ねこだまし!   作:絡操武者

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03 未来予知してもらったネコ

 迅さんという人が来た段階で「じゃあお邪魔しました」と出て行こうとするが鬼怒田さんに止められた。あ、そういえば俺は何しに連れて来られたんだろう? もう偉い人からのプレッシャーで疲れたよ。

 

「小さいなー、君が音無ネコ君? あ、俺は迅 悠一です」

「あ、どうも。ネコでいいです」

 

「ネコ君は……凄いな」

「はい?」

 

 名前しか言ってないのに実力派エリートからは高評価だ。小さいって言われたけど高評価だ。下げてから上げた感じだ。エリートめぇ……人の扱い方を知ってるとでも言うのか。まぁいい人そうではある。

 

「どう見る、迅」

「ネコ君は出来るだけ早く育てた方が良いと思いますよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 城戸司令が迅さんに質問してるが、あんたら俺の何を知ってるんだ。あんたのサイドエフェクトは何者だ? テレビもラジオもないのか? 俺の疑問は表に出さないまま会話は勝手に続いていく。

 

「どこが良い?」

「勝手に育つタイプではあるけど、短期集中なら玉狛がいいだろうね。各部隊を点々とさせるのも良いけど、その場合は精神的にストレスになるかも知れない。鬼怒田さんのところはもういいの?」

「たまに来て貰えればな、それで問題ない」

 

 あれ? 開発室での研究はもう終わったんじゃなかったのか? まぁ毎日じゃなくたまに行く程度で良いならいいか。

 

 しかし、迅さんはかなりの発言力があるようで、あーした方が良い、こーした方が良いと言っていく。司令も皆も止めるのではなく、他には無いかと発言を促している。エリート超えてるでしょ。実は裏の総司令官とかではないだろうか。戦隊モノで言うところのブラックに当たる気がする人だ。

 

 そして、どうやら俺はこの場でB級へと昇格したらしい。とりあえずのトリガーを鬼怒田さんから受け取る。中身は弧月とオプションの旋空、スコーピオンとシールドとグラスホッパーだそうな。後は開発室やどこかの作戦室に行っていじってもらえば良いらしい。まぁお金を稼げるなら何でもいいか。

 

「ウチはいいぞーネコ君。オヤツが出る」

 

 え、普通は出ないの? いや、違う、オヤツが出る方に驚くべきなのか。気になって迅さんの所属を聞くと玉狛支部だった。べ、別にオヤツに釣られたわけじゃないし。

 

 でも結局は勧誘してくる迅さんの裏を考えてしまい玉狛に行くとは言わなかった。とりあえず本部に通う形で色々な隊と合同の防衛任務をこなして行く事になったが……こんなに自由で良いのだろうか?

 

 ちなみに、防衛任務は必ずしも隊毎に動くとは限らないらしい。個々人で学校や外せない用事などで、その時間帯に空いてる面子で組むランダムのチーム編成の防衛任務もあるらしい。それでもほとんどの場合は隊の連携なども考えてランダム構成になることは少ないそうだ。

 

 

 

 今日は疲れたし、先ほどの顔合わせで帰ってよしとなったのだが、帰りに晩飯の食材を買いにスーパーに向かった。肉野菜炒めでいいかと思ったところで米が無いことに気が付く。仕方ない今日はカップめんにするか。米は重いから今日は買って帰るのだるい。と思ったところで迅さんに捕まった。

 

「奇遇だねネコ君。今日の夕飯はカップラーメンかな?」

「な、何でいるんすかー? エリートはスーパーには来ないでしょー……」

 

「それは偏見だよネコ君」

「……あ、サイドエフェクト?」

 

 俺はふと思い至った。

『俺のサイドエフェクトがそう言っている』

 司令でもないのに、あーした方が良い。こーした方が良いと指示して、それを信頼している上層部。まるで俺の近い未来を見たかのような提案。今も夕飯がカップラーメンってことまで言い当てた。かなり当たる占いみたいなものか未来予知的なものだと思われる。

 

「お、ネコ君は鋭いね」

 

 迅さんはにやりと笑う。不気味と言うわけではない。味方をしてくれるであろう信頼を寄せても良さそうな安心感。だからこそ裏があると深読みしてしまう俺が居る。

 

