイトルの古いゲームも好きらしいし柚宇さんはゲームなら何でも来いって感じなのは分かる。

 ……あれ、もしかしてやった事ないゲームなんて無かったりするんだろうか? これでもし買って行っても『え、コレやった事あるしクソゲーだよ? 見る目無いねネコは』なんて言われたらもう顔も見れない。ここは慎重に……。

 

「これ……」

 

 何となくである。インスピレーションでコレじゃね? って感じのソフトを手に取る。そういえばこの系統のゲームは太刀川隊で見たことがない気がする。俺はそれを買ってプレゼント用の袋に入れてもらい本部に戻る。

 

 

「―――お待たせしました!」

「お、おー? 本当に用意してくれてたの?」

 

「コレ系統のゲームないなーって思ってたんで、いいのか分からないですけど。どうぞ!」

「しかもゲームとな! やるじゃないかにゃんこ~。どれどれ~」

 

 包装を無造作に開けるとそこには女性向け恋愛ゲームが入っていた。

 

「oh……(反応に困るものを……しかもコノにゃんこ純粋な目でドヤ顔してるとか、ギャグで用意したわけじゃないのか……)や、やった事ない類のゲームだけど大事にするよー。じゃあ格ゲーの続きやろうかー」

「え、今やらないんですか?」

 

「マジかー……(何で目のハイライト消えちゃうかなー。こっちがショック受けてるよー……そりゃにゃんこの口癖の『マジかー』もでるよー)」

「今やらないんですか?」

 

 ―――数分後。

 

「何で一般庶民だったのにお金持ちばかりの学校に行けるんですかねー? お金無い家って言ってたのに……」

「何でだろうねー。あ、最初のイケメンと出会った!」

 

「何か初対面なのに嫌われてません? パッケージの表紙に載ってる人なのに何で意地悪言うんですかね?」

「ねー。私この人嫌いだなー」

 

 完全に第三者視点でプレイしたのでツッコミどころを探しては楽しくプレイできたそうな。

 

 

 

 

 

 

 火曜日。まずいよまずいよー。またもやオペレーターさんを依頼できないままに明日は2回目のチームランク戦だよー。やっぱA級の人も視野に入れて柚宇さんにお願いしとけば良かったんじゃなかろうか。沢村さんにA級オペさんでもいいか聞いてみるか。

 そんな中、俺は学校でクマちゃん先輩に声を掛けられて本部に来ていた。防衛任務もないが、オペレーターさんも探さないといけないし、ついでにクマちゃん先輩の誘いも消化しよう。流石に今日見つけないとどうなるか分かったもんじゃない。

 

「この前は加古隊に行ったんだって?」

「へ? あ、はい」

 

 そんな本部内で何度目かという同じ内容の声を掛けられる。何で俺が加古隊に行った事知ってるんだ? 人によっては『ビーフシチューは大丈夫なの? 危険なのはチャーハンだけなの?』とか『良い匂いしたのか? 良い匂いしたんだな?』とか細かいところまで聞いて来る人もいて驚きである。

 もしかして人気のあるA級ガールズチームだし、加古隊の作戦室って隠しカメラとか設置されてるんじゃないかと思って念の為に加古さんにメールを送ったのだが、『ネコ君は本当に人気者ね』だってさ。いやいや俺のことじゃないから。加古隊のことだからね? 隠しカメラとかあるかもしれないのにそんなユルい感じでいいのだろうか? 再度念を押すメールを送るが、数名に話したのが尾ひれが付いたのだろうという事だった。あーなるほど。加古隊って人気だから噂も伝播しやすいのかもしれない。

 

「あーネコ先輩! 初日の分はまだですか!?」

「やほー桜子ちゃん。初日の分って?」

 

「解説したんですよね!?」

「え? 解説? ……あ」

 

 そういえば桜子ちゃんと契約を交わしていたかもしれない。解説動画の閲覧権と引換えに、解説する時には録音データを残しておく事……という様な。

 

「忘れてたんですか……あまり解説に来ない上に、解説に相性の良いサイドエフェクトを持ってる迅さんの解説を……」

 

 がっくりと肩を落とす桜子ちゃんを宥めて、とりあえず休憩所でジュースを奢ったところでメールが入る。クマちゃん先輩かと思ったが迅さんだった。開いてみると『音声データを添付しておくよ』とある。

 

 俺は添付ファイルをタップすると……。

 

『さぁ、B級ランク戦第1戦、昼の部が間もなく始まります。実況担当は風間隊の三上。解説は「ぼんち揚食う?」でおなじみの迅さんと―――』

 

「あ、あるんじゃないですか!! 」

 

 あったねー。暗躍エリートすげーな。どこで見てるんだと思いつつきょろきょろしてみるがいない。予知はすごいけど、こうなるの分かってるなら先に渡しておいてほしいものだ。何でギリギリになってメール送信だよ? 暗躍しすぎだろ。

 

 ほくほく顔で去っていく桜子ちゃんを見送り、時間を確認するとクマちゃん先輩との約束の時間を過ぎていた。

 

