TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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45.責任

 怪我をした者たちが軍港の簡易休憩施設に運ばれ、それぞれ治療を受ける。

 イオンとミュウも合流し、そこでラルゴの要求を知るところとなった。

 

 そこで、ガイがコーラル城という名の場所についての心当たりを口にする。

 

「コーラル城… 確かここから南東にあるファブレ公爵家の別荘だったな」

「なっ… そうなのか? なんだってアイツはウチの別荘なんかに…」

 

「さてなぁ… だが、7年前にルークが発見された場所でもある。ですね? グランツ謡将」

「うむ、確かにそうであったが…」

 

「へー… 7年前にはファブレ公爵家の別荘までマルクト領だったんですか。大変ですね」

 

 何気ないセレニィの呟きが、その場に不気味な沈黙を落とす。

 その反応に解せぬとばかりに小首を傾げるセレニィ… そんな彼女にジェイドが問い掛ける。

 

「……そういった事実はありませんが、セレニィは何故そう思ったのですか?」

「え… だって、ルークさんの7年前の誘拐事件はマルクトによるものなんですよね?」

 

「た、確かにそうだよな… なのに、俺が発見されたのはウチの別荘。……あれ?」

「おかしいことだらけですよね。……そもそも第一発見者は誰だったんですか?」

 

「それは…」

 

 聞き取り調査のメモを捲りつつ、そう答えるセレニィにみんなが疑問を抱く。

 

 第一発見者の名を問われ、ガイがある人物に視線をやる。ヴァン・グランツであった。

 一斉に、問い掛けるような責めるような… 疑念の混じった視線に彼がさらされる。

 

 尊敬する師匠の窮地に、慌ててルークが割って入る。

 

「なんだよ… おまえら、ヴァン師匠(せんせい)が悪いってのか? ヴァン師匠(せんせい)は悪くねぇぞ!」

「………」

 

「えっと、まぁ… マルクト軍の仕業に見せかけたい誰かの犯行って可能性もありますし」

「そ、そーだよ! セレニィの言うとおりだ! ……俺はヴァン師匠(せんせい)を信じる!」

 

「そうだな… すまない、ルーク。信じてくれてありがとう」

 

 友人であるルークの言葉に絆されたセレニィが、鉾先をやんわり逸らす言葉を口にする。

 他の面々とてセレニィとルークのそんな態度を見せられては、是非もない。

 

 一同苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ、渋々と視線の鉾先を収めるに至った。

 

 一方、落ち着かないのがヴァンの方である。

 ルークに庇われ窮地は脱したものの、居心地の悪い空気を払拭をするため話題転換を試みた。

 

「問題はこの状況であの要求を受けるかどうかではないかな」

 

「……我々マルクト軍としては微妙に介入が難しい」

「ですが、やはり人の命がかかっている以上は僕は行動すべきではないかと思います」

 

 ルーク、ガイ、アニスと前衛の大半が、復帰可能とはいえラルゴに手傷を負わされた。

 ティアとヴァンも、度重なる回復譜術の行使で精神力を著しく消耗している。

 

 状況は極めて劣悪。この状況で後先考えず、迂闊に相手の要求を飲めば死を招きかねない。

 それでもコーラル城へ向かう決断を下そうとするイオンに向けて、セレニィが発言した。

 

「恐れながら申し上げます。先の相手の要求… 飲むべきではないと考えます」

「セレニィ… しかし、僕は」

 

「いや、状況が悪化するだけです。ホントに。全滅するかもって以上に和平のピンチです」

「和平の? どういうことですか、セレニィ… 説明を」

 

「あ、はい。えっと…」

 

 こんな厄介事に首を突っ込むのは百害あって一利なし。なんとしても止めねばなるまい。

 そう考えているセレニィは、イオンの視線の前でもなんとか引かずに言い切った。

 

 真っ直ぐ見詰め返していると、ジェイドに先を促される。ならばと彼女は語り始めた。

 

「まずラルゴさんが『襲撃は自分の独断だ』と言ってましたよね?」

「あぁ… 確かにラルゴめはそう申していた」

 