「……いやいや、エリートも凄そうですね。聞きたいんですけどサイドエフェクトってそんなに化け物染みてるんですか?」

「いや、正直に言うと俺のサイドエフェクトは強力過ぎるな。俺は目の前にいる人間の少し先の未来が視えるんだ」

 

 占いじゃなかった。未来予知のサイドエフェクトか。しかし、サイドエフェクトは人の能力の延長線上じゃなかったのか? 未来予知だとしたら強力すぎやしないか? 化け物じゃないか。

 

 迅さんの居るチームは最強だろうと思い聞いてみるが違うらしい。迅さんはチームに参加してなかった。一人でチームに勝てるのか聞いたらこれまた違うらしい。迅さんはB級でもA級でもなくS級だった。S級は『ブラックトリガー』という特殊なトリガーを持ってる人のランクでランク戦に参加できないらしいのだ。

 

「えっと、つまり実力派ぼっちってことでいいんですか?」

「よくないなー、ぼんち揚げ食べて落ち着きなさいネコ君」

 

 何故かお言葉のままに菓子折りを買って和菓子屋さんを出た俺。……あれ!? スーパーでカップラーメンは!? なんて驚くが差し出されたぼんち揚げを頂いた。そのまま色々教えてくれた迅さんだが、俺はというと言葉巧みに誘導されながら何故かどこかの川沿い、いや川の上に建っている建物に辿り着いていた。

 

「あれ? どこだここ」

「ここが我らがボーダー玉狛支部だ」

 

 何でさ!

 聞けばこの玉狛の建物は川の水質調査か何かをしていた建物をボーダーが買い取って改築して使っているらしい。いや、聞きたいのそこじゃなくてですね。と、はいお邪魔します。

 

「お帰りなさい迅さん。あれお客さん。やばいお菓子今無いんだよー!」

「あ、はじめまして拉致られて来ました。これお土産でいいんですよね?」

「お、悪いねネコ君、これ御返しな」

 

 あんたが買わせたんだよ!! 代わりにぼんち揚げ1箱貰ったけど、邪魔なので一旦預けておくことにする。箱って何だよ。大人買いするほどのものなのかぼんち揚げって。

 夕方に染まる建物の中に入るとメガネのお姉さんが迎えてくれた。名前は宇佐美 栞さん先輩に当たるらしいが同じ学校ではないらしい。玉狛でオペレーターをやってるそうだ。

 

「ボーダーと言っても本部とは全然違いますねー」

「個人部屋があって寝泊りも出来るんだぞー」

「うちは全員で10人しかいないこじんまりとした基地だけど、強いよ」

 

 10人というのは、今目の前にいる2人以外に防衛任務についてる3人と支部長の林藤さん、エンジニアの2人と本部に遊びに行っている陽太郎という子供とペットで10人らしい。

 迅さんもブラックトリガー持ちで相当強いらしいけど、今防衛任務中の3人もA級でめちゃ強いらしい。

 

「少数精鋭の集団って感じですかね?」

「そうだね。ネコ君もウチに入る?」

 

「いやーそれが良く分からなくて」

 

 そうだよ。何で玉狛なんだ? 本部に通って合同任務をこなして行けば良いって言われたと思うんだけど。

 

「ネコ君、本部ではあぁ言ったけど、俺は君がここに入った方が色々近道になると思っている。回り道もいいけどね」

「それ、サイドエフェクトですか? 未来が分かるのはいいんですけど、言いなりになっちゃいそうで怖いんですよねー。嘘かどうかも分からないし」

 

「疑うねーネコ君。確かに俺が見えてるもののほとんどではネコ君は玉狛所属にはなっていない。でも割と仲良くやっていけそうだよ俺達」

「興味本位で聞くんですけど俺のことどんな風に見えてるんですか?」

 

「ほとんどの未来では合同任務で色んな隊と任務こなしてるかな。少ない未来ではウチに所属してるのもあるし、本部の隊に加入するのもある」

「ん? 未来って確定じゃないんですか?」

 

 流石にそこまでチートじゃないらしい。それでもチートに変わらないけど。迅さんが見えてる未来予知の姿は木々の様に枝分かれしていて、どこの枝に行ってもおかしくないらしい。その中で出来るだけ最良の未来に近付ける様に動いてるのだろう。

 

「迅さんにとっての最良だと俺は玉狛に入ってるんですか?」

「んー……いや、そうでもないな。ネコ君がウチに居てくれて助かる場面も勿論あるけど、本部側に居てくれた方が助かる場面もある」

 

