ねこだまし!   作:絡操武者

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遅くなりました。
まだチームランク戦に入らないというノロノロペースにもう少々お付き合いください。




30 ネコ三日会わざれば刮目して見よ

 1月もあと2日で終わり、チームランク戦の時期が近付いていた。

 俺には関係ないと言いつつも、忍田さんから「出るように」と釘を刺されれば内心で嫌な顔をしつつも出なければならない。ランク戦の意義は……あー……訓練生の時に説明を受けて……、正確には覚えてないけど、技術向上や連携などの底上げ、またそれだけに留まらず、トリガーの問題点などの検証という観点から見ても重要な役割を持っている。って感じだったと思う。

 だがしかし、俺は一人である。チームメイトという存在はこの作戦室には居らず、オペレーターさんですらレンタルしてこないといけないのだ。最低限必要なのはオペレーターさん。

 ここで更なる問題が浮かび上がってくる。仮に俺が参加する初戦をおサノ先輩が空いていてオペレーターを頼んでOKだったとしよう。それ以降の戦いで諏訪隊が対戦チームになったら情報は筒抜けである。サイドエフェクトで情報を騙す? 情報を相互間通信するオペレーターの意味ないよね! A級のオペレーターさんに頼む? A級のランク戦に上がった時に結局は同じ事が待ち受けてるよね!

 じゃあ専属のオペレーターを探す? いやいやいや、これまでだって一人でやって来たし、師匠探しだって基本的に上から目線で「弟子になってやってもいい」とか考えてる俺だよ? 今更誰かに頼むっていうのも気が乗らない。

 沢村さんとかなら本部長補佐だから情報が漏れる事もないだろうけど、忙しくてそんな暇なんてないだろう。

 

「ランク戦の度にシフト空いてる人を探すのも面倒なんだよなー。……お? うさみん先輩か。もしもーし」

 

 そんな悩みを抱えてる時に着信音が作戦室を包み込んだ。玉狛支部のオペレーター宇佐美先輩である。

 

『一人の作戦室はどうかなー。陽介から面白い部屋だって聞いたけど』

「んーはい。開発室の人たちにキッチンを作ってもらいまして、休憩所行かなくてもココアがアイスもホットも飲めるようになりました」

 

『ほーほー。今度私も遊びに行くねー。でもねー、今回はネコ君が来てくれないかなー?』

「はい?」

 

 

 

 

 

 ―――玉狛支部に辿り着く。

 ここに来るのは久しぶりだ。俺は玉狛支部も兼任という枠組みなので、いつでも来ていいらしいのだが、本部に作戦室は用意されたし、ここに来る必要があまりない気がする。本部では防衛任務のお仕事がシフトで割り振られており、いつもの様にレンタルで活動している。でも玉狛の人達と組んでっていうシフトはない。ここに来る意味がないのである。

 『詳しくは来てから話す』という事で、何で呼ばれたかも分からぬまま、俺はトリガーホルダーを玄関扉脇のボードに当ててドアを開ける。

 

 ドアを開けた瞬間にサイドエフェクトが違和感を越えて、隠れ潜む人物の危険性を俺に伝達する。しかし、いきなりすぎて俺は何も出来ずに固まってしまった。こんなことならトリオン体になっているんだった。

 

「っ!?」

「捕まえたー!!」

 

 俺は玄関に入った瞬間に真横から頭を抱えられるように捕獲された。俺の顔に長く明るい茶髪が掛かる。

 

「小南先輩!?」

「何でずっと来なかったのよ!? 捨てられたと思ったじゃない!!」

 

 え、何その彼氏彼女の関係が縺れたっぽい様な発言。しかもポカポカと叩かないで下さいよー。つか、びっくりしたなーもう。小南先輩の大声を聞いて奥から呼び出してきたうさみん先輩がやってきた。

 

「ネコ君ごめんねー来てもらって。えーとね、御覧の通りこなみがちょっと困った事になってて手が付けられなかったんだよねー」

「はぁ……どういう事でしょう?」

「こっちが聞きたいわよ!」

 

 えー……俺も聞きたいんだけどー……。

 

