TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

87 / 112
84.復讐

 会議にて方針が決定してから、ルークは眠れぬままに市庁舎中庭に出て夜空を眺めていた。

 といっても、ここは太陽すらない外殻大地の地下にある世界。代わり映えのない景色だ。

 

 恐らくは譜業技術によるであろう灯りが、常に街の中を薄ぼんやり仄かに赤く照らしている。

 朝方なのか夕方なのかハッキリとしない光景で、居心地悪いとまでは言わないが混乱する。

 

 あるいはセレニィが未だ目覚めぬのも、こんな景色に戸惑っている故なのかもしれない。

 そんな益体もない考えすら浮かんでくる。誰にともなしに、そのまま考えが口をついて出る。

 

「なんだかここって年中夕暮れ時って感じで、今が夜って言われてもピンと来ねぇよなぁ…」

「ふむ、それは否定できまいな」

 

「……え?」

 

 返事など期待してなかったつぶやきにそれが返ってきた驚きで、思わず声の方を振り向く。

 そこには、明日ここを出立する準備に今も追われているだろう師匠ヴァンが立っていた。

 

師匠(せんせい)、どうしてここに? 明日の出発の準備をしているはずじゃ…」

「準備はあらかた終わったからな。今は、最終チェック中だろう」

 

「へぇ… 出発の準備は大変だって、セシル将軍に聞いたよ。やっぱり師匠(せんせい)は凄いんだな」

「部下に助けられているのさ。せめて最終チェックくらいは手伝おうと思ったのだがな」

 

「なんかあったんですか?」

「……リグレットに追い払われた。『部下に任せるべきは任せるのも指揮官の仕事です』とな」

 

「プッ!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で溜息をつく師匠の姿が可笑しくて、思わず噴き出してしまう。

 ヴァンを崇拝しているように見えるリグレットも、言うべきことはしっかりと言うようだ。

 

 こういうのを『尻に敷かれてる』というのだろうか? ガイがよく使う表現を思い出す。

 ニヤニヤ笑いが止まらないルークを横目でジットリ睨み付けつつ、ヴァンは不満を口にする。

 

「まったく… 師匠がぞんざいに扱われて笑うとは。私も酷い弟子を持ったものだ」

「ハハハッ! ごめんごめん、師匠(せんせい)!」

 

「笑いながら言うな! 反省の色が見られん。……良かろう、その性根を叩き直してくれる」

「……え?」

 

「良ければ久し振りに稽古を付けてやろう。無論、オマエが望むならば… だがな」

「へへっ、当然! 断るわけねーじゃん! 今日こそ師匠(せんせい)から一本取ってやる!」

 

「フッ、威勢だけは見事だが… さて、何処まで成長したか。ガッカリさせてくれるなよ」

 

 そう言うとヴァンは二本持っていた木刀のうち一本をルークに投げて、静かに構えを取る。

 ルークはそれをキャッチして勢い良く立ち上がると、挑むような笑みを浮かべて構える。

 

 師匠と弟子の激しい打ち合いが始まる。ルークは烈火の如き勢いで、木刀を打ち込んでいく。

 他方ヴァンは一切攻めの気配を見せずに、涼しい顔でルークの攻撃全てを受け流している。

 

「ほう… 腕を上げたな。打ち込みに思い切りの良さが加わって、技のキレを増した」

「へへっ、そりゃどーも…」

 

「だが、まだまだ粗いな。攻撃の後に集中を解き、守りが疎かになるから… こうなる!」

「なぁっ!?」

 

「どうした? 素早く武器を拾え。実戦であれば、敵はいちいち待ってはくれないぞ?」

 

 技を繰り出した後の僅かな硬直時間を見逃さず、ヴァンは木刀を一閃。得物を弾かれる。

 分かってはいたが出鱈目のような強さだ。多少は差が埋まったと思っていたがとんでもない。

 

 むしろ実戦を潜り抜け実力がついた分だけ、その力の差を嫌というほどに実感してしまう。

 全く隙が見えない… これが僅か27歳で神託の盾主席総長にまで登り詰めた者の実力か。

 