 どっちもどっちというわけだ。まぁ全部信じるよりは参考程度に留めておくべきだろう。そうなれば尚のこと俺は玉狛に入る必要がない。部屋があって寝泊りできるのもいいけど、家賃払ってるんだから一人暮らしが勿体無い。悪い人ではなさそうだけど、どこかに所属するのは面倒そうだ。

 

 結局俺はお断りさせて貰って玉狛支部を後にした。林藤さんが支部長だし緩そうだとは思うんだけど、まぁ急がないしいいや。さて、弁当でも買って帰るか。

 

 ……あ、ぼんち揚げ忘れた。

 

 

 

 数日経って、俺のレンタル活動が始まった。ネイバーが出たらバリバリ稼ぐぞー。しかしだ、一時的とはいえ隊にレンタルされ配属されるのだから、その隊の考えとか連携とかがあるだろう。挨拶の意味も込めて菓子折りを持っていくべきだろうか。そう思って俺はデパートの洋菓子店でクッキーの詰め合わせを購入した。甘いものは世界を救うのである。

 

 さて、初めての防衛任務である。防衛任務は1つのエリアで1チームか2チームぐらい合同で行うらしく、その時間帯に出動しているチームは全てのエリアで大体3チームらしい。俺は防衛任務に参加するチームに加わって行動するらしい。今日の防衛担当エリアは1チームの様で、そこに入れて貰う事になっている。

 

 俺は合流前に開発室に行ってトリガーを調整してもらっていた。基本的に鬼怒田さんに設定してもらっていたのは変えないのだが、まだ空きがあるらしいので、そこを加えて貰う事にした。

 

 弧月にオプションで旋空、これがメインなのだが、あまり慣れてない。その内スコーピオンをメインにするかもしれない。

 サブにスコーピオンで、これによって孤月との大小の二刀流も出来る。でもシュータートリガーに未練がある。だってシューターカッコいいじゃん! でも難しくて、でも諦めきれなくてって感じだ。もしメインにスコーピオンを使う事になれば銃型トリガーか、シュータートリガーを使うと思う。

 で、補助を厚くするためにシールド、グラスホッパー、テレポーター、カメレオン、バッグワームの合計8つ。これで限度いっぱいだ。

 カメレオンとバッグワームで更にシールド張ってれば見つからないし、そうそう即死しないという逃げの考えだ。狙い打たれでもしたら死ぬけど、ここまでやれば狙われることはないだろう。しかし、そんな考えは見事に粉砕された。カメレオン起動中は他のトリガー使えないんだってさ。まぁそれでも備えあれば何とやらだろう。

 

 

 

「失礼します。はじめまして合同で防衛任務に付きます音無ネコです」

「え、小さい……男?」

 

 合同で防衛任務になっている那須隊の作戦室に集合ということで、集合時間5分前ぐらいにノックして入ると、目の前に揃う4人が最近ランク落ちこみ気味のB級12位の那須隊だ。那須隊は全員女の人らしい。

 

 俺の姿に疑問を口に出したのはオペレーターらしき片目を隠すかのようなヘアスタイルの同い年ぐらいの人。とりあえず、「あ、小さい男でごめんなさい」と返しておく。

 しかし返答に対して固まってしまい、他の隊の人達が俺を無視して話し始めた。

 

「小夜ちゃんごめんなさい。名前しか聞いてなかったから男の子だとは思わなかったわ……」

「ま、まぁ来ちゃったものは仕方ないでしょ。小夜子は作戦室だし我慢して」

「他は男の人の隊ばかりですし。私と同じぐらい小さいですし大丈夫ですよ」

「なんかごめんなさい。これつまらないものですが」

 

 あれ、何か不味いの? とりあえず菓子折りを買って来ているので、フォローしてくれた人達に差し出す。小夜だか小夜子と呼ばれているオペレーターさんは多分男が苦手なのだろう。初めて会ったけど関わらないほうがいい。

 

 幸い他の隊員3名は男嫌いと言うわけではないらしく、オペレーターと俺をフォローしていた。しかしあれだな、苦手なのは分かるけど、「我慢して」の言葉に少し傷つくなー。俺はこの隊で仲良くやっていけるのだろうか……。

 

 

 






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