 

「遅いよ」

「ごめんなさーい。人気者でごめんなさーい。遅くなったのはファンに囲まれてたからなんですー」

 

 頭をぐりぐりと拳で挟まれるが、トリオン体だから痛くない。俺が人気者などという嘘も加古さんのメールから思い出して使ってみる。調子こいてるみたいで自分で言ってて恥ずかしくなってくる。そこに那須隊のオペレーターの小夜もやって来た。3人で模擬戦部屋を借りて、管制には小夜が着いた。

 

「射撃トリガーでしたっけ?」

「そう、玲にも教えてもらってはいるけど、玲も感覚派だからほとんど見様見真似なの。バイパーとかの曲がるのはいらないから、状況を変化させやすいメテオラの使い方をもう少し覚えたくてね」

 

 那須隊でのパワーアップ。個々でのパワーアップ。それを考えた結果、アタッカーは勿論続けるが、射撃トリガーも学び始めたと言うクマちゃん先輩。

 俺は嵐山隊との開発室時代も遡って考えながら、俺の知ってる使い方を伝える。

 

「メテオラをただ飛ばすだけだと簡単に避けられちゃうんで、待機状態でユラユラ浮かしておいたり、トラップみたいに設置しておいて、日浦ちゃんに狙撃してもらって爆発させても良いと思います。こんな感じで」

「分かっちゃいるんだけどねー」

 

 俺がキューブを分割させてユラユラ浮かせるのを見て、苦手だなーといった表情でクマちゃん先輩はメテオラを片手に作りつつ、腕の周りをユラユラと浮かせる。出来てはいるが、戦闘中となると少しぎこちなさが出てくるようだ。

 試しにスコーピオンで切りかかってみると、メテオラは完全に停止していた。それを撃ち出すが、射線は簡単に見切れてしまい、容易く回避できる。

 何故こんなに不器用になるのか。クマちゃん先輩だからである。弧月持ちの人の大半は片手装備であるのに対して、クマちゃん先輩は弧月両手持ちがメインだ。

 

『やっぱり戦闘前にメテオラを設置して、相手をその場に誘導して茜に狙撃してもらって使う感じですかね』

「戦闘になると冷静でいるのも難しいからねー……」

「逆転ホームラン!」

 

 発想を逆転させて閃いた俺。今は両手弧月だから難しいと感じて練習も上手くいかない状況だ。ならば強制的に片手欠損状態にしてしまえばどうだろうか?

 俺はクマちゃん先輩の片腕をスコーピオンで切り落とし、小夜には欠損状態のままで模擬戦を続けるように設定してもらった。

 

「どうっすか?」

「な、慣れないけど。前よりは使えてるかな?」

 

 こうして、クマちゃん先輩との模擬戦は続き、結局俺はオペレーターさん探しを断念した。もう駄目だ。間に合わないんだ。明日がチームランク戦だよ? 間に合うわけ無いじゃん。昼の部だし、そりゃもう探して見つかるようなものでもないだろう。俺にも連絡先教えてよ。

 

「終わった。明日ランク戦なのにオペレーターさんがいない。怒られるんだ……そりゃもう太刀川さんみたいに正座させられて怒られるんだ。やだなー辞めようかなボーダー……」

「つ、付き合わせて悪かったけど、なんて落ち込み様……小夜子、明日出て来れる?」

「わ、わ、私でよければ!」

 

 見つかった!

 『沢村さんへ、今回は那須隊のオペレーター、志岐小夜子さんにオペレーターをお願いしました。よろしくーねっ!』

 

「小夜よろしく!」

「ひゃい!」

 

 

 

 

 

 ランク戦まで時間はある。平日の昼の部という事もあって、学生の多いボーダー本部としては人は少なめである。俺も学校終わってダッシュで来たけど、急がなくても余裕がある。暇な内にトリガー構成を弄って、休憩所で作戦室に補給用のココアを手に入れる。そんな時である。その人とぶつかって出会ったのは。

 

「あ、ごめんなさい」

「……気をつけてよね」

 

「おー……タコさんウインナーみたい」

「ケンカ売ってんの!?」

 

 はっしまった! 思った事がつい口に出てしまった。だって髪型がそれっぽいんだもん! 俺は掴み掛かれて怒られた。

 

「ご、ごめんなさいでしたー……」

「ちっ」

 

 いきなりでびっくりして涙目になってしまったが、謝ったのに舌打ちしたよこの人。三輪先輩以上にイラついてそうな人だな。これでさよならは簡単だけど、今度会った時にまた嫌な感情からの挨拶になってしまう。嫌だけど、今の内にしっかりと挨拶を済ませよう。

 

「そ、そんなあなたにココアを進呈!」

「まだ続くの!? なんなのよアンタ? ……あれ? アンタどっかで……」

 

 去ろうとするタコさんウインナーに俺はココアを差し出す。

 タコさんの言うとおり俺も見覚えがある。だけど思い出せない。タコさんウインナーヘアスタイルのこの人は誰だろうか? あ、学校だ! 学校で見たぞ。確か小夜と同じクラスの人じゃないか?