 本来なら諦めの境地にすら至る実力差… だが、ルークは窮地を前に楽しげにニヤリと笑う。

 

「(まぁ、いいさ… だったら守りをこじ開けるだけだ!)」

「ほう… 顔付きが変わったな」

 

「あぁ、迷っててもしょうがねーってのは分かるからな。足掻いてやるさ! 最後まで!」

「そうだ、それでいい… 諦めこそが己を殺す。努々(ゆめゆめ)、忘れるな」

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

「はぁあああああああああああああああッ!!!」

 

 互いの剣がぶつかり合う。その軍配が上がったのは… 当然というべきかヴァンであった。

 二つの衝撃をまともに受けルークは空中に投げ出される。だがヴァンは構えを解かない。

 

「とくと見よ… アルバート流剣術最終秘奥義! 神葬星条破(しんそうせいじょうは)ッ!!」

 

 そのまま木刀を空中に掲げてその刀身へ螺旋状にエネルギーを集束し、地面に振り下ろした。

 叩き付けられたエネルギーは光の波動を呼び、白き羽根が舞い散るように周囲に降り注ぐ。

 

 本来ならば当たればそのまま命を落としかねない、中庭にも大穴が空くほどの秘奥義だ。

 しかしルークは直撃を受けぬように手加減されたため、多少の打ち身程度で地面に着地する。

 

師匠(せんせい)… 今のは?」

「アルバート流剣術最終秘奥義… 確かにオマエに見せたぞ、ルークよ」

 

「最終秘奥義? で、でも! 俺、何がなんだか…」

「今はオマエには何も分からぬだろう。だが、あるいはいずれ分かる時が来るかも知れぬ」

 

「………」

 

 ヴァンの顔を見れば表情に疲労は色濃く浮かび、僅かながら息を乱している様子が伝わる。

 それだけの思いをして自分のために秘奥義を見せてくれた… そう思うと言葉に詰まる。

 

 決意を秘めた強い眼差しで頷いたルークに向けて笑みを浮かべつつ、ヴァンは言葉を紡いだ。

 

「見せておいてなんだが… オマエが王の道、即ち『王道』を歩むなれば不要な力だろう」

「……え?」

 

「王の道とは人を率い導く道だ。オマエ自身が力を持つ必要はない… 邪魔ですらある」

「人を率い… 導く、道」

 

「もしオマエが万民のために王となることを選ぶならば… この力はスッパリ忘れるが良い」

 

 師匠に折角見せてもらった最終秘奥義なのに… そう、不満に思う気持ちもないではない。

 しかし、いつになく真剣な表情で静かに語るヴァンの言葉に異論を挟める空気ではない。

 

 果たしてそんなルークの内心を知ってか知らずか… ヴァンは更に彼に向けて言葉を続ける。

 

「だが、そうだな… ルーク、オマエが人としての道を選ぶのであれば力は必要だろう」

「人としての道、ですか?」

 

「あぁ。オマエが次期国王でも公爵子息でもなく『ただのルーク』であるための道だ」

「ただのルークであるための… 道」

 

「どちらにも成りきれなかった私には、どちらが正しいのか分からぬ。だからこその選択肢だ」

「………」

 

 そう言われ、なんだかとてつもなく重要な選択肢を与えられたような気がして不安になる。

 立派な王になるべきか、自分らしく生きるべきか… 自分でも何が正しいか分からない。

 

 地べたに座り込み答えを出せぬまま悩んでいると、パサッと自分の頭にタオルが掛けられる。

 

「どっちを選んでもおまえはおまえさ、ルーク。……だろ?」

「ガイ… どうしてここに」

 

「あんだけ騒いでれば嫌でも気付くさ。気を利かせて周囲に人払いをしたのは俺なんだぜ?」

「フッ、それは申し訳なかった。……ところで、私の分のタオルは?」

 

「ないよ。まさかおまえさんが汗をかく羽目になるとは思わなかったからな」

「……貴公、なかなか良い性格をしておられる」

 

「ハハッ、よく言われるさ。特に見目麗しい女性からはな」

 