 しばし話を聞き理解するのにお時間を頂戴した。

 小南先輩との初めての10本勝負。結果は3勝6敗1引き分けだった。あの時はサイドエフェクトの確認というテストでここに来たのだが、小南先輩は3敗もしたとショックを受け再戦。結果はサイドエフェクトが全く機能せずに0勝10敗で負けた。―――というのが以前玉狛に来た時の結果だ。

 あれからサイドエフェクトも上手く使えるようになってきたし、派閥争いの黒トリガー争奪戦にも巻き込まれ、その後は模擬戦漬けの日々、その次は大規模侵攻が来るぞーと大騒ぎし、入院もして、更に極めつけには玉狛に用がないから来る事はなかった。

 その間、何と小南先輩は滅茶苦茶悩んでいたらしい。

 

『弱くなってるじゃない!? さっきのは何だったのよ!?』

 うん。小南先輩のこの発言は俺も覚えている。サイドエフェクトが使えないとボコボコに負けると理解した1日だった気がする。

 

 あの後、俺が帰って数日して、遊真といつもの様に模擬戦をする小南先輩は、休憩中にふと「あれ、そう言えばネコは今日も来ないの?」と疑問を口にすると、とりまるが「言いませんでしたっけ? 小南先輩にイジメられて嫌になってもう来ないって言ってましたよ」と辛めの嘘をついた。「イジメてないわよ!? あ、でも謝らないといけないかな……」と真に受ける小南先輩だが、とりまるもすぐに「まぁ嘘ですけどね。本部で忙しいんじゃないですか?」と言ったらしい。怒る小南先輩と平然としているとりまる。いつもの光景である。その場はそれで終わったのだが、小南先輩はその日から徐々に負の感情を溜めこんでいった。

 

「それにしてもネコは本当に本部で忙しいの? ネコも貰うって言ったのに……もうっ」

「今日も来ない。ネコのくせに気まぐれなんだから……まさか本当にイジメられたって勘違いしてて……?」

「今日も防衛任務!? そんな連日シフトなんて……」

「やっぱり私、模擬戦でやりすぎたかしら……」

「え!? 太刀川と模擬戦をしたの!? ネコが半分近く勝ったの!? わ、私の方には来ないのに……え!? これからしばらくトップグループと模擬戦なの!? うぅ~なんでよぉ~……」

「ネコも入院!? わ、私がちゃんと面倒見てあげてれば……お見舞いに……あ、でも迷惑かな……」

 

 などなど、ダークサイドに落ちる結構手前の方ではあると思うのだが、考えすぎである。いや、もう最後のは加害妄想に近いのではないだろうか? 何で小南先輩のせいで入院したんだよ? お医者様が言うにはストレス。ボーダーの観点で言えばサイドエフェクトの使い過ぎだからね?

 今だからこう言えるのだが、寝ても覚めても「ネコが私のせいで~ネコが~」と元気ない時もあったそうな。その度にとりまるが「まだ言ってんすか?」と、そんなわけ無いと言ったり、うさみん先輩が「玉狛支部も兼任するってメール着てたし、その内来るよー」と宥めたりもしたが、負の感情は今日まで続いていたそうな。

 昨日になって、うさみん先輩も「そろそろ来てもらわないと小南がねー、明日連絡してみようかな」と迅さんに相談すると、迅さんも「うん、呼べば来るみたいだな。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」と未来もほぼ確定したらしい。

 で、うさみん先輩が俺に電話して、「ネコ君が来る」と小南先輩に伝えると、玄関で捕獲しようと待ち構えていたようだ。

 

 

 

「―――じゃあ別に私との模擬戦が嫌で来なくなったんじゃないのね?」

「そんなまさか、模擬戦相手だったとしても可愛い人との方が嬉しいですし」

 

 太刀川さんとかよねやん先輩とか戦闘民族はもう嫌だ。個人戦ならまだポイントが動いてメリットを感じるが、小南先輩は髪形も変わるし、ボーダーのトリガーとは違うしで面白い。そういう意味も込めてお世辞を述べると、不安がってた顔は一瞬で消え……。

 

