TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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65.作戦会議

 かくしてここ、タルタロス内の会議室にて六神将による作戦会議が始まる。

 

 とはいえ、そこにいるのは有能だが飽きっぽく気分屋でまとまりのない六神将である。

 早くも「さっさと終わらせたい…」という色が、約過半数の表情に浮かんでいた。

 

 これまでは生真面目なリグレットと、抜群の安定感を見せるラルゴでまとめてきた。

 しかし、今日の作戦会議の場には異物が混入している。セレニィとミュウの二人である。

 

 さて各人で意見を交わし合おうかという段になって、早速セレニィが切り込んできた。

 

「では会議を始めるにあたって、議長を決めるべきだと思うのですが…」

「(早速来たか…)まさか、自分が議長になりたいとでも言うつもりはなかろうな?」

 

「はい? いやいやまさか… 私に議長をやらせたいんですか、リグレットさんは」

「そんなわけないだろう! そのつもりなら断固反対というだけだ!」

 

「あはは… ですよねー…」

 

 セレニィの動きを警戒していたリグレットは、その美しい柳眉を立てて警戒を露わにする。

 一方、当のセレニィ本人はそんな彼女の物言いに苦笑いを浮かべながらも同意を示した。

 

 なんだか分からないが嫌われているのは伝わってくるので、ほんのり寂しくなってくるが。

 陰謀ばかり企てているものの、別にセレニィは鋼のメンタルを持っているわけではない。

 

 決して折れないティアさんと比べるべくもないし、美人や美少女に嫌われれば凹みもする。

 とはいえ悪が嫌われるのは常のこと。生き延びるための必要経費ならばそれも仕方ない。

 

 綺麗な笑顔で死ぬなんて真っ平御免だ。汚かろうが罵られようがなんとしても生き延びる。

 それがセレニィという人間の生き方である。当然全て都合良く進むなど望むべくもない。

 

「(嫌われたくはないけれど、アレも嫌コレも嫌は通らない… 悩ましいけど仕方ない、か)」

 

 そう開き直ることにする。死亡フラグを回避するためならば、嫌われようがどんと来いだ。

 賽は投げられた以上、泣き言を言うわけにもいかないのだ… 気張って笑顔を浮かべる。

 

「まぁ、正直誰もいいんですけどね… でしたらディストさん、いかがでしょうか?」

「ほほう、私ですか?」

 

「えぇ、議長には中立性と広い視野… そして物事の道理を掴み取れる知性が求められます」

「ハーッハッハッハッ! なるほど、“薔薇”のディストにピッタリの役割ですねぇ!」

 

「シンクさんも相応しいとは思いますが、参謀の彼にはドシドシ意見出して欲しいですし」

 

 そこまで言ってから「どうでしょうか?」と、周囲を改めて見渡すセレニィ。

 

 基本的に自分の興味のあること以外はどうでもいい、というスタンスを崩さないディストだ。

 下手に無理矢理議論に参加させるよりは、幾分マシな結果を得られやすいのは確かだろう。

 

 そもそもセレニィ自身にしても、先ほど言ったとおり議長になるのは「誰でもいい」のだが。

 言葉の筋道は通っているとし、そもそも彼女本人にも自説に執着する気配が見えないのだ。

 

 リグレットを除いた四人にしても、別段それを否定する材料はないため賛成を表明した。

 そして残ったリグレットも、暫しの黙考の末に「……いいだろう」と頷く形となった。

 

「では議長… 会議の進行をお願いしますねー」

「ハーッハッハッハッ! ではこれより、美しく華麗な作戦会議をはじめましょうか!」

 

「ですのー!」

 

 ディストが張り切ってミュウが喜びつつの会議が始まったことで、笑顔を浮かべるセレニィ。

 

 先ほど「議長になるのは誰でもいい」と言った彼女自身の言葉に嘘はない。それは確かだ。

 本音として、その後に「……自分が議長にさえならなければ」という文面が続くのだが。

 

 セレニィの本質は煽り屋(アジテーター)だ。残念ながら、持論によって物事を一気に解決に導く能力はない。

 彼女は智将としては二流以下の存在でしかない。人質でなくともこの場にはいられないほどに。

 