 ガイのヴァンに対する気安い… というより、まるで対等以上のような口調に驚くルーク。

 驚きの表情を浮かべているルークに、悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべるガイ。

 

 静かに微笑を浮かべるヴァンとの間に深い関係を感じ、ルークはムッとした表情を浮かべる。

 

「どういうことだよ。説明しろよな!」

「悪い悪い、そう怒るなって。ヴァンデスデルカ、つまりヴァンと俺は幼馴染なんだよ」

 

「……幼馴染? ヴァンデスデルカ?」

「そうさ。子供の頃はよく一緒に遊んだもんだぜ… といっても5歳の誕生日までだけどな」

 

「ホド戦争が起きましたからな…」

 

 ガイの言葉に懐かしげにヴァンが追随する。……まさかガイとヴァンが幼馴染だったとは。

 なのに何故、屋敷ではまるで他人のように振る舞っていたんだろう。ホド戦争とは一体?

 

 浮かぶ様々な疑問がルークの頭の中を渦巻き、それがそのまま言葉となって口から出て行く。

 

「……なんで他人のふりをしてたんだ? ホド戦争で何か起きたのか?」

「その辺のコト、この機会に話しておこうと思ってな。約束を忘れるつもりはないからな」

 

「約束… あ、『アクゼリュスの件が片付いたら話したいことがある』っていう」

「そーいうこと。……ちょっと長い話になるかもしれないけど、時間、くれないか?」

 

「……あぁ、分かった。聞かせてくれ」

「ふむ。お二方の約束なれば、私は席を外した方がよろしいですかな?」

 

「いや、おまえもいてくれ。……今じゃ数少ない同郷だ。おまえにも関係ある話だろう」

 

 ガイの言葉にヴァンは頷き、その場に留まる。それを確認してガイは口を開き語り始める。

 

「まずは何から話そうか… そうだな、自己紹介から始めるかな」

「自己紹介っても… ガイはガイだろ?」

 

「ま、そうなんだけどな。本名は長いぞ? ガイラルディア・ガラン・ガルディオスだ」

「うぇっ!? ガ、ガイガルガラン… ガルディアス?」

 

「ははは… よせよせ、舌噛むぞ。ガイでいいよ」

「お、おう…」

 

「ガイラルディア様はホドの領主、ガルディオス家の嫡子であらせられたのだ」

「そ、そうだったのか? ガイ」

 

「まぁな。って言っても、もう随分昔の話さ」

「ちなみに私はヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。ガイラルディア様と同じくホドの出身だ」

 

「ヴァン師匠(せんせい)まで… じゃあティアも?」

「メシュティアリカ・アウラ・フェンデ… もっとも生まれたのはユリアシティでだが」

 

「へぇ…」

 

 ヴァンの言葉に驚いてガイに確認すれば、彼は笑顔で頷いている。完全に驚き役である。

 しかしその言葉に多少の引っ掛かりを覚える。そういえば昔歴史で習った気がする。ホドは…

 

「ホドは島ごと消滅したんじゃ… って! す、すまない。ガイ、ヴァン師匠(せんせい)ッ!」

「お、よく勉強してるなー… ま、事実は事実だ。今更怒りはしないさ」

 

「よく言う。貴公、とんでもない目的でファブレ公爵家に潜り込んだではないか」

「おいおい… 他人事ってのは感心しないぞヴァンデスデルカ? 同じ穴のムジナだろうに」

 

「……とんでもない目的?」

 

 何故かヴァンの『とんでもない目的』という言葉に不穏なものを感じ、ルークは聞き返す。

 ガイはルークのその言葉に振り返ると、話を始めてから初めて辛そうな表情を浮かべる。

 

 そして無理に笑顔を浮かべると、ポツポツと語り始めた。その内容にルークは衝撃を受けた。

 

「ホド戦争が始まる時、ちょうど俺は5歳の誕生日を迎えていた」

「………」

 

「その日、キムラスカのファブレ公爵の奇襲を受けてガルディオス伯爵一家は死に絶えた」

「ファブレ公爵、父上が…」

 