 

「小夜と同じクラスの人?」

「サヨ? あ、那須隊の小夜子のこと? ってことは同じ学校ってこと? ……え!? 高校生なの!? え、そんなに小さいのに!?」

 

 失礼だ! このタコさんウインナー失礼だ! ってほっぺを抓るな! トリオン体だから痛みは無いけど!

 

「また私の髪形馬鹿にしてるでしょ!?」

ふぉふぇんなふぁい(ごめんなさい)

 

 何でバレたし。

 

「認めるのかよ!」

 

 タコさんはココアをひったくるように受け取る。タコさんは……何て名前だ?

 

「ねー、タコさんは、ぁぅっ」

香取葉子(かとりようこ)

 

 ココアの缶で俺を軽く叩くタコさん改め香取葉子さん。苗字も名前も三文字か……タコさんで覚えちゃったし四文字がいいなー。

 

「ねー、カトリンってさー」

「馴れ馴れしいな!? 何なのよアンタ……」

 

「音無ネコだよ。よろしくね。で、カトリンはオペレーターだったりするの?」

「ちっ、香取隊の隊長」

 

「ほぉーじゃあいいや」

「じゃあいいやで済むか! 聞いといて失礼だな!? なんなのよ!」

 

 音無ネコはオペレーターを募集しております! という事を軽く説明する。

 

「―――は? ん? えっと何? 新しく隊を作るってこと?」

「違うってば、ネコ隊はあるんだよ。オペレーターさんをレンタルで借りたいんだって」

 

「レンタルって何よ? そもそもネコ隊って? それ下の名前なんでしょ? 何で音無隊じゃないのよ?」

「だーかーらー。ネコ隊って名前でやってんのー」

 

「でもアンタ一人なんでしょ? 意味分かんないんだけど」

「こっちだって意味分かんないよ」

 

 なんか今までが俺の事とか知ってる人ばかりだったから、逆に何も知らないと言う人に説明するのが新鮮である。全く伝わらずに言い争いに発展しそうだけどね。

 

「は? 何なの?」

「んだよー?」

「葉子そろそろいい?」

 

 いつの間にか、不毛な争いをしていた俺達をすぐ近くで見ていた人が声を掛けてきた。ショートカットのメガネさんである。

 

「華!? いつから居たの!?」

「葉子が隊長だって名乗った辺りから」

「その姿はオペレーターさん?」

 

 華と呼ばれたのは香取隊のオペレーター。染井(そめい) (はな)さん。同い年。進学校に通ってるようで、会った事はない人だった。

 

「噂は色々と聞いてるわ。これ連絡先。空いてればオペレーターも引き受けるけど、対戦相手になった時の情報収集もさせてもらうし、勉強を優先させてもらう事もあるから」

「よ、宜しくお願いします」

「私の時と違って礼儀正しいなオイ。それに華! 連絡先っていいの!?」

 

「周りの人から色々と聞いてるし、問題はないわ。今話してみても分かったけど、葉子とも仲良さそうだし」

「よくない! アンタもそうでしょ!」

「これでオペレーターさんの連絡先が増えて来たぞー。今日も元気だココアが美味い」

 

「話を聞け! それ私にくれたココアでしょうが!」

「まぁまぁ落ちつけよタ、カトリン」

 

「また馬鹿にした!? 個人戦でボコボコにしてやる! 来い!」

「あ、ごめん。これからチームランク戦だから」

 

「一人でしょうが!? 出れないから! チームランク戦だから!『チーム』だから! 一人じゃチームじゃないから!」

「葉子、ネコ君は単独遊撃隊の一人チーム。それは有名な話」

「そうだよーファミリーレストランに一人で行く人もいるじゃん」

 

 だから大丈夫。……寂しいけど。

 っと、小夜からのメールだ。

 

「悪いねお二人さん。ランク戦の時間だ」

「うん、見てるね」

「だから何で出れるのよ! チーム(・・・)ランク戦でしょーが!」

 

 

 

 

 





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◆ヒトカリイコウゼ!
 ネコはこの手のゲームは苦手です。柚宇さんも主に観測者(スポッター)としてネコを使ってます。

◇乙女ゲームを買ったネコ
 店員さんからの目は気にしてません。プレゼントだし、恋愛とゲームは違うと、恋愛経験ゼロの癖に意気揚々と買って帰りました。
 ちなみに、柚宇さんは速攻でクリアして、その後は唯我がこっそりとプレイしている模様。

◆クマちゃん先輩と特訓
 特に意味なし。ただ小夜をオペレーターにしときたかっただけです。

◇ネコとタコさんウインナー
 華さんクッションを利用してカトリンとネコを仲良さそうに書いてます。実際の2人はまだ探り合いの様な関係です。


 頭が痛い。肩が痛い。心が重い。あ、眠い……おやすみなしゃい。

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