「ちょっとネコ、やめてよねそういうお世辞。お世辞じゃないかもしれないけど!」

「お世辞じゃないですよ? 本当に可愛いです。先輩かわいいー!」

 

 何だこの生き物は小動物を見ているかのようである。俺の方が小さいはずなのだが……。褒めれば褒めるほどかわいいじゃないか。照れて手が出てくるけど甘んじて受けよう。

 ぺしぺしと軽く頭を叩かれてしばらくすると、その手は俺の後ろ襟をがっしりと掴んでいた。

 

「じゃあ早速模擬戦ね!」

「マジかー……」

「がんばってねー」

 

 

 

 

 

 トリオン体になって連れ込まれたトレーニングルーム。

 

『いやー新しい隊服の事は聞いてはいたけど、いいねー。やっぱり『玉狛のブラックキャット』で売り出そうぜ』

 

 と、うさみん先輩に言われる。小南先輩も少し興味があるようで戦闘前に会話となる。

 

「アンタ本当にA級になったのね。どうして? チームランク戦で上がったわけじゃないんでしょ? そんな特例……」

「サイドエフェクトじゃないですか?」

 

「サイドエフェクトだけでA級に何て上げるわけないでしょ」

『迅さんも一枚噛んでるよこなみ』

 

 あーそう言えば俺の部隊章を決める時にいたなあの人。B級に上げたのは俺が攫われる可能性があったからだって言ってたけど、じゃあA級にまで上げたのは何でだ?

 迅さんは俺の未来が視え辛いって言ってた。つまり俺以外の俺に関係する第三者を視て進言したんだろう。A級に上げるべきだと。

 その第三者の人と迅さんが俺をA級に上げるメリットは何だ? 固定給を出さなくちゃいけなくなるし、作戦室だって作らないといけない面倒さもあるはずである。やっぱ城戸司令だろうか? その可能性が高い。怖い顔してるけど俺に対して結構優遇してくれてる気がする。このネコ耳フードはおかしいが。今のところ俺にはメリットしか無いし重く受け止める事もなく特に気にしていない。将来的に「え? でもネコはA級でしょ?」って感じで迷惑事を押し付けられそうになった時には気にしよう。まだ慌てるような時間じゃない。

 

「―――サイドエフェクトね。前の模擬戦の時も使ってたんじゃないの?」

「サイドエフェクトが分かってなかったというか、使いこなせてなかったというかって感じですね。今は結構大丈夫ですよ」

『こなみとネコ君のトータル戦績は16-3-1だからね。太刀川さんも結構やられてるらしいし、面白そうだね。始める?』

 

 小南先輩は斧を手に起動させると「そうね始めるわ」と言って構えを取る。俺も溜息一つ吐いてスコーピオンを……あれ? スコーピオンのはずがアステロイドキューブが出てきた……あっ! 那須先輩と模擬戦とかやってた時のまんまだ!

 

「相変わらずでかいキューブね……行くわよ!」

「ちょま!」

 

 0-1

 あっさりと胴体にお別れをした俺に唖然とする小南先輩。「何て手応えの無い弱さ……」とでも言いたげな顔である。

 

「今のは違いますから。トリガー設定を忘れてただけですから」

「あ、うん。私も返事を聞く前に行ったから……で、でもキューブ出してたし準備良いと思うじゃない!」

 

 謝ってきたと思ったらすぐに逆切れしてきた。まぁ俺も悪いんだけどね。えっと、思い出したぞ。合成弾出来る様にメインもサブも同じ構成にしたんだ。

 

【メイン・サブ】アステロイド・バイパー・ハウンド・メテオラ

 

 うん、確かこうだった。練習だしいいよねって感じでシールドすら無く、そのままにして忘れてたのだ。アステロイドがメインとサブに一つずつ設定されているならばサイドエフェクトでバイパーなどに騙し変えることは出来るのだが、那須先輩が近くにいては異常に見えるトリガー設定を見せるわけには行かなかったからだ。

 だって、アステロイド以外はシュータートリガーがないのにバイパー放てたらまた「疲れ目きたかも……」とこちらも困ってしまう展開が待ち受ける形になってしまう。

 