「何が悪かったのかは分からない。とにかくあっさりとホドは滅び、俺が生き残った」

「そんな…」

 

「殺し殺されは戦争の常… 負けて滅びるは必定。仕方のないことさ」

「………」

 

「そう割り切れれば良かったんだが、当時ガキだった俺はどうしても我慢できなくてな」

 

 ガイはそう言って自嘲気味に笑うと、ルークを静かに見詰め… やがてその言葉を紡いだ。

 

「ペールに頼み込んで… 『復讐』するために、ファブレ公爵家に潜り込んだのさ」

「……ペールもだったのか」

 

「あぁ。ペールギュント・サダン・ナイマッハ… かつてホドで『左の騎士』と呼ばれた男だ」

「……そう、か。知らないのは、俺だけだったんだな」

 

「軽蔑してくれていい。首を打ってくれたっていい… ずっと騙してきたんだからな」

「………」

 

「けど、どうかこの一件が片付くまで待ってくれないか? 俺も世界のために戦いたいんだ」

 

 そう言って頭を下げるガイから目を逸らしルークは空を眺める。そこには月も星もない。

 迷いを助長させるようなぼんやりした世界だが、ルークは力強く頷いてガイへと向き合った。

 

「頭を上げてくれ、ガイ。俺には… 俺たちにはおまえの力が必要なんだ」

「ルーク…」

 

「昔のことばかり見てても前に進めねーだろ? 今は未来のために戦うべき時なんだからさ」

「……ははっ」

 

「それに戦争なんだからお互い様… ってどうしたんだ、ガイ?」

「懐かしいな、その言葉。あぁ… 俺が変わるきっかけを与えてくれた言葉だ」

 

「えー… 俺って、前にも同じようなことを言ってたのか? な、なんだか恥ずいな…」

「胸張ってくれよ。それが俺が賭けに負けた… 俺が剣を捧げるルークなんだから」

 

「『剣を捧げる』って、そんな約束してたのか… ったく物好きなやつだな、俺なんかに」

 

 ガイの言葉に苦笑いを浮かべるルーク。そんな二人を優しく見守りつつ頷いているヴァン。

 

「ははは… 本当にそのとおりだな。我ながら全く物好きだと思うよ!」

「なっ、テメー! ガイ、捧げた剣を突き返すぞ!?」

 

「おいおい、やめてくれよ。ホド製の剣は返品不可なんだぜ? なぁ、ヴァンデスデルカ」

「フッ、らしいですな。……諦めよ、ルーク。ホドの人間は中々に執念深い」

 

「ったく! ちょっとしおらしいこと言ったと思えばこれだ。やっぱガイはガイだな!」

 

 ふくれるルークを見てことさら大きな笑い声をあげるガイ。胸の中に暖かなものが宿る。

 

「(すまない、姉上… すまない、ホドのみんな… 俺にはもう… ルークを憎めないよ…)」

 

 その暖かなものは双眸に達して、そこから熱い滴となりガイ自身の両頬にこぼれ落ちてくる。

 それは彼に15年以上の長きに渡って巣食い続けてきた、凍てついた心をも溶かし尽くした。

 

 その日ガイラルディア・ガラン・ガルディオスは復讐を捨て、ガイ・セシルに生まれ変わった。

 

「……ん? ガイ、ひょっとして泣いてるのか?」

「バカ、泣いてねーよ。これはおまえの暑苦しさに当てられて出た汗だよ」

 

「なっ! いい加減なこと言うんじゃねー。ンなわけあるかー!」

 

 ……それはいつかの遠い日の賭け(やくそく)

 

『昔のことばかり見てても前に進めねーだろ? ……だから俺は過去なんていらない』

『……フン、だったら一つ賭けをしようぜ』

 

『賭け?』

『そう、賭けだ。……おまえが「剣を捧げるに値する大人になれるかどうか」のな』

 

『それ、俺が勝ったらどうなるんだ?』

『……おまえは人の話を聞いてないのか? 剣を捧げるって言ってるだろ』

 

『あ、そっか。よく分かんねーけど、剣をくれるんだよな。……じゃあ、俺が負けたら?』

『それは… 秘密だ』

 