「なのにここで接触しちゃったら、教団が関係してますって言ってるようなモンでしょう?」

 

 命の危機も、国家間のややこしい問題に巻き込まれるのも真っ平御免である。

 折角相手の方から無関係だと言ってくれてるのだ。乗っかって何が悪い。

 

 セレニィなりに生き残りをかけて必死に言葉を言い募る。

 とはいえ彼女自身盛大にテンパっており、もはや言葉を取り繕う余裕すらないのだが。

 

「ていうか、そもそもイオン様は『平和の象徴』にして和平の仲介役ですよね?」

「え、えぇ… 確かに、僕は『平和の象徴』と呼ばれることもありますが」

 

「じゃあ悪戯に危険に晒しちゃダメでしょ。平和も和平も軽んじてることになるんですから」

「そ、それは… ですが、彼ら六神将は教団の幹部です。僕は導師として…」

 

 残念だが、タルタロス襲撃の時点で彼らは単なる犯罪者になっている。

 少なくとも両方で実行犯として確認されているラルゴはヤバい。それがセレニィの考えだ。

 

 流石にその残酷な事実をイオンに告げるのは躊躇われたため、次の話題を口に出す。

 

「あと、ルーク様とガイさんを除いた残り全員がキムラスカ人ではないことも問題です」

「そ、それが何か問題なのかよ…?」

 

「キムラスカで起こったキムラスカの事件に、他国人が勝手に介入するのは大問題ですよね」

 

 ていうか、そんな状況になったら国籍不明で身元不明の自分が真っ先に切り捨てられる。

 

 自身に確たる後ろ盾もないと自覚しているセレニィは、そうなると確信している。

 どうせ人間我が身が一番大事なのだ。いざとなったら自分を優先して逃げるに決まっている。

 

「それ以前に、先の襲撃で大幅に消耗してて満足に戦えない人間がほとんどですよね」

「みゅう… だったら、なんとかお話し合いはできないですのー…?」

 

「ハァ? 論外です。そもそも先に殴りかかってきたのはあっちですよ? しかも、二度も」

「まぁ、そうですね… タルタロスでは、自分の同僚も大勢殺されたことでしょう」

 

「考えるべきは『三度目の正直』じゃなく『二度あることは三度ある』じゃないッスかね」

 

 いつでもぶっ殺せる雑魚と、有利な条件を捨ててまで話し合いをしたいと思うだろうか?

 いや、そんな奇特な人もいるかもしれないが六神将は間違いなくそういう人種じゃないよね。

 大天使アリエッタさんを除いて。

 

 セレニィはそう思いつつ、話を締めくくるための言葉を紡ぐ。

 

「最後に、テロリストと交渉してはいけません。脅しに屈した前例を作っちゃいけません」

「………」

 

「以上をもって、要求に従うことは和平への悪影響が出るものと断言します。マジで」

 

 彼女の言葉に誰も返す言葉がない。

 

 イオンも、そしてルークも… 悲しそうに俯いている。自らの無力さを嘆くかのように。

 セレニィはまるで自分が悪役になったような居心地の悪さを感じて、彼らから目を逸らす。

 

「(いや… 『セレニィ(わたし)』は真実、悪役だってことだなー…)」

 

 この期に及んで、後味の悪さよりも行かないことに押し切れた安堵感が勝っているのだ。

 

 先に挙げた「我が身が一番大事な人間」とは他でもない。彼女自身のことなのだ。

 ジェイドですら悲しげな表情を覗かせていることが確認できる今、ハッキリとそう感じた。

 

 まぁ、やっちゃった以上はしょうがない。整備士長さん、恨むならどうぞ恨んでくれ。

 ……あ、でもできればでいいので心穏やかに成仏して下さい。

 

 そんなことを考えているセレニィの頭をポンと撫でて、ヴァンが前に進み出る。

 

「彼女の言うとおりでしょう。イオン様、あなたは皆とともにカイツールでお待ち下さい」

「……兄さんはどうするつもり?」

 

「私は六神将の長として責任を取らねばならない」

 