 モースとの対決は、豊富な材料を持ち綿密な準備を重ねての不意討ちが成功しただけのこと。

 幸運にも恵まれた結果でもあるし、彼女の能力的にそうそう何度も渡れる橋ではないのだ。

 

 漠然とは望む方向性があるものの、介入できなければそれについては実現しようもないのだ。

 だからこそ、『意見を持てない』議長という役割を割り振られることだけは避けたかった。

 

 とはいえ、今回に限っては性格分析によってその初動のパターンだけは決まっているのだが。

 あとはタイミングだけだが、さて…

 

「会議と言ってもすべきことは決まっている。導師を奪還し、閣下の汚名を晴らすのみ」

「ふむ、確かにな。とはいえ、実際にどう動くかだが…」

 

「といっても、こちらの戦力からいって奇襲を仕掛けて混乱させるしかないと思うけどね」

 

 タルタロスは大型ではあるものの、それでも収容人員は300名弱に過ぎない。

 各人千人単位の指揮権を持つ六神将だが、配下の大部分はダアトにて待機させている現状だ。

 

 親善大使一行には導師も加わるという話まで発表されている。護衛の数は増えるだろう。

 つまり数の上では劣勢に回らざるをえない、というのが参謀役も兼ねるシンクの見立てだ。

 

 タルタロスに乗せずに指揮をすれば、数千人単位の運用とて可能だが機動性が殺される。

 そして何より、そこまでやってしまえば現時点でもヤバいのに即開戦レベルとなってしまう。

 

 現在でも充分に潜在的な戦争状態と言えるが、数千人の部下で攻めれば大戦争確定である。

 

「となると、その部隊編成に移るわけだが…」

「ちょっと良いですか?」

 

「……なんだ。貴様の発言を許した覚えはないぞ」

 

 ここでセレニィが割り込む。

 順調に進んでいる会議に水を差され、リグレットが不愉快げな表情を隠さず声を上げる。

 

 それを制しながらディストは口を開く。

 

「ハーッハッハッハッ! 構いませんよ、セレヌィ。発言を許可しましょう!」

「おい、ディスト。貴様、勝手に…」

 

「議長とは公平たるもの。参加が認められた以上、セレヌィにも発言権が与えられます」

「ぐぬっ…」

 

「もっとも、贔屓をするつもりはありませんが。……構いませんね? セレヌィ」

「構いません。感謝します、議長」

 

「堪えよ、リグレット。ディストの言い分は、議長としてはなんら間違っていまい」

 

 ラルゴに窘められてリグレットは渋々と引き下がる。

 それを確認してからセレニィは口を開いた。

 

「相手側… 親善大使一行の狙いはなんでしょうか?」

「あぁ? そんなの、アクゼリュスに向かって救助するためのモンだろーが!」

 

「それ、単に相手側の発表を鵜呑みにしただけに過ぎませんよね」

「つまり何が言いたいのだ。セレニィよ」

 

「内偵が足りてません。罠だった場合、ノコノコ出て行ったら詰みますよ?」

 

 会議室がシンと静まり返る。

 

 別にそれが事実である必要はない。「そういう可能性もある」と思わせられれば万々歳だ。

 続いてセレニィは口を開く。

 

「導師の乗ってる船襲ったり、軍港襲ったり… 六神将は既に国際テロリスト扱いですよ」

「そ、それは…」

 

「私が相手の立場なら、捕らえるために多少大掛かりな罠を仕掛ける価値はあると判断します」

「つまり、アクゼリュス行きは嘘っぱちって可能性もあるってこと?」

 

「さて… 両取り狙いもありえますしね。それを明らかにするための内偵です」

 

 これで「そうだね、内偵は必要だね。だから出撃やめようか」となったら最高なのだが。

 流石にそうは上手く行かないだろうな… と、内心溜息をつきながらセレニィは思う。

 

「セレニィの言うことも分かるけど、こちらには時間も手札もない。内偵の伝手もない」

「そもそも戦場であらゆる万全は望むべくもない。ある程度は博打も必要だぞ」

 

「全く仰るとおりです。なので、どうでしょうか? 『威力偵察』を仕掛けるというのは」

「……『威力偵察』?」

 

「はい。退路を確保しつつ少数で一当てして、相手側の戦力やスタンスを探るのです」

 