「―――うん、思い出しました。とりあえず大丈夫です。でも、5本ぐらいで一旦休憩でいいですか? 使い辛い構成にしてあるんで」

 

 そうして始まった2本目。俺は両手にトリオンキューブを作り出す。

 

「やっぱりシューター仕様よね……」

 

 小南先輩は斧を片手に持ち、もう片方にはトリオンキューブを起動させる。アレはメテオラか……。

 俺はシールドもテレポーターもないのでとにかく接近戦は避けるべきと判断し、とりあえずアステロイドを前方に、バイパーを周囲にばら撒いて後退する。小南先輩はそれをある程度避け、斧で切り裂き、メテオラを俺の周囲を狙って放つ。

 俺はメテオラを撃ち落すイメージでハウンドを放つ。メテオラはハウンドに襲い掛かるように全弾撃ち落し、その隙に更に距離を取った。

 

「全部撃ち落した……!? なんて正確な弾道なの……」

 

 驚きの声が聞こえてくるが、その間を使わない手は無く、俺は更にキューブを作り続ける。アステロイド・ハウンド・バイパー・ハウンド・クラスター・メテオラ・ハウンド・バイパーと連続で放てば勝負は決着した。

 

『こなみダウン。トリオン供給機関破損』

「……今の何?」

 

 俺の位置からだとどれで撃ち落せたか分からないが、多分視界を塞いでるうちに放ったネコクラスターではなかろうか? あれは何だ……合成弾の位置付けだろうか。メテオラ成分とアステロイドを配合したクラスター爆弾である。

 

『こっちではハウンドで落ちた様に見えたけど?』

「ハウンド? ……あの時もそうだった。ネコのシュータートリガーは異常だった。上で待機するハウンド? あんなのトラップじゃない」

 

 そんな言葉を聞きつつ俺は思った。小南先輩も太刀川さんと同じ様なアタッカースタイルなので、手数で何とかなるケースが多そうである。

 3本目からは俺はバイパーとハウンドで弾速は捨てて先ずは弾幕を形成した。かなり細かい散弾が小南先輩に飛んでいく。

 3本目はこれで勝利。4本目はこれをメテオラと斧で対処されるものの、「―――弾幕を越えると、そこは更なる高速の弾幕の世界でした」と言わんばかりに大量にばら撒きまくったバイパーが小南先輩を襲って勝利。5本目も同様だが、最後はフルハウンドで射抜いた。

 

「っしゃー」

「強いねーネコ君」

「むむむ……は、早くちゃんと設定したトリガーにしてきなさいよ!!」

 

 言われて俺はトレーニングルームを出る。那須先輩との特訓のおかげでトリガーホルダーのチップ交換は慣れたものになっていた。サイドエフェクトがあることは伝えてあるし、小南先輩はA級とは言えランク戦に不参加というトリガーなわけだし、対応も何もないだろう。そう思って俺は好きにいじる事にした。

 

【メイン】弧月・旋空・グラスホッパー・シールド

【サ ブ】ライトニング・アステロイド・スイッチボックス・シールド

 

 さて、開発室での訓練を卒業してからだと初めてスイッチボックスを入れてみたがどうだろうか? 弧月も『風刃』を見てから試してなかったし、いい機会だろう。うさみん先輩が見ているモニターも意識して普通に映るようにしてみよう。

 

 

 

『それじゃあ改めて5本勝負だね』

「初めてじゃない? 私の前で弧月(それ)使うの」

「俺のサイドエフェクト、分かりやすく見せてあげますよ」

 

 小南先輩は斧を振るうが、先ほどよりは緩い攻撃だ。俺のサイドエフェクトの様子見をしているのだろう。俺はバックステップでそれを避けると弧月を両手持ちにする。別に両手じゃなくても出来るんだろうけど、初めてなわけだし、集中したい気持ちでそうしただけである。

 

「……何? ―――っ!? アンタそれ……!!?」

『嘘ぉ!?』

 

 俺の持つ弧月のブレードの根元から1本、また1本と揺らめくトリオンの光の帯が現れる。その帯は6本ほどまで増えた。

 