 あぁ、ヴァンさんは覚悟を決めたようだ。

 この人に汚れ仕事を押し付けるなんて… 自分は最低の人間なのだろう。

 

 自己嫌悪に見舞われつつ、セレニィは口を開く。

 

「そうですか… 六神将の長として、責任を取って軍基地に出頭するのですね」

 

「えっ?」

「えっ?」

 

 互いにキョトンとした表情を浮かべるヴァンとセレニィ。場に白けた空気が流れる。

 再起動を果たしたセレニィが尋ねる。

 

「違ったんですか? じゃあ、何を以って責任を取ると」

「いや、この手でラルゴを討伐しようかなと…」

 

「ギャグですか? 万が一取り逃したら『示し合わせて逃亡幇助した』って思われますよ」

 

 何言ってんだコイツ、頭沸いてんのか? という視線を遠慮無く向けるセレニィ。

 そんな師匠の苦境を見ていられないルークが慌ててフォローに回る。

 

「セレニィ、そんなにヴァン師匠(せんせい)を苛めないでくれよ。その… しょうがないだろ?」

「いや、しかしですね、ルークさん…」

 

「だって、ヴァン師匠(せんせい)は… ヴァン師匠(せんせい)は… ヴァン師匠(せんせい)は、ティアの兄貴なんだぞ!?」

 

 その場の全てが音を失う。……それほどまでにすさまじい説得力であった。

 

「確かに… グランツ謡将は、そっか、ティアの兄さんだったもんな…」

「そうだよねー… だったらしょうがないよねー…」

 

「私としたことが、主席総長というだけで色眼鏡で見ていましたか。……失態ですね」

「ジェイド… 落ち込まないで下さい、自分もそうでしたから」

 

「僕はあなたに多くを望み過ぎていたようですね… 申し訳ありませんでした、ヴァン」

「みゅう! そう考えると兄妹でそっくりですのー! すごいですのー!」

 

「……甚だ遺憾だわ」

 

 それはこちらの台詞だ、という言葉を飲み込み平静を装うヴァン。

 優しい瞳で見詰められて、内心でこの理不尽な状況に絶叫する。これは誰のせいだ?

 ルークのせいか? それともこのセレニィという少女のせいか?

 

 そのセレニィが親指を立てて口を開く。

 

「まぁ、そういうわけでがんばって『責任』を果たしてきて下さいねー?」

「い、いやしかしだな…」

 

「ローレライ教団の存亡はヴァンさんの首… ゲフゲフン、『誠意』如何にかかってますぜ」

「ちょ、今『首』って言った!? ヴァン師匠(せんせい)、死ぬのかよ! 俺、ぜってー嫌だぞ!」

 

「死にませんよー。ホラ、アレですよー。『命かけて説得する』的なサムシングですよー」

 

 限りなく棒読みの台詞を流しながら白々しい笑顔を浮かべてみせる。

 

 そのままヴァンの肩… は届かないので、背中をポンと叩く。

 多分きっと大詠師的な何かが助けてくれるはずだ。それまで祈るがいい。聖職者らしく。

 

 アリエッタを強制的に離脱させた恨みを忘れていない小物はここぞとぶち込んでくる。

 

「セレニィ… このままじゃヴァン師匠(せんせい)が可哀想だ。なんとか助けてやれないか?」

「いえ、無理ですって。どうしてもってならジェイドさんに」

 

「僕からもお願いします。セレニィ… どうかいい案を下さい」

 

 ルークが師匠のために頭を下げるのは想定の範囲内。

 友人の願いを無碍にするのは気が引けるが、ここでヴァンを生け贄に捧げるのは決定事項だ。

 

 だがそこに、思ってもいない方向からのルークへの援護射撃が飛んできた。イオンである。

 

「セレニィ… グランツ謡将は可哀想なヤツなんだ。なんとかならないか?」

「あたしからもお願い、セレニィ… ちょっと見てられなくて…」

 

「これ以上ダアトに足を引っ張られても困りますしねぇ… 私からもお願いします、セレニィ」

「ローレライ教団には自分も含むところがありますが、あたら犠牲を出すのも… どうか」

 

「みゅう! よくわからないですけど、みなさんがそういうなら助けて欲しいですの!」

 

 いやいやいや… ちょっとちょっと… 何を言っているんだ? みなさん。

 なんでこういう流れになっているのだろう… ふとそこでティアと視線が合う。

 

 まさか彼女まで…?