『えー! なんだよ、それ。ずりー! ずりー!』

『はははっ。ま、おまえが賭けに勝ったら教えてやるよ… たぶん無理だろーけどな』

 

『ちぇー、見てろよ! ぜってぇに剣を… えっと、捧げさせてやるからなー!』

 

 遠い日の誓い(やくそく)は、今、障気渦巻く魔界(クリフォト)の空の下で果たされた。

 

 

 

 ――

 

 

 

 話が一段落してから、ルークがヴァンに語りかける。

 

「そういえばヴァン師匠(せんせい)… ヴァン師匠(せんせい)も復讐のためにファブレ公爵家に接触したのか?」

「あぁ。ルークには悪いが、かつての主として俺がヴァンデスデルカに命じて…」

 

「いや、私自身はホドの復讐についてはどうでも良かったから適当に話に乗っていただけだな」

「……って、うぉい!?」

 

「ど、どういうことなんですか… 師匠?」

 

 ガイのツッコミを華麗にスルーしつつ、ルークの言葉に一つ頷いてから彼は語り始めた。

 

「私が真に憎むのは悲劇を生み出す預言(スコア)と、それを是とする盲目的な人間たちのみだ」

「復讐は復讐でも預言(スコア)に対する復讐だった… ってわけか」

 

「うむ。ファブレ公爵家に思うところがないではないが、それに比べれば微々たるものよ」

「えっと… じゃあなんで師匠はウチに来たんだ?」

 

「ルークが秘預言(クローズドスコア)に詠まれた中心人物であって、あれこれ画策するのに都合が良かったからだ」

「……なるほど。俺の命令は完全に出汁に使われてたわけね」

 

「一応私の元主として最低限の顔を立てねばならないな… とも思っておりましたぞ?」

「『元』ってゆーな! 『元』って! 張っ倒すぞ!?」

 

「だからあなた様が勝手に復讐を諦めて勝手に疎遠になられても、気にしなかったでしょう?」

 

 そう言われればそうだった。というか、たまに声を掛けても事務的に対応されてた気がする。

 いやしかし、そういう理屈で主を蔑ろにするのは家臣としてどうなんだろうか? ガイは悩む。

 

 そんなガイの気持ちなど知ったことではないとばかりに、ヴァンは胸を張って言葉を続ける。

 

「というわけで、私は預言(スコア)をぶっ壊せれば後のことは比較的どうでも良かったのだ」

「お、おう…」

 

「ガイラルディア様が復讐を成し遂げようと諦めようと、ルークがそれを返り討ちにしようと」

「いやおまえ、何言ってくれちゃってんの…?」

 

「ご安心ください、ガイラルディア様。今は私たちは志を同じくする同志ではないですか」

「その言葉に欠片も誠意を感じられないんだが?」

 

「……解せぬ」

 

 元主であるガイに一向に信じてもらえない現状に、しょんぼりした表情を浮かべるヴァン。

 髭と眉が(しお)れている。……そんな彼に苛立ちながらガイはルークにじっくり言って聴かせる。

 

「いいか、ルーク… いくら有能でもこんな家臣は持つんじゃないぞ?」

「え? あ、うん…」

 

「絶対だぞ! 最悪、邪魔になったら背中から叩き斬られかねないからな…」

「……フッ」

 

「否定しろよ、おまえは!?」

 

 漫才のような、しかし妙に物騒な二人のやり取りに既視感を覚えるルーク。

 ……ああ、そうか。自分とティアだ。

 

 遠い目をして納得する。そして、思うままに口を開いた。

 

師匠(せんせい)、やっぱりティアの兄さんですよね。今、凄く納得しました」

「そ、そうか?」

 

「いや、褒めてませんから」

 

 最愛の妹と似てると言われて、照れた様子で頭を掻いているヴァンを見てルークは思った。

 ……フェンデ家の闇は深い、と。

よろしければアンケートにご協力ください。このSSで一番好きなキャラクターは?

  • セレニィ
  • ルーク
  • ティアさん
  • ジェイド
  • それ以外

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。