「風刃……!? 栞!」

『ううん、確かにネコ君は正規のボーダーのトリガーを使ってるはずだよ。隊服もネコ隊のものだし間違いない』

 

 俺が片手持ちに切り替えると、小南先輩はハッとして距離を詰めてくる。風刃ならば間違いなく距離を開けるメリットは無い。だって小南先輩は近接系統に特化したトリガー構成なのだから。

 俺はスイッチボックスをイメージする。パソコンをカタカタせずともショートジャンプするイメージだ。そして俺は小南先輩の目の前から消えた。

 

「っ! テレポーター!」

「残念こっちっす」

 

 小南先輩の真横に出た俺は弧月を振るうが、ギリギリでシールドに阻まれる。そこで俺はグラスホッパーで距離を取る。

 

「旋空弧月6連!」

 

 風刃の様に見える範囲へ斬撃を飛ばす事は無理である。あれは風刃ならではの能力だ。俺のサイドエフェクトで出来る限界点は相手に風刃だと一瞬でも思い込ませること、そして、オプションの旋空でまとめて一気に斬撃を伸ばす事である。しかも向き合っていた場合は相手の背後から斬撃を伸ばせるとかは出来ない。ザックリとした斬撃の稼動範囲だが、相手の左右から前方のおおよそ180度ぐらいだろう。

 それが6発分。全ての斬撃を斧とシールドで完璧に防ぎ切る事は出来ず、小南先輩は掠り傷でダウンした。

 

「っしゃー!」

「アンタのサイドエフェクトって何よ!?」

『ネコ君、A級に上がってトリガーを弄ってもらった?』

 

「いーえ。基本的には変わってませんよ。色とかデザインが変わったぐらいらしいです。俺のサイドエフェクト分かります?」

「トリガーは基本のまま、でも風刃みたいに見せたり、テレポーターの視界情報がデタラメ……視覚誤認とか?」

『モニターにも同じ情報が出てるから視覚誤認じゃないね。ネコ君、もしかしてだけど、それで入院したの?』

 

 玉狛ならいいやと思い俺は正直に話す事にした。玉狛第一はランク戦に絡んでこないし、玉狛第二はヒーローの三雲隊である。迅さんは知ってるわけだし、隠す意味があまりなさそうである。

 俺の騙しのサイドエフェクトを知ると、小南先輩は「ズルい!」とヘッドロックをかけてくるが、うさみん先輩は納得がいったようだ。

 

 

 

 

 その後も何度か戦うが、一瞬で距離を詰められたりした場合は俺の負けが多くなる。太刀川さんや風間さんの時もそうだ。グラスホッパーだとか、旋空だとかで一瞬で距離を潰される時が対処できない事が多い。

 そして、小南先輩は防衛任務の時間となり出かけて行き、宇佐美先輩と談笑していると三雲隊の面々がやって来た。

 

「お、ネコ先輩だ。どうも」

「こんにちは」

「お見舞いありがとうございました……あの本は、あ、いえ、何でもありません」

 

 うん、今の反応で分かったよ。恋愛小説は役立たなかったようだ。

 

「三雲…ン。傷は大丈夫なの?」

「み、みくもん? あ、はい。おかげさまで退院できました」

 

 危ない危ない。いきなり目の前にテレビで見たヒーローが現れたから『三雲さん(・・)』って言いそうになってしまった。その結果、どこかのご当地ゆるキャラっぽくなったがまぁいいだろう。

 

「三雲隊は遠征部隊を狙ってるんだっけ?」

「はい」

 

「応援してるよ。場合によっては邪魔しちゃうかもしれないけどね」

「ふむ、邪魔とは? ネコ先輩はランク戦に出られるのか? チーム組んでないんでしょ?」

「ふっふっふー。知らない人もいるみたいだから説明するとね。ネコ君は我が玉狛支部所属になっているのだよ」

「え!? 本部から転属したんですか!?」

 

 お菓子を食べていた遊真が会話に参加してくる。うさみん先輩は一から説明するように俺の説明を始める。驚く三雲君を落ち着かせつつ、A級に上がってた事。隊が作られた事。だからチームランク戦にも参加できる事。そして、玉狛支部の兼任について。

 

「―――。一人で隊を作ったんですか……オペレーターさんはレンタル。迅さんと城戸司令が動いて……」

「そう、城戸司令とか暗躍のエリートが動いてそうなった。で、本部所属は変わらずで、玉狛支部(ココ)も兼任するって感じ」

「ふむ、よくわからん」

 

 俺も分からんよ。でも固定給出るし、作戦室あるし楽しいよ?