 その言葉に六神将の各人が考え込む。アリエッタは分かってないようで小首を傾げているが。

 そんな彼女に癒やされつつ、セレニィは続けて言葉を紡ぐ。

 

「ヴァンさんのことは確かに心配です。しかし、彼は正式に同行者として発表されました」

「『仲間』として扱われている以上、そうそう無体な扱いは受けないだろうってことか」

 

「はい、そういうことです。むしろ下手に襲撃をして捕まる方が彼にとっては迷惑でしょう」

「むぐぐぐ…」

 

「だが、導師奪還は我らにとっても急務。ヴァンのことは置いておくにせよ譲れぬ問題だ」

 

 ラルゴの言葉に分かっているとばかりに頷く。

 

 彼らが導師様を誘拐したがってるのはよく伝わってくる。きっとペロペロしたいのだろう。

 それがこんなハズレを引いてしまっては、テロ活動の一つもしたくなるかもしれない。

 

 ペロペロ、クンカクンカする時には是非自分も混ぜて欲しい。そう思いつつ、口を開く。

 

「えぇ。なので、導師奪還とヴァンさんに迷惑をかけない… この両立が求められます」

「口で言うのは簡単だ。だが、あれもこれもとはいかないのが現実というものだ」

 

「いいえ、今回限りは両立可能です。だからこの場合、欲張るのは間違いではありません」

 

 キッパリと言い切った彼女の言葉に会議室はざわめく。

 ディストが浮かんでいる椅子の手摺りを叩いて、声を荒げる。

 

「あなたたち、静粛に! ……さてセレヌィ、その方法は今この場で説明できますか?」

「勿論です。これは私自身の力ではなく、六神将のお力をお借りする話なのですから」

 

「! ほう… 与太話でないとあらば面白い。誰の力を借りるのか、口にしてみると良い」

「おい、ラルゴ! こんな話を本気で信じるつもりなのか?」

 

「良いではないか、リグレット。俺を使いこなすほどの器であるならば楽しみだ」

「まぁ、言ってみなよ。それに使えない案だったら、却下すればいいだけのことだしね」

 

「ならば、お答えしましょう! ……それはディストさんとアリエッタさんです!」

 

 その言葉に意外そうな表情を見せるもの、納得するもの… 反応は様々であった。

 呆れたような口調でリグレットが声を掛ける。

 

「何を言うかと思えば… その二人は部隊運用に不慣れで、戦術にも明るくないぞ」

「ほほう、なるほど… そうなんですねー」

 

「奇襲をかけるにせよ、威力偵察をするにせよ… 私かラルゴの力は欠かせぬだろうに」

「いやいや、部隊運用とかいらないですからね。むしろ火種にしかなりませんし」

 

「……はぁ?」

 

 手を左右に振るセレニィに向かって、怪訝そうな表情を浮かべるリグレット。

 美人はどんな表情をしていても美人である。内心萌えつつセレニィは説明を続ける。

 

「アリエッタさんの『友達』の空中機動力は進撃にも撤退にも重宝します。何より個で強い」

「……まぁ、そうだな」

 

「加えてディストさんの譜業は、こちらの人的被害を最小限に抑える画期的な戦力です」

「……ふむ」

 

「そして何より、『魔物が勝手に襲った』とか『譜業の暴走』と対外的に言い逃れられます!」

 

 ドヤ顔で言い切る。

 

 六神将の表情にも納得の色が浮かぶ。これこそ、保身に走ったセレニィの第二の目的であった。

 キムラスカ側や仲間たちの被害を最小限に抑えつつ、六神将の罪のカウンターを回させない。

 

 幾らテロリストとはいえ多少情が湧いた相手だ。美人さんもいるし不幸にさせるのは忍びない。

 襲撃を失敗させ、双方の被害を0か限りなくそれに近い程度に抑えつつタイムアップを狙う。

 

 そうすれば拳の振り下ろしどころが消えるはず。そんなことを考えつつ、彼女は言葉を続ける。

 

「苦しい言い訳かもしれませんけど、努力次第で全面戦争は避けられるかもしれませんよ」

「いや… なるほど、見事だ。これならば俺やリグレットが後詰めに回るのも納得だ」

 