 

「ヴァンは死んでもいいと思うわ! むしろ死ぬべきだと思うわ!」

「……あ、いつものティアさんですね。安心しました」

 

 親指を立ててそう言われた。

 

 ティアさんは決してブレない鋼のメンタルの持ち主だ。安心しろ。

 神にそう言われている気がした。

 

 どうする? どうする? どうする? 案はないことはないのだが。

 そして結局彼女は…

 

「い、いやー… 残念だなー! 名案が思い浮かばないやー! すっごく残念だなー!」

「………」

 

「か、かー! いやー、役に立てなくて辛いなー! かー!」

 

 白々しくもすっとぼけることに決定した。何処に出しても恥ずかしい猿芝居である。

 

 ヴァンを除いた仲間たちはセレニィから距離を取り、頭を寄せ合い声を潜めて相談する。

 ……ガイのみ、女性陣から微妙に距離をとっているが。

 

「なぁ… あれって、その、嘘だよな?」

「あぁ、間違いなく嘘だと思うぞ」

 

「フフッ、バレバレの嘘をついちゃうセレニィも可愛らしいわ」

「まさかあんな猿芝居で私たちを騙そうとしているとは… 見縊られたものですね」

 

「でもかわいーじゃん。あたしたちには嘘をつきたくないってことでしょー?」

「自分もアニスに同意です。誠実な彼女の心根故でしょう」

 

「嘘だったんですか。……僕は全く気付きませんでした」

「みゅう… ボクもですの…」

 

 ひとまず相談を続けて、セレニィの嘘を暴こうという形で話がまとまった。

 作戦の立案・監修はマルクト軍が誇るドS… ジェイド・カーティス大佐その人である。

 

 彼は笑顔を浮かべて、セレニィに近寄る。彼女はというとビクッとして警戒を見せた。

 

「やぁ、セレニィ。いいですから、さっさと案を出してくださいよ」

「い、いや… 何言ってるんですか… そんなのないってさっきから言ってますよね?」

 

「ほう… 『仲間』に嘘をつくのですか? 傷付きますねぇ」

「べ、別に嘘ついてませんしー? ていうか仲間を疑うなんて最低ですよ!」

 

「そうですか… つまり嘘と発覚した場合の『お仕置き』も覚悟の上なのですね?」

 

 ドSの笑顔が更に輝く。

 恐怖に怯えつつもセレニィは彼を睨み返す。ここで呑まれてしまってはいけない。

 

「な、なんのことやらサッパリですねー…」

「……なるほど、分かりました。貴女を信じましょう、セレニィ」

 

「ホッ… 分かってくれればいいんですよ。かー、辛いわー! 仲間に疑われて辛いわー!」

「ところでセレニィ、貴女は嘘をつく時に頭のアホ毛がハネるのですがご存知でしたか?」

 

「えっ、嘘ッ!?」

 

 思わず両手で頭を抑えてしまうセレニィ。しかし頭部に異常は見られない。

 

「えぇ、嘘です。ですが、間抜けは見つかったようですねぇ…」

「あ、あれ? 信じるって話は、その…」

 

「えぇ、信じていましたよ。ティアから感染した『貴女の残念さ加減』を… ね」

「フフッ… おそろいね、セレニィ」

 

「さて、キリキリ喋るか『お仕置き』か、どっちがいいですか? どっちも? 贅沢ですねぇ」

 

 待ってくれ、私はなにも、言ってない。

 救いを求めるようにニッコリ笑顔を浮かべるセレニィに、綺麗な笑顔で返すジェイド。

 

「(あ… これアカンやつや…)」

 

 迫り来る胃痛に怯えながら、彼女は口を割らされることとなったのであった。

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