 

「あ、そうだ! 三雲隊って確かランク戦開幕初日が初戦だよね?」

「はい。隊服とか間に合わないかもしれないんですけど」

「オサムもな。治らないだろ」

 

 おぉ、隊長が出れないとな? 更に好都合だ。

 

「俺もランク戦初めてなんだけどさ、B級からの参戦だからよろしくね」

 

 そして、俺はスーパーに行くと言って玉狛支部を後にした。ふむ、初戦は様子見で玉狛を助けようじゃないか。

 

 

 

 

 

 ―――。

 音無ネコが玉狛支部を去っていた後に三雲隊と宇佐美栞は話し合いを始めていた。

 

「ネコ先輩が初戦の相手……」

「『よろしくね』って、随分と好戦的な感じだったな」

「うむむ……まずいかなー。さっきもこなみと模擬戦やってたんだけどね? 前に来た時と全然違って、20戦中16本はネコ君が勝ってるんだよねー……」

「ほう、小南先輩から10本中8本取れるのか……楽しみだ」

 

 不安がる雨取千佳。

 参加できない体調だが、作戦を練らなければと思う隊長の三雲修。

 玉狛第二のオペレーターを務める宇佐美栞も初戦から個人でもトップクラスの戦闘能力のある小南桐絵を圧倒し始める存在に困惑する。

 嘘を見抜くサイドエフェクトを持つ空閑遊真ではあるが、音無ネコの言葉に嘘偽りは無く、サイドエフェクトには何も引っ掛からなかった。逆に強者との戦いに期待感を持ち始めていた。

 

 

 

 

 

「―――あ、オペレーターさん誰に頼むか決めてねーや」

 

 俺はスーパーのりんごを手にすると思い出すのだった。オペレーターさんがいなくてはランク戦に出ることも出来ない。俺はりんごを見つめて思う。別にオペレーター専任でやってる人でなくても良かったりするのではないだろうか?

 別に細かい指示はいらない。玉狛第二の手伝いだし。そしたら相手の居場所とかだけ教えてくれるなら良いんじゃないだろうか? 俺は少し高いりんごをカゴに入れて買い物を続けた。

 

 




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◆ネコ三日会わざれば刮目して見よ
 今回はネコの急成長してましたって話。本部所属のトップグループはよく模擬戦なり個人戦やってたので、割と知ってるのですが、玉狛支部(特に小南)はどうでしょうか?

◇スイッチボックスをパソコン無しで使うネコ
 使い方を知ってればいいのです。後は「こんな感じ?」ってな風に成功失敗も含めて使えるようになって行きます。グラスホッパーのピンボールの様に、ショートジャンプを繰り返す未来があるのかも。

◆旋空弧月6連
 6発の旋空弧月が一気に相手に伸びるだけ。でも旋空弧月だからシールドでも防ぎきれずブチ破れる威力があるでしょう。
※この場合、相手のシールドまで器用に騙す事は難しいネコです。並列思考は難しい模様。

◇玉狛にサイドエフェクト内容を伝えたネコ。
 遊真の耳に入ったらどうなるんでしょうね。

◆勘違いする玉狛支部
 恐らく「よろしく」って言った時のネコの顔が『あっスーパーに買い物行かなきゃ!(キリッ)』って感じの顔で「やったんぞーおりゃー」という風に取られた模様。

◇オペレーターさん
 次回で決まりますが。正隊員であれば問題ないと思うんですよね。レンタルなわけだし、その辺は独自設定。ただ、話しの展開次第では結局は正規のオペレーターさんになる可能性もあります。誰がいいかなー。


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