「ありがとうございます。撤退時のサポートに、出来ればシンクさんあたりが欲しいですね」

「僕が? 構わないけどなんでさ」

 

「なんか目端が利いてて、臨機応変にトラブルに対応してくれそうだからです!」

「なんだい、それ… フフッ、まぁ別に構わないけどね」

 

「おおっ、貴重な笑顔いただきました! これはデレ期か? デレ期なのか?」

「そんなものは、ない」

 

「ぎゃあああああ! 意見はたたき台にして欲しいけど、私は丁重に扱って欲しいです!」

 

 シンクにアイアンクローを貰ってのたうち回るセレニィ。それに怒って注意するアリエッタ。

 こんな間柄でも全面戦争になってしまったら、殺すか殺されるかの関係になってしまう。

 

 厳しい世界である以上多少は仕方ないとはいえ、やっぱり出来る限りは避けたいのが本音だ。

 そしてひっそり六神将からフェードアウトして、アリエッタさんと幸せな家庭を築きたい。

 

 勿論そこにはイオン様もアニスさんもいて… 萌えキャラに囲まれて平穏な生活を送るのだ。

 リグレットさんは… なんかヴァンさんのことが好きみたいだし泣く泣く諦めるとしよう。

 

「うへへへへ…」

 

 妄想トリップをして涎を垂らしているセレニィに気付かぬまま、六神将は議論を続ける。

 この上はセレニィ本人に出来ることなんてなにもないだろう。所詮は二流の扇動家だ。

 

 後は頭のいい人達が勝手に肉付けをして、実現可能なレベルにまで考えてくれるだろう。

 そんなことを考えつつ、アリエッタと一緒にミュウの物真似ごっこに精を出すのであった。

 

「みゅうみゅう! ミュウですのー!」

「みゅみゅ… アリエッタ、ですの… ちょっと、恥ずかしいですの…」

 

「生きてて良かったですの(真っ赤になって人形に顔埋めるアリエッタさん、マジ大天使)」

「あ、あの… セレニィ? ……鼻血、大丈夫?」

 

「大丈夫ですの… これは、その… 愛が溢れてしまっただけですの…」

 

 ただし、愛は鼻から出る。……嫌な愛である。

 

 

 

 ――

 

 

 

 そして会議が終わって数日後。

 

「ハーッハッハッハッ! この天才ディスト様手製の譜業軍団、数は少ないですが精鋭ですよ!」

「んっと… アリエッタ、友達と一緒にがんばるね」

 

「いやぁ、ディストさんもアリエッタさんも素晴らしく頼もしいですねぇ」

 

 張り切る二人をニコニコと眺めているセレニィ。

 彼女は『青褪めながら』言葉を続けることとなった。

 

「……で、なんで私まで出撃する羽目になってるんですか?」

「流石に現場指揮官0ってのもね… それにセレニィの指示なら、この二人も聞くでしょ?」

 

「いやいやいやいや! そんな、私なんかがそんな…」

「謙遜するな。それに教団と無関係の者がいた方が策に説得力は出る… そうであろう?」

 

「……アッハイ、ソッスネ」

 

 ラルゴに肩を叩かれて、小さくなって俯く。

 そしてそんな彼らの様子を見ながら、アッシュがリグレットに話しかける。

 

「しかし良いのか? ひょっとしたら脱走するかもしれねーってのに」

「うん、良い。むしろいなくなれって思う」

 

「ハァ?」

「だってそうすれば胃痛の種も消えるし、戦場で会ったら撃ち殺せるだろう?」

 

「そ、そうかよ…」

 

 晴れやかな笑顔を浮かべつつそう答えるリグレットに、やや引き気味に返すアッシュ。

 その頃、出発組の準備が整ったようだ。

 

「では出発しましょうか、心友!」

「んっと… よくわからないけど、がんばろうね? セレニィ」

 

「……はーい。友情パワーをみせてやるぜー、いやっふー」

 

 ……どうしてこうなった。

 

 こんなことになるなら、後の六神将の相談にも無理矢理割り込めばよかった。

 巨鳥フレスベルグの背の上で涙をこぼすも後の祭り。

 

 果たして彼女は仲間たちと再会するのか否か… その答えは風だけが知っている。

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